韓国内外の研究機関が、これまで「22世紀に地球上から真っ先に消える国は韓国」と指摘している。現実に出生率は急激な「右肩下がり」状況に落ち込んでいる。(『勝又壽良の経済時評』勝又壽良)
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元『週刊東洋経済』編集長。静岡県出身。横浜市立大学商学部卒。経済学博士。1961年4月、東洋経済新報社編集局入社。週刊東洋経済編集長、取締役編集局長、主幹を経て退社。東海大学教養学部教授、教養学部長を歴任して独立。
文政権の間は出生率が激減? ただし公務員家庭だけは2倍の新生児
出生率低下は誰にとっても「自分の問題」
韓国では、合計特殊出生率(生涯に一人の女性が生む子どもの数)の急低下が止まらない深刻な事態だ。文政権が登場して以来、加速的な低下が続いている。
出生率の急低下は、決して他人事ではない。現役世代にとって、将来の年金を払ってくれる人たちの減少を意味するからだ。自らの「年金危機」を確実にする恐ろしい現象と認識すべきであろう。
こういう説明をすれば、誰でも出生率の急低下が「自分の問題」になるはずだ。
22世紀に最初に姿を消す国
韓国内外の研究機関が、これまで「22世紀に地球上から真っ先に消える国は韓国」と指摘してきた。
例えば、次のような機関が警鐘を鳴らしてきた。2006年、英オックスフォード人口問題研究所が、初めて「人口減少により消滅する最初の国は韓国」と発表した。それ以降、国連未来フォーラム(2009年)、サムスン経済研究所(2010年)、韓国国会立法調査処(2014年)も同様の分析結果を発表している。以上は、韓国メディア『ヘラルド経済』から引用した。
韓国内外の研究機関が揃って、「韓国滅亡説」を打ち出しているのは、不気味である。
当の韓国は、他人事のように見ている。文政権は、「反日」に全力を傾けており、これを引き金に国内保守派を「積弊一掃」として扱い、出生率急低下に考えが及ばないという政権である。
この虚を突くように、現実に出生率は急激な「右肩下がり」状況に落ち込んでいる。
韓国の合計特殊出生率、前人未踏の「0.88」へ
韓国の合計特殊出生率が7~9月期に入って、これまで以上に急激な減少を見せている。ソウルでは、なんと0.69である。人類が経験したことのない「絶滅的」な低水準記録である。
理由は何か。若者の生活苦である。高い失業率で5人に1人は失業である。就職も出来ない人間が、結婚や出産など考えるゆとりはない。その日その日をどうやって生きて行くか。それで精一杯である。住宅も高騰している。結婚して新居も構えられないのだ。
全国の合計特殊出生率は、7~9月期に0.88で過去最低を記録した。10~12月期は、季節的に出生数が減少傾向にある。2019年の合計特殊出生率は、前記の0.88をさらに下回るのは確実視されている。昨年が0.98であった。
今年、仮に「0.86」に低下すれば、韓国「亡国論」が世界的な話題になって、韓国の綜合評価を下げるであろう。
人口は、一国経済の成長にとって重要な要素である。とりわけ、生産年齢人口(15~64歳)の動向がカギを握る。最近の合計特殊出生率の急低下は、韓国経済に15年後から潜在成長率を大きく下押す要因に働く。
「時限爆弾」を抱える経済に落ち込むのだ。
Next: すでに手遅れ?経済不振がさらに出生率低下に拍車をかける
経済不振で出生率低下に
すでに、韓国経済はふらついている。
今年の成長率は、2%割れが濃厚だ。昨年が2.7%成長であるから、その落差は大きくなる。これが、韓国企業の先行き不安を高める。設備投資を控えるので、GDPはさらに落ち込むという悪循環にはまり込むだろう。
韓国が、日本の半導体3素材の輸出手続き規制撤廃を求めて必死である。12月末に予定されている日韓首脳会談で、日本から前向きの「回答」を引き出すべく、徴用工賠償金問題で新たな法案を準備中である。これは、韓国の文国会議長提案による「基金案」である。日韓の企業・個人による寄付金で賠償を払うという「代位弁済」方式(第三者が代わって弁済)が有力になっている。文議長は、12月中旬までに成案を得たいとしており、与野党が協力する姿勢を見せている。
文議長が、この「基金構想」を発表したのは、11月5日の早稲田大学講演会の席だ。あれから1ヶ月余で成案にまとめようというのは、韓国経済の深刻さを物語っている。韓国経済を覆う不透明感を一掃しようという狙いであるからだ。
