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eギフトを展開するギフティが新規上場、さらなる成長は商品の差別化がポイント

ギフティ<4449>は、9月20日東証マザーズに新規上場しました。同社の株価は、公募価格1,500円に対して初値は+25.33%の1,880円をつけました。(イノベーションの理論でみる業界の変化

本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年10月9日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:山ちゃん
東京でシステムエンジニアおよびITコンサルタントとして大企業の情報システム構築に携わったあと、故郷にUターンし、現在はフリーで活動。その後、クリステンセン教授の一連の名著『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』『イノベーションの最終解』を読んで衝撃をうけ、イノベーションをライフワークとしている。

初値は公募価格から25.33%上昇の1,880円でスタート

ギフティをジョブ理論の視点からみる

株式会社ギフティ<4449>(以下、同社)は、2019年9月20日東証マザーズに新規上場しました。業務内容は、メールなどの文章に添えるだけで贈ることができるeギフトサービスの企画・開発・運営等です。

同社の株価は、公募価格1,500円に対して初値は1,880円をつけました。差異率は+25.33%と値をあげました。なお、10月7日時点の株価は1,794円です。

クレイトン・M・クリステンセン他『ジョブ理論』(ハーパーコリンズ・ジャパン)によれば、この理論はクリステンセン教授たちが長年の歳月を費やして練り上げたもので、次の新しい機会を見つける方法を示し成長のための筋道を明らかにするだけでなく、イノベーションを予測可能にし、その効果は、アマゾンのジェフ・ベゾスらによっても確認されているといいます。

では、このレンズを通して同社のビジネスモデルを眺めると何がみえてくるのでしょうか。これはまたある意味において、イノベーションを生み出すための「思考実験」だともいえます。

ビジネスモデルの特徴

同社グループの主要サービスは、(1)『giftee』サービス、(2)『giftee for Businessサービス、(3)『eGift System』サービス、(4)地域通貨サービス『Welcome! STAMP』の4つに大別されます。gifteeサービスは、個人ユーザーを顧客とし、顧客が直接会ったことがない人に商品を贈れるサービスを提供し、その対価として販売手数料を得ます。なお、同サービスで扱っている商品は、数百円程度の価格帯が中心になっています。

giftee for Businessサービスは、法人を顧客とし、顧客企業のユーザーに商品を贈れるサービスを提供し、その対価として販売手数料を得ます。主な利用事例として、生命保険、損害保険、銀行・証券、クレジットカードなど各業界におけるキャンペーンがあります。

eGift Systemサービスは、飲食店・小売店等の法人を顧客とし、顧客企業がeギフトの生成・流通・販売・決済・実績管理を行うことができるシステムを提供し、その対価としてシステム利用料を得ます。

地域通貨サービスWelcome! STAMPは、法人──eギフトの発行企業──および地方自治体提携企業──地域通貨の発行主体──を顧客とし、特定の地域でのみ使える通貨や商品券をスマートフォンを用いて流通させるソリューションを提供し、その対価としてシステム利用料を得ます。

ビジネスモデル的にみれば、いずれのサービスのそれも、未完成または不完全な事物を高付加価値の完成品──eギフトで交換される商品やeギフト用のシステムなど──へと変換する価値付加プロセス型事業です。

同社グループは、対処すべき課題の一つとして「多彩な収益機会の確保及び拡大について」を、事業等のリスクとして「技術革新について」「市場動向等について」「当社グループの認知度について」「顧客の獲得・継続について」等をあげています。

Next: ギフティが今後、成長するために取り組むべき課題とは?



思考実験──片づけるべき用事とは

『ジョブ理論』によれば、以下の問いに答えることで用事をより具体化できるようになる、としています。

1.その人がなし遂げようとしている進歩は何か。求めている進歩の機能的、社会的、感情的側面はどのようなものか。

2.苦心している状況は何か。誰がいつどこで何をしているときか。

3.進歩をなし遂げるのを阻む障害物は何か。

4.不完全な解決策で我慢し、埋め合わせの行動をとっていないか。ジョブを完全には片づけてくれない商品やサービスに頼っていないか。複数の商品を継ぎはぎして一時しのぎの解決策をつくっていないか。

5.その人にとって、よりよい解決策をもたらす品質の定義は何か、また、その解決策のために引き換えにしてもいいと思うものは何か。

出典:『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(第2章 プロダクトではなく、プログレス)

用事の特定

イノベーションを起こすための最初のステップは、ある状況下で顧客がなし遂げようとしている進歩を特定することです。そして、その進歩には機能的、感情的、社会的側面があり、どれが重視されるかは文脈によって異なってきます。また、用事を特定することにより、真の競合相手もみえてきます。では、同社の場合はどうなるのでしょうか。

今回は、同社グループが課題としてあげる「多彩な収益機会の確保及び拡大について」を取り上げます。同社グループはそれを、次のように認識しています。

当社グループは、『giftee』サービスから始まり、『eGift System』サービス、『giftee for Business』サービス、『Welcome! STAMP』等のサービスを展開し、多彩な収益機会の確保及び拡大に努めてまいりました。今後も、各既存サービスの強化に加え、飲食店・小売店等の法人の顧客情報を一元管理し、効果的なマーケティングを行うための新たなシステムの開発や新たなプロモーションの提案に取り組む等、新規ビジネスの創出を図り、収益ポートフォリオの最適化を目指してまいります。

