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中国が抱える「少子高齢化」という時限爆弾、経済成長率の急低下で国家存続の危機へ=勝又壽良

現在の中国は、建国以来の潜在的な危機を抱えています。出生率の急低下という問題です。「一人っ子」政策が行き過ぎてしまい、負の側面が各所に噴出しています。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)

※本記事は有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』2019年2月14日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にご購読をどうぞ。当月配信済みのバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:勝又壽良(かつまた ひさよし)
元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。

中国「過密人口」のイメージはどこへ?日本を10年遅れで後追い中

中国も日本も頭を抱える「人口問題」

現在の中国は、建国以来の潜在的な危機を抱えています。出生率の急低下という問題です。過剰人口に悩まされた中国は、1979年〜2015年までの36年間、「一人っ子」政策を実施して人口増加にブレーキをかけました。それが、結果として行き過ぎてしまい出生率の急低下を招いています。

人口問題は、一般にはなかなか理解されがたいものです。日本もその轍を踏んでおり、出生率の引き上げに躍起となっています。幼児教育から高校・大学の授業料無料化まで、膨大な財政負担によって、日本の発展を支えようという大構想です。

中国の場合、日本よりもはるかにその対策が遅れています。聞き慣れた言葉になりましたが、合計特殊出生率(1人の女性が生涯に生む子どもの数)は、日本が1.4人台です。中国は2015年に1.05人という数字が算出できる関連データを発表以来、その発表を中止しました。それは、合計特殊出生率が1人を割る事態になって、あえて中国の「弱点」を公表するまでもない、という懸念によるものと見られます。

人口は、安定的な社会保障や年金制度の維持という観点から、横ばい維持が理想です。それには2.08人という合計特殊出生率が必要です。

日本では、2025年までに1.8人の目標を立て、人口1億人維持を目指しています。中国は現在、合計特殊出生率が1人を割っていると見られます。これは、中国の将来に最大の潜在的な危険要因を抱えたと言えます。

合計特殊出生率は、一国経済の潜在成長率に大きな影響を与えます。人間は、生産の主体であり、消費の主体です。労働力不足はロボットなどが代替できます。ロボットは、消費をしませんので、経済の均衡ある成長に寄与しないのです。経済発展と社会保障充実には、人口の安定的な増加率が欠かせない理由です。

「一人っ子政策」が原因で米国に負ける?

人口が純減状態になれば、年金制度が維持できません。

中国のように社会主義を標榜している国家では、年金によって老後生活を保障せざるを得ません。中国はおりに触れ、社会主義の体制的優位性を強調してきた手前、これを裏切ることは共産党の権威を自ら貶める結果となります。

その公約は、人口高齢化で働き手が減れば維持できないのです。「一人っ子」政策が、皮肉にも中国共産党の将来を揺さぶる要因になってきました。

中国は、2050年頃を目途にして米国の覇権に挑戦すると宣言しました。米中貿易戦争の裏には、この覇権をめぐる米国の拒否姿勢が色濃く投影されています。

中国が、その2050年頃に人口動態面で、どのような落ち込みになっているか。それが、カギを握るでしょう。

この問題は後で取り上げますが、現在の国民の平均年齢は、米中ともに37.4歳です。合計特殊出生率は、米国が1.82人(2016年)中国も公式では1.62人(2016年)としていますが、信憑性に乏しく信頼できません。現実は1人を割っていると推測されているのです。

米中の平均年齢が現在、同一レベルにあります。かつ、中国の合計特殊出生率が、米国を下回っている点を勘案すると、次のことが予測できます。

  1. 中国は、米国よりも早く人口高齢化を迎える
  2. 中国の潜在的成長率は、米国を下回る事態を迎える
  3. 米国は移民社会であるので、移民を受け入れて出生率を引き上げる余地がある

このように中国は、米国と比較して不利な状態に置かれています。米国の覇権を狙える人口基盤が存在しないことになるのです。

この点は、きわめて重要ですので記憶に止めていただきたいと思います。

Next: 中国「過密人口」のイメージはどこへ?意外にも「少子高齢化」で日本に接近中



習近平の「米国に代わって世界覇権を握りたい」がそもそも間違い?

中国の普通出生率は2018年、1,000人あたり11人を下回りました。1949年の中華人民共和国建国以来、最低の水準となって衝撃を与えました。2018年の出生数は、17年比200万人少ない1,523万人でした。2年連続の減少で1980年以降では最も少ない出生数になりました。

中国政府系シンクタンクの中国社会科学院は、中国の人口は2029年に14億4,000万人でピークに達し、50年までに13億6,000万人に減るとの予測を発表しました。これは、生産年齢人口が2億人程度減少する可能性を意味しているのです。

中国政府は、2050年頃に米国覇権へ挑戦するという国家目標を打ち挙げました。その時点で、生産年齢人口が2億人も減っており、中国の経済成長率が急減速しているはずです。

かたや米国は、移民を増やせば労働力を確保できます。どうみても、中国は米国に比べて不利な状況に置かれています。

中国はなぜ、米国に代わって世界覇権を握りたいのか。その理由が不明です。

習近平氏は、民族主義者です。かつて清国が、世界一の富を手にしていた国であったから、現代中国もそれに倣って復興させたい。そういう意味でしかありません。それによって、中国国民が幸せになれるというものでないのです。

