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中国の反撃「米国債大量売り」発動か。グローバル化の終焉で2020年代の世界大恐慌へ=高島康司

米中対立は為替戦争にまで拡大しつつある。中国が保有する米国債を売るという報復もあり得るかもしれない。それが新たな金融危機の引き金になるかもしれない。(『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』高島康司)

※本記事は有料メルマガ『未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』2019年8月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

もはや自由貿易と経済のグローバリゼーションは終焉期に入った

米中貿易戦争から為替戦争へ

米中の対立が一層激化している。貿易戦争から為替戦争へと拡大うる兆しさえ出てきた。

8月1日、トランプ大統領は3000億ドル相当の中国製品に対し10%の制裁関税を課すとおもむろに発表した。9月1日に発動する。閣僚級の米中通商協議が7月末に再開したものの進展がみられないことへの対応である。今回は、携帯電話やラップトップコンピューター、玩具や靴など幅広い消費財が関税の対象となり、米国が輸入する中国製品のほぼすべてが制裁関税の対象になる。

この処置に強く反発した中国政府は、国有企業に対し、米国産の農産物の輸入を停止するよう要請した。これには、トランプ政権の強い支持基盤のひとつである中西部の農業地帯に打撃を与え、2020年の大統領選挙に影響を与える目的がある。

このような報復合戦の続くなか、8月5日、人民元相場が、対ドルで1ドル、7元台に下落した。かねてより中国政府は7元を元安をくい止めるための「防衛ライン」としていたが、これがついに崩れたことになる。ほぼ11年ぶりの安値だ。

これはアメリカの追加関税の導入による中国経済の減速を懸念したパニック売りが原因だったが、アメリカとの貿易戦争で不振に陥った輸出を後押しするための意図的な処置だと主張し、中国を「為替操作国」に指定した。これは貿易で有利になるよう意図的に通貨を切り下げた国に対して発動されるもので、これを是正させるために米政府は「IMF」のような国際機関と協議することになっている。中国に対しては、1994年に発動されて以来25年ぶりになる。

これを貿易戦争が為替戦争へと拡大する兆しだと見た世界の金融市場は動揺した。5日の米ダウ平均株価が今年最大の下げ幅となり、6日の日経平均株価も一時600円超下落した。これは約7カ月ぶりの安値である。8月の4営業日の下げ幅は計900円を超えた。中国・上海や韓国などアジアの主要市場も軒並み下落している。6日の米株価は反発してはじまったが、不安定な状況に変わりはない。

一方、国内産業の強い抗議にあったトランプ政権は、7日、中国との協議は継続するとし、交渉次第では9月1日に適用予定の追加関税は実施しない可能性について言及した。しかし、米中の対立が為替戦争へとランクアップしたとの見方は変っていない。

事態の進展が速く、これからどうなるのか心配されている。

中国は米国債大量売りに出る?

このような状況に対しては、中国がどのような報復処置に出るのか注目されている。

ここでその可能性が真剣に取り沙汰されているのが、中国の保有する米国債の一斉売りである。これはすでに大手経済紙の「ウォールストリート・ジャーナル」や「ブルームバーグ」、そして「フィナンシャル・タイムス」などが可能性のあるシナリオとして警告している。

周知のように中国は最大の米国債の保有国である。2019年5月の時点で1兆1100億ドルを保有している。これは1兆1010億ドルで第2位の日本や、3231億ドルで第3位のイギリスを凌駕している。しかし、これでも中国の米国債保有高は減少している。ピーク時の2013年と比較すると、200億ドルも少なく、この2年間ではもっとも少ない保有額だ。すでにこのような状況なので、「為替操作国」認定の報復処置として、保有する米国債の大量売りを行うのではないかと懸念されている。

すでにトランプ政権の仕掛けた米中貿易戦争による将来の景気の下降を懸念して、世界からアメリカに向かう投資は暫時的に減少している。2019年の第1四半期の米国内への直接投資は4107億ドルだった。これは2018年末よりもわずかに上昇しているが、直接投資額がピークだった2015年と比べると、57%の減少だ。これは米中貿易戦争の余波を懸念して、アメリカへの投資が控えられる方向に向かっていることを示している。

これは米経済の先行き不安も背景となり、中国が報復処置として米国債の大量売りを行ったとしても、もしかしたら不自然ではないとも見られているのだ。

Next: 米景気は減速へ。中国の大量売りで長期金利は高騰



中国の大量売りで長期金利は高騰

この可能性を指摘する記事は多いものの、もちろん実際に中国が米国債の大量売りを行うかどうかはわからない。今週、米財務省は3年もの、10年もの、そして30年ものの国債の入札を実施する。入札に出される国債の総額は840億ドルである。

