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米国は30%の株価の下落、日本は長期国債価格24%で金融危機に陥る…その背景とは?=吉田繁治

日本株が下落しても金価格は上がりませんが、米国株が下落すると金価格は上がります。そんな金価格と米国株、日本株の複雑な関係性と背景を詳しく解説します。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2019年9月8日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

2018年8月から、金価格が上がった原因の究明

米ドルは一見、下がっていないが…

基本的な疑問は、どこにあるのか。世界の通貨に対するドルの実効レートは、下がっていない。むしろ高い水準。ドルが下がると、ドルが売られ、代替資産とされる金が買われて上がるというのはわかるが、ドルが高い水準なのに、なぜ金が上がるかということでしょう。

今回の、ドルの上げが始まったのは2018年の夏、トランプの対中関税が始まり、英国の議会でEUからの離脱方法をめぐって迷走していた時期です。

EU離脱は、英国とEUの貿易における10%の関税の問題です。EU(欧州経済連合)の28か国間では関税が0%、労働の移動は自由です。離脱すれば、英国民の過半が嫌っている移民の流入は抑えられますが、貿易品には関税がかかります。EUではなくなる英国は、EU以外の世界とも、関税の協定を結びなおさなければならない。

国民投票所あと、英国が3年間も迷走した理由

英国議会の迷走の理由は、英国に属する自治領の北アイルランドと、陸続きの独立国のアイルランド(EUのメンバーを続ける)との間の全部の道路に、10%関税と物品検査の検問所(国境)を作らなければならないからです。

北アイルランドは、英国北部のスコットランドとともにEU残留を求めています。英国の分裂の可能性をはらむのが、北アイルランド問題です。

トランプの貿易戦争と英国のEU離脱は、同じ関税の問題です。世界の産業は、共産圏が崩壊した1990年代から「グローバル・サプライチェーン」、つまり「資材~加工~仕入れ~販売」が国を超えて、在庫管理(販売・発注システム)でつながっています。

1990年から始まったのがグローバル化だった

世界を2つに分断していた冷戦の終わりだったソ連崩壊のあと、1990年から2010年代の30年間は、製造、物流、販売が「グローバル化」した時代です。

インターネットも、産業のグローバル化を加速しました。日本は、この冷戦崩壊のあとをうまくイメージできず産業の適応が遅れました。これがGDPの成長のない30年を過ごした、第一の理由です(これは指摘されない事実です)。世界的な、アップルやアマゾンを作ることができなった。

Next: 日本が30年もGDPマイナス成長を続けた原因は、バブル崩壊ではなかった…



見方の問題

1990年からの資産バブルの崩壊に、その後のGDPゼロ成長(30年!)の原因を集約してしまったのです。冷戦の終結から始まるものではなく、終わるものを見ていたことになります。

われわれは、時代変化によって始まるものに焦点を当てねばならない。次回のドル危機のあと、2~3か月目から上がる金価格についても、同じことがいえます。本稿ではそのメカニズムを述べますが、米国では「株価下落→ドル危機→金融危機→金価格上昇」になります。

関税が上がると、グローバル・サプライチェーンが分断されます。中国からは、工場の国際移動になるでしょう。オバマと違いトランプは、1990年以降の歴史の展開を「米国第一」と言いながら後退させています。

中国輸入に関税を課しても米国に生産は増えず、例えば鉄鋼業(USスチール)の業績は低下しています。米国製造業全体の先行きを示す景況感指数は、50を下回り、「不況感」が強くなっています(18年8月:3年ぶりの50割れ)。日本の上場企業全体の利益は、-15%でした(19年3-6期)。3年ぶりの減益です。とくに、かつては世界一だった電気機器の利益は-74%と壊滅的です。

中国関税と米中、英国関税とEU、そして日本の経済成長

関税は、世界のGDPの成長を下げる要素になります。IMFは1%程度の下落しか見ていませんが、複雑系の多数の経路をとった波及から実際には大きくなるでしょう。

事実、製造と金融で中国と関係が深く。輸出が多いドイツのGDPは、19年の4-6期にはマイナスです(-0.1%)。2.2%くらいは成長していましたから、マイナス幅は2.3ポイントと大きい。
(注)ドイツのベリンガーメーカーが設計した、プロ用のオーディオ機器(チャンネルデバイダー)を買うと、当然のように中国製でした。

