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ヤマト赤字転落、株価は1年で半減へ。Amazonに媚びない3つの改革で業績復活なるか?=栫井駿介

ヤマトHD<9064>の株価下落が続いており、この1年で株価は半分になりました。ネット通販の拡大で需要は旺盛な中、いったい何が起きているのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

ヤマトは「豊作貧乏」に陥った?働き方改革に踏み切った結果は…

ついに赤字転落、株価は1年で半減

ヤマトHD<9064>の株価下落が続いています。この1年で株価は半分になりました。

ヤマトホールディングス<9064> 日足(SBI証券提供)

直近の四半期では赤字に転落し、先が見通せない状況となっています。

ネット通販の拡大で需要は旺盛な中、いったい何が起きているというのでしょうか。

第1四半期は低調な季節

まず、直近の業績を見てみることにしましょう。以下は四半期ごとのグラフです。

出典:マネックス証券

ヤマトHDの業績は、第3四半期(10~12月)をピークに山型を描くことがわかります。それもそのはずで、この時期はクリスマス・お歳暮と言った年末商戦にあたり、荷物量が急増するのです。

次に需要が大きいのがお中元のある第2四半期(7~9月)、逆に第1・第4四半期(1~6月)は需要が減少する傾向があります。

そう考えると、直近の第1四半期の業績が低調なのはそれほどおかしなことではありません。このように、業績を見る時には季節ごとの特性を頭に入れておかなければなりません。

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「豊作貧乏」に陥るヤマト

それでは改めて第1四半期の業績を見てみましょう。以下は決算短信の冒頭です。

前年同期比で0.3%の増収、一方で営業利益は95億円の黒字から61億円の赤字に転落しています。季節による問題はありながら、やはりあまり調子が良くないことは明らかなようです。

なぜ業績が振るわないのか、決算短信の続きを見るとその要因が書かれています。

営業収益は3,817億26百万円となり、前年同期に比べ10億36百万円の増収となりました。これは主に、デリバリー事業の構造改革を推進した中で、宅急便単価が上昇したことによるものです。営業費用は3,878億27百万円となり、前年同期に比べ167億15百万円増加しました。これは主に、集配体制の構築に向けて増員などを進めたことで、委託費は減少したものの人件費が増加したことなどによるものです。

出典:ヤマトホールディングス 2020年3月期 第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結)※PDFファイル

ここから読み取れることは、ヤマトHDはまさに改革の真っ最中だということです。

ネット通販の拡大により、宅配便の数量も急拡大しました。ヤマトHDもその恩恵を少なからず受けてきたのです。

しかし、実はこれが利益の拡大につながりませんでした。長期の業績を見ると、売上は増加する一方で、利益はほとんど増えない「豊作貧乏」に陥ってしまっているのです。

出典:マネックス証券

「働き方改革」を断行し、歪みは是正

特に、2016~2017年度の業績は一時大きく落ち込みました。これは、パート従業員等の社会保障の適用範囲が拡大したことや、これまでのサービス残業の未払い分を支払ったことによるものです。

そう、ヤマトHDの改革は、いま社会で話題になっている「働き方改革」にほかならないのです。

宅配便の増加に伴って、従業員の働き方に大きな歪みが生じていました。それを助長してきたのが、最大のEC通販業者であるAmazonです。彼らは購入者のプライム会員化を促し、追加料金なしで「お急ぎ便」の普及を促しました。

配達員は、指定された日時に届けなければなりませんから、無理してサービス残業をしてでも、何とか各家庭に荷物を届けていたのです。

この歪みを経営陣は放置するわけにはいきませんでした。サービス残業をなくすために人員を補充したり、12~14時の配達をやめたりするなど、様々な打ち手を行っています。

これによって、従業員の負担もかなり軽減されたことでしょう。いつも我が家に配達してくれる手嶋さん(仮名)の顔も、最近は明るくなったように感じます。

Next: ついにAmazon向けを値上げ。ヤマト復活なるか?



ついにAmazon向けを値上げ!

