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不安定な動きが続く原油。地学リスクの悪化により、金は節目の1,300ドルを試すか?=江守哲

FOMC議事要旨の内容を受けて金の価格は上昇。様々な地学リスク要因を受けて引き続き上昇しそうです。また先週、原油が急落した要因について詳しく解説します。(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて

本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2019年4月1日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

コモディティ市場~金は反発、原油は急落

金相場は、世界的な株安や米国債利回りの低下を下支えに反発

金相場は反発しました。

一時は3日以来の安値となる1,268.97ドルまで下げました。株式などリスク資産が買われる中、ドルが上昇したことで金が売られました。

しかし、FOMC議事要旨の内容を受けて値を戻しました。また、米中貿易摩擦への懸念が再燃し、ドルが2年ぶりの高値から急反落し、株価が下落したことが下値を支えました。

世界的な株安や米国債利回りの低下も支援材料となり、一時は1,287.23ドルまで上昇し、1週間ぶりの高値を付けました。

トランプ大統領がファーウェイへの禁輸措置が中国との通商合意の一環で問題が解決される可能性があるとしたことで、米中貿易協議進展への期待が高まり、株価は世界的に上昇しましたものの、金相場は高値を維持しています。

さらに、中東地域での不透明感も安全資産である金の需要を高めました。トランプ大統領は主に防衛目的で米兵1,500人を中東に増派する方針を表明しました。

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールドトラストの保有高は5月17日の736.17トンから24日には738.81トンに増加しました。

株価の不安定を背景に、一部の投資家は金を買い始めたそうです。

COMEX金先物市場での大口投機筋の5月21日時点のポジションは8万8,805枚の買い越しとなり、前週から3万5,731枚減少しました。

買いポジションが2万2,733枚減少し、売りポジションが1万2,998枚増加したことで、買い越し幅が大幅に縮小しました。

前週までの投機筋の買い姿勢が、金相場の急落で一転して売り姿勢に変わったことが確認できます。

金相場は反発が想定されます。米国を中心とした株高基調を背景に、1,270ドル前後での推移が続きましたが、ようやく底堅さが出てきました。

また、米中貿易戦争の影響への懸念が残る中、投資家が安全資産である債券投資への動きが加速させており、これが米金利を低下させる一方、ドルが下落したことが金相場を支えています。

さらに、最近の下落でテクニカル的にも売られすぎ感が強まったことから、反発しやすい地合いにあることも重要なポイントといえます。

2月に1,346ドルまで上昇した後、下落基調が続いてきましたが、4月に1,260ドル台の安値を付けたものの、その後は反発し、今回の調整ではこの水準を下回らなかったことで、基調は上向きやすいといえます。

市場は米中問題や対イランなど、地学的リスクに関心

市場の関心は米中通商交渉の行方激しさを増す米・イランの応酬などの地政学的リスクにも向かい始めています。

米中通商交渉は当面続くことが想定されるため、これが投資家心理を不安にさせると考えます。

また、イラン情勢については、トランプ米大統領がイランとの緊張で国家非常事態にあるとして、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、ヨルダンへの80億ドル規模の武器売却を承認しました。

米議会はサウジなどへの武器売却を阻止してきましたが、武器輸出管理法には国家非常事態の場合は議会で審議しなくても大統領が武器売却を承認できると規定されています。

ポンペオ米国務長官は声明で、「武器売却が同盟国を支援し、中東地域の安定性を強化するほか、イランから自国を守る一助となる」とし、議会を回避したことについては「1回限りの決定」としています。

トランプ政権は3カ国に対する22件の武器売却を進めることを議会に通知しています。

米国とイランの間で戦争勃発といった最悪の事態に発展する可能性はきわめて低いものの、これらの事態が市場のリスク要因として懸念されることで、金相場が支えられると考えます。

また、米金利の低下傾向が鮮明であり、これも金利がつかない金にとっては優位に作用するといえます。

このように、金市場を取り巻く環境は徐々にポジティブになりつつあります。1,290ドルを回復すれば、再び節目の1,300ドルを試す可能性が高まるものと考えます。

Next: 原油が突然急落した要因はなんだったのか?