トランプ関税と英国のEU離脱は、今のまま進むと、グローバル化してしまった世界経済のゆりもどしの転換点になるでしょう。始まったばかりなので、産業のあらゆる経路に及ぶ複雑系の影響は、IMFと世界のエコノミストには、まだ見えていない。

データは過去のものです。集計は、3か月から6か月遅れます。人間にデータの意味が分かるのは、いろんなデータが出揃うのは、1年から1.5年後でしょう。

金融は、実体経済の先行する

ところが金融(マネーの流れ:ファイナンス)は、マクロ経済の事実データに6か月くらい先行します。

企業は、将来のGDP(=自社売上)を想定して、資金調達して設備・機械・雇用への投資をするからです。資金調達には、金融がかかわります。金融・経済について書くことが多いのは、このためです。

「長期金利(お金のコスト)が下がる」のは、資金需要の停滞を示します。実は、中央銀行は「資金の需給で決まる市場の長期金利」を70%くらいは追認し、その近い将来の傾向を30%くらい変える能力しかもっていないでしょう。

Next: 長期国債の利回りは、どのように決まるのか?



長期金利は、市場の売買で決まる

金融機関の間の長期国債の売買によって、長期金利は決まっています。

・国債人気が高いときは価格が上がって、市場の流通価格に対して金利が下がり、
・国債の売りが多いときは、流通価格は下がって金利は上がります。

長期国債も、途中で売買されるものが圧倒的に多い。長期債も、1年に1.5回転~2回転するくらい、短期債のように売買されています。金融機関の間の長期国債の売買額は、中央銀行が売買に介入できる金額よりはるかに大きい。

景気予想+FRBで変動する米国の長期金利

米国の長期金利(10年債の金利)を見ます。

2016年7月には、1.6%という低さでした。6か月後の17年1月には2.4%に上げ(長期国債が売られ、価格が約6%下がり)、2017年12月までの約1年、2.3%~2.4%が続きました。

長期金利の上昇=国債価格の下落

米国の資金需要が増えて長期金利が上がったのは、17年12月からです。11か月後の2018年10月には、3.15%という高さでした。

この11か月間、米国の長期債は売られて価格は6%下げたのです。原因は、FRBの出口政策としての短期金利の利上げでしょう。

長期金利の下落=国債価格の上昇

長期金利が下がりはじめたのは、FRBが18年9月に出口政策として短期金利を0.25%利上げしたあと、2018年10月からです。

長期金利は、FRBの利上げに反して「トランプ関税後の実体経済(生産と需要)の低下を予想して」下がっていったのです。
(注)市場の資金需要の減退に遅れて、FRBが利上げをしたことが分かります。FRBのみならず、世界の中央銀行の金融政策は実態の資金需給に対して、ほぼ常に、およそ6か月は遅れるのが常です。

金融市場の長期金利が下げる中で、FRBは短期政策金を2回上げました(18年9月0.25%、12が月0.25%)。

<以下、慎重に、ゆっくり読んでください>

●18年9月からのFRBによる、短期金利の上げの中での市場の長期金利の低下が、昨年秋の米国株の大きな下げを生んだ原因になっています(株価は18年10月~12月に20%下げています)。短期金利が上がるなかで長期金利は下がったのです。

長期金利の下げは、企業の資金需要(借り入れと社債発行)の減退を示すものです。企業の景況感が低下し、投資が減ったことを示します。その中は、FRBは異次元緩和からの出口政策として、0.25%×2回の短期金利の上げ誘導を実行したのです(9月と12月)。

●長期金利は3.15%(18年10月)から、現在は1.5%台(金利では48%と半減)に下がっています。2%の短期政策金利を0.5%下回って、逆イールドという珍しい現象が起こっています。ここが肝心な点です。
※参考:アメリカ10年債券利回り‐インベスティング・ドットコム

Next: 米国の長期貸付金利が、下がったことによって起きたこととは?



