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法改正で遺言書作成が楽になると、プロに頼まず自分で書けるようになるのか?=池邉和美

40年ぶりの大改訂で、遺言書を作成する際の自筆証書遺言と公正証書遺言にほとんど差がなくなりました。今回は改定で変化したポイントをおさらいしてみましょう。(『こころをつなぐ、相続のハナシ』池邉和美)

プロフィール:池邉和美(いけべかずみ)
1986年愛知県稲沢市生まれ。行政書士、なごみ行政書士事務所所長。大学では心理学を学び、在学中に行政書士、ファイナンシャルプランナー、個人情報保護士等の資格を取得。名古屋市内のコンサルファームに入社し、相続手続の綜合コンサルに従事。その後事業承継コンサルタント・経営計画策定サポートの部署を経て、2014年愛知県一宮市にてなごみ行政書士事務所を開業。

法改正後における、自筆証書遺言と公正証書遺言の違いとは

今回の改定で、2つの違いは小さくなる

当メルマガでも何度もお伝えしているとおり、2018年7月に相続のルールが約40年ぶりに大改正されました

この中で、遺言書の形式に関するものに、次の2つがあります。

1.自筆証書遺言の方式緩和
2.自筆証書遺言の法務局での保管制度

遺言書をつくる際、「自筆証書遺言にしようか、公正証書遺言にしようか」と、迷われる人は少なくないでしょう。

実際、私自身もこれまで、著書やセミナーなどで、この2つの違いを繰り返しお伝えしてきました。

しかし今回の改正により、2者の違いはかなり小さくなります

今回は改めて、法改正後における自筆証書遺言と公正証書遺言の違いをまとめてみました。

なお、自筆証書遺言は法務局での保管制度の施行後であっても保管制度の利用は任意ですが、下記比較はすべて法務局での保管制度を利用している前提である点にご留意ください。

自筆証書遺言と公正証書遺言の同じ点

<1.相続が起きた後の検認が不要>

従来、自筆証書遺言は、相続発生後、検認手続きが必須でした。これが改正後、法務局での保管制度を利用した場合には、自筆証書遺言であっても検認は不要となります。

検認は偽造変造を防ぐため、遺言書の現況を保存する意味合いであるところ、法務局での保管により偽造変造が行われにくくなることから、検認も不要となりました

<2.偽造変造できない>

自筆証書遺言の最大のリスクとも言える、遺言書の偽造変造。しかし、法務局の保管制度を利用することで、保管された時点以後の偽造変造は、実質的に不可能となりました。

<3.相続開始後、検索ができる>

公正証書遺言は従来より公証役場で遺言書の有無を調べることが可能でしたが、自筆証書遺言の場合には、用紙自体が見つからなければ、遺言書の存在を知ることは困難でした。

法施行後は、法務局での保管制度を利用することにより、自筆証書遺言であっても遺言書の有無を調べられるようになります。

<4.形式的に無効な遺言書は作れない>

遺言書の保管制度を利用した場合、法務局にて形式面は確認してもらえることになっていますので、形式的にそもそも無効な遺言書は作成されないこととなります。

では、法改正後にものこる自筆証書遺言と公正証書遺言の違いには、どのようなものがあるでしょうか。

Next: 法改正後にも残ってしまう、自筆証書遺言と公正証書遺言の3つの違い



自筆証書遺言と公正証書遺言の異なる点

<1.自筆証書遺言は、自筆が必要>

改正により、財産目録のみは自筆でなくとも良いこととなりましたが、本文については自筆が求められる点は従来どおりです。そのため、文字が書けない人や、手に力があまり入らない人などは、自筆証書で遺言書を作ることは困難でしょう。

公正証書遺言であれば、文字が書けなくても遺言書をつくることは可能です。

<2.自筆証書遺言は、公証役場の手数料がかからない>

公正証書で遺言書を作成するには、公証役場へ手数料が発生します。費用は、全国一律で決まっていますが、遺言書の内容により異なります。

一方、自筆証書遺言であれば、特段、費用は掛かりません。なお、法務局での保管制度を利用する際には、いくらかの手数料が必要となる見込みですが、公正証書遺言の作成費用と比べると少額の手数料となるでしょう。

<3.遺言者の状態の証明が困難>

公正証書遺言を作成するには、公証人のほか、証人2名の立ち合いが必須です。一方で自筆証書遺言は、1人でも作成できます

つまり、自筆証書遺言の場合には、「本当に本人が本人の意思で書いたのか」「本人はそのとき認知症等ではなかったのか」という証明がきわめて困難、ということです。そのため、高齢の方が遺言をする場合には、自筆証書である場合は特に、認知症でない旨の診断書をとったり、本人の意思である証拠をのこすなどの工夫が必要でしょう。

以上が、改正法施行後における公正証書と自筆証書の違いです。

両者の差は小さくなったとはいえ、揉め事の可能性がある場合や高齢の場合などには、公正証書で作成された方が良いでしょう。

一方、これまで遺言書は不要と考えていたような方も、自筆証書の有用性が高まったことにより、遺言書をのこすケースが増えていくでしょう。

どちらの方法で作成する場合も気を付けること

いずれにしても、最も注意すべき点は、公正証書遺言であっても自筆証書遺言の法務局の保管であっても、基本的には形式面を整えてくれるに過ぎない、という点です。

法的に無効な公正証書遺言はさすがに見たことはありませんが、拙著、「残念な実例が教えてくれる、きちんとした、もめない遺言書の書き方、残し方」でもいくつも紹介している通り、公正証書遺言であっても「残念な」遺言書は散見されます。

問題のない遺言書をつくるためには、形式面の要件のみを満たせば良いというものではありません

遺言書作成後の状況の変化、のこされる人の心情、税金のこと、実際に相続が起きた後の手続きなど、多岐にわたる検討が必要なのです。これは、公正証書遺言であっても、自筆証書遺言であっても同じこと。

遺言書を作成する際は形式面ばかりにとらわれるのではなく、きちんと「中身」について検討することを忘れないようにしましょう。

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こころをつなぐ、相続のハナシ』(2019年4月10日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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