「相続税の納税資金を準備できず、先祖代々の土地を売った」という話を聞くこともあるのではないでしょうか。実は、現金がなくても相続税を払う方法があります。(『FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』小櫃麻衣)
相続税を払う現金はないが、実家は売りたくない。さぁどうする?
相続が三代続くと財産はなくなる
今回は、相続税の納税方法について解説させて頂きます。
「相続が三代続くと財産はなくなる」という言葉があるように、私たち納税者に降りかかる相続税の負担は大きいことで知られています。
平成27年の相続税法改正により、相続税の基礎控除額が4割削減、死亡保険金の非課税枠の半減などにより、今までは相続税と無縁であった方も他人事では済まされなくなってきました。
そして、相続税税率の引き上げの結果、最高税率が55%になったこともあり、私たち納税者の負担が大きくなったのは言うまでもありません。
現金がないと相続できない?
どうしても相続税の納税資金を準備することができず、先祖代々所有していた土地を売らなければならかったという話を聞くこともあるのではないでしょうか。
また、日本人の相続財産のうち約半数は不動産で占められていることから、自らが取得した相続財産の中から相続税の納税資金を準備できず、自己所有財産と合わせてなんとか相続税を納税できたというケースも多いそうです。
「相続税を現金で納めることができない」という問題の他にも、相続財産に占める現金の割合が著しく少ないことから、不動産を相続する相続人とそうでない相続人との間で相続分に大きな差が生まれてしまい、それが原因でトラブルに発展してしまうケースも非常に多いのが現実です。
特に、相続人が子どもたちだけになる二次相続時には、親の意見がないこともあり、兄弟間で裁判にまで発展することも珍しくはありません。
つまり、相続税に充てるための費用を準備するのに困ることがないよう、ある程度の現金を残しておくという納税対策を講じておかなければならないというわけです。
具体的には、生命保険の加入や評価額の高い空き地の有効活用など。
しかしそうはいっても、被相続人となる方が一切、納税対策をせずに死亡してしまえば、相続人は相続税のことで頭がいっぱいになってしまいますよね。
不動産はあるけど現金がない。できるのであれば、実家は売りたくない。
こういったケースでは、どうするべきなのでしょうか。
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現金以外でも納税できる
まずは、相続税の納税方法の原則について触れさせて頂きますが、相続税は原則、現金で一括納税しなければなりません。
しかし先ほど挙げたように、相続財産の大半が不動産である場合など、現金一括納付が難しければ、それ以外にも認められている納税方法が存在します。
それは、延納と物納。
想像はつくかと思いますが、「相続税を一括で払いたくないから延納にしたい!」「現金を減らすのは嫌だから物納で!」といった自己都合は通りません。
どうしても現金一括納付が困難である場合のみ、延納もしくは物納が認められるというわけです。
相続税は現金一括納付で納めるのが大原則であるというのは、冒頭で触れた通りです。
それでは、現金一括納付が困難であれば、自分の好きなように延納もしくは物納を選択することができるとお思いの方が多いのですが、そうではなく税務署の判断に任されるのです。
具体的には、現金一括納付が難しければ延納、延納も難しければ物納といったように、優先順位が設けられています。
物納は、言わば最終手段であるということになりますね。
延納が認められるケースとは?
延納と聞くと、納税期限を延ばしてもらうことというイメージを持たれるかもしれませんが、期限を延ばしてもらうことだけを延納と言うわけではありません。
期限を延ばしてもらうのはもちろん、分割払いにして納税することを延納と呼びます。
延納では原則、5年間の期間延長までしか認められていませんが、場合によっては最大20年までの延長が認められています。
延納を申請するにあたって満たさなければならない条件は、全部で4つあります。
<延納申請のための4つ条件>
- 相続税額が10万円を超える
- 金銭で納付することが困難である正当な理由がある
- 延納税額・利子税の額に相当する担保を提供する
- 延納申請にかかる相続税の納税期限または延納申請期限までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署へ提出する(ただし、延納税額が100万円以下でかつ延納期間が3年以下である場合には、担保を提供する必要はありません)
相続税の納税は、現金一括納付が難しければ延納、延納も難しければ物納といったように優先順位が定められていますので、この4つの条件を満たすことができない場合に限り、物納が認められるということになります。
Next: 相続税を払ったら一文無しに?いくらまで延納が認められるのか
いくらまで延納が認められるのか
続いて、延納が認められる金額はどれくらいなのかという点についても説明していきましょう。
例えば、延納申請者が200万円の相続税を納めなければならないにも関わらず、150万円の現金しか持っていないとしましょう。
そこで、所有する現金の全額150万円を相続税として納税し、残り50万円を延納申請したらどうでしょうか。
一文無しになってしまい、生活できなくなってしまいます。
こうならないように、現金や預貯金、債権や保険金などの解約・換金による負担が少ない財産をかき集めた中から、3ヶ月分の生活費を確保した上で、その残りの資金を一旦、相続税として納税し、納めきれなかった相続税額については延納を申請することになっています。
ちなみに、延納申請者が事業主である場合は、これにプラスして1ヶ月分の運転資金も確保することができます。
ここでいう生活費とは、前年の収入から税金や社会保険料などを差し引いた額を1/12にした額に基づいて1ヶ月分の生活費を算出することになり、延納申請者の他に生計を共にしている家族がいる場合には、それも考慮した額を生活費として考えることになります。
延納すると利子税が高くつく?