2018年の夏から、トランプ関税第一弾

この長期金利の低下の3か月前、2018年の7月は米中両方のGDPを低下させるトランプ関税の追加第一弾でした(現在は第四弾)。

米国の貸付の長期金利(長期債の金利+α=企業の設備投資のときの金利)は、2018年10月から下がっています。中国への関税発動による米国のGDPの低下を予想した、投資資金の需要減退が起こったのです。

GDPの減速予想→長期国債の買い→長期金利低下

資金需要が減ったので、金融機関(当座預金)がもつじゃぶじゃぶのマネーは、金利のつく長期国債の買いに向かった。この買いのため長期国債は、価格が15%上がっています(=長期金利は3.15%→1.5%に下げています。既発国債の価格が上がることが金利が下がることです)。

米国では、
・市場での資金の供給と需要が決める長期金利(資金需要が増えると長期金利は上がり、減ると下がる)と、
・FRBが2019年7月末に、狼狽して0.25%下げた短期の政策金利(2.00%~2.25%の誘導目標)が逆転するという、異常な現象が起こっています(2019年8月~)。

長期の貸し出しはリスクがあるので、回収リスク(貸し倒れ引当金)を見る金利は、高くなければならない。それが短期金利より低いということは、企業の資金需要がGDPの減速を予想して減退していることを示します。対中関税で、企業は「景気の低下を想定」しているのです。

英国ポンドでも、ドルと同じ時期にEU離脱問題から景況感が低下し、長期金利が米国と同じように下がって、長短金利の逆転が起こっています。英国ポンドは、FRBの傘の下と見ていいものであり、ドルと同じ動きをする通貨です。英国でも、EU離脱後のGDPの低下を企業は想定してるのです。

株の売り→米国長期国債の買い+金の買い

投資家の運用マネーの行き先(残高3兆ドル:315兆円)であるヘッジファンド(投資信託)からは、
・低いとはいえ金利がつく米国長期債が買われて、価格は上がり、利回りは下がって、
・GDPの減速予想から下落リスクが高くなった株が売られて下がる中で、金が買われたのです(ヘッジファンドは先物の売買が多い)。

以上が、1年前の2018年8月から、金価格が上昇にはいった理由です(18年7月末1198ドル→19年9月8日1506ドル:26%上昇)。「ヘッジファンドが、株を売って金を買った」ことが、金価格を先導しました。
※参考:金-価格-チャート.do‐BullionVault

まとめれば、以下の波及の経路でしょう。株価、金価格、外為等の複雑系では、マネーの経路の判断が重要です。
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(1)トランプ関税第一弾(18年8月)+英国のEU離脱の国会の迷走
(2)関税からのGDPの低下予想→企業の長期資金需要の減退
(3)長期資金が滞留した金融機関のマネーでの長期国債買い→長期金利の低下(長期債価格は上昇)
(4)株価リスクの高まりの中でのヘッジファンドの金先物と金ETFの買い増し→金価格上昇
(5)新興国の中央銀行の、金と金ETF買い増しの継続→金価格上昇
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Next: 金は長期で買われている、その理由とは?



ヘッジファンドが、国債を含む債券価格と金価格を先導する

ヘッジファンドの金先物の売買は、短期的投資です(3か月から1年の限月での、売り清算がある)。しかし、先物の買いを増やしていくときは長期投資になります。

金ETFは反対売買の限月(期限日)がない株のような金証券なので、長期買いが多い(金ETFは、金価格と同じであることを発行会社が保証します)。金ETFは、金地金を証券化したもの(セキュリタイゼーション)です。金商人でもあるロスチャイルド系のSPDR(スパイダーゴールド)が最大手です。

現在、2,500トン分くらいが発行されています。ETFは買いが増えると増えて、売りが増えると減ります。大型タンカーの通路であるホルムズ海峡の危機(19年6月)ときも、買いが増えました。

「トランプ減税で経常収支の赤字が増えているドルの長期下落リスクへの認識」から、準備通貨として金を買っている新興国の中央銀行は買った金を売ることはなく、長期買いです。

ドルの下落はないという見解についての、反論

金が上がる条件としての「ドル下落はない」という見解について申し上げます。

<通貨相場は、相対的なもの>

ドルを含む世界の通貨は、ドルの金準備制を停止したあと(1971年~)、基軸通貨のドルまでを含む変動相場制です。この中での「ドル高、ドル安」は他の通貨(ユーロ、元、円)に対する、相対的なものです。

