この夏から始動する「アップルカード」は、世界中のクレカ業界を制する可能性があります。そして、その機能には日本のカードを研究した痕跡が多々見られます。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)
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消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
「すべてはiPhoneのため」アップルカードはどんなカード?
リアルとバーチャルのカード2枚持ちで威力を発揮
アップルは3月26日のイベントで同社初となるクレジットカードサービス「アップルカード」を発表しました。
このサービスは物理(リアル)カードとバーチャルカードの2枚を使い分けるというユニークなもの。利用者が審査を通過すればチタン製の物理カードが送られてくるほか、「Wallet」アプリ内のバーチャルカードも使えるようになります。国際ブランドはマスターカードが付くので、世界中ほとんどの地域で利用することができます。
米国ではこの夏から利用が開始され、その後、欧州、オーストラリアへと広がっていく予定ですが、日本での展開はまだ未定です。
アップルが金融分野にのめりこむワケ
しかし、スティーブ・ジョブスが生きていたらクレジットカード発行までやっていたかどうか判りません。金融への参入を嫌っていた彼ですから、きっと避けたことでしょう。
それなのに後継のティム・クックがここまでやるのは、やはり売り上げ不振が背景にあると思われます。中国経済の不況からアップルの株価が暴落したりしているのですが、低価格のスマホがたくさん出てきた中で、高性能と言いながらも価格を据え置いたり、さらに上げたりする今の経営では限界があるといえます。
そもそもハード製品を売って儲けを得る今のアップルのビジネスモデルではやっていけなくなっているのです。多角化、具体的には、クレジットカードを中心とした金融ビジネスへの参入が必要になっているのです。
アップルカード誕生に貢献したニッポン
しかし、それにしても2016年のApple Payの日本進出がなかったら、今回のアップルカードの登場もなかったと言えるでしょう。
クレジットカードにはまったく素人集団だったアップルが、わずか3〜4年で時代をリードする注目のクレジットカードを発行するまでになったのですから、これはすごいことです。
しかし、その裏に日本側の貢献があったことはあまり知られていません。
というのは、今回のアップルカードのスペックのあちこちに、日本のクレジットカードサービスの痕跡や影響が見え隠れするからです。
特にポイントプログラム、正確にはキャッシュバックですが、2%という高い還元率のポイントがいきなりつくわけですから、大いに注目でしょう。さらに条件によってはスマホ(iPhone)を使えば還元率が3%になるといいますから、これもお得です。
Next: アップルが熱心に日本を研究?随所に見られる日本式の模倣
日本ではマニアなら誰でも知っているカード「紐付け」
しかし、「スマホとクレジットカードを紐付ければ還元率がアップする」という仕組みはどこかで見た光景ではありませんか。
- Suicaにチャージする時にビューカードを使えば、JREポイントが通常0.5%のところ1.5%と3倍貯まる
- ペイペイにチャージするのにYahoo! JAPANカードを使えば、キャンペーン期間中なら19%還元がある
- 楽天ペイに楽天カードを組み合わせて買い物をすれば、通常0.5%のところ1.5%のポイントが付く
- nanacoは、セブンカードプラスからチャージするとポイントが付く
- WAONは、イオンカードセレクトからチャージするとポイントが付く
など、特定のクレジットカードを使ってQRコードや電子マネーにチャージすると、ポイントがついたり、還元率が2〜3倍に増えるというもので、これは日本人にはすっかりお馴染みのサービスです。
ただ、日本では当たり前のカードの特典なのですが、海外のクレジットカードでこうしたサービスを大々的にやっているということはあまり聞きません。それをアップルカードが、これから率先して、目玉のサービスとして、世界にばらまこうとしているのです。
これは日本人としては愉快なことではありませんか。喝采を叫びたくなるではありませんか。
スマホ決済の盟主を目指した周到な計画
今になって振り返ると、アップルは、この日が来ることを予想してApple Payの日本上陸に合わせて様々な手を打ってきたことがわかります。
彼らは何をしてきたのか。2017年に発行した拙著『Suicaが世界を制覇する』(朝日新書)に詳しく書きましたが、要点を以下に箇条書きにしてみました。
- 交通系電子マネーSuicaを押し立てて、Suicaファーストとして参入
- スマホ決済の盟主となるために国際ブランドVISAを排除してフリーハンドを得た
- 実務はiDとクイックペイのネットワークに任せた
- 日本のカード会社を調べて、アップル中心の幕藩体制を築こうとした
- 日本のクレジットカードサービスを徹底的に調べて今度のアップルカードの発行に備えた
アップルは、アップルベイの発行を通じて日本のクレジットカード業界のあらゆるノウハウを学習し体得したと言えるでしょう。
中でも事業成功の鍵として、顧客の接点であるサービスの充実には特に注目したと思われます。とくにポイントやマイルの還元率競争は彼らの大きな関心の的となったことでしょう。
ポイントサービスは、欧米で生まれたものですが、計算が苦手な人も多くて、欧米では日本ほど盛り上がっていません。むしろ伝統的にクーポンの力が強く分かりやすいのでクーポンに関心が集まっています。
しかしアップルはネット空間ではポイントとの相性が良いと考えて丁寧に研究した(日本人の熱狂ぶりにも注目した)と思われます。
Next: 「すべてはiphoneのため」アップルカードはどんなカードなのか?
