2020年、東京五輪の後には不動産バブルが崩壊するとまことしやかにささやかれています。しかし、私は2つの理由から大幅な地価下落は起きないと考えます。(『1億円大家さん姫ちゃん☆不動産ノウハウ』姫野秀喜)
姫屋不動産コンサルティング(株)代表。1978年生まれ、福岡市出身。九州大学経済学部卒。アクセンチュア(株)で売上3,000億円超え企業の会計・経営計画策定などコンサルティングに従事。合間の不動産投資で資産1億円を達成し独立。年間100件以上行う現地調査の情報と高い問題解決力で、顧客ごとに戦略策定から実行までを一貫してサポートしている。
2つの理由でバブル崩壊は起こらない? 五輪後の不動産市場を占う
2020年、不動産業界はどうなる?
年末年始、不動産から離れて実家に帰省したり、旅行に出かけたり様々に楽しんでおられる方が多いと思います。
当たるも八卦当たらぬも八卦、来年のことを話すと鬼が笑うといいますが、この1年の振り返りと、2020年はどうなっていくのかということを大胆不敵に予想していこうと思います。
2019年はこんな年だった
2019年の不動産投資における1つ目のキーワードは「水害」です。
千葉県を襲い、武蔵小杉のタワーマンションを水没させた台風19号や21号、死者も出した多摩川の決壊など、首都圏の人口密集地で起きた大規模な「水害」により、1万棟以上の住宅が全壊し10万棟以上の住宅が被害にあいました。
また、その後に起きた大規模停電の長期化が住民を苦しめたのは記憶に新しいかと思います。
2018年の西日本豪雨に続いて今年は関東での水害が頻発し、ハザードマップの重要性を再認識した方も多いでしょう。
2つ目のキーワードは「不正の断罪」です。2018年に発覚したスルガ銀行の不正融資、レオパレスの施工不良問題、TATERUの融資資料改ざん問題など、社会をにぎわせた不正の数々に断罪が行われる1年となりました。
スルガ銀行は18年10月から6か月の業務停止命令を受け、旧経営陣も経営から退かされ35億円の損害賠償を請求されるなど2019年は波乱の連続となり、決算で971億円の赤字となりました。
またレオパレスの施工不良問題も次々と明るみに出て、2019年1月には約2,000棟の不備だったものが、7月には1万9,000棟を超え、もはや収集がつかない状態になっています。入居率も80%を割り込み、賃貸業として雲行きが怪しくなってきました。
TATERUに関しては、西京銀行に提出する顧客の預金残高を改ざんし水増しするなど私文書偽造を行っていたことに対し、19年7月に業務停止命令を受け、業績悪化を余儀なくされました。
住宅ローンを流用して投資用の区分所有を購入するという、かなり使い古された不正な手口についても、大手メディアに掲載されるなど、業界にはびこる不正の断罪が進んだ1年だったと思います。
そんな暗いニュースばかりを反映して、不動産市場は低迷をしていました。
融資は低迷どころか全面的に融資をストップした金融機関、新規のお客さんには融資しない方針とした金融機関など各社、軒並み融資の引き締めを行いました。多くの金融機関が融資を出さなくなった結果、融資が集中した一部のノンバンクは多忙だったとのことです。
大手金融機関の融資頼みだった新築建売系業者は、業績を悪化させています。
しかし、RCの区分所有を販売している業者は逆に好業績を残しています。どことは言いませんが、表面利回り5%や6%前後の低利回り区分所有を高金利長期ローンで売りさばくビジネスモデルの業者と、そこに融資している銀行やノンバンクだけは難を逃れたようです。
もちろん、賢い読者の皆様は5%や6%の低利回り区分所有に投資していないことを信じていますけどね!
