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楽観に傾く米国株は正念場。同様に上昇し続ける、原油価格の背景に変化の兆し=江守哲

米株市場、原油価格ともに、予想外の高値持ち合いが続いている現状。この上昇はどこまで続くのか、それぞれの価格を形成している現在の状況を詳しく紹介します。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2019年4月1日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

楽観はいつまで続くのか、中長期目線の投資は控えるべき局面

高値持ち合いの続く米国株は、いよいよ正念場

米国株は高値持ち合いです。上値を試したそうな動きに見えますが、まずは
第1四半期の決算内容を確認したい
ところです。

金融大手の決算がそこそこの結果でしたので、ひとまず安心感が広がっていますが、まだまだわかりません。

リフィニティブによると、S&P500企業の19年第1四半期利益は、前年同期比1.7%減となる見通しです。

これまでに第1四半期決算を発表した77社のうち、利益がアナリスト予想を上回った企業の割合は77.9%で、長期平均の65%と過去4四半期平均の76%を上回りました。

第1四半期の売上高は5.0%増加する見通しで、売上高がアナリスト予想を上回った企業の割合は48.1%と、長期平均の60%と過去4四半期平均の67%を下回りました。

第1四半期の1株利益について、悪化もしくは市場見通しを下回ると予測している企業は85社、改善もしくは市場見通しを上回ると予測した企業は31社です。

S&P500企業の今後4四半期(19年第2-20年第1・四半期)の予想PERは16.8倍です。

4月22日からの週は155社が四半期決算を発表する予定です。今週が終われば、S&P500採用企業の約4割の企業の第1四半期の決算内容が判明することになります。

さて、上記のような状況ですが、PER予想がすでに16.8倍です。過去平均が15倍ですから、すでに10%の割高感があります。

将来の見通しに期待感があれば、この程度の割高感は許容されるのでしょうが、これから本格化するハイテク企業の決算が予想を下回るようだと、期待感は剥落するでしょう。

まだまだ予断を許さない状況と考えたほうがよさそうです。

それ以上に、ここまでよく戻してきました。しかし、ここからどうしてよいのか難しいところにきていることもたしかでしょう。投資家は頭を悩ませることになりそうです。

Next: 米経済指標は今後の株価にどう影響してくる?



米経済指標、結果はまちまち

米経済指標はまちまちです。13日までの週の新規失業保険申請は19万2,000件と、前週比5,000件減少。発表件数は1969年9月以来、約50年ぶりの少なさでした。米国の雇用情勢の堅調さが確認できます。

米コンファレンス・ボードが発表した3月の景気先行指標総合指数は111.9と、前月比0.4%上昇。2月は0.1%増に下方改定され、1月は横ばいでした。

米フィラデルフィア連銀が発表した4月の第3連邦準備地区の製造業景況指数が総合で8.5となり、前月の13.7から低下しました。

新規受注が15.7(前月は1.9)と大幅に上昇した一方、在庫は2.6(同17.2)に低下しました。全体の業況が良くなったとの回答が31.9%、悪化したとの回答は23.4%、変わらずが43.3%でした。

6カ月先の見通し指数は総合で19.1と、前月21.8から低下しました。改善するとの回答が39.1%、悪化は20.0%でした。

3月の小売売上高は前月比1.6%増でした。2月は0.2%減少で改定はありませんでした。

4月の米総合購買担当者景気指数(PMI)速報値は52.8と、3月から1.8ポイント低下し、16年9月以来の低水準となりました。製造業PMIは52.4で3月と同水準でした。サービスPMIは52.9で、3月の55.3から低下しました。

これらから米国経済は盤石というわけではありませんが、明確な悪化傾向にあるというわけでもありません。

ただし、住宅指標は悪化傾向をたどっています。景気悪化はいつも住宅指標から始まります。

すでに米国景気はそのサイクルに入っています。いまは株価は堅調ですが、いまの基調は続いても最大で9月ごろまででしょう。

そう考えておけば、あと5カ月間の上昇をあえてリスクを取るのかどうか選択になるでしょう。

日本の10連休中にハイテク企業の決算発表がありますが、決算内容次第では「Sell in May」が意識される可能性もありそうです。

決算内容を受けて上昇しきった後に、手仕舞い売りが出ることもあり得るでしょう。どのようなパターンになるか、様々なパターンを想定しておきたいところです。

いずれにしても、いまの水準からの上昇をあえて追いかける必要はないでしょう。

Next: 好調な株式相場に対して、下落する金相場の今後の展開は?



