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日銀追加緩和の有無で考える今後の相場シナリオ~日銀会合を控えて=馬渕治好

今週は、先週末の株価、外貨、国際商品市況などの持ち直しが、基調として継続すると期待しています。1/26(火)~1/27(水)のFOMC(連邦公開市場委員会)は、特に金融政策の変更はなく、声明も慎重な言葉遣いとなるでしょう(イエレン議長の記者会見はありません)。このため、1/28(木)~1/29(金)の日銀金融政策決定会合に注目が集まるでしょう。ただ、日銀が追加緩和しようとすまいと、苦しい結果になりそうです。(『馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』)

【展望】日銀追加緩和の有無から想定される今後の相場展開は?

「ドラギもん」の口先マジックが効を奏す?ワニの口チャート出現か

先週(1/18~1/22)の世界経済・市場を振り返って(1)

先週は、1/21(木)の日本市場まで、株式や外貨相場などの売られ過ぎがさらに売られ過ぎになるという状況が続きました。

たとえば同日の日経平均株価は、一時前日比で300円以上上昇しましたが、不安心理に押しつぶされ、引けは前日比で約400円近い下落となりました。米ドル円相場は1/20(水)に116円を割れ、そこから米ドルはやや持ち直しましたが、1/21(木)まで117円前後の動きに終始しました。WTI原油先物相場も、1/21(木)までは、1バレル28~29ドルを中心とした動きと、低迷しました。

ところが、1/21(木)の欧米市場から、株式、外貨、国際商品などのリスク資産価格が、週末にかけて大きく持ち直しを見せました。その本質は、売られ過ぎからの脱却であり、いつそうした動きが生じてもおかしくはなかったと考えます。ただ、あえて買い戻しのきっかけを考えれば、同日のECB理事会後の記者会見が挙げられます。

ドラギ総裁は記者会見において、「3月に開く理事会で(金融)政策を再評価する」と述べ、3月に追加緩和を行なう可能性を示唆しました。

もちろん、中央銀行として、株価が下がったから追加緩和を検討する、ということではなく、金融政策を見直す理由としては、ユーロ圏の景気について「今年に入って下振れリスクが高まった」ことだ、と実体経済への懸念を指摘しています。

ただ、あたかも、市場というのび太君が、「ドラギも~ん、株価が下がって困ったよぅ~、便利な道具で何とかして~」と泣きついたところ、ドラギもんが、四次元ポケットから「口先マジック~」と道具をとりだしたように見えます。

なお、WTI原油先物価格の戻りも速く、週末(1/22金)には1バレル32ドル超えまで大きく上昇しています。その背景としては、これは未確認情報ですが、現在の原油価格の安さを享受しようと、中国が大規模な原油買いつけを行なう、という観測が飛び交っているようです。そうした情報は、米国では1/20(水)辺りから既に流れ始めているようなので、これも国際商品市況好転のきっかけになっているのかもしれません。

そうしたきっかけが何であっても、相場が売られ過ぎから正常状態に回復する過程(今週以降、さらに回復すると考えます)と意味づけられますが、別の言い方をすれば、相場のめどとされる水準を一旦下抜けたことで、不安にとらわれた、あるいは売りで儲けてやろう、という投資家が売りに殺到し、それが短期的には相場をさらに下振れさせたものの、早期に売りが出尽くして、かえって相場が戻ることに力を貸した、という展開であるようにも見えます。

日経平均株価 日足(SBI証券提供)

前号のメールマガジンでは、「投機的な売りでど~んと相場が急激に下落し、その後売り物が尽きて一気に相場が反転上昇する、というグラフをみていると、ワニが水面から垂直に顔を出して、口を開いているように見えます。そのため、そうしたグラフを『ワニの口』と言います」と述べました。そして「今週ワニの口が現れてもおかしくはありません」と予想しましたが、どうも1/22(金)から、ワニの口の右側が現れ始め、そのうち完成するものと見込まれます。

ネット上の書き込みなどをみていると、どうもワニの口の一番奥底で、思いっ切り株式先物を売り建て、ワニにぼりぼりと食いちぎられた投機家がいるようです。

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「リスク回避のための円高」の化けの皮がはがれかかっている

