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習近平に打つ手なし。じわじわと中国を死に追いやる解除不能の3つの爆弾=斎藤満

中国が大きな危機に直面しています。経済では公表上の6.2%成長よりも実態が悪く、内政では香港デモの収拾めどが立たず、米中摩擦が必要以上に拡大しています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2019年8月16日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

巨大債務がすべての元凶?中国が抱える解決困難な3つの問題とは

経済・内政・外交のトリプルパンチ

中国が大きな危機に直面しています。

経済では公表上の6.2%成長よりも実態が悪く、経済対策にも反応できない状況にあり、内政では香港の反政府デモに収拾のめどが立たず、人民解放軍の出動も準備されています。

そしてトランプ大統領との「プロレス型興行」のはずが、江沢民派との対立で進まず、米中摩擦が必要以上に拡大しています。

今回は中国が抱える3つの爆弾をチェックしてみます。

香港が第2の天安門に

北京政府が逃亡犯条例の改正で、中国本土に強制送還する方針を示したことに香港が強く反発、反政府デモが長期化しています。

特に警察の発砲でデモに参加していた女性が失明する事態となって反発が一層強まり、香港空港が度々マヒする状況となっています。

北京政府は人民解放軍の出動のための訓練の模様を公開し、デモ隊に「脅し」をかけていますが、いまだに収拾のめどが立ちません。

混乱の長期化・激化の背後に江沢民派と米国のネオコン派が関わっていると見られていますが、実際、米国務省筋が関わっていることがカメラで映し出されました。

このため、北京の習近平政府の反発を強め、締め付けを強化し、軍の出動も辞さない構えと言います。

事態収拾には軍の出動が不可避と見られていますが、今年は「天安門事件」から30年、再び強硬策に出ると、「第2の天安門事件」ともなりかねません。

30年前と異なり、情報の封印が難しくなっているうえに、米国の一部が関り、しかも来年春の台湾総統選挙にも大きな影響を及ぼします。

香港と台湾がともに反北京政府で協働すれば、北京政府には大きな負担となります。特に台湾には米国政府の支援も予想されます。

これを機に、中国の民主化運動に拍車がかかると、習近平政権にはかなりの負担になります。

これが第1の爆弾です。

Next: 着地が見えない問題ばかり。中国が抱える第2・第3の爆弾とは?



トランプと江沢民派の間で

次に、トランプ大統領と習近平国家主席との間で密かに進めようとしていた「プロレス型興行」、つまり着地があらかじめ見えている通商摩擦が、両者に敵対する中国の江沢民派と米国のネオコン派との連携によって阻まれ、予定通りに進んでいないことです。

前述の香港問題も、習主席のシナリオを、江沢民派とネオコン派米国務省幹部の連携で混乱が拡大しています。

またトランプ政権が求める中国の「改革」に対して、習近平主席は江沢民派を追い落とすためにあえて受け入れようとしていましたが、江沢民派から強い反発が起き、習主席のリーダーシップでこれを治めることができていません。

それがために、トランプ政権は中国のほぼすべての製品に追加関税を掛ける結果となり、中国経済を圧迫しています。

想定外であった米国の追加関税の影響を緩和するために、北京政府は敢えて人民元安を容認、米国財務省は急遽中国を「為替操作国」に認定しました。

北京政府はそれでも基準レートをやや人民元安に設定したために、市場はさらなる米中摩擦の悪化を懸念、これが米国を含め、世界の「リスク・オフ」ムードを強めてしまいました。米国内の反発からスマホなど一部の商品への関税追加が12月に延期されましたが、攻勢が緩和されたわけではありません。

トランプ政権としても、中国が通商交渉に消極的で、米中貿易不均衡も17年の3,500億ドルからむしろ拡大しています。そして中国は米国の農産物を大量購入すると約束しながら、輸入停止を指示しました。関係はむしろこじれ、この先どのような形で終息するのか、めどが立っていません