一国は、GDPの規模でなく、1人当たりGDPの高さが、国民生活の幸せを図る尺度になっています。習氏は、国家目標をGDPの規模に置くという誤解をしているのです。

10年遅れで日本の後を追う中国

昨年の普通出生率が11人を割ったことは、容易ならざる事態の到来といわざるを得ません。将来の経済成長率が、ガクンと低下するからです。

中国国家統計局が発表した先の出生率データによると、16〜59歳の生産年齢人口比率は昨年、64%超に急減しました。

この数字を日本の例で見ますと、2007〜08年のレベルに匹敵します。日本の10年前の生産年齢人口比率まで低下してきたことは、中国経済の将来評価にあたり見過ごしにできないポイントです。また、中国の普通出生率が11人を割ったのは、日本の1990年頃に匹敵します。

これまで、過密人口の中国というイメージでしたが、意外にも「少子高齢化」で日本に接近しているのです。この事実をぜひ知っていただきたいと思います。

中国経済の過大評価を止めて、等身大の冷めた評価をすべき段階と思います。中国政府は、国民の不安と不満が合計特殊出生率の低下という形で、表明されていると見るべきでしょう。

もし、習近平氏が唱えるような「中華再興」の夢を共有するならば、未来を信じて子ども育てようという気持ちになると思います。

現実は、逆の結果が出ているのです。言論の自由もない。自然環境は悪化している。共産党員でなければ人間扱いされない「監視社会」に対して、無言で「ノー」を表明していると見られます。

Next: 人口減が海外戦略を狂わせる。これから噴出する中国の社会問題とは



国防費の増加が中国財政を圧迫する

習近平氏の国家戦略は、中華帝国の戦略そのものです。内政よりも海外進出を優先する戦略です。

歴史上の帝国は、すべてこの道を踏襲しました。中華帝国は、ユーラシア大陸で版図を拡大したのです。黄河の中原から始った漢族が現在、56の少数民族を抱える国家へ拡大したのは、漢族による周辺の少数民族を侵略・支配した結果と言えます。

習氏は、これでは飽き足らず海洋進出を始めました。南シナ海の9割は中国領海という、根も葉もない話を作り上げ、不法な占拠をしています。空母も3隻保有するという膨大な軍拡によって、軍事国家へ姿を変えました。

今後の国防費増加が、潜在的な経済成長率低下のなかで、中国財政を圧迫することは不可避となりました。

人口減が海外戦略を狂わす

ここで厄介な問題が持ち上がったのです。出生率の急低下に伴う年金財政の逼迫(ひっぱく)化です。

中国財政は今後、軍事費と年金を含む社会保障費の綱引きが始まります。社会主義国家を看板にしている以上、国民にそれにふさわしい年金を支給する義務が発生します。国民に選挙権も与えず、一方的な命令で政治を行なっている以上、国民は「当然の報酬」と考えても不思議はありません。

中国の平均退職年齢(作業員は50歳、女性管理職が55歳、男性管理職が60歳)は、世界的に見てもかなり低いのです。職業的に経験豊富な多くの人々が、まだ十分に勤務可能であるにも関わらず退職しています。

年金を受給しながら老後を楽しむことを選好し、それを実現するのが政府や社会の義務だと考えているからでしょう。

そう言えば、老後は子どもの面倒になることが、理想的な生涯という考え方もあったのです。これは人材面でもったいないことであり、若い労働者が支えなければならない引退者がさらに増えることを意味しています。

日本では、年金支給開始年齢を現行の65歳から70歳に引き上げる案が検討されています。これは、日本人の勤労観が中国と全く異なるからでしょう。日本人は、元気な間は働きたいという人が圧倒的です。それでも日本の場合、年金制度は絶えず改革の対象になっていますが、中国ではそれすら話題に上がらないようです。

国家目標が、内政問題よりも世界覇権獲得という国民生活からかけ離れたところにあるからだと思います。

Next: 中国の年金問題はかなり深刻。突然の出生率低下で社会騒乱に発展か



中国の年金問題はかなり深刻

中国の将来の年金は深刻です。鍋の底が抜けたような、突然の出生率低下が起こったからです。

昨年の普通出生率は、11人を下回って1949年の建国以来という最低の水準となりました。この出生率低下が、年金財政に与える影響は甚大です。

人口推計における出生率低下は、今回のように急激な変動を計算に入れていません。なだらかに下がって行くことを想定しています。それが、前述のように「急落」しました。年金財政への影響は計り知れません。中国の場合、これが原因で社会騒乱に発展する恐れが、十分あるのです。

退役軍人が、年金支給額に不満を持っており、頻繁にデモ行進を行なっています。これが、民衆の参加する「年金デモ」に拡大された場合、「軍民合同デモ」となれば面倒な事態になります。こういう偶発的な問題が予想されるほど、中国の年金財政はお寒い状況にあります。

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出生率低下による3大問題

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勝又壽良の経済時評』(2019年2月14日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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勝又壽良の経済時評

[月額864円(税込)/月 毎週木曜日(年末年始を除く)予定]
経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。

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