金は続落、原油は高値持ち合い

金相場は下落しました。

ムニューシン財務長官が、米中通商協議が最終段階に近づいていることを期待していると発言したことで、米中両国が貿易摩擦解決に向かっているとの兆候から投資家心理が改善され、安全資産の金に対する需要が減少しました。

また、堅調な米経済指標や予想よりも良好な米企業業績を受けて、株式などのリスク資産の需要が強まり、ドルが上昇したことも圧迫要因となりました。

さらに、中国の経済統計を受けて、世界成長への懸念が和らいだことも金の売りを誘いました。

米小売売上高の堅調さを受けたドル高が、欧州の経済指標の弱さを打ち消したことから、18日には一時1,270.63ドルと、昨年12月27日以来の安値を付けました。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は4月12日の757.85トンから18日には751.68トンに減少しました。投資家が金ETFの保有高を減らす動きが続いています。

COMEX金先物市場での大口投機筋の4月16日時点のポジションは5万6,273枚の買い越しとなり、前週から4万9,091枚減少しました。

買いポジションが1万6,294枚減少し、売りポジションが3万2,797枚増加したことで、買い越し幅が大幅に拡大しました。金相場の下落で投機筋は大幅に買いポジションを減らしています。

このような状況ですが、金相場は底値を固める展開を想定しています。

中国の経済指標の改善や財政出動が景気を支えるとの楽観的な見方が広がり、株式市場が堅調に推移しています。

投資家は再びリスク選好の動きを強めており、これが金市場からの資金流出につながっているようです。

その結果、金相場は上値を切り下げる形で2月以降は下落基調が続きました。ただし、これまでの下落でテクニカル的には売られすぎ感が強まっています。

また、長期的な上昇トレンドを維持するために必要と考えられる1,270ドル前後のサポートも辛うじて維持しています。

一方で、金融市場には楽観的な見方が支配的となっており、米国の主要株価指数は史上最高値の更新をうかがう水準まで上げてきました。

しかし、米主要企業の第1四半期決算は久しぶりの減益が予想されています。すでに発表された決算内容は予想を超えるものが多く、第1四半期の減益幅は、当初の予想から改善されています。

今後はこの傾向が続くかを確認することになりそうです。

米国株にはすでに割安感はなく、むしろやや割高な水準になりつつあります。したがって、決算内容次第では、株価の調整が進み、投資家のリスク選好の動きが反転する可能性も十分にあると考えられます。

その場合には、金市場への関心が再度高まることになると考えます。

その結果、1,280ドルを超える展開となれば、投機筋の買い戻しを巻き込み、上昇基調が強まることも想定されます。

Next: 現在、上昇が続く原油価格の背景とは?



原油価格上昇を誘引するさまざまな理由

原油は高値圏での推移が続いています。ブレント原油は一時72.27ドルまで上昇し、年初来高値を付ける場面がありました。

サウジアラビアの原油輸出の落ち込みや米国の石油掘削リグ稼働数、石油在庫の減少から下値が支えられています。

共同石油統計イニシアチブ(JODI)のデータによると、2月のサウジの原油輸出量は前月比27万7,000バレル減で、日量700万バレルを割り込みました。

また、米エネルギー情報局(EIA)が発表した米国内の原油とガソリン、ディスティレートの在庫はいずれも前週比で減少し、特に原油は市場予想に反して4週間ぶりに減少しました。

EIA石油在庫統計では、4月12日までの週の米国内の原油在庫は前週比140万バレル減、ガソリン在庫は120万バレル減、ディスティレート在庫は40万バレル減でした。

原油生産量は日量1,210万バレルで、前週比10万バレル減でした。原油輸入量は日量5,999万バレルで、前週比60万バレル減となっており、これも材料視されやすいといえます。

