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日本の経済状態は悪くない?にもかかわらず、景気減退が不安視されている理由とは=川瀬太志

2月にかけて発表された2018年度の第3四半期決算では、明らかに一時期の勢いを失った感のある日本企業。これから日本は景気減速に向かっていくのでしょうか?(『ハッピーリッチアカデミー 私的年金をつくろう』川瀬太志)

プロフィール:川瀬太志(かわせふとし)
ハイアス・アンド・カンパニー株式会社 取締役常務執行役員。1967年、愛知県生まれ。慶応義塾大学商学部卒。大手都市銀行、経営コンサルティング会社チーフコンサルタント、住宅・不動産関連会社取締役を経て現職に。住宅・不動産を個人が納得し安心して取引できる環境をつくり、個人の持つ資産の価値を守るためのサービス開発に従事。

今は景気拡大局面なのか、それとも後退局面なのか…

景気の減速は世界的な流れ、さて日本は?

今年の1月に、「今、日本経済は景気拡大局面にある」という政府判断が報道されました。景気拡大は6年2か月にも及び、これは戦後最長だとのことです。(編注:原稿執筆時点3月5日。なお、内閣府が3月7日に発表した1月の景気動向指数速報値では、景気の現状を示す一致指数が3か月連続で悪化。基調判断を「下方への局面変化」に引き下げています)。

その一方で、2019年に入ってからの株価の下落やふるわない企業業績の発表などを受けて、「実は景気拡大局面はもうすでに終わっているのではないか?」という声もあります。

たぶんそうじゃないかと思います。すでにそうなっているのかはわかりませんが、少なくとも昨年までのような勢いはすでになく、景気が減速しているのはたぶん間違いないでしょうね。

例えば、企業業績。3月決算の企業が上期決算(4~9月)を発表するのが11月頃です。そして、10~12月の第3四半期の発表をするのが2月頃ですね。

上期決算の発表の時にはそれほどなかった「減収」とか「減益」、「下方修正」などのネガティブな決算発表が第3四半期では相次ぎました。そして日本経済新聞は、3月の通期決算では「3期ぶりに減益になる」と報道しました。

企業業績の拡大にブレーキがかかる。上場企業の2019年3月期は増益予想から一転、3期ぶりに減益になりそうだ。中国景気など世界経済の不安要因が自動車・部品や電気機器を中心に日本企業の業績に具体的に表れ始めた。今年に入り慎重な見通しが相次ぎ、下方修正額は計1兆3千億円に達する。利益水準はなお高いが先行き不透明感は増している。

出典:日本経済新聞(2019年2月19日付)

記事によると、上場企業の約8割にあたる1,300社が発表した2018年の第3四半期(10~12月)は、純利益で24%も落ち込んだとのことです。

明らかに企業業績は一時の勢いを失っていますね。

Next: 景気減速は日本だけの流れなのか、いまの世界の動向は?



景気減速は世界的な流れ

要因として一番大きいのは「海外要因」、特に「中国」ですね。中国はただでさえ景気が減速しかけているところに「米中貿易戦争」とも呼ばれるアメリカとの貿易摩擦が景気減速懸念を加速させています。また拡大成長を続けてきたスマホ市場も鈍化し始めました。

そんな中で、車や電機、非鉄などの企業の業績が悪化しました。

この景気減速の流れは世界中で起きています。まずは景気減速の起点とされている中国。

中国企業の業績に急ブレーキがかかっている。上場約3,600社のうち、2018年12月期の最終損益が前の期より悪化すると表明した企業は1,070社にのぼった。

400社超が最終赤字に陥る。消費低迷や米中摩擦のあおりを受けた企業が多く、上場企業全体が減益に転じる可能性も浮上する。業績不振が雇用環境の悪化につながれば中国景気の新たな重荷になりかねない。

出典:日本経済新聞(2019年2月7日付)

中国がこうなりますと、経済的に関係の深い欧州もこうなります。

ユーロ圏の景気減速が鮮明になってきた。欧州連合(EU)の欧州委員会は7日、2019年の実質経済成長率の見通しを前回(18年11月)から0.6ポイント低い1.3%へ大幅に下方修正した。

けん引役のドイツの伸び悩みに加え、財政リスクがくすぶるイタリアの景気後退入りがユーロ圏全体の成長を押し下げている。依然として不透明な英国のEU離脱の行方も先行きに暗い影を落としている。』

出典:日本経済新聞(2019年2月8日付)

