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キャッシュレス化を推進する日本政府の黒い思惑。仮想通貨リブラと銀行の全面戦争が始まる=高島康司

いま中国を始め各国ではキャッシュレス化の動きが加速している。日本でもスマホ決済によるキャッシュレス化を政府が促進している。しかしながら、なぜキャッシュレス化を政府が推進しているのか、その理由がきちんと説明されたことはあまりない。もちろんそこにはさまざまな理由があるが、先進国で多い理由のひとつは、既存の銀行を守るためである。(『ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』高島康司)

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キャッシュレス化でドルが死ぬ?仮想通貨は投資対象から必需品に

仮想通貨に賭けて苦しい現実から抜け出したかった…

一時は大変な投機ブームであった仮想通貨だが、2018年1月にはからずも発生した取引所「コインチェック」における580億円相当の「NEM」の盗難事件あたりを機にビットコインをはじめとした仮想通貨の相場は大きく下落し、次第に投機ブームも終息する方向に向かった。いまではときおり乱高下しながらも、どの仮想通貨の相場も一時と比べると比較的に安定した動きになっている。

仮想通貨の投機に一縷の夢を託した読者も多いのではないだろうか?

ビットコインの相場が最高値の230万円に上昇した2017年12月頃には、巷には「億り人」という語が氾濫し、我も我もと仮想通貨の投機に参加した。もちろん、お金持ちになりたいという欲望を否定する人はいないだろうが、仮想通貨の投機に参加した多くの人々の動機は必ずしもそうではない。

終身雇用制が完全に崩壊し、派遣社員や契約社員の身分の果てに明確な将来を描けない人々、大学を出ながらも就職の機会に恵まれず、不安定な仕事に就かざるを得なかった人々、休みもほとんどない過剰な超過勤務を強いられ、苛酷な労働の循環から抜け出す方途を探す人々など、仮想通貨の投機とそれがもたらす儲けの夢は、これらの人々が苦しい境遇を抜け出す一縷の望みであったのだ。

お金持ちになりたかったわけではない。いまの環境から自由になりたかっただけだ。

しかし、仮想通貨は投機の終息とともについえぬ夢に終わった。日本では仮想通貨は資産として認められているものの、株式のような「分離課税」は適用されない。仮想通貨の投資で得た利益は「雑所得」として所得と合算されて課税される。たとえば「億り人」になって1億を儲けたとすると、株式なら「分離課税」なので一律20%の税率で済むが、仮想通貨では45%程度の最高税率が適用される可能性がある。

だから、仮想通貨の投資で利益が出ても、課税を恐れて仮想通貨を売ることに躊躇する人がほとんどだった。そして、仮想通貨を持ち続けた結果、相場が大暴落してしまい、利益が吹き飛んでしまった人も多い。

また、ビットコインが200万円を突破した高値の時点で投資に参加したものの、暴落して損をした人も多かった。やはり、仮想通貨の投資は一時の夢にしか過ぎなかった

支払い手段としての仮想通貨

では、仮想通貨が庶民の夢とともについえてしまったのかといえば、そうではない。

実は仮想通貨は、投機のブームが終わってこそ、その本来の機能が注目されているのだ。それは、デジタルな支払い手段としての機能である。

これは仮想通貨の相場が極端に変動した状態では成り立たない。投機のブームが終わり、相場が安定したいま、仮想通貨の支払い手段としての潜在能力が改めて注目されている。

特にそれには2つの理由がある。

ひとつは、いま日本でも進んでいる各国のキャッシュレス化の動きである。そして次は、ドルに代わる新しい国際決済通貨を求める動きである。

この2つの文脈でいま「フェイスブック」が計画している独自の仮想通貨「リブラ(Libra)」に注目があたっているのだ。

Next: なぜ日本をはじめ各国政府はキャッシュレス化を推進するのか?



なぜ日本をはじめ各国政府はキャッシュレス化を推進するのか?

