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なぜ値上げラッシュを政府は見ないふり?統計上だけ物価を横ばいにする日銀の深い闇=斎藤満

価格そのままで量が減るステルス値上げや実際の値上げで、消費者は物価上昇を実感しています。しかし政府は物価が上がらないと嘆きます。この差は何でしょうか?(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2019年7月17日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

わざと物価を見誤っている?生活を破壊する怖いインフレが発生中

「日本人のデフレ・マインド」のせいにする日銀

7月末に米国ではFRB(米連邦準備制度理事会)が利下げに出る可能性が高いと見られています。

その場合、米国よりも景気が弱く、インフレ率も低い日本では、日銀にこれまで以上に強い追加緩和圧力がかかります。

しかし、日銀幹部は「我々だけが頑張っても、人々に根付いた手ごわいデフレ・マインドはなかなか変えられない」と嘆いています。しかし、この日銀の認識は間違っています

日本の物価、本当は上がっている

「日本では人々の間にデフレ・マインドが根強いために、日銀がいくら頑張ってもインフレが高まらない」(日銀幹部)と言いますが、政府や日銀の統計がこれを否定しています。

日本人の間にデフレ・マインドなどなく、逆にインフレで暮らし向きが苦しくなり、インフレの上昇を懸念して、防衛に努めている姿が示されています。

政府日銀作成の統計を見てみましょう。

<内閣府「消費動向調査(6月)」>

まず内閣府が3か月に1回調査している「消費動向調査(6月)」を見ましょう。

1年後の物価がどうなっているか?の問いに対して、「上昇している」が87.9%(このうち「2%以上、5%未満の上昇」を見る人が40.3%で最大)となっています。半面、「下落している」は3.7%に留まっています。

そして、現在の「暮らし向き」に対する評価は、よくなるか悪くなるかの分岐点50を大きく下回る36.3と苦境を訴えています。

<日銀「生活意識に関するアンケート」>

次に、日銀が3か月に1回調査する「生活意識に関するアンケート」調査を見ましょう。

この1年で物価が「上昇した」という人が71.2%「下落した」は2.3%です。実感上昇率は、平均で4.6%、中央値は3.0%です。

そして1年後の物価も「上昇している」が80.5%「下落している」が2.5%で、平均上昇率はやはり4.6%、中央値は3.0%でした。

さらに景況感は「良くなる」から「悪くなる」の割合を引いたDI(ディフュージョン・インデックス)で、この1年ではマイナス25今後1年ではマイナス36となっています。

1年前の調査ではそれぞれマイナス9.9、マイナス16.6だったので、この1年でかなり悪化したことになります。

物価上昇懸念が生活に大きな不安となっていることが見てとれます。いずれの調査も、人々の間にデフレ・マインドではなく、インフレ懸念が強いことを示しています。

Next: 価格そのままで量が減る…政府は物価上昇を正しく認識していない



物価指数の問題

ところが、総務省の全国消費者物価(5月分)上昇率は0.7%に留まり、変動の大きい生鮮食品を除いた「コア」で0.8%、さらにエネルギーも除いた「コアコア」で0.5%と、いずれも政府日銀の物価目標2%を大きく下回っています。

消費者の実感と統計が示す物価上昇とで大きな乖離があります。

この両者の乖離についてはいくつかの要因が考えられます。消費者が日ごろ目にする物価と全体の差や、総務省の統計把握、処理の問題などです。

<消費者は食料品で物価上昇を実感する>

まず、消費者が日ごろからスーパーなどで目にしている食料品などの中には、価格上昇が大きいものが多く、パソコンなど何年に1度しか買わないものが「値下がり」している点があります。

例えば、毎日のように目にするパンは5月に前年比1.9%の上昇となり、店頭の牛乳は4.1%の上昇となっています。

逆に、パソコンの価格は物価指数上は20年で50分の1になって、物価指数を押し下げています。デジカメ電子レンジも大幅な下げになっていますが、これらは普段目にしません。頻繁に買うものがより大きく上昇しています。

<価格そのままで量が減る…統計上の問題も>

これとは別に、統計調査上の問題統計処理上の問題もあり、これらが実態以上に物価上昇を低く見せている面があります。

例えば、パンの値段は1年で1.9%の上昇となっていますが、パンの大きさが明らかに小さくなっているものが多く、これらは実質値上げになります。実感としてのパンの値段は10%以上は上がっています。