トランプ大統領は香港の混乱を通商交渉のカードに使う可能性があります。

米中通商交渉のこじれは米中双方の経済に負担となるばかりか、世界貿易の減速を通じて世界の成長抑制をもたらしています。これが第2の爆弾です。

GDPの3倍を超える債務爆弾

さらに、3つ目の爆弾が、中国の抱える巨大債務です。この巨大債務がネックになって政府の財政・金融政策による景気支援が効きにくくなっています。

足元でも景気対策を打っていますが、7月の景気指標は生産・小売り・不動産投資など、軒並み予想以上の悪化を見せています。これが米国を含め、世界にも不安を投げかけるようになっています。

まだ発展途上にある中国経済ですが、IIF(国際金融協会)によると、中国の官民合わせた総債務はすでにGDP(国内総生産)の303%に達し、この巨大債務が経済を圧迫していることです。

しかも民間債務にはドル建て債務も多く、ドル高・米金利高が進むほど中国の債務返済負担を高めます。

Next: 中国に打つ手なし? 巨大債務があらゆる景気対策を阻害する



巨大債務があらゆる景気対策を阻害する

習近平政権は昨年、この巨大債務を減らそうと、調整策を打ち出したのですが、これが予想以上に経済を圧迫したため、調整策を諦め、改めて景気支援策に転じました。

しかし、地方政府を中心に公共事業の拡大を進めようとしたものの、大きな債務を抱える地方政府が動けません。そこで政府は地方債の発行枠を拡大したのですが、それでも地方政府は慎重で、公共事業の拡大は進みません。

そこで、一時は消極的であった金融緩和策の併用を行いますが、金利の引き下げは人民元の先安観を強め、資金の流出を促し、結果的に金融緩和効果を阻害してしまいます。

そもそも、すでに借金を重ねる企業が、金利を下げても借り入れには慎重になっています。そこで預金準備率を引き下げ、流動性の供給を狙ったのですが、民間部門がこれに反応しません。ここでも過剰債務が金融緩和を拒んでいます

発展途上の国では新規の借入によって需要が拡大し、新規借り入れが成長に大きく寄与します。これまでの中国の高成長にも、この借入増が大きく寄与していました。

ところが、債務が大きくなるにしたがって、その金利負担、返済負担も大きくなり、新規の借り入れによる成長押し上げ効果が小さくなります。まして過剰債務で新規の借入自体が難しくなると、成長に急ブレーキがかかります。

中国政府が無理やり支える「ゾンビ企業」が増えていく

この債務膨張の成長抑制は、経済が成熟した段階で生じるのが一般的ですが、中国の場合はまだ中進国手前の段階で早くも過剰債務問題が成長を制約するようになりました。

そして現実に成長が止まると、債務返済が難しくなり、債務危機、金融危機になります。中国はその危険水準に達しつつあるのですが、政府が国有企業、国有銀行を支えているため、問題の表面化が回避されています。

それでも不良債権が大きくなり、ゾンビ企業が増えれば、経済効率はさらに悪くなる「悪循環」に陥り、経済の悪化を進めます。

Next: 中国を「生かさず殺さず」冷戦を続けたい? トランプの思惑は…



中国を「生かさず殺さず」冷戦を続けたい米国

中国は先進国はおろか、まだ中進国にも届かない段階で、過剰債務の壁にぶつかり、所得水準、生活水準の引き上げが難しくなっています。

それだけ、地方を中心に、国民の不満が高まりやすく、政府が国民無視の政策を強めれば、国民の反発、民主化機運を高め、政権を揺さぶります。

トランプ政権は習近平体制のもとで中国と「新冷戦」を進めようとしています。

従って、習近平体制を脅かすほどに中国を危機に追いやるわけにはいきません。トランプが進める金利引き下げ、ドル安は中国の巨大債務、とりわけドル建て債務の返済圧力を緩和する面があり、習近平主席への支援にもなります。

中国を「生かさず殺さず」冷戦を続けたいということのようです。

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2019年8月配信分
  • 長期金利の低下に狼狽する中央銀行(8/19)
  • 中国を危機に陥れる3つの爆弾(8/16)
  • 消費税より担税力に応じた税制を(8/14)
  • 長期金利低下が示唆する世界景気の弱さ(8/9)
  • FRBの利下げシナリオを変えたトランプの一撃(8/7)
  • 韓国存亡の危機(8/5)
  • FRBの支配権をめぐる争い(8/2)

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image by:Patricio-Murphy / Shutterstock.com

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マンさんの経済あらかると』(2019年8月16日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。

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