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金正男殺害すらも演出?世界に無視されると滅ぶ北朝鮮と、交渉を長引かせたい米国=江守哲

北朝鮮が久しぶりに動きを見せています。金正恩氏が「自力で経済建設を進め、国際社会による経済制裁に対抗する」方針を打ち出したというのです。(江守哲の「ニュースの哲人」〜日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」〜日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2019年4月12日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

3度目の会談はしばらく先?交渉を長引きかせるトランプの狙いは

金正恩の動揺

北朝鮮が久しぶりに動きを見せています。金正恩朝鮮労働党委員長が労働党の重要会議で、自力で経済建設を進め、国際社会による経済制裁に対抗する方針を打ち出したというのです。

北朝鮮メディアによると、10日に開催された労働党中央委員会総会で、金委員長が物別れに終わった2回目の米朝首脳会談について説明し、「自力で経済建設を前進させる」との方針を示したもようです。

朝鮮中央テレビは、「制裁によって、われわれを屈服させられると誤認している敵対勢力に、深刻な打撃を与えるべきだ」と報じています。

なにやら、藪から棒に強硬な態度を示し始めたように見えます。しかし、これは焦りの裏返しでもあります。

労働新聞の記事では、「自力」との言葉が31回繰り返され、経済制裁への対抗姿勢が強調されたということですが、わざわざいまさらそのようなことをする必要はありません。

これが本気であるとすれば、まさに先祖返りであり、これまでの米国の譲歩ともいえる態度に塩を送ることになります。本音ではないことは明らかです。

また、米国への直接的な批判はもありません。当然です。交渉の余地を残しておきたいのは、ほかならぬ北朝鮮だからです。

どうしても米国の気を引きたい北朝鮮

しかし、前回の米朝首脳会談では、意見の相違から何も進まず、合意もありませんでした。

これ自体はシナリオ通りなのですが、その後も米国が他の案件で忙しいこともあり、北朝鮮のことなど構っていられない状況になっていました。

このような状況で、北朝鮮もかなり不安になったのでしょう。何かしらの報道を出して、気を引く必要が出てきてしまったわけです。

労働新聞によると、最高人民会議において、北朝鮮の中枢機関の組織改編案が提案されるとの報道もあるようです。さらに、金委員長が新たなポストに就くとの指摘もあるようです。

かなり突っ込んだ話になっています。これも、注目を集めるためなのでしょう。

米朝交渉を長引きかせるトランプの狙い

前回の米朝首脳会談では、米国側の要求の水準が現状の北朝鮮にとって、かなりレベルの高いものであったことが、合意決裂の理由とされています。

しかし、それは明らかに誤解です。ポイントは、いかにこの問題を長引かせて、来年の米大統領選で手柄のように見せるかにあります。

いまのままでは、トランプ政権の2期目はありません。トランプ大統領も選出されないでしょう。しかし、外交政策の成功を明確に示すことができれば、続投となる可能性が期待できます。それに賭けたいわけです。

Next: 米朝交渉に生き残りを賭ける北朝鮮。南北統一が鍵だが、韓国に異変?



米朝交渉に生き残りを賭けている北朝鮮

一方の北朝鮮サイドは、生き残る必要があります。どの国の支援でもよいわけです。しかし、世界最大の強国である米国が近づいていることは、北朝鮮にとっても他国からの攻撃の抑止力になっています。

その意味では、これまで中国にべったりだったのが、その必要もなくなるでしょう。むしろ、米国から「中国と近づいてばかりいると、知らないぞ」などを脅されている可能性さえありそうです。

国際社会の枠組みは、中には入れば米国が守ってくれます。しかし、敵対的な姿勢を見せていると、容赦なくたたかれ、消えてなくなるしかありません。

北朝鮮は、なかなか進展しない米朝関係の改善や制裁解除の動きに徐々に耐えられなくなってきています

その意味で、「党および国家的に早急に解決し、対策を立てなければならない問題」について分析し始めたといえます。

とはいえ、結局は南北統一に向けた動きを徐々に進めていくしかないわけです。

これは基本路線であり、決まった話です。これを覆すには、北朝鮮の暴挙または韓国の翻意しかありません。

韓国が機能不全に陥っている?