韓国経済の不透明感が、少しでも薄らいでくれば、企業は設備投資を行なう気運になろう。それは、雇用増加に結びつき失業率を低下させる。
こういう好循環を描ければ、出生率回復期待がかかるかも知れない。だが、そう言い切れないところに韓国の抱える悩みの深さがある。
最低賃金「大幅引き上げ」が韓国経済を突き落とした
最低賃金の大幅引き上げが、2018~19年の2年間で約29%も行なわれたことだ。
これが、韓国の雇用構造を破壊した。とりわけ、自営業が最低賃金の大幅引き上げと週52時間労働制の実施で、相次いで破綻に追い込まれている。韓国の自営業比率は全雇用の約25%も占めている。日本の約10%に比べて特段の高さだ。
こういう高い韓国の自営業比率では、2年間で約3割もの賃上げを実現できるはずがない。賃金は、生産性上昇に見合わない限り、安定的に支払えないからだ。こういう、経済原則を無視する経済政策が、韓国の自営業を塗炭の苦しみに追い込んでいる。
自営業だけではない。中小・零細企業も同様の苦しみである。
経済不振がさらに出生率低下に拍車をかける
経済の破綻は、合計特殊出生率を引き下げた。次に、2010年以降の合計特殊出生率の推移を示した。
<韓国の合計特殊出生率推移>
2010年:1.23
2011年:1.24
2012年:1.30
2013年:1.19
2014年:1.21
2015年:1.24
2016年:1.17
2017年:1.05
2018年:0.98
2019年:0.88以下(予想)
2017年以降の合計特殊出生率は、それ以前と著しい変化が見られる。
2017年の合計特殊出生率は、1.05である。この時、すでに「変調」が見られる。これは、2016年10月から朴槿惠大統領の弾劾裁判の動きが始まっており、国民は先行きに不安を覚え、「出産抑制」に動いたと見られる。
Next: 文政権の間は出生率が減り続ける? ただし公務員家庭だけは2倍の新生児
文政権の間は出生率が減り続ける
韓国では、国民が政治不安に対して敏感である。消費者不安心理が高まって、個人消費抑制行動を取るのがパターンだ。
この不安心理は当然、出産意思にも影響するであろう。
韓国は、歴史的に中国の支配を受けて来た。これが、政治不安に敏感に対応する心理構造を生み出した要因と見られる。
朴大統領を弾劾することが、国民の4割を占める保守派の人々を不安にさせたのは当然。この影響がまず、2017年の合計特殊出生率の低下に現れた。そして、2018年以降は、本格的な文政権による「経済政策失敗」が拍車をかける結果になった。
これが、私の読みである。文政権が続く2021年までの合計特殊出生率は、「下り坂」一方と見るほかない。
その原因は、自営業破綻による雇用構造の破壊と失業率増加である。この2つの要因で、合計特殊出生率の急低下はほぼ説明可能であろう。
公務員家庭2倍の新生児
韓国の中には、以上のような低位な合計特殊出生率と「別世界」が存在する。公務員家庭である。ここでは、失業の心配はない。確実に昇給する。有休休暇も保障されている。サラリーマンの天国である。
<人口1000人当りの新生児数(2016年)>
国民 :14.5人
中央政府公務員 :32.7人
地方自治体公務員:30.7人
(資料:『朝鮮日報』2018年9月16日付)
公務員家庭の新生児数は、一般家庭の2倍以上である。
これが意味するのは、韓国社会全体が、公務員家庭と同じような生活環境を整備すれば、出生率が上がる可能性を示唆している。これは、誰でも気付くことだ。
「経済知識ゼロ」だった文政権
文政権は、手法を取り違えてしまった。民間企業では、生産性向上が賃上げの前提である。「生産性上昇>賃上げ率」が方程式である。文政権は、これが、「生産性上昇<賃上げ率」という真逆へ落ち込んだ。
かくして、韓国経済「沈没」のトリガーを引く不名誉な結果になった。
文政権は、生産性上昇と賃上げ率の基本的な関係を見落としていた。経済についての知識がゼロであったことを示している。韓国大統領府と与党「共に民主党」で、この間違った賃上げを指摘する者が一人もいなかったのだ。
その点が、悲劇的ですらある。誰も、経済の基本を理解していなかったのは、韓国の未来がきわめて暗いことを示唆している。
Next: 出生率は世界最低記録を更新中。それでも韓国の少子化対策は休眠状態?