ここで着目したいのは、シスト(宝探し)。同社グループが展開しているeギフトを宝探しに使うのです。Enpediaによると、シスト(宝探し)とは次のようなものです。

2001年にマックス・バレンティン(Sur la trace de la chouette d’orの創設者)は、より多くの人に宝探しを楽しんでもらうために、インターネットサイトを開くことに決めた。そこでは、小さい箱をすべてに手に入れやすい場所に隠してあるから、自由に見つけて持っていっていいよと発表した。2002年、サイトがこのゲームを主な活動として、Cistes.netが開設された。2009年には、プレイヤーは10万人に達した。

したがって、eギフトを贈る側は宝を隠す側になり、eギフトを贈られる側は見つける側になります。こういった状況で顧客──宝を隠す側と見つける側──がなし遂げようとする進歩の機能的側面は「宝探しをする」ということ。感情的側面として「娯楽」「魅力」、社会的側面として「つながりの提供」を重視するでしょう。

なお、同社グループは競合を次のように認識しています。

当社グループは、既に構築しているeギフトプラットフォームの先行者優位性を活かしてサービス提供を行っていく方針です。しかしながら、新規参入等により競争が激化し、当社グループが競争力や優位性を保つことが難しくなった場合には、当社グループの事業及び業績に影響を与える可能性があります。

Next: ギフティがこれから意識していくべきは、ほかではできない体験!



体験の構築

用事が特定できたら、次になすべきことは、顧客がなし遂げようとしている進歩に伴う体験を構築することです。製品・サービスの購入時や使用時におけるすぐれた体験が、顧客がどの製品やサービスを選ぶかの基準になるからです。では、同社はどのような体験を構築すればいいのでしょうか。

実際のシストでは、隠す人が小さな物と紙を容器に入れてはじまります。今回の場合は、モノは必要ないので、隠す人がeギフト用のQRコードが印刷された紙切れなどをどこかに隠すことからはじまります。この際に障害となり得るのは、隠す場所です。

Enpediaは次のように指摘しています。

それから容器を隠す場所を決めてヒントを書く。その際に変電所など感電する恐れのある場所や落下する場所、爆発する恐れのある場所、ダイビングやロッククライミングの必要な場所、その他法律に違反する場所にかくしてはいけない。また、私有地に隠す場合は土地の権利者に許可を取らなければならない。

次に、宝のありかをヒントを書く。あまり難しすぎてはいけない。

探す側は、見つけたeギフト用のQRコードを専用アプリで読み込ませることで商品が受け取れます。この際、見つけた人が何らかのメッセージを残せば「eギフトを贈った側と贈られた側がつながる」という、ある意味ですぐれた体験ができるようになるでしょう。

プロセスの統合

最後は、顧客がなし遂げようとしている進歩のまわりに社内プロセスを統合し、顧客に対して彼らが求める体験を提供します。そうすることにより、プロセスは摸倣が困難になり競争優位をもたらすのです。

実際のシスト(宝探し)は街中で行われますが、同社グループが運営するシスト(宝探し)は、基本的にこのサービスに加盟している飲食店や小売店等のなかで行われます。したがって、同社グループの収益の柱となるのは、加盟店から受け取る会費です。では、社内プロセスの統合という意味で同社グループにとって何が課題となるのでしょうか。

QRコードを使ったシスト(宝探し)自体は容易に模倣されるので、それだけでは競争優位にはつながりません。したがって、eギフトで交換できる商品で差別化する必要があります。具体的には、手頃な値段でかつ気が利いた小物や雑貨であり、オンリーワンである必要があるでしょう。

では、同社グループがこうしたシスト(宝探し)を展開するのであれば、業績の評価基準をどうすればいいのでしょうか。クリステンセン教授たちは次のように指摘しています。

ジョブ理論は、プロセスを何に合わせて最適化するのを変えるだけでなく、成功の尺度も変える。業績の評価基準を、内部の財務実績から、外部的に重要な顧客ベネフィットの測定基準へと移す。

・顧客の行動について集めたデータは、客観的に見えてもじつは偏っていることが多い。データはとくに、ビッグ・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを買うとき)だけを重視し、リトル・ハイア(顧客がなんらかのプロダクトを実際に使うとき)を無視している。ビッグ・ハイアが、顧客のジョブをプロダクトが解決したことを意味する場合もあるが、本当に解決したかどうかは、リトル・ハイアが一貫して繰り返されることによってしか確認できない。

この指摘を踏まえるのであれば、同社グループはリトル・ハイア──シスト(宝探し)に参加した人の数──を業績の評価基準とするのが得策だということになります。

【参考文献】

・クレイトン・M・クリステンセン他[著]、依田光江[訳]『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)
・クレイトン・M・クリステンセン『医療イノベーションの本質─破壊的創造の処方箋』(碩学舎ビジネス双書)
・https://enpedia.rxy.jp/wiki/シスト_(宝探し)
・有価証券届出書(新規公開時)


本記事は『イノベーションの理論でみる業界の変化』2019年10月9日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方は、バックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

image by: 株式会社ギフティ公式サイト

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イノベーションの理論でみる業界の変化』(2019年10月9日号)より一部抜粋

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クリステンセン教授たちが練り上げた「片づけるべき用事」の理論は、これまで不可能とされてきたイノベーションの予測を可能にし、その効果はアマゾンのベゾスらによっても確認されているといいます。3年目になる2018年からは内容を刷新し、従来のMBAツールとは一線を画すこの優れた理論を使い、各業界におけるイノベーションの可能性を探ります。これはイノベーションを生み出すための「思考実験」にもなります。なお各号はそれぞれ単独で完結(モジュール化)しているので、関心がある業界(企業)を取り上げた号を購読していただけます。

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