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日米貿易交渉では日本が優位に?いま知っておくべき株式市場を動かす海外事情=山崎和邦

日本が10連休の間、米国市場は膠着から始まって下落するも再び戻す展開となった。今後は特に、日本市場の動きも米国や中国の動向に強い影響を受けるだろう。(山崎和邦)

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2019年5月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

今後はますます、海外事情を理解せずに相場観は語れない

連休中の海外の市場の動き

米国市場は、週初膠着、週央はFRB議長の発言を受けて、下落。週末に雇用統計を受け、戻す一週間の動きとなった。為替市場には大きな波乱の動きはなかった。

注目のFOMCでは、政策金利の据え置きを決定した。また、足元でインフレ率の伸びが鈍化する中でも、忍耐強く政策を判断する姿勢を改めて示した。パウエルFRB議長がFOMC後の記者会見で、金利を当面据え置くことに違和感はないと発言したことを受けて、5月1日の米国市場は下落に転じた。

FOMCの判断について

FRBは4月30日-5月1日開催の会合で政策金利を現行の2.25-2.50%のレンジで据え置くことを決定した。現状が適切であるとした。市場は利下げを期待したから下げた(その分を週末の雇用統計好調で戻したという経緯をとった)。

実効FF金利を誘導目標レンジ内にとどめるためにFOMCは、超過準備の付利(IOER)を従来の2.4%から2.35%に引き下げたことから10年債利回りは一時2.454%近辺まで低下する場面があった。

パウエルFRB議長は会見で、「米国のインフレは一過性の要因で抑制されている可能性がある」、「政策スタンスは現時点で適切であり、いずれの方向にも動く強い論拠は見られない」との見方を示したことから、早期利下げ観測は後退した。

週末の米国市場

5月3日の日経平均先物(円建):2万2,475円(日経平均連休前終値:2万2,258円)。

週末5月3日発表の4月雇用統計で非農業部門雇用者数が前月比26.3万人増と市場予想を大きく上振れ、失業率は49年ぶりの低水準となった。平均時給が予想に届かなかったことで、インフレが抑制されているとの認識が強まった。ナスダック総合指数は最高値を更新。

セントルイス連銀総裁やシカゴ連銀総裁が相次いで、低インフレが継続する場合や米経済が低調となる場合には、利下げが必要との考えを明らかにした。

Next: 日米貿易交渉が日本優位で進められる理由とは?



日米貿易交渉では、日本が有利に立っているはずだ

日米貿易交渉で日本が有利な立場に立つのは、米国抜きのTPP11の発足を日本が主導し、EUとも経済連携協定を発効させたのは日本主導だったからだ。全部を安倍政権の主導でやってきた。

このため米国の対日輸出は農産物を含めて一段と競争力を失った。このような状況を招いたトランプ政権に米国では不満の声が高まるはずである。そして事態収拾を迫る声も高まろう。

また、米国では鉄鋼・アルミ輸入制限に不満が高まっているはずである。ごく一部の企業が恩恵に預かる一方、大半の米国人は物価上昇という形でツケを支払わされるからである。

トランプが交渉の武器にしているのは自動車関税である。トランプが日本車を対象に加えれば、日本の自動車メーカーも部品メーカーも大きな打撃を受ける。

1962年に成立した通商拡大法によって大統領自身が輸入制限する権限が与えられている。ケネディ大統領の時代だった。当時トヨタは暴落した。その頃8円配当(と記憶しているが)のトヨタ自動車株が80円台になったと記憶している。筆者の記憶が正しければ、今は「This is Japan銘柄」の代表たるトヨタが10%近い利回りの株価にまで下がったことになる。

これほどアメリカの対日自動車関税は厳しい(ただし、時の通産官僚は「官僚たちの夏」(★註)の時代だったから、賢明にも日本の自動車産業が対外競争力つくまで保護しアメリカの自動車を半強制的に日本のタクシー会社などに買わせたりして米の猛攻を躱した。

当時ヒラ社員だった筆者は都内営業用には社用車を使わされたが、半数以上がアメリカ車だった。義理で買わされたものであろう。この通産官僚の保護政策によって日本は懸命に対外競争力をつけ、その時から15年後にはアメリカを脅かす存在となり、その後レーガン大統領が日米構造改革協議と称して日本に強力な輸入制限をかけてくるまでに日本の対米競争力は強くなった。

「ものづくり日本」の強さは、半世紀前の通産省による保護政策の中で育ったという経緯がある。

今の通産官僚も官邸官僚も比較にならないほど、官僚たちの賢明さと実行力が顕著だった時代である。72年に筆者が初めてウオール街に行かされた時、メリルリンチの営業マンとの食事会で彼らが「日本にはツーサン、オークラがあるから日本は強い」と言っていた。通産省と大蔵省の対外保護政策のことである。

今はそういうわけにいかないから、トランプの自動車関税が実現すれば日本にとって大打撃となるが、それは鉄鋼やアルミのようには運べないであろう。

(★註)「官僚たちの夏」城山三郎著、通産次官佐橋滋をモデルとした、勇気と実行力を持った優秀な官僚が日本の製造業と金融業を対外圧力から保護し、かつ育成した時代があった。

こういう経過を経て「ものづくり日本」の力は伸びたことは事実であるが、一方官僚制度は非常に弱体化したことは事実である。

Next: 景気の下振れ不安を無視して動く米市場は正解なのか?