ただし、石油製品需要は日量1,989万バレルで、前週比42万バレル減でした。

一方、2月の米国の原油輸出量は日量299万バレルと、1月の257万5,000バレルから増加しました。これは上値を抑える要因になりやすいといえます。

また、米国内の石油掘削リグ稼働数が前週比8基減の825基となり、3週ぶりに減少したことも材料視されています。

これらから、シェールオイルの生産が引き続き伸び悩むと予想されています。リグ稼動数の前年同期は820基でした。

リグ稼動数は過去4カ月で減少しています。パーミアン盆地などシェールオイルの主要生産地では、第4四半期の原油価格の下落を背景に生産が伸び悩んでいます。

また、独立系のシェールオイル生産者の多くは、生産拡大でなく利益拡大を重視するよう投資家から圧力を受けているもようです。これらも下値を支える材料になりやすいといえます。

さらに、リビア国内の戦闘やベネズエラおよびイランの輸出減で、供給逼迫に対する不安感も下値を支えています。

リビアではハフタル司令官率いる軍事組織と国際社会に承認されている暫定政権の戦闘の影響で、供給減少の公算が大きくなっています。

また、米国の制裁対象のイランとベネズエラでは既に原油輸出が減少しており、海運データと業界関係者によると、4月のイランの輸出量は日量ベースで今年の最低水準に落ち込んだもようです。

Next: この先も、原油価格は上昇をキープすることができるのか



増産に舵を切れば原油価格は40ドルまで落ち込む

一方、OPECとの協調減産継続に対するロシアの姿勢への不安や、米国の原油在庫の増加観測は上値を抑えやすいといえます。

OPEC主導の協調減産に関する先行き不透明感は、最近の市場の関心事になりつつあります。

年明けから協調減産に取り組んでいるOPECと非加盟産油国の「OPECプラス」は、減産を継続するかどうかを6月に決定する方針です。

ただし、ロシアの天然ガス大手ガスプロムの石油部門ガスプロムネフチの関係者が、協調減産が今年上半期で終了するとの見方を示しています。

さらに、ロシアのシルアノフ財務相が、OPECが増産に舵を切る可能性を示唆したことも売り材料視されています。

シルアノフ財務相は、米国との市場シェア争いでOPECとともに増産を決定するとの見方を示す一方、この通りになれば原油価格が40ドルまで落ち込む可能性があると発言しています。

サウジアラビアは減産継続に積極的とみられていますが、複数のOPEC関係者は、供給面の混乱が続けば7月から増産するとの見解を示しています。

一方、米国の製油所は、4-6月期に多くの保守整備作業を計画しているもようです。EIAの統計によると、今月の処理量は年初比で8.5%減となっています。

国際海事機関(IMO)は、大気汚染対策として、20年1月1日から船舶用ディーゼル燃料の硫黄酸化物含有量規制を実施します。

製油所は新基準に対応した燃料を生産するため、プラントの更新作業を進めているといいます。

4-6月期は通常、夏季のドライブシーズンを控え、ほとんどの製油所が増産し、在庫を積み上げる時期です。しかし、今年の4-6月期には日量100万バレル分の処理能力が停止される可能性が指摘されています。

そうなれば、原油在庫が積み上がり、思わぬ下落につながる可能性があります。これに、連動性の高い米国株の調整が加わると下げやすくなりそうです。

現在の原油相場は高値圏でのもみ合いが続いています。しかし、このような状況は続かないでしょう。

上昇・下落のどちらの可能性もありそうですが、上値はWTI原油でも69ドル程度と考えています。

過去に高値から20%下落した後のリバウンドの平均から見れば、69ドル前後が戻り高値のめどになります。

いまはサウジが供給を絞っていることや、OPECプラスの動きへの関心が高い状況です。

しかし、協調減産合意の枠組みがブレイクすれば、これは原油市場には甚大な影響が出るでしょう。

また、ロシアの動きには要注目です。ロシアは原油相場が55ドルであれば十分ですので、80ドル以上が欲しいサウジとは全く立場が違います。この点も理解しておきたいところです。

さらに、米国の産油量が伸び悩んでいます。この動きにも要注意です。つまり、原油のサポート要因になります。

これから北半球のガソリン需要期に向けて原油相場は上げやすくなる時期ですが、上記のような事情で今年は少し違った動きになるのかもしれません。

このように、原油市場を取り巻く環境は複雑化し始めていますので、様々な材料に目を配るようにしたいところです。

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株式市場~米国株は高値持ち合い、日本株は堅調

為替市場~ドル円は112円が重い状況

コモディティ市場~金は続落、原油は高値持ち合い

今週の「ポジショントーク」~上昇・下落の両方に備える

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本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2019年4月22日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した米国市場金、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

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