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いまは2000年「ITバブル」と同じ状況、あらゆる指標が景気のピークを示している=江守哲

経済指標をみると、2000年のITバブル時と本当に似ています。住宅や設備稼働率、設備投資額指数もほとんど同じ。いまの市場に対して強気になることはできません。(江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて

本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2018年12月10日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

今年の12月は何か違う?歴史的割高圏で、投資家はどう動くべきか

米国市場は「悪い時期」に差し掛かっている

先週末、米国株は結局下げました。米中貿易摩擦長期化への懸念などを背景に大幅続落しています。週間ベースでは、ダウ平均が4.5%安、S&P500が4.6%安、ナスダック指数が4.9%安となり、3月以来の大幅な下げとなりました(編注:週明け12月10日のダウ平均株価終値は4営業日ぶりに小幅に反発、前週末比34ドル高の2万4,424ドルとなっています)。

また、景気の先行指標でもあるダウ輸送株20種は週間ベースで8%安となり、下落率は7年ぶりの大きさとなりました。小型株中心のラッセル2000も5.6%安と、16年1月以来の下げでした。

このような動きになっていることを、どのようにとらえるべきでしょうか。

先週も当メルマガで解説したように、答えは出ているように思います。

先週末のVIXは2.04ポイント高の23.23に上昇しています。「危険ゾーン」である20を超えて、再びリスクが高まっているわけです。また、半導体指数SOXは下げ基調に戻りました。弱いパターンです。

米中貿易摩擦の長期化や米景気の先行きに対する懸念が台頭してきました。これまで多くの市場関係者は、「米国景気は過去最長」「今後も拡大が続く」などとしてきました。

しかし、これは景気指標をしっかりとみれば、そうではなくなってきていることがわかります。

株式を保有していると、どうしても良い材料に目が行きがちです。しかし、いまはそうではないと言わざるを得ません。それがきわめて冷静で正しい見方であると考えています。

そろそろ市場にピーク感が出始める頃

これまで堅調さを維持してきた雇用情勢にも、徐々に変化の兆しが見られます。

7日に発表された11月の米雇用統計では、景気動向を反映する非農業部門就業者数が15万5000人増と前月の23万7000人から鈍化し、市場予想の20万人増を下回りました

失業率は3.7%で、49年ぶりの低水準を維持しました。この数値自体はきわめて強いといえます。一方、平均時給は前年同月比3.1%増でした。市場予想が3.2%上昇でしたので、これを下回ったことになります。

このように、そろそろピーク感が出始める頃です。

市場の雰囲気が急速に悪化したのは、すでに報じられているように、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者(CFO)を逮捕されたことです。

カナダ当局が米国の要請を受けて逮捕したわけですが、米国はいよいよ本腰を入れて中国をつぶしに来ました。この事件をどう理解すべきかは後述します。

Next: いまは2000年「ハイテクバブル」と同じ状況? 逆イールドをどう捉えるべきか



逆イールドをどう捉えるべきか

さて、市場では米国債は長短金利差に注目が集まっています。この動きに対して、市場ではそれぞれの立場で理解に差があるようです。

しかし、結論は出ています。

10年債と2年債の利回り差(イールドスプレッド)は、7日の引け時点でマイナス0.1390%にまで縮小してきています。また、2年債と5年債の利回りスプレッドは0.0150%と短期債利回りがすでに上回っており、逆イールド化が完成しています。

CMEグループのフェドウォッチによると、短期金利先物が織り込むFRBが18・19日のFOMCでフェデラルファンド(FF)金利誘導目標を2.25-2.50%に引き上げる確率は75%と、前日の71%から上昇しました。

短期金利先物が織り込む来年の利上げ回数は1回となっており、FRBは9月に予想した来年3回の利上げの実施が修正される可能性が指摘されています。

いまのイールドスプレッドの動きをどのように解釈するかによって、今後の市場の見方はまったく違うものになります。

多くの市場関係者は、「イールドスプレッドが逆イールド化しても、すぐに景気後退や株安にはならない」としています。これは誤った理解であると考えています。

いまは2000年「ハイテクバブル」と同じ状況

いまは2000年のハイテクバブルと同じ状況です。

当時は、まず10年債利回りが株価のピークにやや先行して高値を付け、低下に向かいました。2年債利回りは金利上昇を見込んで上昇し、ピークを付けたのは5月です。そして、株価は3月にピークをつけています。