(→)構成比がドルについで高いユーロが下がると、ドルの本質的な価値が下がっていても、ドルは相対的に上がったように見えます。

●ユーロは「英国のEU離脱と米国より対中貿易が多いため」、2018年4月の1ユーロ=1.23ドルから、現在は1ユーロ=1.10ドルにまで、12%下げています。これが、ドル高に見える主因です。

逆に、円に対しては、米ドルは4%から5%下げています。(2018年12月112円→19年9月107円:111円~107円を変動)

通貨の構成比が円の約3倍のユーロに対して、ドルが上がり(ユーロが下がり)、
合計では、米ドルに匹敵する、元を含む新興国通貨に対して上がったので(新興国通貨はドルに対して下がった)、
(→)世界の通貨に対する、2015年以降のドルは「上がっている=下がっていない」ように見えています。
(注)2015年は、FRBが、2008年以降の量的緩和(QE:4兆ドル:420兆円)のドルの供給を絞る、出口政策として、「0.25%×9回」の利上げを行いはじめた年度です。

FRBの利上げのため、
・2015年は1ドル=1.16ユーロ、2018年1月は1ドル=1.20ユーロのドル高(ユーロ安)でした。ユーロの金利は0%~マイナスに下げたからです。

Next: アメリカが凋落した要因は、唯一敗戦したベトナム戦争からだった



相対的な尺度が変わっていく変動相場では、ドルの価値は分からない

●ドルの絶対価値は、変動相場の中では分からない。絶対的な価値をもつ金との関係で計るべきという、少数派の見解をもっています(喜んで少数派です)。

1971年に、ニクソン大統領が金交換制を一方的に停止したあとの変動相場の40年間のドルは、世界の通貨に対する「実効レート」であっても、「お互いに伸び縮みするゴムの縮尺」で計った相対価値に過ぎないからです。

1971年以降の変動相場

金交換の停止は、米国FRBのドル発行の準備資産(担保)だった2万4,000トンの金が、ベトナム戦争での7,000億ドルの戦費による貿易赤字を原因に欧州に流出したための、「金のデフォルト(ドルという約束手手形の金交換の停止)」でした。

フランスとドイツはFRBに対して、貿易で受け取ったドルと金の交換を要求したからです。FRBが決めていた金の公定価格は、1オンス(31.1g)が35ドルでした。現在の43分の1です。1グラムでは1.12ドルであり、118円(!)でした(現在は5,500円付近)。

ベトナム戦争(1955年~1975年の20年間)の直接の戦費は、現在価値では7兆ドル(735兆円)であり、第一次世界大戦より米国の戦争費用は大きかったのです。その後の医療費や年金・恩給を含むと、もっと巨大な費用がかかってます。米国の凋落は、米国のほぼ唯一の敗戦だったベトナム戦争で始まっています

ベトナム戦争の陰で、輸出により2000年代の中国のような二桁の高度成長したのが日本です。米国が戦費をばらまき、日本がそれを得たのです。当方の父は船員でした。ベトナムに食糧・医療・衣服などの物資を運ぶ輸送船に乗ると、危険手当として給料が2倍になると休暇で帰ったとき言っていたので記憶しています。

戦争と国債の増発→通貨の増刷

20年の長期の戦争は、「財政赤字からの国債発行→中央銀行による国債の買い」として通貨を増発させます。ドルが増発されるとドルの価値の低下を恐れ、価値を保つ金との交換要求が増えます。ドルと金交換はFRBからの金の流出なので、FRBは金準備制を持続できなくなります。

ベトナム戦争の結果が実は、1971年の「金ドル交換停止」でした(新著『臨界点を超える世界経済』で、「政府によって、「金融の正史」とされていない本当の歴史」も詳しく書いています)。

ドル基軸通貨の体制(1944年~71年)では、金1オンスを35ドルと交換可能としたドルに対して、世界の通貨は交換レートを固定した固定相場でした。円は1ドル=360円でした。現在の105円になおすと、当時の金1グラムは108円という安値だったのです。

1971年の米国からの一方的な金・ドル交換停止のあと、ドル価値のアンカー(錨)だった金がなくなります。あとは、ドルと世界の通貨は、外為市場での売買によって日々変動していく「変動相場」にならざるを得なかったのです。貿易収支の赤字のためドルが海外に流出する米国は、ドル価値を守ることができなかったのです。

