フェイスブックが来年に立ち上げ予定の「リブラ(Libra)」に関して、注目される新しい動きがあったので詳しく紹介したい。「リブラ」の実態が一層はっきりと明らかになる。(『ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』2019年8月27日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
英中銀総裁が猛プッシュ、リブラが米ドルに代わる国際決済通貨に
「実際に導入されるのか?」疑問視する声が多数
今年の6月後半に「フェイスブック」が独自の仮想通貨、「リブラ(Libra)」の導入計画を発表してから、これを巡って議論が続いている。
「リブラ」は、世界の主要通貨に金を加えた通貨バスケットに価値をリンクさせた安定した仮想通貨である。そのため、25億アカウントを持つ「フェイスブック」がこれを導入すると、あらゆる送金と決済の手段としてたちどころに拡散し、貿易の国際決済にも使用される可能性すらあると見られている。すでに100社のクレジットカード会社やIT産業の主要企業がパートナーとして参加し、来年の導入に向けての準備が進んでいる。
「リブラ」による送金と決済には、「フェイスブック」の子会社、「キャリブラ(Calibra)」が開発したスマホ用のアプリが使われる。
これは、中央の管理組織を介さないピアツーピアの送金と決済のシステムだ。銀行が介在する必要性はなく、また中央銀行の管理下にもない。これまであらゆる送金と決済を仲介していた銀行にとっては、大きな脅威となる。また、マネーロンダリングやテロ資金の送金手段として使われる可能性もある。
そのため各国の金融当局は、一斉に「リブラ」の導入に懸念を示し、徹底した規制と管理の必要性を主張している。また米下院などは、「リブラ」の導入に全面的に反対する姿勢を明確にしている。
このような、金融当局や各方面からの強い懸念や反発があったので、実際に「リブラ」が導入されるのかどうか疑念が生じている。
一時は大変に注目された「リブラ」であったが、発表から約3カ月経ったいま、否定的な意見が強く、かつてほど注目されなくなっているのが現状だ。実際に導入されるのかどうか疑問視する声も多い。
再び注目される「リブラ」~英中央銀行総裁の発言
このようななか、「リブラ」は再度大きく注目されるようになっている。それは、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行のカーニー総裁の発言である。
8月23日、米連銀(FRB)と各国の中央銀行との定例年次会合「ジャクソンホール会議」が開催された。その席上、イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、「リブラ」のような仮想通貨の導入を後押しするような発言をした。
Next: 世界は米ドルに依存しすぎている?英中銀総裁の思い切った提言とは
金融安定のため、ドルに依存しない基軸通貨を導入すべき
カーニー総裁によると、いまの世界の基軸通貨体制と金融システムは米ドルに依存しすぎているという。そのため、基軸通貨の価値は米経済のそのときの状況で大きく変動し、安定していない。いまはアメリカの低金利政策に各国が同調しなければならず、そのため各国のインフレの昂進から金システムが不安定化する弊害も出て来ているとした。
もっと安定した通貨体制の構築には、米経済の状況に左右されるドルではなく、仮想通貨や電子決済のようなテクノロジーによってもたらされる人工的な基軸通貨のほうがよいとして、国際決済の基軸通貨に仮想通貨の導入を後押しする発言をした。これを管理するための事務局は「IMF(国際通貨基金)」に置くのがよいとした。
このカーニー総裁の提案は、2008年の金融危機後に開催された「G20」で、「IMF」が各国間で資金を調達するために導入された「SDR(特別引出し権)」を本格的な基軸通貨として導入することが検討されたが、これと類似したアイデアだ。
「SDR」の価値は、主要通貨の価値の加重平均とリンクされている。2008年の「G20」では、これをドルに代わる基軸通貨として導入することが一時検討された。今回のカーニー総裁は、国際金融のシステムを安定するためには、「SDR」と同様、ドルに依存しない基軸通貨を導入したほうがよいとの考えだ。
そしてそれは、仮想通貨のような電子決済のテクノロジーを基礎にすべきだという。
リブラは国際決済通貨になる?