先週(1/18~1/22)の世界経済・市場を振り返って(2)

この他の材料としては、1/19(火)が中国のマクロ経済統計の集中発表日となっており、特に10~12月期のGDP統計が注目されていました。実質GDPの前年比は6.8%増(2015年全体では6.9%増)となり、成長率減速の程度が緩やかであったため、これ自体は大きな波乱要因とはなりませんでした。

さて、ここで、先週の主要国の株価指数騰落率ランキング(現地通貨ベース)をみると、上昇率ベスト10は、上昇率の高い順に、ロシア、コロンビア、スウェーデン、オランダ、デンマーク、ノルウエー、アルゼンチン、フランス、カナダ、フィンランドとなっており、資源国株のリバウンドと、ECBの追加緩和期待による欧州株の上昇が、目立ちます。

逆にワースト10は、下落率の高い順に、ギリシャ、フィリピン、エジプト、香港、ハンガリー、シンガポール、TOPIX、ポーランド、インドネシア、ブラジルで、日本については、日経平均も12位です。日本発の悪材料がないのに、日本株が不当に売りこまれた、という感が強いです。

外貨相場(対円)の先週の騰落率ランキングでは、対円で下落した(円高になった)主要通貨は、5通貨しかありませんでした。

つまり先週は、終わってみれば全面的な円安商状であり、行き過ぎた「リスク回避のための円高」の化けの皮がはがれかかっている、と考えます。その対円で安くなった5通貨とは、アルゼンチンペソ、ポーランドズロチ、スイスフラン、ブラジルレアル、メキシコペソでした。

米ドル/円 日足(SBI証券提供)

ブラジルは株価も通貨も不振で、ブラジル経済の苦境が反映されています。1/19(火)発表のIMF(国際通貨基金)による経済見通しでも、ブラジルの経済成長予測値は大幅に下方修正されました。

逆に対円で上昇した(円安になった)通貨を、上昇率の高い順に挙げると、ベスト10は、カナダドル、マレーシアリンギット、チリペソ、豪ドル、南アランド、トルコリラ、韓国ウォン、シンガポールドル、タイバーツ、ニュージーランドドルで、資源国通貨が多く含まれています。

Next: 【今週展望】相場の持ち直し継続と予想するが、日銀は苦しい立場に



相場の持ち直し継続と予想するが、日銀は苦しい立場に立たされている

今週(1/25~1/29)の世界経済・市場の動きについて

今週は、「ワニの口」の形に沿って、株価や外貨相場、国際商品市況の持ち直しが継続しそうです。もちろん、まだ投資家心理の不安が完全に払しょくされたわけではありませんので、時折短期的な市況の振れは残るでしょう。

そうしたなか、1/26(火)~1/27(水)には、米国でFOMCが開催されます。もちろん、前回12月の利上げから間がないこともあって、金融政策の変更は全くないでしょう。

今回はイエレン議長の記者会見は予定されていません。また、FOMC後の声明文も、市場に不要な動揺を引き起こさないよう、慎重に文言が選ばれるでしょう。このため、FOMCが市場の持ち直し基調を阻害するといった展開は、見込みにくいです。

このため、特に日本市場中心に、1/28(木)~1/29(金)に開催される、日銀の金融政策決定会合に、注目が集まるでしょう。

どちらかと言えば、追加緩和はないものと見込みますが、日銀が動きを見せても見せなくても、苦しい立場に追い込まれるように懸念されます。この点は次ページで詳述します。

他の材料としては、日本では企業決算の発表社数が大きく増加してきます(特に1/29金は発表社数が多いです)。個々に、中国経済減速の影響などを確かめることとなり、内容は好悪まちまちでしょう。

ただ、これまで中国経済や円相場の動向が企業収益に与える影響について、市場はいたずらにおびえるばかりでした。これに対し、決算発表で、12月までの収益実績や今年3月にかけての企業側の収益見通しが、悪いなら悪いなりに、実際の悪さの度合いが見えてきます。

この点は、国内株式市場に、企業業績に基づき株価の先行きを考える手掛かりを与え、投資家心理の不安の払しょくにつながるものと予想します。

Next: 1/29 日銀追加緩和の有無から想定される今後の相場展開は?