すでに景気後退局面にあるイタリア、EU離脱問題を抱える英国に加えて、中国向けの輸出が多いドイツも伸び悩みが明らかになってきたようです。

中国と関係の深い東南アジアの新興国群も当然影響を受けます。

東南ア、景気減速が鮮明。米中貿易戦争の影響で輸出の受注がふるわず、生産の勢いが鈍った。

出典:日本経済新聞(2019年3月1日付)

そしてアメリカです。

好調だった米景気が減速してきた。住宅市場は、これまでの利上げの影響で失速。
減税効果が期待された設備投資は米国発の貿易戦争が逆風となる。個人消費は比較的堅調ながら政府閉鎖で一時的に減速した。
雇用の拡大と株価の回復で米景気は再び加速する可能性があるが、トランプ政権の場当たり的な政策が重荷になりそうだ。

出典:日本経済新聞(2019年3月1日付)

アメリカはすでに景気拡大局面が10年目です。アメリカ経済はかなり順調だったのです。それを崩したのは、…やっぱりトランプ大統領ですかね。

Next: アメリカにも痛みをもたらす、米中貿易摩擦を止められない理由とは?



要因は、トランプ大統領?

もともと、世界経済はリーマンショック以降の金融緩和によって順調に拡大してきていて、そろそろ金融の引き締めに入る時期でもありました。景気循環的にもある程度のスローダウンは予想の範囲内でした。そこに米中貿易摩擦が、景気減速を一気にスピードアップさせてしまった感じです。

トランプ大統領としては、「貿易赤字は国内産業を衰退させる。アメリカ向けの輸出で儲けている中国などの製品に関税をかけて、国内の雇用を復活させよう」というような考えを持っているのかもしれません。

しかし、すでに多くの人が指摘しているように、中国に関税をかけたとしても、米国製品が競争力を高めて米国内の雇用が激増するようなことはありません。

10~25%の関税をかけたとしても、それでもまだ中国製品の方が米国製品よりも安いものが多いと言われています。

もしそうだとすると、結局、完成品を作る米国メーカーは、10~25%高くなった中国部品を買わされるだけで、最終的にそのツケは米国消費者が支払うという構図になります。また、中国製品にはかなりの米国の製品が組み込まれています。中国向けに輸出をしている米企業は直接的に打撃を受けています。

国際通貨基金(IMF)の発表では、『米国が2,670億ドルの中国製品に25%の関税を課し、中国も相応の報復関税をかけた場合、中国の成長率は2020年時点で0.9ポイント押し下げられ、米国も0.3ポイント下がるとみる』と言っています。

すでに経済はグローバル化して、サプライチェーンは全世界に広がっているのです。

米中貿易戦争は中国だけでなくアメリカにも痛みをもたらす、ということはみんな(おそらくトランプ大統領も)わかっているでしょう。それであってももう止められないのでしょうね、大統領選挙に向けて。

貿易摩擦はこの後日本にも

ここまでのトランプ大統領の経済政策は、決して悪くありませんでした。公約通りに大型減税を実施して企業の投資意欲を上向きにさせました。アメリカ景気はさらに上振れして、景気の過熱が警戒されていたくらいです。

しかし、経済に不安定な影響を与える米中貿易戦争が収まらないとなると、企業は先を見越した投資や雇用の拡大をためらうようになります。これが『米景気、先行き懸念強く』ということにつながるわけです。

せっかく大型減税して、利上げも見送って景気が後退しないようにしてきたのに、それを自分でつぶしてしまうのでしょうかね。

トランプ大統領は中国だけにとどまらず、EUや日本とも自動車関税の引き上げ交渉を始めるだろう、とみられています。このよくわからない自分の支持者たちに向けてのアピールは来年の大統領選挙まで続くのでしょうか…。

日本は景気後退局面に入ったかどうかは、一定の時間がたって政府の判断が出てからでないと確定しません。もしかしたら「2019年1~3月期に景気後退局面に入っていた」という発表がいずれあるかもしれません。

本当は日本経済の状態は悪くないのですけどね。インバウンドは増加しているし、雇用は力強いままです。失業率は低いままだから基本的に賃金も下がらないでしょう。消費増税もそれほどの消費マインドの冷え込みにはならないとみられています。景気循環的要因の景気の減速なら、すぐに元の回復基調に戻ることもありえるはずなのです。

だから、どうかトランプ大統領、大人しくしておいてもらえないでしょうか。

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ハッピーリッチアカデミー 私的年金をつくろう』(2019年3月5日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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