そして、最も気になる利子税。
利子税は相続財産の内容に応じて、1.2%~6.0%の税率が設定されています。
税率によっては、銀行から融資を受けて納税する方が負担は軽くなるかもしれませんので、延納と銀行融資をどちらにするのかは慎重に考えた方が良いでしょう。
納について解説させて頂きます。
最終手段の物納とは?
物納とは読んで字の如く、物によって相続税を納税することを指します。
相続税の納税方法の最終手段である物納は、莫大な相続税を納めなければならないにも関わらず、手持ちの現金が少ない、かつ、簡単に換金できる財産が少ない場合に、認められることが多いです。
ちなみに物納は、相続税以外の税金には認められていない納税方法です。
Next: 現金の代わりに納めるモノは自由に選べない?物納の条件とは
物納に充てられるモノとは?
物納に充てるための財産は、納税者が自由に選ぶことはできず、これから挙げる順位が上の財産から順に物納財産に充てなければなりません。
第1順位:国債・地方債・不動産・船舶
第2順位:社債・株式・証券投資信託
第3順位:動産
となり、約7割の確率で不動産が物納財産に充てられています。
物納=不動産というイメージが強いですが、不動産以外にも物納財産に充てられる可能性があるということは覚えておきましょう。
不動産がお得か、ほかの財産がお得か
「相続税を納めることができないから不動産を売った」というケースがありますが、物納を申請せずに、このように自主的に不動産をお金に換えて相続税を納税するという選択肢を取る方も多いです。
しかし、不動産を売却してお金に換えて相続税を納税するのと、物納によって相続税を納めるのとでは、所得税や住民税・土地の評価方法などが異なりますので、どちらが税金面で得をするのかは、その不動産によるというのが正直なところです。
その上、不動産を売却するといっても、測量や解体などに時間とお金がかかりますので、その点も考慮しなければなりません。
不動産を売却して納税資金を確保するのか、物納によって不動産を手放すのか、どちらを選択するのかで迷っているのであれば、独断で判断するのではなく、相続問題だけでなく、不動産事情にも精通した専門家へ相談しに行くと良いでしょう。
さて、相続税の納税方法についての解説は以上です。
納税方法は税務署が勝手に決める
相続税は現金一括納付が難しい場合に、延納や物納が認められているわけですが、延納にするのか、物納にするのかを自分たちで決めることができると思っている方も意外と多いと思います。
しかし、申請者の資産状況によって税務署が判断することになりますので、その点は勘違いしないようにしましょう。
Next: どうにかして現金を用意した方が良いケースも。迷ったら税理士に相談を
迷ったら税理士に相談を
現金一括納税が難しいから延納・物納申請をするのではなく、どうにかして現金を準備し、納税した方が良いケースもありますので、納税方法に迷ったら一度、税理士へ相談することをオススメします。
そしてできるのであれば自分の死後、相続人である家族が困らないように納税対策を講じておくこと。それでも難しいのであれば、専門家へ相談に行くこと。
相続に向けた対策と聞くと、皆さん一番に「誰にどの財産を相続させるか」という遺産分割対策を最優先にしてしまうのですが、「相続税の納税資金をどのように確保させることができるか」という納税対策も考えなければなりません。
残された家族がスムーズに相続手続きを終えられるよう、できる限りの対策を考えましょう。
『FPが教える!相続知識配信メルマガ☆彡.。』(2019年7月26日・29日・31日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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