Next: 金の価格が24倍に上昇…しかしその本質は、ドル価格の下落だった



信用通貨となったドルの価値は10年で急落した

ベトナム戦争による戦費が原因で、1971年に金・ドル交換が停止され、信用通貨になったドルに対しては、1973年、1979年と2度の石油危機(原油価格はドルで20倍)が起こります。1980年には、金価格は1オンス850ドルに上がっています。1971年の1オンス35ドルからすれば、850ドルは24倍です。

●金の価値が10年で24倍に上がったのではない。金は5,000年前から同じ金属です。
金が上がったのではなく、増刷を続けた信用通貨の米ドルが1970年代の10年で、1/24に価値を下げた
のです。金は、3年で数倍、5年で10倍、10年で20倍というような価格の上げ方をしてきたのです。

増発されたドルの価値が、10年で1/24に下落していたということでしょう。ドル価値の大きな下落は、他の通貨も一緒に動変動相場では見えないのです。

現代の通貨の増発

現代の世界は、通貨では戦争のあとではない。元FRB議長のグリーンスパンが、1929年から33年の大恐慌を想起して、70年に一度と言った金融危機のあとです。

08年9月に発現した金融危機(リーマン危機という)の後、米国、欧州、日本、中国の中央銀行が合計で20兆ドル(2,100兆円)の通貨を増刷し、それが、「ゼロ金利のさらさら流れる過剰流動性」になったあとの世界です。

2年という波及期間

米国住宅価格の下落は、2006年からでした。リーマン危機まで、2年の波及期間があったことになります。債券の下落が、玉突きの球のように波及していく期間です。金融機関の自己資本という損失を吸収するバッファー(緩衝)があるので、債券の下落の波及にはタイムラグが生じます。

今後も、株価・債券の下落のはじまりから金融危機へは、2年の期間があると見ていいでしょう。2年の最中は、「これは小さな崩壊だ」という論が主流になります。リーマン危機の前も、「不動産ローン担保証券(MBS、ABS)の下落では、金融危機には至らない」されていたのです。大恐慌が始まった、1929年の株価暴落のときも、実体経済の恐慌までは、2年の期間がありました。

マイナス~ゼロ金利のマネーは、集計すると世界で18兆ドル(1,890兆円:円は400兆円)にのぼります。マイナス~ゼロ金利の国債、超低金利の債券、下落リスクが高まった株の売買マネーとして運用されています。

このうち、わずか1%(19兆円)が「金の買い越し」に向かうだけでも、金価格は3倍には高騰するでしょう。

金のは鉱山とリサイクルで4,500トン/年、時価では22.5兆円くらいしか生産されません。このうち2,500トンくらいは固定的な需要なので、金地金では2,000トンくらいしか、新たに買えるものはないからです。(注)短期証券である先物は、現物とは別枠の買いです。

Next: 金の価値が上がり、今後金の採掘量が増える可能性は?



金の価格と、採掘可能埋蔵量

金は、1トンが現在の価格では約55億円、100トンで5,500億円、1,000トンで5.5兆円です(1グラム=5,500円とする)。

年間の金の新規の生産(鉱山の生産)は約3,500トンであり、金鉱山の枯渇のため、容易には増えない。地下4,000~5,000メートル掘っても、今後、採掘が可能な金の世界の総量は5万トンとされています。

最大に見ても8万トンはないでしょう。年間の採掘量を3,500トン以上に増やすには、設備投資が必要であり、すぐには増えません。

通貨、国債、株式は、紙の契約書であり、必要ならいくらでも増発できますが、金の生産には物理的な限界があります。

地上の金(宝飾品、ゴールドバー、電子部品)は、18万トンとされ、時価では1,000兆円くらいでしかない。価格が5倍に上がると、5,000兆円です。「金」は不動産と同じような意味で、価格が上がることにより増やすことができます。

米国の株価は、バブルか?