「フェイスブック」が導入予定の「リブラ」も、「SDR」のモデルに基づいている。ということでは、カーニー総裁の主張するアイデアにもっとも近い位置にあるのが「リブラ」であることははっきりしている。
カーニー総裁の発言で「リブラ」はドルに代わる国際決済通貨として採用される可能性が俄然高くなったと見られているのだ。
いま市場では、不安感と危機感が臨界点に向かって押し上げられている。いわばこれは、不安感というガスが市場に充満しつつあり、ちょっとした火花が大爆発を誘発しかねない状況だ。普段であればなんでもないちょっとした出来事に、不安感と危機感でいっぱいの市場が過剰反応し、それが引き起こす行動が思っても見ない危機を引き起こす可能性すら出て来た。
いま、なんでも危機の引き金になる状況に入った。要注意だ。今年はなんとか大丈夫にしても、2020年か2021年には危機の引き金は引かれるかもしれない。
すでに世界の主要なエコノミストの71%が、遅くとも2021年には深刻な景気後退期に入ると予測している。これを回避するためには、金融システムの安定化が強く望まれている。
安定化のためのオプションのひとつが、「リブラ」の導入なのだ。
Next: マネロンほか犯罪利用にどう対処?次第に明らかになる「リブラ」の実態
次第に明らかになる「リブラ」の実態
そのようなときのカーニー総裁の発言だったので、「リブラ」への注目が特に高まったのだ。しかし今度は、銀行を迂回する中央銀行の管理下にはないピア2ピアの仮想通貨としてではなく、ドルに代わる本格的な基軸通貨として注目されているのだ。
そうした状況で、将来の基軸通貨の可能性という視点から、これまではっきりしていなかった「リブラ」の実態が明らかになってきた。
まず「リブラ」が基軸通貨となり、国際決済で使われるようになると、懸念されるべきはマネーロンダリングやテロ組織の資金源のような犯罪目的の使用をいかに防止するかということだ。
銀行を介在させず、中央銀行の管理下にない「リブラ」には、管理主体がない。そのような送金・決済手段では犯罪を防止することはできないではないのかという懸念だ。
これに対し、「フェイスブック」は子会社のウォレット事業者「キャリブラ(Calibra)」を通じ、ユーザー本人を政府発行のID(本人確認書類、運転免許証やマイナンバーカードなど)で確認する「KYC(Know Your Customer)」を実施する考えを明らかにした。これで、テロ支援者や反社会的勢力などの排除、疑わしい取引の検知が可能になる。
さらに、ID確認として「フェイスブック」のアカウントも使われるというのだ。すでにアメリカは、今年の6月から入国審査を強化する目的で、ビザ申請者に「フェイスブック」などSNSのアカウント名を申告するよう義務づけた。
「リブラ」に関しても、これと同様の申告を要求するということだ。数年前から「フェイスブック」や「ツイッター」のようなSNSにアカウントを持ち、複数の人物と危険性のない交流を行っている人物は安全性が高いと見なされ、「リブラ」の使用が許可されるということだ。
さらに「フェイスブック」は、管理主体の欠如を懸念している各国の金融当局に対しては、ブロックチェーンにおける「リブラ」のトランスアクションのプロセスをすべて公開し、怪しいトランスアクションを当局が監視できる体制の構築を目指している可能性が高いと見られている。
「リブラ的」仮想通貨が次々と出てくる?
もちろん、価値が安定した送金・決済手段を目指しているのは「リブラ」だけではない。
中国政府はブロックチェーンをベースにしたデジタル人民元を開発している。
また、8月19日、仮想通貨取引所の最大手のひとつ、「バイナンス(Binance)」も、「リブラ」と同様に価値が安定した仮想通貨の開発を開始すると発表した。プロジェクト名は「ヴィーナス(Venus)」である。いま「バイナンス」は、「ヴィーナス」の運営に参加する政府や企業、IT企業や仮想通貨関連企業を募集している。
Next: どの通貨もフェイスブック25億アカウントの後ろ盾をもつリブラには勝てない
フェイスブックをバックに持つ優位性
これからは「リブラ」と同じようなコンセプトの安定した仮想通貨の開発計画が多数発表される可能性が高い。こうしたものには、ICOという形態で資金を募集するベンチャーも出てくることだろう。
だが、どの仮想通貨も25億アカウントを持つ「フェイスブック」の「リブラ」にはかなわないだろう。
米中貿易戦争などをひとつの背景にした金融危機の発生が懸念されるいま、「リブラ」の導入には、金融システムの安定という新たな期待がかけられている。
こうした状況なので、各国の金融当局とも密接に協力しながら、「リブラ」の立ち上げはさらに加速することだろう。このメルマガでは、随時「リブラ」の動きを追い、報告する。
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『ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』(2019年8月27日号)より一部抜粋
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昨年から今年にかけて仮想通貨の高騰に私たちは熱狂しました。しかしいま、各国の規制の強化が背景となり、仮想通貨の相場は下落しています。仮想通貨の将来性に否定的な意見が多くなっています。しかしいま、ブロックチェーンのテクノロジーを基礎にした第四次産業革命が起こりつつあります。こうした支店から仮想通貨を見ると、これから有望なコインが見えてきます。毎月、ブロックチェーンが適用される分野を毎回紹介します。