4月30日~5月1日開催の米FRBのFOMC(公開市場委員会)

──「相場は相場に聞け」というから、現象面に現れた趨勢を素直に直視するしかない

米国はどこから見ても「出口戦略」の最先進国になった。

2015年末から9年半ぶりにゼロ%だった政策金利を利上げ再開し、4年かけて2.5%まで引き上げることに成功した。本稿で何度も言うが、三重野元日銀総裁のような無茶なやり方はせず、時間をかけて市場を馴らしつつ少しずつ繰り返し遂行することで出口戦略に成功した。

ところで、パウエル議長は今年1月に利上げを一時停止すると表明し、FOMCの3月の会合では19年中は政策金利の据え置きが妥当だという見方を示した。

これは米景気・世界景気の下振れ懸念があった故である。したがって、中長期的に見たら「利上げ停止=株売り」ということになるのだが、世界市場もNY市場も短期目先の動きだけを追い、「利上げ停止=金融緩和継続=株買い」と動いた。事実、FRBが利上げ休止へと舵を切るとNY株価は着実に上昇し始めた。先物市場ではFRBが年内に利下げに転ずる可能性を相当に織り込んでいる。ところが、FOMCのメンバーは今年と来年に1回ずつ利上げを見込んでいる。

NY市場がFRBの利上げを全く織り込まないのは、トランプの強烈な圧力がFRBに対して効いていると見ているからであろう。事実、トランプは昨年12月株価が下落基調の中で行った利上げを「常軌を逸している」と猛烈に批判し、「パウエル議長の解任まで検討した」とした。

当のパウエル議長はFRBの独立性を最も重視すると主張するが、「トランプ氏に真正面から反論するのを避けている」(日経新聞ワシントン支局・河浪武史氏)。

この辺が法律家出身のパウエル議長と金融市場のエキスパートの前任者たちとの違いである。ジャネット・イエレン前議長は柔らかに市場を馴らしつつ大統領とも波風を立てずに進めてきたし、前々議長のドラギ氏も時には毅然とした態度をとった。ここがトランプによって送り込まれたパウエル議長が歴代のFRB議長と違っている点だ。

伝説のFRB議長と言われ、今だに「ボルカー・ルール」として登場するように、ポール・ボルカー議長などは真正面からレーガン大統領と対決し、危機的なインフレをほとんど腕力で抑えこんだ。

我々が脳裏にあるFRB議長とは、レーガン時代のポール・ボルカー、巧みな操縦で市場や政官界をも馴らし19年間も勤続したグリーンスパン元議長(★註)、学者然として毅然としていた前掲のドラギ元議長、優しく政官と市場を馴らしながら静かにFRBの意向を遂行してきたイエレン前議長の姿であった。

(★註)「グリーンスパン──何でも知っている男」(原題は「The Man who knew」(セバスチャン・マラビー著、松井浩紀訳、日本経済新聞社、2019年刊)。900頁の本だから筆者は途中で止めた。

レーガン以来の初めての中央銀行介入型大統領トランプに屈して、「独立性」を守れないかもしれないパウエルFRBへの不安があった。金融政策がトランプに完全支配されているという印象を市場に与えればFRBの方針に対する信認を傷つけるからパウエル議長は逆の方針を示さざるを得なかった、が、年明けからの方針転換はこうした弊害を除去しつつ大転換をする機会と見たに違いない。

NY市場の投機家たちやヘッジファンドは世界景気・米景気への将来の下振れ懸念やFRBの独立性などは全く無視したフリをして、「利上げ停止=金融緩和=株上昇」と敢えて短絡的に直結させて行動する、その大胆さと行動力には畏敬の念よりもむしろ呆れるというのが筆者の感じである。

しかし「相場は相場に聞け」という。現象面に現れた趨勢を素直に直視するしかない。

Next: 中国経済で最重要な指標PMIが、4か月ぶりに変化



先週中国市場にあった変化

中国経済を見るうえで最も注目すべきなのはPMI(製造業の購買担当者景気指数、中国国家統計局発表)である。このPMIが3月は景気判断の節目となる「50」を5ヶ月ぶりに上回った。筆者は「50」を4ヶ月連続で下回っていたから景気の先行指数であるPMIを重視し、中国経済に対して警戒する見方をとってきたが、GDPは6.4%と発表されて市場予想を上回った。

米朝問題──金正恩は絶対に核兵器を完全な形では手放さない

2回目の米朝会談は事実上失敗した。理由は簡単で、米国の求める北朝鮮の非核化の定義が金正恩の想定よりも格段に厳しかったからだ。

しかも、今年に入り北朝鮮の経済状況は特に厳しくなったという。富裕層も非富裕層も消費に向かなくなったという。こういう状態に入っている北朝鮮にとって経済制裁の解除は喫緊の課題である。一方、米国側は大統領再選のために「北朝鮮とはうまくやっていける」としなければならないとする筋書きが必要だ。

したがって、米国は交渉を続ける意思はある。金正恩は「米国が考え直して我々に接近する必要がある」と明言し、交渉を続ける意思があるとともに米国側の譲歩を促している。

しかし、米朝の問題はBREXITの問題や日米貿易交渉の問題などに比べれば、市場に与える影響は微々たるものだ。米国の100分の1にも満たない経済力と15分の1の人口とおそらく100分の1の軍事力しか持たない、この極東の小国が米国と一見対等に渡り合えるのは核兵器を持っているがゆえである。

金正恩はフセインの失敗に学んでいるはずだ。金正恩は絶対に核兵器を完全な形では手放さないと思う。

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第1部;令和時代の株価動向

第2部;今からはますます海外事情なしの相場観はない

第3部;今からはますます政局・政策を語らずして相場を語ることはできない

第4部;消費税について

第5部;経済政策について──これを語らない相場観はない

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※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2019年5月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

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山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2019年5月5日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

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