日本でもそうだが、いま中国を始め各国ではキャッシュレス化の動きが加速している。日本でもスマホ決済によるキャッシュレス化を政府が促進している。

しかしながら、なぜキャッシュレス化を政府が推進しているのか、その理由がきちんと説明されたことはあまりない。もちろんそこにはさまざまな理由があるが、先進国で多い理由のひとつは、既存の銀行を守るためである。

それは、スウェーデン、フィンランド、スイス、デンマークなどキャッシュレス化がもっとも進んだヨーロッパ諸国の状況を見るとよく分かる。

どの先進国もそうだが、資本主義は成長の限界にきている。そのため各国の中央銀行は、成長を維持する必要から金利をとことん下げ、市場に資金を供給している。そして多くの国では、マイナス金利も当たり前の状況になってしまった。

理論上これは、借りた額よりも返済額が小さくなるということだ。もちろん、金利が利益の源泉である銀行としてはたまったものではない。マイナス金利下では、銀行経営は成り立たなくなってしまう

すべては銀行を救うため

そこでスイスやデンマークなどのヨーロッパ諸国の銀行は、預金口座に金利を付けるのではなく、逆に「口座管理費」として預金者から手数料を徴収するようになった。そうしないと、マイナス金利下では銀行経営は難しい。

一方、預金者としてはこれはたまったものではない。口座を開設すると、手数料を支払わなければならないのだ。

その結果、口座を閉鎖して現金を引き出し、自宅で保管する預金者が増えた。もちろん自宅で保管するのであれば、膨大な量になる少額紙幣ではなく、保管の手間がかからない高額紙幣にする必要がある。そのため、デンマークやスイスのような国では、高額紙幣と金庫に対する需要が大変に高まった。口座閉鎖のラッシュと現金自宅保管の流れである。

銀行にとってこれは危機的な事態である。マイナス金利と口座閉鎖で破綻する銀行も出てきてもおかしくない。

そうした銀行の救済策として政府が打ち出したのが、キャッシュレス化の方向性であった。

まず、高額紙幣の流通を禁止する。そして、モノやサービスを買うと、銀行口座の預金から自動的に引き落とされるキャッシュレスな支払い手段を強力に推進し、現金の流通を不要化する。

すると、国民は引き落としの必要性から現金を銀行口座に保管しなければならないので、口座の解約はできなくなる。これで銀行は破綻の危機から救われる

このような状況がキャッシュレス化の背景にあるとすれば、日本のキャッシュレス化の動きも、銀行を救うために預金者から口座管理手数料を徴収する準備だと見ることもできる。注意しなければならない。

銀行がビットコインを飲み込む日

こうした状況で、ビットコインのような仮想通貨の相場が安定し、支払い手段として使用できるようになればどうなるだろうか?

独自のウォレットで管理され、銀行の口座を一切介さない分散型の仮想通貨は銀行にとれは脅威となる。

しかし、キャッシュレス化が一般化した状況なら、政府が主導して銀行口座とウォレットを強制的に合体させ、銀行が管理するウォレットを通して仮想通貨を使うシステムも検討されるようになるはずだ。

仮想通貨が投機の対象にしか過ぎなかったときにはこのようなことは考えられなかったが、仮想通貨の支払い手段としての可能性が高まると、銀行による仮想通貨吸収という方向も考えられるだろう。

Next: ドル覇権はもう終わった?国際決済手段としての仮想通貨



ドル覇権はもう終わった

仮想通貨の投機ブームが終息し、支払い手段としての機能がクローズアップされる第2の点が、ドルに代わる新しい国際決済通貨を求める動きである。

周知のように、いまはドルが国際決済のための基軸通貨として使われている。この状況は、国際金融体制の若干の変更はあったものの、戦後75年間変わっていない

しかし、特に、2001年の同時多発テロから始まる度重なる戦争や、リーマン・ショックのような金融危機の発生でアメリカの覇権は次第に失墜し、それとともにドルに対する信任も低下した。30年ほど前は国際決済におけるドルの使用率は60%を上回っていたが、いまでは43%程度にまで低下している。ドル以外の決済通貨として、ユーロ人民元が使われるようになった。

さらに、ドルを国際決済通貨として好まない傾向はトランプ政権になってから加速している。通常の米政権とは異なり、アメリカの国益を最優先する一国主義を主張するトランプ政権は、選挙目的で国内景気を浮揚させるために、基本的に政府から自立していなければならないFRBに強烈な圧力をかけ、利下げを断行させている。