もし中国がこれから米国債の大量売りを計画しているのであれば、中国が今週の入札で米国債を購入することはないので、国債が売れ残る可能性もある。反対に、中国に大量売りの計画がなければ、中国は米国債を引き続き購入し、入札は成功するだろう。どうなるのか、今週にもある程度分かるかもしれない。

しかし、米中対立が激化し、中国が報復処置として米国債の大量売りに出た場合、なにが起こるのだろうか?

その答えは明白である。米国債の市場価格の下落と、長期金利の上昇である。

もしこれが本当に起こった場合、アメリカの景気を大きく減速させる要因になる可能性も否定できない。

レバレッジド・ローンの破綻?

しかし、長期金利の急騰のもたらす影響がもっとも懸念されるのは、「レバレッジド・ローン」という特殊な金融商品に対してだ。

なかでも「レバレッジド・ローン」の中心になっている「ローン担保証券(CLO)」だ。これは、金融機関が事業会社などに対して貸し出している債権(ローン)を証券化した金融商品だ。2007年から2008年がピークの金融危機の引き金になったものは、信用力の低い個人向けの住宅ローンを証券化したサブプライムローン証券だった、「CLO」はローンの対象先が事業会社で、個人ではないのが特徴だ。

「CLO」は、まず金融機関がローンを特別目的会社に譲渡し、特別目的会社が債券を組成し、投資家がこれを購入するというプロセスになる。投資家は、ローンからの元金と金利を受け取る仕組みだ。「CLO」向けのローンを提供する金融機関や、「CLO」を生成する特別目的会社は、商業銀行ではなく、ヘッジファンドが作った会社も多く参入している。

また「CLO」は、シニア債、メザニン債、劣後債といった支払優先順位の異なる数種類の債券が組成されている。ローンからの元金と金利は支払優先順位の高い順に支払われることになっている。なので、組成した会社が同一であっても、階層の異なる債券ごとに、それぞれ異なった格付けが付与されている。もちろん、最上位のシニア債はリスクは低いのでリターンが低く、逆に劣後債はリスクが高い分、大きなリターンが期待できる。

このような「CLO」だが、ローンの借り手である事業会社にも特徴がある。商業銀行から比較的に低利でローンを受けられる経営状態の安定した会社だけではなく、経営基盤に不安がある会社でもローンを得ることができる

これは、ローンの返済に少なからず不安のあるサブプライムローンと類似した特徴だ。サブプライムローンの返済にたとえリスクがあったとしても、それはすぐに証券化されて投資家に売り払われるので、ローンを提供した金融機関のリスクはほとんどない。

これと同様に、「CLO」向けの事業ローンも、リスクをあまり懸念することなく提供できる。このため、会社へのローン提供の審査基準は厳格ではない。こうした比較的に緩い審査基準は、「コベナント・ライト」と呼ばれている。

Next: ローン担保証券の最大の保有者は日本、被害は避けられない?



日本が最大の保有者

こうした「CLO」だが、いま全世界での残高は113兆4000億円にも上っている。これは、2008年のサブプライムローン証券を上回る額だ。日本の国家予算が100兆円弱なので、これよりも高い。

そして、「CLO」で注目すべきは、日本が最大の投資者であるということだ。3分の1を購入している。

「農林中金」をはじめ、「ゆうちょ」や大手の都市銀行が買っている。最上位の「シニア債」に限ると、日本の購入している割合は、65%から70%にも達しているのではないかと見られている。

日本の投資は「CLO」という金融商品が成り立つための、重要な柱のひとつだ。

米国債大量売りが引き起こす金利上昇の影響

さて、もしこのような状況で中国による米国債の一斉売りから長期金利が上昇するようなことがあると、どのようなことが起こるのだろうか?