徹底したカード戦略「すべてはiphoneのため」
では、実際アップルカードがどのように機能するか、そこを詳しく述べてみましょう。
まず、申込者は審査に通ると、「Wallet」内でバーチャルカードが作られます。同時にチタン製の重厚な物理カードが送られてきます(ここまではすでに述べました)。
この段階でもすでに買い物すると物理カードでは還元率1%ですが、バーチャルカード、つまりApple Payを使えば、還元率は2%となります。1%上乗せされるのです。
さらにApple製品やアップルのサービスを利用すると、物理カードではやはり1%のままですが、バーチャルカードなら3%になります。
こうなるとスマホを使わないと損をすることになりますから、スマホでの囲い込みが強力なものになるとみられています。
実際のところ、Apple Payは現在稼働率がそれほど高くないと言われているので、このカンフル剤でApple Payが飛躍的に使われるようになると期待しています。
日本研究から生まれたアップルカード
このほかキャッシュバックでも工夫がなされています。
ポイントサービスではお得の実感が小さいので、毎日現金がウォレットに直接振り込まれるようにしたといいます。この辺は日本の影響というより、アマゾン等もこだわるところですから、シリコンバレー由来と言ったほうが良いでしょう。
しかし、スマホとの紐付けや自社製品購入でポイント倍付けにするところ、また物理カードに対する厳しい姿勢(冷遇)など、細かなところはいかにも日本的と言えるのではないでしょうか。
その他にも、データ漏洩を防止するために加盟店に個人情報は出さないトークナイゼーションの機能をつけていることも注目できます。これは日本のカード会社も見習って欲しいところです。今後厳しくなるGDPRによる個人情報の管理にも充分耐え得る仕組みだと思います。
Next: 「Apple Pay」の利用が飛躍的に伸びる?日本からの学びを活かせるか
日本からの学びを活かせるか
以上まとめると、アップルカードはアップルが日本で学んだクレジットカードのサービスを生かしつつ、自分たちが持っているプライバシー保護の技法を融合させて作った、新しいレベルのクレジットカードといえます。
アップルカードの発行が、今後「Apple Pay」の利用促進に結びつけば、ひとまず成功と言えるでしょう。
注目したいカードです。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年4月14日)
※太字はMONEY VOICE編集部による
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世の中すっかりカード社会になりましたが、知っているようで知らないのがクレジットカードの世界。とくにゴールドカードやプラチナカードなどの情報はベールに包まれたままですから、なかなかリーチできません。また、最近は電子マネーや共通ポイントも勢いがあり、それらが複雑に絡み合いますから、こちらの知識も必要になってきました。私は30年にわたってクレジットカードの動向をウォッチしてきました。その体験と知識を総動員して、このメルマガで読者の疑問、質問に答えていこうと思います。ポイントの三重取り、プラチナカード入会の近道、いま一番旬のカードを教えて、などカードに関する疑問にできるだけお答えします。