これから2年先の金の価格を見通すには、時価総額3,000兆円の米国株がバブルで崩落するのか。バブルであっても、大きくは下がらす、±15%(ダウでは3,800ドル)くらいの幅で波動しながら高い水準を続けるのか、にかかっています。

米国の株価崩壊は金融危機になります。米国の金融危機はドル危機でもあり、その時は、米ドルの反通貨(代替資産)として買われる金価格は高騰します(この上昇は、100%の確率です)。

(注)ただし金融危機の発現直後は、金価格は下がることが多い。決済資金に困窮した金融機関、ヘッジファンドが、手持ちの金を売って現金に換えるからです。金は債券より、はるかに換金しやすいからです。下落した数か月後から、金融危機(ドル危機)を原因にした金価格上昇が始まります。

08年のリーマン危機には金の換金売りが急増し、1オンス(31.1g)970ドルから750ドルまで23%下げています。2か月後には上がり始めて、3年後の2011年7月には、1,750ドルへと2.3倍に上がったのです。原因は「金融危機=ドル危機」です。
※参考:金価格推移‐三菱マテリアル株式会社

高い株価に依存している、米国の金融

米国の株価崩落が金融危機になる理由は、米国の平均的な金融機関の自己資本(総資産の約5%しかない)の中身の多くが、持ち株の含み利益だからです。

銀行の資本は、
(1)基本項目(Tier1)=発行株式+優先株+利益の内部留保
(2)補完項目(Tier2)=保有株や債券の評価益の45%+土地等の評価益の45%+貸倒引当金+劣後債のローンなどです。

「Tier1+Tier2」が自己資本とされます。それを「貸借対照表の資産、つまり、貸付金等のリスク債権+株等のリスク債券」で割ったものが銀行の自己資本比率です。

米国の大手銀行の自己資本比率は9%水準ですが、その自己資本の過半が「持ち株の含み利益」である点が株価が下がったときの問題になります。
(注)邦銀の三菱UFJの自己資本費比率は、米国より高い12.2%です(2018年)。ユーロも平均では13%と高い(2016年)。

Next: 米国と日本に潜む、それぞれ金融危機を誘発する要因とは



リーマン危機のあと3倍

リーマン危機のあと、FRBの4度のドル増発(QE:4兆ドル:420兆円のゼロ金利マネーの供給)を主因に、
・米国の株価は、平均で3倍に上がり(ex:金は2.3倍)、
・NYSE(ウォール街のNY証券取引所)と、ナスダック(タイムズスクエア)の株価時価総額は3,000兆円になり、世界の株の50%に膨らんでいます。
※参考:株式市場の各種推移‐野村資本市場研究所

日本は株価の時価総額が、米国の1/5の602兆円です(19年9月)。550兆円のGDPに対して1.1倍です((注)1980年代後期は、日本が世界1の株価時価総額でした)。米国の株価時価総額は、米国のGDP20兆ドル(2,100兆円)に対して、1.4倍大きくなっています。

世界一の投資家、ウォーレン・バフェット(バークシャー・ハサウェイの運用資金の時価4.9兆ドル:515兆円と巨大)は、GDPを超える米国の株価(40%分:800兆円)は、バブル的な評価といっています(バフェット指数)。

株を買わない学者や評論家ではなく、515兆円の預かり運用資産をもって、実際に株式投資している人の発言です。傾聴に値するでしょう。

●リーマン危機のあと株価が3倍に上がったため、米国銀行が投資資産としてもつ企業の株に大きな含み利益が出ていて、それが銀行の自己資本に算入されています。実際、株価の上昇が、2008年の金融危機(=銀行の債務超過)から回復させたのです。

米国では、金融資産のうち時価3,000兆円の株の割合がもっとも大きい(米国債は22兆ドル:2,310兆円と株式の77%)。日本は逆に、1,080兆円の国債の割合が株の1.8倍も大きい国です。

株価依存の米国金融;国債依存の日本の金融

企業の1株当たり期待純益が高く、株価に依存した金融の国が米国です。政府の債務である、ゼロ金利国債に依存する金融の国が日本です。いずれも、将来は発現する問題を抱えています。

日本は、「長期金利の3%への上昇→長期国債価格の24%の下落」で金融危機になります。金融機関のもつ国債が多いからです。米国は、株価の下落(30%以上)から金融危機になって行きます。金融機関の持ち株が大きいからです。

日本では、日銀を含む政府系の郵貯・簡保・GPIFが株価を支えた

▼日本の株価

【2013年は、外国人投資家の買い】

2012年から2013年の日本株は、ヘッジファンド(外国人投資家)による15兆円の買い越しが、日経平均(225社の平均株価)を1万400円から1万6,178円にまで、55.6%上げています。