少子化対策は「開店休業」状態へ
韓国が、少子化対策に取り組み始めたのは2006年である。
それから現在まで、毎年100種類ほどの対策を施行し、年平均20兆ウォン(約1兆8570億円)ほど、財政を支出してきた。
だが、合計特出生率は世界最低記録を更新中である。その理由を調査しないところに、政権の無関心さが表れている。
韓国で少子化対策の総本山は、「低出産高齢社会委員会」である。委員長は文在寅大統領だ。2017年末に大統領府で委員らと懇談会をした後、会議を開いたことがないという。実質的に委員会をリードする副委員長が、2カ月間も空席になっている。年末まで埋まる可能性はないと言われている。今年に入ってからも、委員会の全体会議が開かれていない。
低出産高齢社会委員会なるものは、麗々しく看板を掲げているものの休眠状態だ。
出生率目標を消してしまった
文政権は昨年、朴槿恵政権の第3次低出産高齢社会対策で使われていた「出産奨励」という言葉を排除し、出生率目標(1.5人)も消してしまった。
その代わりに、「ワーク・ライフ・バランス」(仕事と生活の調和)を強調している。生活の質が高まれば、出生率は自然に上がるという「人任せ」である。
肝心の「ワーク・ライフ・バランス」はどうなったか。
最低賃金の大幅引き上げと、週52時間労働制を強制した結果、失業者の急増を招いている。「ワーク・ライフ・バランス」など、ただの念仏に過ぎない存在に成り下がった。市民は血眼になっての仕事探しを強制されている。「ワーク・ライフ・バランス」の前提である、「ワーク」が消えてしまったのだ。
こういう体たらくの末に表れる「人口減社会」は、どのような結末になるのか。
Next: 「人口減社会」を待ち受ける悲惨な結末とは
「人口減社会」を待ち受ける悲惨な結末とは
韓国統計庁は2019年3月、将来人口推計を発表した。
総人口は、今や確実に2019年の5,165万人をピークに減少に転じる状況だ。総人口は2067年に3,365万人まで減り、1972年の水準まで低下する。今年の人口から見て、48年後には35%の減少だ。社会保障制度は維持できまい。
人口減社会は、従来の予測では2024年であった。こうした「繰り上がり状況」は、韓国の準備を間に合わなくさせている。
日本は、すでに人口減少社会だが、年金制度が完備している。日本は、2025年に合計特殊出生率を1.8(現在は1.4台)に引き上げる目標で種々、施策を行なっている。
韓国は、この目標すら放棄して「なすがままに」という諦めの状況である。
問題は官僚制度
これは、韓国の官僚制度に問題がある。
韓国大統領制は、権力が過剰に集中する意味で「李朝」そのものだ。これを反映して官僚は、「家産官僚制」という恣意的に動く集団である。近代官僚制は、決定事項を合理的に遂行するシステムである。韓国官僚制は、とうてい近代官僚制とは言えず、家産官僚制的な行動パターンだ。
人口減社会を上手く操作できる。そういう能力を欠いていると言うほかない。中国の官僚制と似た部分が多いのだ。
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- 香港人権法、米国が中国へ突付けた刃で新冷戦、習近平は逆境(12/5)
- 韓国の出生率は記録的急低下、確実になった地球上で「最初に消える国」(12/2)
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経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。