同様に牛乳は4.1%上昇ですが、昨年1,000cc入りだったものが900ccに減りました。これは実質10%の値上げに相当します。ジュースの入れ物も小さくなって値段は変わりません。チーズは2.4%下落となっていますが、スライスチーズは10枚入りが7枚に減ったと言います。

これらは「ステルス値上げ」ですが、指数では反映されていないようです。

Next: パソコンの性能アップは値下げなのか?政府はわざと物価を見誤っている



<パソコンの性能アップは実質値下げ?>

またパソコンの値段はこの20年で98%も値下がりしたことになっています。20年前に20万円したパソコンは今4千円ということになりますが、実際には4千円で買えるパソコンはありません。20年前に20万円したパソコンは今も20万円前後です。しかし、当局はこの間にパソコンの機能が大幅に向上した分を価格に反映させないと、「値下げ」と扱います。

パソコンのほか、デジカメや電子レンジなどがこうした「機能向上」分を「値下げ」扱いして物価指数を押し下げる役割を演じています。もっとも、店頭で実際に購入するパソコン、デジカメ、電子レンジは、指数に見られるような大幅値下げにはなっておらず、前と同じような価格が維持されています。自動車も値上げしていますが、機能が向上しているため、統計上は「上がっていない」ことになっています。

こうした機能向上分の処理は米国でも見られますが、その程度は軽微です。日本の政治的処理は米国とは比べ物にならないほど大きく、パソコンの値段が20年で50分の1というのはあまりに不自然です。

つまり、現実には価格が上がっているのに上がっていない扱いにされたり、価格が横ばいなのに、機能向上で物価統計では「大幅値下がり」しているもの、大きさ、量が減って実質値上げをしていながら、これがカウントされない食品など、多くが現実よりも物価上昇を低く見せている可能性があります。

日本の物価、実は2%以上上がっている可能性があります。

低インフレは金融緩和の方便

現実の物価はともかく、統計上は低いインフレが続くことで、政府日銀は金融緩和が可能になります。

マイナス金利、日銀の国債大量買入れで国債の金利が低いために、政府は国債の金利負担が小さくて済みます

日銀の背後にいる国際金融資本も、大規模緩和でじゃぶじゃぶマネーの供給が続き、株や債券、不動産など資産価格が上昇し、利益を拡大できます。

インフレは低いほうが彼らの利益になります。

Next: 日本では生活を破壊する怖いインフレが起こっている?



生活を破壊する怖いインフレ

また物価上昇が低いということで、年金支給額を増やさずに済むので、政府は助かります。

しかし、現実の物価が例えば実感として感じる4%以上に上がっていれば、実質賃金は公表値以上に減り、年金も実質目減りしています。老後に必要な2,000万円の貯蓄も、実際にはめにみえない「目減り」をしている可能性があります。

そのうえ、物価がまだ不十分として個人の金利収入を奪い、さらに物価を押し上げれば、家計の実質賃金は減少し、マクロスライドで年金はさらに目減りし、金融資産も目減りして将来の生活が成り立たなくなります。

今の体制でインフレを高めると、老後の生活を破壊し、「年寄りは早く死ね」ということになります。

日銀だけが物価上昇にこだわっている

麻生大臣は今年3月、「物価が2%上がらないからけしからんと言う国民は一人もいない。2%の物価目標にこだわるとおかしなことになる」と言いました。

浜田宏一参与も「国民生活にとって望ましいのは物価が上がることではない。経済条件が同じなら、物価は下がったほうが国民には良い」と言っています。

安倍総理も完全雇用実現という点で、金融政策の目標はすでに達成したと言っています。

日銀だけが国民生活を破壊する物価上昇に拘ることは、国民の反発はもちろん、政府からも「梯子」を外されかけています。いい加減、国民を敵に回す物価押し上げや異次元緩和はおやめなさい。

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2019年7月配信分
  • 日本の物価を巡る深い闇(7/17)
  • 株式市場、今後のブラック・スワンは(7/12)
  • 発想の転換、押してもダメなら引いて見な(7/10)
  • 米長期金利低下と株高の正体(7/8)
  • 年金不安で物価押し上げに強い抵抗感(7/5)
  • トランプがもたらした世界的な製造業不況(7/3)
  • 米中会談、最悪の事態は回避(7/1)

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マンさんの経済あらかると』(2019年7月17日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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