その韓国が明らかにおかしくなっています。機能不全に陥っています。

米朝間の橋渡し役を務めた文在寅大統領の最近の行動は、明らかに変調をきたしているといえます。この動きに米国も懸念を持っているようです。日本サイドも何度も警告しましたが、これまで通り、日本に対する感情は別のところにあるようで、話が進みません。

慌ててトランプ大統領と会うことにしたようですが、これは釘を刺されて厳しいことを言われるだけでしょう。

トランプ米大統領は11日にホワイトハウスで文大統領と会談しました。そこでは、米政府が北朝鮮への制裁を継続する方針を再確認しました。

そのうえで、金委員長との3回目の首脳会談の開催に意欲を示しました。今回の会談では北朝鮮の非核化に向けた米朝の対話を後押しするために、文大統領が南北首脳会談を近く開く可能性について協議したようです。

往生際の悪い北朝鮮と韓国

北朝鮮は制裁解除を強く求めているものの、核開発プログラムの破棄に向けた有意義な措置を講じていません

米朝首脳は昨年6月と今年2月に会談しましたが、北朝鮮が核開発を断念するのと引き換えに米国が制裁を解除するとの合意には至りませんでした。北朝鮮側が、依然として核開発を行っている兆候があることを米国側が突きつけ、これに驚いて腰が引けてしまったのです。

黙って言うことを聞いていればよいものを、北朝鮮側はまだ往生際が悪いようです。

すでに国際社会の中枢では、朝鮮半島の方向性は決まっていますが、これにまだ完全に乗り切れていないのが北朝鮮であり、さらに言えば韓国なのかもしれません。

Next: トランプ「3回目の米朝会談が実現する可能性はあるが、急速には進まない」



「3回目の米朝会談が実現する可能性はあるが、急速には進まない」

一方でトランプ大統領は、「3回目の首脳会談が実現する可能性はある。それは少しずつ進むプロセスであり、急速には進まない」としています。

この「急速には進まない」というのは、来年の大統領選挙をにらんでのことです。いま問題をすべて解決してしまえば、選挙選のためのネタがなくなります。

北朝鮮情勢の鎮静化を自らの手柄にすれば、大統領選が戦いやすくなると信じていますので、そう簡単に事態の解決には至らないことになります。それは、米国の指導部も了承済みでしょう。というよりも、指導部の指示でそのように動いているはずです。

トランプ大統領は、対北朝鮮制裁の一部を緩和する可能性について、文大統領との会談で「人道面でのこと」と韓国による食糧支援の可能性について協議したとしています。

そのうえで、制裁について「われわれはいつでも追加することが可能だが、現時点でそれ追加制裁を望んでいない」としています。現時点で米国に被害が出ているわけではありませんので、これ以上の制裁も理由付けが難しいというのが実態です。

最終目標は「北朝鮮の完全非核化」で合意

一方、文大統領は、合意に至らなかったハノイでの2回目の米朝首脳会談について、「失敗ではなく、長いプロセスの一部と捉えている」としています。

そのうえで、今回の米韓首脳会談では、北朝鮮の完全な非核化を「最終目標」とすることでトランプ大統領と合意したとしています。

米国の後ろ盾ができましたので、これで文大統領はかなり気が楽になったでしょう。

文大統領は「われわれが現在直面している重要な任務は対話の勢いを維持するとともに、第3回米朝首脳会談が近い将来に開催されるという前向きな見通しを国際社会に示すことだ」としています。

もちろん、そのまえに南北首脳会談が実施され、地ならしが行われることになるでしょう。

米韓首脳会談後に韓国側が出した声明によると、文大統領はトランプ大統領に対して、金委員長との南北首脳会談開催に向けて取り組むと表明したようです。

また声明は、「両大統領は、朝鮮半島の和平プロセスにはトップダウンのアプローチが引き続き不可欠との考えで一致した。トランプ大統領は金委員長との対話に向けたドアは常に開いていることを強調した」としています。

これまでの方針に則った発言といえます。

しかし、韓国政府当局者は、「次の南北首脳会談のタイミングや場所については何も決まっていない」としています。

ただし、文大統領はトランプ大統領に対して、南北首脳会談の早期開催に向けて北朝鮮側に積極的に働きかける意向を伝え、トランプ大統領は北朝鮮の現在の方針についてできるだけ早く共有するよう文大統領に求めたとしています。

トランプ大統領は北朝鮮との対話について「多様で詳細な合意がまとまる可能性がある。少しずつ解決することが可能だ。しかし、現段階でわれわれは大きな問題について話している。それとは核兵器を廃棄させる必要性だ」としています。

この大きな難題を解決するために、直接対話で失敗した教訓から、今一度、交渉に韓国を間に挟み、北朝鮮側の態度を軟化させたうえで次のステップに行くことがベストと判断したことになります。

Next: 金正男氏の殺害も演出だった?国際社会から無視されるのが怖い北朝鮮



国際社会から無視されるのが怖い北朝鮮、次の一手は?