実は答えは明白である。金利の上昇から、ローンの支払いに困る企業が出てくるということだ。特にこれは、経営基盤の弱い「メザニン債」や「劣後債」の生成元になっている企業に集中するだろう。

金利の上昇からローンの支払いが困難になり、それが原因で金融商品が破綻するのは、2007年から2008年のサブプライムローンと同じである。証券化されたサブプライムローンは、他のローン証券と一緒に「CDO」という金融商品に組み入れられた。「CDO」は人気の金融商品として、特に銀行を中心によく売れた。そして、サブプライムローンの破綻は「CDO」全体の破綻につながり、金融危機の引き金になった。

米国債の下落による金利の高騰は、これと同じことを「CLO」に引き起こし兼ねないということだ。

すぐに破綻するわけではない

「CLO」に内在するこのような潜在的な危険性は、昨年からジャネット・イエレン元連銀総裁、大統領候補のエリザベス・ウォーレン上院議員など、多方面の人々が警告している。最近でも「CLO」の破綻を懸念する記事は多い。もちろんこの警告は「CLO」だけではなく、レバレッジド・ローン全体に向けられている。

しかし、2007年から2008年のサブプライムローンのように、「CLO」が金融危機の引き金になる可能性は低いとする見方も多い。07年や08年のサブプライムローンとはまったく異なり、「CLO」の危険性は金融当局によって十分に把握され、監視対象になっている。

今年の春から日本の金融庁も金融機関の「CLO」の保有状況を調査し、最上位の「シニア債」で、なおかつ発行元が5%以上を保有しているもの、つまり発行元が投資対象にするくらいリスクの低い「CLO」にだけ投資をするように規制している。

このように、「CLO」の保有状況は各国の金融当局によって厳重に監視されているため、もし金利の急騰による破綻の兆候がちょっとでも現れるなら、「CLO」の販売停止、また中央銀行による金融機関からの買い取りなどの方法で、危機が拡散しないような予防処置を講じることもできるかもしれない。これはサブプライムローン破綻のときとは大きな違いだ。

Next: 自由貿易と経済のグローバル化は終焉期へ



グローバリゼーションの終焉期

これから中国が、報復処置として米国債の大量売りを実施するのかどうかは分からない。また「CLO」の破綻が金融危機の引き金に実際になるのかどうかも分からない。

しかしここで非常に重要なことは、さまざまな変化がありながらも、まがりなりにも戦後74年間、世界経済のシステムを安定的に維持してきた自由貿易の基本原則に基づく秩序が、目の前でバラバラになりつつあるという事実だ。

トランプ政権の仕掛けた米中貿易戦争など保護貿易のため、あらゆる産業領域でグローバル経済拡大の前提であったサプライチェーンはズタズタに引き裂かれ、生産拠点の大規模な移動も起こっている。

また、シリアやイラン、そしてベネズエラをめぐるロシアとアメリカの対立は水面下で厳しさを増し、最終的には将来のいずれかの時点で武力衝突さえ懸念される状況にもなりつつある。

また、日韓の対立も最終的な落としどころがまったく見えない、予想を越えた敵対関係に陥ろうとしている。その経済的な余波は大きいはずだ。そしていま香港で収まる気配のない抗議運動は、中国本土に拡大する可能性も否定できない状況になっている。

いまはアメリカ経済の好調さに支えられ、グローバル経済が崩壊過程にある事実は見えにくくなっているが、米中貿易戦争やトランプ政権の予想できない外交政策などが継続すると、比較的に近い将来、大きな危機が発生し、世界経済は自己崩壊に向かうことは避けられないように思う。アメリカのニューエイジ系の著名な社会評論家、ジョン・ホーグは「大きな目を見開いたまま、危機へと見ずから突入するはずだ」と述べているが、いままさに我々は危機へと向かってまっしぐらに向かっている状況にある。

いま、多くの読者も気づいていると思うが、変化のスピードがあまりに速い。朝起きると大きな事件が起きており、これまでのグローバルな世界秩序の一端がほころび始めているのがはっきり見えてくることも多い。2016年のブレグジットはまさにそうした出来事だった。

そのようなグローバルな秩序が崩壊する先のまったく見えない状況では、中国の米国債大量売りによる「CLO」の破綻と、それが引き起こす金融危機といういまは予想を越えた事態は、考慮しておかなければならないシナリオのひとつであることは間違いない。危機はいつも突発的に発生する。考えられないことを考え、想像できないことを想像するのが危機に対処する唯一の方法だ。

おそらく2020年になると、危機へと向かうスピードは一層激しくなるに違いない。東京オリンピックの開催さえ、危ぶまれる状況になるかもしれない。

このような危機的な状況に向けて、我々はそろそろ準備しなければならないはずだ。このメルマガでは、全力で情報を集め、どうしたら有効な準備が可能なのか検討するつもりだ。

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未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ」(2019年8月9日号)より一部抜粋・再構成
※太字はMONEY VOICE編集部による

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