米国の石油在庫増と、さまざまな需給引き締まり要因

原油は下落しています。

米国の石油在庫増と景気への警戒感で、週間ベースでは今年最大の下落率を記録しました。

ブレント原油は週間ベースで4.5%安、WTI原油は6.4%安と、下落率が昨年12月以来の大きさでした。WTI原油は在庫増が圧迫要因となりました。

米エネルギー情報局(EIA)が発表した前週の原油在庫は470万バレル増となり、17年7月以来の高水準となりました。製油所稼働率がこの時期としては低く、これが在庫増につながっています。

米国では在庫水準が17年7月以来の高さにあり、WTI原油の受け渡し地点であるオクラホマ州クッシングの原油在庫も17年12月以来の高水準となっています。

また、米中貿易摩擦やその影響による景気の先行きに対する警戒感が上値を抑えています。

24日までの週の石油掘削リグ稼働数は、前週比5基減の797基でした。減少は3週連続で、18年3月以来の低水準となりました。前年同週は859基でした。

米エネルギー情報局(EIA)によると、今年10-12月期の米国内の産油量は依然として日量1,300万バレルに達する見込みです。

先週の原油相場は、米国とイランの間の緊張の高まりが供給混乱につながるとの見方がある一方で、米中貿易戦争で原油需要が抑えられるとの懸念も上値を抑えました。

OPECとロシアなど非加盟産油国の協調減産により、需給は既に引き締まっています。ナイジェリアの主要パイプライン閉鎖やロシアの供給混乱も加わり、需給がさらに引き締まっているもようです。

一方で、米中両国が互いに関税をかけ合う貿易摩擦の激化を受けて、世界経済の減速懸念が高まっており、これが石油需要の伸びの鈍化につながるとの見方が売りにつながっています。

中東の緊張感高まりが障害、原油在庫を減らして市場に対応

イラクのガドバン石油相は、「中東での緊張感の高まりは世界の原油市場の安定にとって障害になる」とし、OPEC総会で協議される新たな合意への道筋を開くために、共同閣僚監視委員会(JMMC)は市場を監視する必要があるとしています。

サウジのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は、「原油在庫を徐々に減らすことで意見が一致している」とする一方、「脆弱な市場のニーズに対応していく」としています。

ファリハ氏の発言が材料視される形で上昇する場面もありましたが、最終的に値を消す展開となっています。

一方、中東情勢の緊迫化は下値を支えています。

トランプ大統領は、「イランとの衝突が発生すれば、イランは正式に終わる」などとツイッターに投稿しました。

またサウジは、「イランへの対応に全力を尽くす用意がある」としたうえで、「戦闘回避はイラン次第」との見方を表明しています。

中東のテレビ局アルアラビーヤによると、サウジアラビア軍は、イエメンの反政府武装組織フーシ派がサウジ西部へ発射したとみられる弾道ミサイル2発を迎撃し、破壊したもようです。ミサイルはサウジ西部の商業都市ジッダとイスラム教聖地メッカへ向かっていたといいます。

イランが後ろ盾のフーシ派は14日に、サウジの東西を結ぶ送油管施設を無人機で攻撃しました。サウジは報復のため、フーシ派が支配するイエメン首都サヌアの武器庫などを16日に空爆していました。

米国とイランの対立激化の余波で中東の関係国間でも緊張が高まる中、サウジとフーシ派の空爆の応酬が激しくなる恐れが強まっています。

中東では米国が空母や戦略爆撃機を派遣したことで、イランとの緊張が高まっています。

また、イランが支援するイエメン反政府武装組織フーシ派とサウジアラビアとの間では既に戦闘が激化するなど、地政学的リスクが一段と高まっており、中東産原油の供給が混乱するとの懸念が原油相場を支えていました。

しかし、この緊張緩和が緩むとの見方が、先週の原油相場の急落につながりました。

Next: イラン産原油の禁輸に反対するトルコの動向は…



トルコはイラン産原油の全面禁輸を否定しつつも米国に逆らえず

アラブ首長国連邦(UAE)のマズルーイ・エネルギー相は、「世界の原油在庫は米国を中心に増え続けており、OPECと非OPEC産油国により、原油市場の均衡化を図る課題はまだ完了していない」との見方を示しています。

イラクのアブドルマハディ首相は、隣国イランと米国の緊張激化を受けて、両国にそれぞれ代表団を派遣する方針を明らかにしました。

米とイランに緊張緩和を訴えるとみられていますが、双方の不信感は根深く、奏功するかは不透明な情勢です。

米国は、イランによるイラク駐留米軍などへの脅威が高まっているとして警戒を強めています。

ただし、アブドルマハディ首相は「米国もイランも、戦争は望んでいないとわれわれに伝えてきた」と強調しています。

トルコは米国によるイラン産原油の全面禁輸を批判しているが、実際にはイラン産原油の輸入を停止し、米国の対イラン制裁措置を完全に順守しています。

米国は5月1日に、イラン産原油の禁輸措置でトルコなど8カ国・地域を適用対象外とする措置を打ち切りました。トルコは米国の対イラン制裁措置を批判しています。

もっとも、5月に入ってからトルコで荷下ろししたイランのタンカーは皆無とされています。

適用除外措置打ち切りの4日後にイラン産原油13万トンを積んだタンカー1隻がトルコに向けて地中海を航行していたもようですが、その後進路を変更し、シリアの港で荷下ろししたといいます。