つまり、10年債利回り、株価、2年債利回りの順にピークをつけています。この結果、イールドスプレッドは縮小し、2000年1月に逆イールド化した後に株価が3月にピークアウトしています。

今回は、2年債利回り、10年債利回り、株価がほぼ同時にピークをつけています。

その中で、債券利回りは両方とも低下する中で、10年債利回りの低下が大きいことで、結果としてイールドスプレッドが縮小しているわけです。これは、かなりネガティブなパターンです。

金利低下は景気鈍化、株価下落のサインです。証券関係者がなぜこれをポジティブに捉えるのか、まったく理解できません。

株価が上がってほしいからでしょうか。しかし、常識的に考えれば、やはり株価は上がらないでしょう。まずは調整が必要なほど、米国株は歴史的な割高圏にあるからです。

経済指標をみると、2000年のハイテクバブル時と本当に似ています。住宅や設備稼働率、設備投資額指数もほとんど同じ動きです。ここまで似ていると、いまの市場に対して強気になることはできません。

Next: 来年は利上げ見送りか。すでに多くの指標が景気のピークを示している…



来年は利上げ見送りか

米景気は7-9月の実質GDP伸び率が年率3.5%と、潜在成長率の2%弱を上回っています。インフレ率も目標に達しており、市場はFRBが政策会合で今年4回目の利上げを決めると見込んでいますが、今後は難しくなるでしょう。

米経済には慢性的な人手不足、対中制裁関税などでインフレ加速のリスクが潜む一方で、賃金などには明確な上昇圧力が出ていません

また、米中貿易戦争をめぐる不透明感、世界経済の減速傾向などが先行きに影を落とし始めるとの警戒感もあり、来年以降の利上げペースは確実に鈍化するでしょう。

場合によっては、来年は利上げ見送りの可能性もあると考えています。そうなれば、いうまでもなく、株価は下落に向かうことになります。

すでに景気はピークを達している

景気動向に先行する株価が、すでに景気のピークを示す指標が増える中、上昇基調を維持するのは難しいと言わざるを得ません。

ブレイナードFRB理事は、「緩やかな利上げが短期的に適切」としています。また、今後の政策運営は「より景気動向に左右される」とし、利上げの終着点が近づく中で、経済情勢の慎重な判断が一段と重要になるとしています。また、「米景気はきわめて強固」とし、「来年も堅調な成長を維持すると見込まれる良い理由がある」として、短期的には金融引き締めが望ましいとの認識を示しています。

ただし、今後は減税や好調な世界経済の追い風が減退するほか、貿易摩擦や英国のEU離脱に絡むリスクなどを踏まえ、「いくらかの逆風に直面するかもしれない」とし、「インフレ急加速の兆候もない」としています。

おそらく、この見方は正しいでしょう。

一方、セントルイス連銀のブラード総裁は講演で、「現在の金利水準は見通せる将来にわたって適切」としています。そのうえで、「次回のFOMCで利上げ決定を見送り、1月に後ずれさせることも可能」としています。

さらに、インフレ率などの経済データを使って、適切な政策金利を導き出す「テイラー・ルール」の有用性を指摘し、景気が巡航速度で推移した場合の金利水準である自然利子率が過去に比べて低下していることや、失業率とインフレ率の関係が薄れていることなどを考慮した新たなルールを示しました。

ブラード総裁は、「物価連動債相場から取り出したデータを使って推計したインフレ期待値に基づけば、金融市場は今後5年間、インフレ率がFRBの物価安定目標の2%に到達しないと見込んでいる」としています。

さらに、「こうした要素を反映させれば、政策金利を引き上げる理由は見当たらない」との考えを示しました。そのうえで、「現行の金融政策は帰路にある」と指摘し、これまで続けてきた緩やかな利上げのタイミングやペースを再考する段階に来ているとの認識を示しています。