一方で、北朝鮮側もあまり身勝手なことばかりしていると、その後が怖いこともわかっているはずです。米韓首脳会談の動きを当然知っているわけであり、そろそろ態度を明確にしないといけないと感じていることだけは確かでしょう。

朝鮮中央通信によると、北朝鮮の最高人民会議(国会に相当)は、金委員長を再び国務委員長に推戴したようです。

今後は北朝鮮側にも動きが出てくるでしょう。国際社会にその存在を示し続けないと、存在意義が失われ、闇に葬られかねません。

それを最も怖がっているのが金委員長です。昔であれば、とっくに国際社会から排除されていてもおかしくないでしょう。

現代社会ではそのようなことは、実際に被害が出ない限りないでしょう。しかし、そのリスクは常に存在し続けます。実際に過去に米国によってそうなった人物は少なくありません。

これまで金委員長は中国を後ろ盾に使ってきました。しかし、米中関係をみてもわかるように、中国の疲弊化は著しく、むしろ使いづらい状況になっています。むしろ、距離を置いたほうが得策と考えているでしょう。身の引き方を間違えると、大変なことになります。

一方で、いろいろ周りを固めているのだから、おかしな行動だけは慎んでほしいというのが、米国が主導する国際秩序の一致した意見です。

金正男氏殺害も演出だった?

その一環だったのが、北朝鮮の金正恩委員長の異母兄である金正男氏のマレーシアでの殺害でしょう。しかし、これも替え玉であり、結局は本当の意味で血を流さずにことを進めるための演出だった可能性があります。

なかなか手の込んだことをやるものですが、これはイラク・フセイン大統領のパターンを同じです。

さて、この事件で検察側が殺人罪で起訴されていたベトナム国籍のドアン・ティ・フォン被告の訴因が傷害罪に変更され、裁判所は同被告に3年4カ月の禁錮刑を言い渡し、同被告は死刑を免れました。そして、同被告はすでに2年間勾留されていることから、減刑措置で釈放されるというとんでもない事態になっています。

また、もう1人の実行犯とされたインドネシア人女性は、検察側がすでに起訴を取り下げ、先月釈放されています。

結局、この事件はなんだったのか、ということです。何かしらの圧力が掛けられたことで、釈放されているわけです。

米韓の当局者は、北朝鮮の現体制が金正男氏の殺害を指示したとの見方を示していますが、北朝鮮側は疑惑を否定しています。

しかし、このやり取り事態がまさに演出以外の何物でもないわけです。国際情勢とは、このようなことの繰り返しです。

一方、事件を主導した人物は現在も逃亡中とみられており、2人の女性を殺人罪で起訴したマレーシアには批判の声が上がっているといいます。しかし、これ以上の追及はもはやありません。これでおわりです。

Next: サウジ人記者のカショギ氏も同じ?事実は表に出てこない



国際事件によくあること

これは、サウジ人記者のカショギ氏がトルコで殺害されたとされる事件でも同じです。事実は表に出てきません。実際にカショギ氏が殺害されたかどうかもわかりません。おそらく、フセイン大統領と同じパターンであるところに移送されているのではないかと思われます。もちろん、その場合には生存していることになります。

結局、金正男氏殺害疑惑の事件は当初、マレーシアの検察当局が死刑が適用される殺人罪で女性2人を起訴し、他に指示役とみられる北朝鮮国籍の男4人の関与も指摘していましたが、4人は事件直後に出国してしまいました。

そして、事件の「黒幕」が不在の公判で、真相の究明ななされないまま、幕を閉じたことになります。

この公判では、3月11日にインドネシア人女性への殺人罪での起訴が取り下げられました

検察側は理由を明らかにしませんでしたが、インドネシア政府が謝意を込め、「水面下でマレーシア側と交渉を重ねていた」と明かし、起訴取り下げがマレーシアの政治判断だったと世界に暴露されてしまいました。

なんともお粗末な結末です。もちろん、インドネシア側だけの依頼ということはあり得ません。国際秩序の中での大所・高所からの判断です。

このようなことは、国際的な事件ではよくあることです。その背後には、きわめて大きな組織が動いていることを理解しておく必要があるのかもしれません。

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