これにともなってドルの価値も大きく変動する。これは諸外国にとってはたまったものではない。トランプ政権の国内政治の都合で利子率が変動し、ドルの価値が影響を受けるのである。

アメリカのこうした政治的影響を受けない安定した国際決済通貨への要望が自然に高まっても不思議ではない。

国際決済手段としての仮想通貨

事実、すでに中央銀行の関係者からドルに代わる決済通貨を要望する発言が出てくるようになった。

8月23日、米連銀(FRB)と各国の中央銀行との定例年次会合「ジャクソンホール会議」が開催された。その席上、イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、新しい国際決済通貨を後押しするような発言をした。

カーニー総裁によると、いまの世界の基軸通貨体制と金融システムは米ドルに依存しすぎているという。そのため、基軸通貨の価値は米経済のそのときの状況で大きく変動し、安定していない。いまはアメリカの低金利政策に各国が同調しなければならず、そのため各国のインフレの昂進から金融システムが不安定化する弊害も出て来ているとした。

もっと安定した通貨体制の構築には、米経済の状況に左右されるドルではなく、仮想通貨や電子決済のようなテクノロジーによってもたらされる人工的な基軸通貨のほうがよいとして、国際決済の基軸通貨に仮想通貨の導入を後押しする発言をした。これを管理するための事務局は「IMF(国際通貨基金)」に置くのがよいとした。

このカーニー総裁の提案は、2008年の金融危機後に開催された「G20」で、「IMF」が各国間で資金を調達するために導入された「SDR(特別引出し権)」を本格的な基軸通貨として導入することが検討されたが、これと類似したアイデアだ。「SDR」の価値は、主要通貨の価値の加重平均とリンクされている。2008年の「G20」では、これをドルに代わる基軸通貨として導入することが一時検討された。今回のカーニー総裁は、国際金融のシステムを安定するためには、「SDR」と同様、ドルに依存しない基軸通貨を導入したほうがよいとの考えだ。そしてそれは、仮想通貨のような電子決済のテクノロジーを基礎にすべきだという。

さらに、国際決済に使われるドルをベースにした国際送金システムである「SWIFT」に代わるシステムを構築し、ドルに依存しない国際決済を行えるようにする動きも活発だ。ドルベースの「SWIFT」はアメリカに敵対する国々の金融制裁に使われる。ロシアやイランは「SWIFT」から排除されているので、これらの国々の国際決済は困難に直面している。

このように、国際決済システムを金融制裁に使うアメリカの方針に嫌気を感じた諸国は、独自の送金システムの立ち上げを開始している。

中国の「CHIPS」、ロシアの「SPFS」、イランの「SEPAM」などはそうしたシステムだ。これらのシステムでは、「CHIPS」は人民元、「SPFS」はルーブル、「SEPAM」はリアルというように、送金システムを立ち上げた国々の通貨が使われる傾向が強い。そうしたとき、やはりどの送金システムでも汎用的に使え、さらにドルではない決済通貨があれば、望ましい。そうした要望は強い。

Next: なぜビットコインではダメ? 待望のドルに代わる仮想通貨リブラの実力



「リブラ」の出現

長くなったが、これが現在の状況だ。キャッシュレス化へと向かう各国の国内状況も、新しい決済通貨を望む国際的な状況も、安定した決済手段になり得るデジタル通貨の可能性を志向している。

そこにおもむろに登場したのが、フェイスブックが計画している仮想通貨「リブラ(Libra)」なのである。

発行予定の時期は2020年だ。フェイスブックはこれを発行するために子会社「キャリブラ(Calibra)」を立ち上げた。すでにキャリブラには「マスターカード」「ペイパル」「スポッティファイ」などのIT大手がすでにパートナーとなり、「リブラ」の発行を準備している。

「リブラ」は送金・支払い手段として機能することを目標にしている。ビットコインなどの既存の仮想通貨は価値の変動が激しいので、投機の対象になったとしても安定した送金・支払い手段として機能することは困難であった。これが既存の仮想通貨の問題である。