止まるも進むも問題山積な日銀の金融政策

1/29 追加緩和の有無で考える今後の相場シナリオ

前ページで述べたように、今週1/28(木)~1/29(金)の日銀の金融政策決定会合に、どうしても注目が集まってしまいます。今のところ、追加緩和すべきではないし、どちらかと言えば、追加緩和しない可能性の方が高いと見込んでいます。ただ、追加緩和してもしなくても、市場にとっても日銀にとっても、苦しいことになりそうです。

追加緩和すべきではない、と考えるのは、まず日本の実体経済については、何らの急変も生じていないからです。原油価格の下落が一段と進んだため、物価見通しを引き下げざるを得ない情勢で、実際に金融政策決定会合時には、日銀自身が、2%の消費者物価上昇率達成時期の見込みを先送りすると予想されます。

しかし物価上昇率の低迷は、エネルギー価格下落によるものであるため、日本の企業や家計にとって好ましいことです。

急変したのは市場動向、特に株価ですが、もし今週追加緩和が行われれば、どうみても株価下落に対応した形になります。日銀がそのつもりでない、といくら言い張っても、株式市場には、「株価が大きく下落すれば、いつでも必ず日銀が助けてくれる」という甘えが広がり、先行きの金融政策が縛られる恐れが生じます。

こうした点から、日銀は追加緩和すべきではないと考えますし、実際にしない可能性が高いと見込みます。

では、筆者の予想通り、日銀が追加緩和しない場合、何が起こるかと言えば、勝手に緩和を期待した市場が、勝手に失望(一時的であっても、株安、円高)するでしょう。それは日銀が悪いわけではなく、勝手に期待した市場が悪いと考えます。

ただ、間が悪いことに、先週ドラギ総裁が口先介入を繰り出しましたので、「口頭で市場を支えたECB、何もしなかった日銀」と、市場が勝手に日銀を悪者にするでしょう(しかし、日銀が悪いわけではありません)。

では、黒田総裁が、発言で市場を鼓舞しようとすれば、まさか「○月に追加緩和するかもしれない」とは言えません。おそらく、追加緩和が「必要となれば、(金融政策を)躊躇なく調整する用意がある」と記者会見で総裁は語るでしょうが、それはもう何度も繰り返されている発言なので、何の効果もないでしょう。

では、可能性が低いとは考えますが、もし追加緩和したらどうでしょうか。既に日銀は、大量の国債を買い進めており、今市場では、むしろ「日銀が国債の買い入れを進めることは、いずれ難しくなるのではないか」と懸念されている状況です。

とすると、国債の買い入れペースをあとほんの少しだけは増やすことができるのかもしれませんが、その他に、地方債や社債も少し買い入れる、ETFやJ-REITも少し買い増す、といったような形で、細かい策を積み重ねるしかないでしょう。

とすると、市場は「そんな策しかないのか」と、またかえって失望する恐れがあります。

というのは市場参加者の中には、「日銀がどのような策を打ち出せるのか、自分は全く考えもつかないが、きっと黒田総裁は、素晴らしい策をどかんと打ち出して、我々にポジティブサプライズを与えてくれるに決まっている」と、ありもしないことを期待している人がいるからです。これも、日銀が悪いわけではなくて、市場が悪いと言えます。

また、このところの市場波乱は、中国経済の失速懸念や原油価格下落の影響など、日本国外の要因によって起こっています。そこで日銀が追加緩和したとしても、海外の悪材料を直接に改善できるわけではないので、市場に与える効果はほとんどないかもしれません。

もう「日銀が何かしてくれる」「政府が何かしてくれる」「誰かが何かしてくれる」というのは、さっさとあきらめた方が、市場にとっても長い目でよいように思います。

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馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」』(2016年1月24日号)より一部抜粋、再構成
※記事タイトル、本文見出し、太字はMONEY VOICE編集部による

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