マネーボイス メニュー

トランプ大統領は案外対処しやすい相手?中国サイドからみた米中通商会議の現状とは=田代尚機

12月6日の中央政治局会議で2020年の経済運営方針が話し合われ、大きな方向性が定められた。2020年の中国はこれを受けて、どのような動きを見せるのかを解説する。(『中国株投資レッスン』田代尚機)

中国市場の2020年は、悪材料の解消が進む見込み

2020年の経済運営方針は、質の高さを追及

中央政治局会議が12月6日に開催され、2020年の経済運営方針が話し合われた。まず、中国共産党の指導機関である中央政治局によって大きな方向性が定められた。それを受けて、10日~12日に中央経済工作会議が実施され、さらに詳しい方針が決められた。中央経済工作会議は、中国共産党、国務院が開催する最も権威ある経済会議であり、その年の経済運営の成果を総括し、内外の経済情勢を研究、分析し、翌年のマクロ経済発展政策を作り上げる会議である。

国務院は今後、これらの会議で話し合われた内容に基づいて、国家としての2020年における経済運営方針案を作成、それは3月上旬(通常5日)に開催される全人代によって審議され、共産党の代表者による幅広い意見を吸収、修正したうえで、その年の正式な経済運営方針となる。地方政府、中央主管部門、国有企業はその内容に基づき、より具体的な運営・経営方針を定める。こうしたシステムで中国経済全体が回っていく。

中央経済工作会議に話を戻すと、マスコミを通じて、その概要、エコノミストたちの解説などが詳しく報じられている。そうした中で、人民網が来年の重大業務として、次の6点を示している。その内容は以下の通り。

1.新しい発展理念を断固として貫くこと

2.3つの大きな攻略すべき厳しい戦いを上手く打ち破る
(3つの戦いとは、重大な金融リスクの防止・解消、貧困からの脱却、環境汚染の防止)

3.民生、特に貧困層が基本的な生活を送れるように有効な保障、改善を行う

4.積極的な財政政策と穏健な金融政策を継続して実施する

5.質の高い経済発展を推し進める

6.経済体制改革を深化させる

また、澎湃新聞が14日に載せた某エコノミストによる見方(中央経済工作会議解釈:我々はどのような2020年を迎えようとしているのか)を紹介しておく。本土エコノミストの標準的な捉え方が上手くまとめられている。

Next: 金融市場のボラティリティは小さく、実体経済に重点を置く方向へ



<安定がすべての業務の基調となる>

科学的な成長リズムといった点、経済発展の構造、質を重視するといった点から経済を考える必要があるが、“一つ目の百年目標を達成させる”といった観点から考えると、2020年の経済成長率は5.4%以上を確保すれば、達成できる(5年に一度行われる経済センサス調査の結果が11月22日に発表された。これによって実質値計算の基礎となる基準が更新され、過去に遡って統計が修正される。そのため、以前の実質値基準では6%以上の成長が必要であったが、新しい基準では5.4%以上でよくなった)。

<企業における金融環境は更にフレンドリーなものとなる>

金融市場のボラティリティが小さくなる。問題金融機関に対する処理の経験が豊富となることで、金融リスクに対する当局の対応能力が向上、システマティックな金融リスクが発生する可能性が低くなる。そのほかの問題についても、有効な解決方法が見つかる。2020年の金融に関する監督管理の重点は、実体経済へのサービスに移る

<金融政策と財政政策は構造的な面への偏重がさらに高まる>

製造業への投資を引き上げること、製造業企業の資金流動性問題を緩和することが重視される。そのほか、民営企業、中小零細企業の資金調達難を和らげることが重視される。

●インフラ建設投資、スラム街など旧市街の改造建設が投資の底打ち回復のカギとなる

不動産価格コントロール政策が緩むことはないが、調整の目標は“安定”するか、もしくは“下落しない”ことになる

●資本市場改革は引き続き深化し、科創板テストの経験は創業板や新三板に応用される可能性がある

農業関連は2020年、中央の特別な関心を受ける

アフリカ豚コレラの影響で、豚肉の生産量が急減、価格が急騰した。CPIは4%を超えて上昇しており、インフレ期待が高まり、金融政策の効果が表れていない。中央はこの問題を高度に注視しており、関連部門は豚肉の在庫放出などを行い、豚肉価格の安定に努めている。2020年は、豚肉価格を安定させ、それを維持することが、重要な業務の一つとなる。

