日本でも政府が政策を打ち出しながら、なかなか進まないキャッシュレス化。このまま進めていいのか、進めるべきものであるのか。IMFのレポートから解説します。(『房広治の「Nothing to lose! 失う物は何も無い。」』房広治)
※本記事は有料メルマガ『房広治の「Nothing to lose! 失う物は何も無い。」』2018年12月10日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。
アメリカ、イギリス、香港など主要金融センターで著名な日本人投資家。留学中に外資系銀行に就職し、わずか10年で日本のインベストメントバンキングのトップに。投資家転向初年度に年率リターン90%以上の運用成績を出し、ファンドマネジャー・オブ・ザ・イヤーとなる。
中央銀行が考えるキャッシュレス化とは、どういうものなのか
世界のキャッシュレス化事情
スウェーデン、バハマ、カナダ、ブラジル、中国、東カリビアン諸国、ノルウェー、エクアドル、イスラエル、フィリピン、ウルグアイと聞いて、ピンと来る人がいるだろうか?
キャッシュレス化を進めている国々なのであるが、上記の国々の名前で分かったら、かなりのオタクである。これに加え、ベネズエラは石油に裏付けされた通貨の発行を研究している。
香港ではオクトパスカードのおかげでキャッシュレス化が進み、中国本土ではアリペイとWePayがキャッシュレス化を推し進めている。インドではPayTMが、ケニアではM-Pesaがキャッシュに置き換わっている。
そんな中で、IMFのChristine Lagarde専務理事は、11月のシンガポールのフィンテック会議で「IMFを含めた世界の中央銀行は、デジタル通貨の研究をするべきである、テクノロジーで進んだ民間との協力という形もあるはず」と発言している。
今回は、このIMFのレポートのいくつかのポイントを解説してみよう。以下、IMFのレポートからの引用とその解説である。
キャッシュレス化したら銀行がつぶれてしまう!?
まずは、今回、IMFがCentral Bank Digital Currencies、CBDCという言葉を多用していることである。「CBDC」をグーグルで検索しても、最初には、IMFの言うCentral Bank Digital Currenciesというのは出てこない。今回のレポートは、IMFがこの言葉と概念を世界に広めようとしていることが良くわかる。
Lagarde氏のスピーチを読んでみて、彼女は、キャッシュが神様であるかのように思っている世界の中央銀行に対して、警笛を鳴らしているのだということが分かる。つい2日前に、元金融庁の方と話す機会があったのだが、日本では、黒田日銀総裁が、キャッシュレス化にしたら銀行がつぶれてしまうと思っているようだとのこと。Lagarde氏が、世界の中央銀行がテクノロジーを上手く理解できてないことを危惧する理由が分かる。
当メルマガで、以前AIトレーディングマシーンの話をしたことがある。世界に2千台ある全自動でのサーバーである。例えば、ファーウエイのCFO、副社長がカナダで逮捕されたとなると、そこからアメリカと中国の貿易戦争が悪化し、アメリカの株式が下がるという判断を瞬時にする。2千台あるAIトレーダーは全て同じ判断をしたため、金曜日に日経225が0.8%アップ、FTSE100が1.1%アップしていた中、ダウが2.2%ダウンするということが起こるのだ。
金融は世界規模の産業で、全産業の中でもIT投資を一番してきたのではないかと思うぐらい、毎年何10兆円単位で投資をしている。実際に信託銀行の社長をやった経験からすると、実は銀行のシステムは、オペレーティングシステムが古いものに修繕に修繕を繰り返しているので、エンジニアのいうところのスパゲッティ状態になっているのだ。スパゲッティ状態に絡まっているものを、今では使われてないコンピューター言語で使っている大手の銀行があるというのは、テック業界では有名な話である。
いまだに、国際送金が1日かかり、しかも手数料が大きいのも古いシステムがスパゲッティ状態になっていることに関係しており、全く人手を必要としないデジタル化が必要なのである。
参考:IMFレポート
Next: IMFのレポートより、今後キャッシュレス化はどうしたら進むのか
その国の特殊事情にあった設計ができるかが導入の要
IMFは、CBDCが導入されるか否かは、その国々の特殊事情に合った設計ができるかどうかにかかわってくると言っている。その中でも一番重要なのは、匿名性(取引のトレーサビリティー)、セキュリテイー、取引高と金利が払えるシステムになっているか。現金と預金がどのように支払いに使えるかも重要である。
CBDCは、利益の享受を増やすことができ、取引手数料を減らし、決済システムのリスクを減らし、辺鄙なところに住む人々の助けになるはずである。CBDCの需要が喚起できるかは、その貨幣の形態がどれだけ魅力的であるかにかかってくる。
CBDCの有益性について、結論を出すのは早すぎる
CBDCはシステム障害やサイバー攻撃から守る運営リスクに対しての対策もしっかりしている必要があります。
CBDCは、金融政策の波及速度に大きく影響する可能性は低いが、金融政策の適応のさせ方を考える必要がある。もし、辺鄙な場所に住む人々までをカバーできるCBDCであれば、金融政策の効果はより強くなると考えられる。利付きCBDCは、マイナス金利政策を取ることはできないが、現金の使用を制約することはできる。
このレポートの結論として「CBDCの有益性について確固たる結論を下すのは早すぎる。中央銀行は、それぞれの国の状況を考慮し、リスクとメリットに注意を払う必要がある。技術的実現可能性と運用コストのさらなる分析が必要」と書いてある。デジタル金融取引システムで、セキュリティ対策がでており、トレーサビリティが確保され、世界の3分の1の金融取引が7キロワット(冷蔵庫30台分)で運用できるものの設計が終わり、テスト運転を始めたということをどこの段階でIMFに知らせるかを来年の目標にしたい。
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『房広治の「Nothing to lose! 失う物は何も無い。」』(2018年12月10日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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