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まさかのGDPプラス成長、消費増税「先送り」論はこのまま萎むのか?=近藤駿介

消費増税は延期されるのか。その判断材料として注目された1-3月期のGDPは、大方の予想に反してプラス成長となった。これで消費増税「先送り」論は萎むのだろうか?(『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』近藤駿介)

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プロフィール:近藤駿介(こんどうしゅんすけ)
ファンドマネージャー、ストラテジストとして金融市場で20年以上の実戦経験。評論活動の傍ら国会議員政策顧問などを歴任。教科書的な評論・解説ではなく、市場参加者の肌感覚を伝える無料メルマガに加え、有料版『元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』を好評配信中。著書に、平成バブル崩壊のメカニズムを分析した『1989年12月29日、日経平均3万8915円』(河出書房新社)など。

個人消費の失速は明確。月例経済報告での景気判断が注目される

米中貿易摩擦は解決しない

この1週間ほどで明らかになったことは、米中貿易交渉が行き詰まり、交渉妥結の見通しが立たなくなってきたこと。

15日に米国がファーウェイに対して輸出制限を設けた上、ファーウェイからの調達も禁止する措置を講じたことで、米中通商交渉は次回の交渉開催が見通せない状況になった。G20で米中首脳会談が開催され、そこで何かしらの合意に達するという楽観的な見通しも、ほぼ絶望的になった。

常識的にはこうした事態は、米中貿易交渉の行方に一喜一憂してきた金融市場にとって悪材料である。しかし、1~2か月前であるならばともかく、ここにきてのこうした交渉決裂報道が金融市場に及ぼす影響は限定的なものに留まりそうだ。

それは、交渉自体が結論先延ばしを繰り返してきたこと、さらに交渉の行方はともかく、米国は中国からの輸入品すべてに25%の関税を課すことを決めてしまっているからである。

すでに「最悪の事態」が起きている

米中貿易交渉で最悪の事態は両国が報復関税をかけあう事態だったことを考えると、米国が中国からの輸入品全てに25%の関税を課し、中国がそれに対抗する形で関税をかけることを表明した現状は、すでに「最悪の事態」に達したということ。

最悪の事態に達したということは、これ以上悪くならないということでもある。つまり、現状が市場が認識してきた「最悪の状態」に近いということは、新たな行動を起こす要因にはなり難いということ。

反対に今後開かれる公聴会や今後米中首脳会談が開かれ、そこで一部でも追加関税取り消しのような事態が起きれば「好材料」と捉えられる可能性もあり、現状「最悪の事態」に達したことをもって、新たなショートポジションはとり難い状況になっている。

トランプ政権が中国に対して厳しい姿勢を強める一方で、バランスをとるかのように日欧に対して自動車関税発動を180日延期することや、カナダとメキシコに対する鉄鋼・アルミに対する関税を撤廃する意向を示して来ていることも、そうした動きの支援材料になりそうだ。

Next: 日本のGDPはまさかのプラス、消費増税は先送りされるのか?



最悪シナリオの実害は遅れてやってくる

米中貿易戦争の次の焦点は、市場が想定していた「最悪の事態」が世界の貿易など世界経済に実際に「最悪の事態」をもたらすか否かに移っていきそうだ。

市場が想定する「最悪の事態」が起きることと、それが実際に世界経済などに「最悪の事態」をもたらすということはイコールではないからだ。この半年間金融市場の主役でもあった米中貿易戦争は、一旦主役の座から降りることになりそうだ。

米中貿易戦争がすでに「最悪の事態」にまで達して事態が動きにくくなったことに加え、FRBの金融政策もしばらくは動き難い状況にある。

金融市場における最大のファンダメンタルズである金融政策と、最大のリスク要因である「政治的リスク」が動かない可能性が高いということは、市場が方向性をもって動き出す可能性も下がっているということである。

こうしたことに加え、市場ポジションの大きな歪みもないとしたら、市場は一旦凪状態に向かう可能性が高い。次にマーケット要因としてテクニカル的リスクは、市場全体が凪状態を常態だと誤解することだ。ただし、それには少し時間が必要だ。

日本のGDPはまさかのプラス

そうした中、久しぶりに注目されるのは、いろいろな動きが出る可能性が高い日本である。

ここにきてにわかに脚光を浴びてきているのが、消費増税先送り問題である。13日に景気先行指数による機械的な景気判断が6年ぶりに「悪化」に引き下げられたことも、こうした見方に強める要因になっている。

そうした中で注目されたのが週明けに発表された1-3月期のGDPである。市場予想は若干のマイナス予想であり、マイナス成長が▲2%に達したら消費増税先送りの可能性が高まるという見方が強まっていた。

しかし、結果は年率2.1%増と市場予想をはるかに上回る結果となった。公共投資と住宅投資が経済を支える一方、個人消費は▲0.1%減少(前期比)とマイナス成長となるなど内容的にはイマイチといえる内容となった。

注目されるのは外需(純輸出)のGDP寄与度が0.4%となったところ。詳細を見ると、輸出が2.4%減だったのに対して輸入が4.6%減となり、輸入の大きな減少が純輸出を押し上げた格好になっている。

輸出の減少は米中貿易戦争による影響が表れた結果だといえるが、輸出に含まれる訪日外国人数が前年同期比で5.7%伸びていることを考えると、米中貿易戦争の影響は見た目よりも大きくなっているといえる。

その一方、TPP11や欧州EPAなどの追い風がある中で輸入が4.6%減となったことは個人消費がマイナス成長であったことと整合性のとれるものであり、個人消費が予想以上に弱いことを示唆するものである。

Next: 個人消費の失速は明確、消費増税「先送り」論が萎むことは考えにくい



消費増税「先送り」論が萎むことは考えにくい

政府は「内需を支えるファンダメンタルズはしっかりしている」という見方を維持しているが、その内需は公共投資で支えられているもので、主役であるはずの個人消費は失速しているのが実態である。

こうした状況を考えると、消費増税先送り論が萎むことは考えにくい。

政府の景気判断に注目が集まる

注目されるのは、今週末24日に開かれる5月の月例経済報告での景気判断が引き下げられるかである。

景気判断を維持して「戦後最長の景気回復」が続いていることを強調するのか、景気判断を引き下げて消費増税先送りの可能性を残すのか、日米首脳会談や日米通商交渉を控えている時期だけに要注目である。

「戦後最長の景気回復」が続いていることを強調すれば、「異次元の金融緩和」が円安・株高を目的とした政策として日米通商交渉での標的になりかねない。

一方、景気判断を引き下げれば、アベノミクスの効果に疑問符を投げかけることになり、政策変更を求める声が強まることになる。

どちらにしても、日本経済や市場が日本にとって都合の良い方向に動き出すことを期待することは難しそうだ。

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元ファンドマネージャー近藤駿介の現場感覚』(2019年5月20日号)より一部抜粋
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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