【2014年からは、政府系金融機関の買い】

2014年からは、まずGPIF(公的年金の運用機関:運用資金163兆円:2019年)が株を買い、郵貯(総資金量210兆円:2019年)、かんぽ生命(総資金量73兆円:2019年)が、アベノミクスの一環として株を買い、日銀は株ETFを買って上げています。官製相場です。日銀は現在年間6兆円のペースで株ETFを買っています。

もし日銀がこの買いを縮小から停止しなければならない時期になると、日経平均は1万3,000円には下がるでしょう(今日の日経平均は2万1,199円:19年9月6日:ここから約40%安)。

Next: 米国株主からEPS(1株益)上昇を要請され、自社株買いが進む日本企業



日本は株の下落では金融危機にはなりませんが、企業の投資が減って不況になります。証券会社には破産が増えるでしょう。

【2019年は自社株買い】

日本でも、米国(株主)からの「EPS:1株当たりの税後純利益を米国並みにあげろ」という企業への要請から、流通株数を減らす「自社株買い」が増えています(2018年は6兆590億円)。

超低金利の社債の発行で現金を得て、投資ではなく、自社株買いによって市場で流通する株数を減らし、1株当たりの純益を高めて株価を上げることの要求です。

【経営の本末転倒】

資金を調達し、利益の出る設備投資、技術投資をすることが本義の企業にとって、社債(負債の証券)を発行し、自社株を買うのは経営の本末転倒です。株主資産を増やす米国の強欲資本主義の波及です。

わが国の経営者は、米国のような高い報酬だけを目的にはしていなかった。自社株買いが、急に5兆円に増えた2014年から変わったように思えます。2012年までの自社株買いは、2兆円レベルでした。
(注)カルロス・ゴーン氏は、米国の経営者の、オプション株による高い報酬を自己正当化の例として出していました。

2019年上半期(6か月)の自社株買いの発表は、5兆8,250億円(年間では12兆円のペース)。2018年の2倍です。1か月の平均で1兆円ですから、2013年の「外人の買い越し(15兆円)」に匹敵します。

日経平均2万2,000円付近(19年9月)は、
(1)1日の売買が2兆円を下回る日が多い薄商い(40%から50%減)の中で、2倍に増えた自社株買いと、
(2)毎月5,000億円(年6兆円)の日銀による株ETFの買いが支えているといっていいでしょう。ETFは先物と違い、清算売りの限月がないので、売らない限りは買い越しの長期保有になります。

日銀の株ETFは、27兆円(6兆円の4.5年分)に増えています(19年8月末)。どこまで増やすことができるでしょうか。
※参考:営業毎旬報告‐日本銀行

政府が指揮している、公的年金運用のGPIF(総資金量160兆円)は、米国債を28兆円(18%)、米国株を42兆円(26%)、国内株を38兆円(23%)保有しています(19年6月)。国内株は25%まで増やせると言う。
※参考:2019年度第1四半期運用状況(速報)‐年金積立金管理運用独立行政法人

自社株買いは株主への利益還元といいつつ、日産のカルロス・ゴーン氏と西川社長が行ったような、オプション株で高額の報酬を得ることも目的になっているでしょう。

【オプション株の仕組み】

オプション権(選択権という意味)は、一定価格で株を買う権利です。1,000円だった株価が1,200円に上がると、それを1,000円で買う権利があるので、1株当たり200円の利益です。会社から1,000万株のオプション権をもらっていれば、「200円×1,000万株=20億円」の特別な報酬になります。株価が下がったときは、権利を流せば損はゼロです。

米国のCEOの100億円を超える報酬の多くは、オプション株を貰ったあとの自社株買いによって得られています。CEOは自社株買いの決定ができ、株主は株価が上がると歓迎するからです。自社株買いは配当とみなされています。FRBの量的緩和(4兆ドル:420兆円)は、報酬面では株買いのレバレッジがかかって、企業経営者と大口資本家に行ったのです。

Next: ヘッジファンドと個人の売りに対して、自社株買いが対抗



【2019年は、ヘッジファンドと個人の売り、自社株の買い】

ヘッジファンドは、2019年も日本株を1兆3,788億円売り越しています(19年1月~8月)。このため、1か月平均で1兆円と大きくなった自社株買いで、株価を買い支えて上げるという算段です。下のデータの事業法人の買い越しに、自社株買いが含まれています。売り越す会社も多いので、事業法人全体の買い越しでは1兆円/月より低い。
※参考:投資家主体別売買動向表‐安藤証券