しかし、これだけでは人件費が増えるだけになってしまいます。まだ改革は終わりません

働き方改革と同時に取り組んだのが、運賃の値上げです。特に、大口顧客の値上げを断行しました。大口顧客とは、包み隠さずに言えばAmazonのことでしょう。今、物流業界はAmazonを中心に回っていると言っても過言ではありません。

かつて佐川急便(SGホールディングス<9143>)がAmazonの配送から撤退した時、ヤマトHDはその空きを引き受けた経緯があります。その結果、皮肉にもSGホールディングスの利益率は上昇した一方、ヤマトは利益の低迷に苦しむことになったのです。

【関連】「佐川」は「ヤマト」に勝てるのか?今年最大の大型上場(SGHD)のポイント=栫井駿介

Amazonと言えば、取引業者に対して手厳しいことで知られます。佐川は値上げを巡って折り合わなかったと言われますが、今回はついにヤマトも値上げに舵を切ったのです。

Amazonもさすがにヤマトと喧嘩別れしては困るので「撤退」とはいきませんでしたが、それでも少しずつ発注を減らされているものと思われます。「大口法人」の取扱数量は、値上げ以降確実に減少しているのです(グラフ緑線、赤の単価と逆行する動き)。

これが直近の業績悪化の一因になっていることが否定できません。

出典:ヤマトHD 2020年3月期第1四半期決算説明資料

Amazonの顔色を伺う必要はない

ヤマトが復活するには、再び値下げしてAmazonの需要を取り戻すべきなのでしょうか。

私はそれは正しい戦略ではないと思います。なぜなら、働き方改革前に逆戻りしてしまうからです。配達のクオリティや従業員のことを考えても、これ以上負荷をかけないのが正解だと思います。

Amazonが代わりに急いでいるのが、「デリバリープロバイダ」と呼ばれる地域限定業者や、「Amazonフレックス」と呼ばれる個人事業主です。このような手段を通じて、将来的に宅配網の「自前化」を図っているのです。

Amazonには義理も感謝もなく、純粋に損得で動いていることがよくわかります。このままAmazonに付き合っても、生かさず殺さずの状態に置かれ続け、ある時急に切られてしまうかもしれません。

ヤマトは最大手らしく、どっしり構えていれば、やがてAmazon以外の需要が駆け込んで来るでしょう。ネット通販市場はまだまだ拡大しています。デリバリープロバイダの評判も決して芳しくなく、ヤマトに頼みたい業者はまだまだ現れるはずです。

「安心、安全、信頼」は長く事業を続ける上で不可欠な要素です。

Next: どうすれば利益は伸びる? ヤマトが取り組むべき3つの秘策



ヤマトが利益を伸ばすにはどうしたら良いか?

それでは、ヤマトHDはこれからどうやって利益を上乗せしていけば良いでしょうか。私は、既に実行していることを含め、以下のことが不可欠だと考えます。

<その1:ロボット・ITによる物流の高度化とコスト削減>

ロボットやITによる高度化やコスト削減は待ったなしで進めなければなりません。業界最大手として、ここは決してケチってはいけないところだと思います。当面はこの費用が利益を圧迫することになりますが、投資家は長い目で見なければなりません

<その2:3PL事業への参入>

3PLとは「サード・パーティ・ロジスティクス」の略で、企業の物流を一手に担うことです。企業のアウトソーシングの流れが継続する中で、3PL市場も拡大が続いています。これにより、単に物を運ぶだけではなく、仕入れから販売まで無駄のない物流を企業に提供することで、利益率を高めることができるはずです。

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<その3:ダイナミック・プライシングの導入>

ダイナミック・プライシングとは、需要に応じて価格を変動させることです。閑散期は安く、繁忙期だと高くなります。ホテルや航空券では一般的に用いられています。冒頭にあったように宅配は繁忙期とそれ以外の差が激しいですから、繁忙期に料金を上げられれば、利益率は劇的に改善する可能性があります。

このようにしてみると、ヤマトにやれること、やるべきことはたくさん残っています。業界ナンバーワンの素晴らしい実績を持つ会社です。それを活かすも殺すも、戦略次第ということになるでしょう。

これからも暖かく見守っていきたいと思います。


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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年10月6日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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