どの角度からみても、過剰流動性が発生し、それが株式市場になだれ込み、株価の急騰を引き起こすようなことはなさそうだ。というよりも、株価急騰を含め、バブルの発生を抑えることが業務の一つの柱となっている。もっともこうした内容は、これまでのコンセンサス通りである。サプライズがあるわけではない。

Next: 米中通商はの第一段階の協議合意で、中国改革開放政策は深化へ



意図的にバブル発生を抑え、経済成長の質を高める段階

日本のマスコミ報道の中には、中国は景気減速によって、雇用が圧迫されているとか、人民の不満が高まっているかのような内容も見受けられるが、少なくとも、当局や、本土のエコノミストたちの見方は、それとは大きく異なる。簡潔に言ってしまえば、“低い成長率だが、適切な成長率の範囲内にある。現在は経済発展の質を高めたり、貧富の差を縮めたりすることが重要である。バブルを発生させてはならない。金融のシステマティックリスクを防がなければならない…”。高い成長率を保つことは重要ではない。

国際要因では13日、好材料があった。

トランプ大統領はこの日、ツイッターを通じて、第一段階の合意に達したことを発表。通商代表部は、12月15日に発動を予定していたスマホ、ノートパソコンなど、これまで追加関税をかけてこなかったほとんどの製品に当たる1,600億ドル相当の中国からの輸入品に対する15%の追加関税措置の発動を見送ると発表した。

また、9月1日から実施されている、スマートウォッチ、ビデオゲーム用機器、玩具など1,200億ドル相当の輸入品に対する追加関税措置について、これまでの税率は15%であったが、7.5%に引き下げると発表した。

中国側も13日深夜、米中第一段階経貿協議声明を発表しており、第一段階の協議は合意に達したと伝えている。協議書は、序文、知的財産権、技術移転、食品・農産品、金融サービス、為替レートとその透明性、貿易の拡大、双方による評価と紛争解決、最終条款からなり、「アメリカは、段階的な追加関税措置の取り消しを承諾、追加関税率は引き上げから引き下げへと変更された」などと伝えている。

さらに、この協議は、「中国の改革開放政策を深化させるといった大きな方向性、自ら質の高い経済発展を推し進めるといった内在的な必要性と合致している」としており、外圧を通じて構造改革が進むといった効果があることも示している。

日本の報道をみていると、「米中貿易戦争が終わったわけではなく、単なる休戦であり、第2段階では、制裁関税措置の撤廃、農産物の購入規模などを巡って対立は続く」といった見方が多い。

この貿易戦争を仕掛けているのはトランプ大統領である。

トランプ大統領が関心を持つのは、有権者に対するアピールである。中国側によるアメリカからの農産品の輸入制限は票田である農民層に大きなダメージを与える。懲罰的な追加関税措置の実施は、増税分の消費者への転嫁を通じて、彼らにダメージを与える。トランプ大統領の中国人権問題に対する関心は低い。また、対中強硬派とは異なり、ビジネス重視の立場を取り、中国の台頭を感情的に受け入れられないということもない。中国にとって、トランプ大統領は案外、対処し易い相手である。

【関連】現金がもらえるキャンペーンの実施で?12月発行の個人向け国債が増加している背景=久保田博幸

【関連】成長株とバリュー株は、どちらの運用効果が高いのか?評価されない銘柄に注目するワケ=炎

【関連】海外不動産投資で年利10%を狙える…日本の常識では考えられない、その手法とは?=花輪陽子

image by : phol_66 / Shutterstock.com

中国株投資レッスン』(2019年12月20日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

無料メルマガ好評配信中

中国株投資レッスン

[無料 週刊]
TS・チャイナ・リサーチの田代尚機がお届けします。中国経済や中国株投資に関するエッセイを中心に、タイムリーな投資情報、投資戦略などをお伝えします。中国株投資で資産を大きく増やしたいと考える方はもちろん、ただ中国が好きだという方も大歓迎です。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。