「リブラ」はこうした相場の大きな変動を防ぐため、価値を実物資産にリンクしている。それは、ドルや円、そして人民元やユーロなどの代表的な通貨とともに、金などの希少金属である。これはIMFが政府に与え、実質的に政府間のやり取りでは通貨として機能する「SDR(特別引き出し権)」に似たコンセプトである。「SDR」の価値は、ドル、人民元、ユーロ、円など、主要通貨を集めた通貨バスケットの加重平均で決定される。「リブラ」はさらにこれに金を加えたバスケットを作り、その平均価値とリンクするものと思われる。この方式だと、「リブラ」の価値は相当に安定する

「リブラ」はフェイスブックの子会社「キャリブラ(Calibra)」が提供する専用のウォレットとアプリを通して使われる。これはフェイスブックのメッセンジャーのような手軽さで使えるアプリで、メッセンジャーで個人間のメッセージの送受信を行うように、「リブラ」の送金と受け取りが可能になる。フェイスブックのメッセンジャーはすでに広く使われていることから、「リブラ」も問題なく受け入れられる可能性が高い。

25億のアカウント

そして、「リブラ」を他の仮想通貨から際立たせているのは、フェイスブックのアカウントの多さである。現在で25億アカウントだ。

この状況で使い勝手のよい「リブラ」が本格的に導入されると、他の仮想通貨の送金手段や、送金サービスが駆逐される可能性が高い。仮想通貨による送金・支払い手段としては、「リブラ」がシェアを独占することは間違いない。

そのような圧倒的なシェア率を持つ「リブラ」であれば、個人のみならず企業間の決済方法としても使用できる可能性がある。つまり「リブラ」は、国際貿易の決済手段として使えるということだ。

本格的に導入されると、ドルベースの「SWIFT」にとって代わるシステムにもなる潜在力がある。これは、「リブラ」が基軸通貨のひとつとなることを実質的に意味する。

もちろんそうなるには、国際金融や国際貿易に伴う多くのハードルがあるだろうが、そうした潜在的可能性が25億アカウントを持つ「フェイスブック」の「リブラ」にあることだけは間違いない。

Next: リブラは世界を変えるか?これから銀行・中央銀行との戦いが待っている…



銀行と中央銀行との戦い

このような「リブラ」は、キャッシュレス化が急速に進み、安定したデジタルの支払い手段を求める各国の状況、ならびにアメリカの政治的意図によって価値が変動するドルに代わる国際決済通貨を求める動きを背景に、より注目が集まっている。

しかし「リブラ」は、既存の銀行ならびに中央銀行から見ると大変な脅威である。銀行を一切介さない「リブラ」が一般的な支払い手段になるようなことでもあれば、人々は銀行を使わなくなる。銀行口座は不要になる。これは銀行にとっては死活問題である。

また、ドルに代わる安定した国際決済通貨を求める動きを見せている中央銀行にとっても、「フェイスブック」といういち民間企業が発行元になる「リブラ」は脅威であることは間違いない。中央銀行のコントロールの及ばない国際決済通貨が使われるのだ。そうなると、おおげさな表現だが、世界経済に対する中央銀行の影響力とコントロールは大幅に縮小する

このような状況を回避するためには、主要国の中央銀行、ないしは「IMF」のような国際機関が発行するデジタル通貨が、国際決済通貨として導入する動きも強い。フランス財務省はドイツとともに「リブラ」の導入をブロックする姿勢を明確にしている。

対照的に、中国の中央銀行である「中国人民銀行」は、独自なデジタル通貨の開発に着手していると発表した。このデジタル通貨は「フェイスブック」の「リブラ」に対抗したものになる。「中国人民銀行」によると、「もしリブラが国際取引等の決済シーンで既存の法定通貨のように利用されることになると、これまでの金融政策や各国の財政的な安定、さらには国際的な金融システム全体に多大なる影響を与えることになる」との懸念を示し、開発中のデジタル通貨はこの懸念を払拭することが目的だとした。

まさにこれは、「リブラ」を凌駕する国際決済通貨を発行するのは中国であるという宣言である。

しかし、これで勝負が決まったわけではない。「IMF」などの国際機関や他の主要国も、国際決済通貨としての使用を目標にしたデジタル通貨を出してくる可能性が大きい。そうした状況に、「リブラ」はどのように対応するのだろうか? 戦いは始まったばかりである。行方に目が離せない。

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image by:StreetVJ / Shutterstock.com

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年10月1日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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