【長期では…】

政府系金融による株の買いが減って(または終わり)株が下がったときは、「自社株買いの社債による負債が増えたが、一時は上がっていた株主資産は消える。B/Sの総資産・負債に対する自己資本比率は下がる」という結果になります。社債は、期限日には全額を一括償還しなければならない負債です。

2013年以降、「市場経済の自然ではない、株買いの連続」が日本株を上げて支えています。

【個人と、生保・信託銀行の機関投資家】

市場の投資家だった個人と機関投資家は、政府発の上げ相場だった2013年から一貫して、売り越しています。700万人の個人投資家の合計では、「ヘッジファンドの売りを主因にして、下がったあとの逆張りの買い」しかしていません。

以上の事情の展開と理由は、証券会社が進んでは言いたくないことです。様々な材料を都合よく解釈し、上がるとしなければ、株の売買は増えないからです。

ただし、以上は「日経平均」についてです。企業利益の増加期待から上がる個別株はそれぞれが別の動きです。しかし、オーバーオールな日経平均(225社の単純平均)やTOPIX(一部上場の約2,000社強の加重平均)の平均株価に連動する部分は60%はあるでしょう。

日経平均が下がる中で、個別株が上がる、上がる中で、個別株が下がることは少ない。マクロ経済の予想で売買される指数の売買が増えているからでもあります。日銀が買っている株ETFも、日経平均のようにグループ化した株価指数です。

まとめれば、安倍政権の2013年以降の日本株は、個人、機関投資家、銀行が売り越すなかで、
・2013年はヘッジファンドの買いで、
・2014年からは、過去は市場外だった政府系金融機関からの買いで上がってきました。
(日経平均8800円(12年11月)→現在は2,200円付近)

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(1)2013年はヘッジファドによる日本株の買い越し(15兆円)

(2)ヘッジファンドの買い越しが一巡した2014年からは、政府系金融機関(郵貯+かんぽ生命)の買いと、年金基金のGPIFの買い。

(3)2014年から日銀の株ETFの買い増しが3兆円/年、政府系金融の買いが一巡しはじめた2016年には3.3兆円に増枠、2016年7月から1年6兆円に増枠して現在に至る。

(4)企業の自社株買い。[2013年2.7兆円→14年4兆円→15年6.5兆円→16年4.2兆円→17年4.2兆円→18年6.5兆円→19年は13兆円のペース(上半期)](アイエヌ情報センター)

2019年の、もっとも大きな買い越しは、日銀の、6兆円の2倍以上の、事業法人の「自社株買い(2019年上半期は昨年の2倍)」になっています。2019年3月までの日本株は、「19年下半期の自社株買い」が、前年比でどの程度増えるかに、かかっているでしょう。

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以上の買いの要因は、いずれも市場経済の不自然さであり、「いずれ、終わる」ものです。政府系金融が企業の株を買うことは、「企業へのマネーの供給」と同じ意味をもちます。株も広義の流動性マネーだからです。

人民銀行を先頭にした大手政府系銀行が、国有企業にマネーを提供している「中国の共産主義金融」に近い。ソ連の共産主義金融では、「国有企業に貸しつけるが、利払いはなく返済もない融資」が多かったのです(ルーブル発行量の増加の継続になって最後は1,000倍のルーブルインフレ:1999年)。個人、機関投資家、銀行が、下がる中で買い増しを続けることは(1か月はあっても)想定できない。そのとき、日本株は下げます。

米中貿易戦争、英国のEU離脱の影響で、わが国の企業利益が縮小する中(9月は-15%:上場企業)、「2019年下半期から2020年の自社株買い」がどの程度増えるか、2020年3月まで今年の2倍のペースで増えたあと、どの程度減るのかということに日本株の2020年はかかっているでしょう。
(注)日本株の下げ幅は、米国より小さいでしょう。

なお日本株の下落で、金が上がることはありません。日本人の金買いは、少ないからです。しかし日本株は、米国株と同時に下落します。米国株の下落のときは、「リスク資産に売り→安全資産(国債と金)買い」にマネー流れ、金価格は上がります。

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image by: Marijus Auruskevicius / Shutterstock.com

ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2019年9月8日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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