ブラード総裁はFRB高官の中では利上げに消極的な「ハト派」であり、理論家のエコノミストとして知られています。今年のFOMCでは投票権を保有していませんが、来年は保有しています。「ハト派」の論客として、今後はFRBの政策運営に少なからず影響を与えることになりそうです。

Next: 米国市場はすでに終わっている? 本物の戻り基調に入るのは数年かかる



米国市場はすでに終わっている

さて、米国の主要株価指数は大幅安になっています。結局のところ、安値での買いはあくまで買い戻し主体だったといえます。

反発を期待する声が多いのですが、いまの市場はすでに終わっていると判断しています。戻す局面があるかもしれませんが、本物の戻り基調に入るのは数年かかるでしょう。

S&P500は50日移動平均線が200日移動平均線を下回り「デッドクロス」を形成しました。米国ではこのような動きをものすごく意識します。これは短期的な弱気シグナルと見られていますので、手仕舞い売りが出やすくなるでしょう。

また、週間ベースの下落率も大きくなっており、地合いの悪化が鮮明です。買いづらい状況が続くことになりそうです。

しかし、一方で売られすぎと判断し、安値と考えて買った投資家が増えていることも事実です。多くの投資家は依然として上昇を見込んでいます。長期的には正しい見方であると思いますが、今後の調整場面でこのポジションを維持できるかどうかです。

歴史的割高圏にある今、投資家はどう動くべきか?

いまの米国株は歴史的な割高圏です。長期的に見れば、より安いところで買う機会は数多くあるでしょう。

いまは景気拡大の最終局面であり、ボラティリティが高くなります。ここで無理をして株価の最後のひと上げを取りにいくのはリスクがあるでしょう。

それよりも、ポジションをきれいにして、今後大きく調整した際に保有している現金で割安になった株式を買う準備をするほうが健全です。

ポジションをきれいにすると、見えないことが見えてきます。それは、バイアスがかからないからです。そうすることで、いまの市場の位置づけを冷静に分析することができるはずです。

バフェット指数でみると、米国株は9月末時点で理論値よりも3割割高と計算されます。つまり、高値から30%程度の調整があってもおかしくないということです。

ちなみに、ハイテクバブルの崩壊では、ナスダック指数は高値から78%下げています。そこまでの下げは想定していませんが、頭の片隅に置いておきたいと思います。

Next: 今年の12月は何かが違う? 各指数からどうトレンドを読むか



今年の12月は何かが違う

今後、直近安値を下回るようだと、それこそ大変な下げになってしまうでしょう。

しかし、先週末の水準で下げ止まれば「トリプルボトム形成から値を戻す」との見方も出てくるでしょう。ですが、それはそうなってから考えればよい話です。それでも、株価の割高感が解消されるわけではありません

ダウ平均は2万5,000ドルまで戻せば、再び売りたい水準になります。直近安値の2万4,200ドルを割り込んでくると、安値更新で下落トレンド入りが確定します。

S&P500も2,700ポイントまでの戻りは売りたい水準です。2,630ポイント割れで下落トレンド入りとなります。

ナスダック指数は7,200ポイントまでの戻りは売りたいところです。ハイテク株相場はすでに終わっています。

米国株12月から第1四半期は強い相場になりやすいのですが、今年は違う動きになる可能性があります。過去のアノマリーに左右されることなく、慎重に対処したいところです。

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終わりが見えない「米中貿易摩擦」

さて、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の孟氏の逮捕は、まさに今後本格化する米中貿易協議などに大きな影響を与えるでしょう。これまで指摘してきた、米国の中国潰しがいよいよ本格化するわけです。トランプ政権が対中政策を緩めることはありません。まだまだ続きます。不透明感はさらに強まっていくでしょう。市場の見方はかなり甘いといえます――
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本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2018年12月10日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した米国市場金、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

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株式・為替・コモディティなどの独自の市場分析を踏まえ、常識・定説とは異なる投資戦略の考え方を読者と共有したいと思います。グローバル投資家やヘッジファンドの投資戦略の構築プロセスなどについてもお話します。さらに商社出身でコモディティの現物取引にも従事していた経験や、幅広い人脈から、面白いネタや裏話もご披露します。またマーケット関連だけでなく、野球を中心にスポーツネタやマーケットと野球・スポーツの共通性などについても触れてみたいと思います。

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