トルコはロシア製ミサイル防衛システムの購入計画などについて、米国との関係が悪化しているといいますが、逆らうことはできないことを良く理解しています。

サウジアラビアは収入減も、原油の生産・輸出拡大を急がない見方

一方、サウジアラビアは、原油の生産・輸出拡大を急いでいないとの見方があります。市場に追加供給すれば、在庫が再び増加して価格を押し下げるリスクがあると懸念しているためです。

サウジのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は、「われわれが優先するのは、在庫が緩やかに減少しながらも確実に平均水準に向かい続けるような生産管理を維持することだ」としています。

外交上必要な米国との良好な関係を損なわないことと、財政下支えのために原油輸出収入を適切な水準に保つことをうまく釣り合わせようとしています。

イランと敵対しながら国内経済改革を推進しているサウジにとって、米国とのつながりは一段と重要さが増してきているといえます。

サウジ上層部は既に米国との間で、原油市場への安定供給を保証する見返りに政治的・軍事的な保護を受けるほか、米政府がイラン制裁を強化するという取り決めに合意しています。

しかし、サウジは原油価格が上昇しない限り、増産や輸出拡大に動く動機は見当たりません。その結果、石油市場が供給不足になる可能性もあります。

データイニシアチブ(JODI)に提出された公式統計では、サウジの第1四半期の原油輸出は前年同期比で1%弱減少し、11年初め以降の平均を2.5%下回っています。

ただし、輸出収入は前年同期比7%減です。主に1月と2月のブレント原油の平均価格が非常に低調だったことが理由に上げられます。

3月までに収入は1日当たりおよそ4億8,000万ドルと前年並みになったものの、直近のピークだった昨年10月の6億ドルには届いておらず、14年の原油価格の急落前の水準に比べると半分より少し多い程度です。

収入を最大化するという観点では、輸出拡大が正当化されるのは市場の需要超過が明白で、輸出を増やしても価格への悪影響が限られる場合だけです。

しかし、当面はサウジの政策担当者や原油販売業者は、今年後半に供給が不足するとの確信は持てないでしょう。

Next: 原油需給は今後どのようになっていくのか?



今年後半に原油消費が弱まる前兆となる可能性

米国のイランとベネズエラに対する制裁、ロシアの原油パイプラインへの有害物質混入問題やリビアでまた輸出に支障が生じる恐れがあり、需給の引き締めにつながっています。

共同石油統計イニシアチブ(JODI)によると、3月のサウジアラビアの原油輸出量は日量714万バレルと、2月実績の697万7,000バレルから増加した。一方、サウジの3月の産油量は日量978万7,000バレルで、前月比34万9,000バレル減となった。

一方、米国では国際海事機関(IMO)の来年初めからの燃料規制強化への備えや夏のドライブシーズンの需要拡大を控える中、製油所が精製量を増やすため、原油需給は一層タイト化する見通しです。

それでも世界的に経済成長は減速し、貨物の動きは鈍ってきています。これは今年後半に原油消費が弱まる前兆の可能性があります。

サウジの6月の原油輸出量は日量700万バレル未満にとどまる見通しで、その後は現在のOPECプラスによる減産合意が終了すれば、輸出量を10万─30万バレル増やす可能性はあります。

しかし、もっと大幅な輸出拡大は過剰供給を再燃させ、サウジの収入をむしろ減らしてしまう恐れもあるでしょう。

サウジの現時点での最大の目標は、ロシアに輸出を拡大しないようすることです。

ロシアはルーブル建ての原油価格が、リーマン・ショック前にWTI原油は一時過去最高値の147ドルを付けた時よりも高くなっています。

つまり、自国通貨ベースでの現在の輸出の受取額が過去最高になっているということです。このような状況も、サウジとロシアの違いを浮き彫りにさせているといえます。

いずれにしても、原油市場はまだまだ不安定な動きが続きそうです。

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本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2019年5月27日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。本記事で割愛した米国市場金、原油各市場の詳細な分析もすぐ読めます。

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