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2020年の市況は?~気になる物件価格・利回り、融資の動向
さて、2020年の不動産市況ですが、劇的に良くなることはないと思いますが、徐々に改善されるというのが私の予想です。
一般の投資家が手を出せる価格帯の物件価格は少なくとも首都圏では2017年がピークだったと思いますが、融資が出ないにもかかわらず、そこから少しずつしか価格は下落していないのが現状です。
すなわち、表面利回りはそれほど回復していないというのが2019年末の状況です。
ですが、首都圏でもこの半年で価格が下がり、表面利回りが回復し始めたエリアもちらほら出てきました。
たとえば千葉県などは、水害の影響などもあるのか大幅に価格が下がり、一般の投資家でも利回り13%~15%の物件を購入することができるようになってきました。もちろん千葉県の東京寄りで23区へのアクセスが容易かつ駅からの距離も近い物件という前提でです。ほとんど東京という立地ですが、2017年には10%だと高利回りだと認識されていたエリアで13%~15%という数値が出るのは、価格の下落が始まっていることを示唆します。
2020年はこの傾向がさらに加速するものと思われます。首都圏の東側から順次、少しずつ利回りが上がってくるでしょう。
この流れを加速するのが、スルガ銀行など不正を行った金融機関の融資再開です。
2019年12月現在において、融資を停止していた金融機関が融資を再開し始めました。ないがしろにされていた融資条件(物件価格の何割まで、エビデンスは原本確認等)を徹底するとともに、コンプライアンスを向上して融資をしていくとのことです。
多数の不正を行っていた神奈川県付近の支店ではまだ自粛ムードで融資は再開されていないようですが、それ以外ではすでに新規顧客への融資がスタートしています。
なお、コンプライアンスを高めた結果、金融機関自体も不動産業者を選別するようになっており、不正に加担した不動産業者の物件については融資は出ないそうです。
また、レオパレス物件については、融資不可となっている銀行が多いため、今後価格の下落が見込めるかもしれません。
オリンピック後に不動産バブルは崩壊するのか?
公示地価など不動産のマクロ的指標だけを見ていると、あたかも地価が上がっているかのようにとらえられるのですが、実際はどうでしょうか。
2020年のオリンピック後には、不動産バブルが崩壊するとまことしやかにささやかれていますが、私は2020年に大幅な地価下落が起きるとは考えていません。
理由は2つあります。
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2つの理由でバブル崩壊は起こらない
1つ目の理由は、土地バブルはオリンピック開催地以外の場所で起こっているということ。
2つ目の理由は、そもそも日本全体のほとんどの地域では地価は上がっていない(すなわちそもそもバブってない)ということです。
<東京オリンピックは地価上昇と無関係>
1つ目の理由ですが、土地バブルは東京では起こっていません。確かに東京の中心部にあるレジデンスや商業ビルを5億、10億といった現金で買い付けてくる外資系資本も存在しますが、その範囲はかなり限定的です。23区内でも中心部分だけで、それ以外の区はとくに盛り上がっているわけではありません。
実は、土地バブルを引き起こしているのは、北海道・沖縄・大阪です(図表①参照)。
特に北海道の倶知安町(くっちゃんちょう)については、前年比で地価変動率が57.7%とバブル時代の3大都市圏(東名阪)を超える高水準となっています。この倶知安町については、確かにバブルの側面はありますが、町を挙げてインバウンド誘致や様々な政策をとっており、その努力が実を結んだと必然とも言えます。
沖縄や大阪でも20%を超える地価上昇がみられますので、一部地域ではバブルが起きているといえなくもありません。
しかし、東京オリンピックのおひざ元である台東区はギリギリ10位になる程度しか地価上昇していません。地価が著しく上昇しているエリアを見ていくと、東京オリンピックは直接的に関係ないということが言えるのです。
地方でバブルが起きているのは、観光地としての魅力を高めている状況に人々が我先に乗ろうとしている結果だからです。言い換えると、オリンピックに対し流入している資金とは別の流れということです。
地方のバブルに乗っかっている人たちは、オリンピックには関係なしに、今からバブル崩壊に備えてください。誰もが良いと思うから自分も良いと思うという誤謬に基づく判断が経済を形作るバブル現象は、典型的なケインズの美人投票です。
実力に裏打ちされた価格上昇ではないため、いずれ崩壊するのは明らかです。
そうならないためには、現在バブって急ピッチに過剰設備投資を行っている観光地は、そのファンダメンタルズ(基礎的な力)を高める必要があります。具体的にはアジア諸国の中で、沖縄や北海道という観光地のブランドを確立することです。
今後もアジア諸国や中国の所得が上がることで、海外旅行をする人口が増え続けるわけですから、日本はその人々を魅了し続けるために実力を高めていかなくてはならないのです。
これはオリンピックや万博など一時的なモノではなく、不断の努力によらなくてはなりません。そういう視点で見ると、横浜のIR構想は日本の観光力を一段底上げする有益な政策といえるでしょう(カジノがあれば富裕層が来るという短絡的なものではないと思いますけどね…)。
Next: そもそも日本はバブルじゃない?崩壊するほど上昇していない不動産相場
<そもそも日本にバブルは来ていない>
2つ目の理由ですが、そもそも日本は別にバブっていません。バブっていないのですから、崩壊するものがありません。
国土交通省の地価公示によれば、2019年の地価は上昇しています(図表②参照)。
全用途平均で見ると、全国で地価は前年比1.2%上昇しています。東名阪の3大都市圏だけで見ると2%、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)は5.9%も上昇しています。
この数値だけ見ると確かに地価は若干の上昇傾向にあることがわかりますが、バブルというにはさすがに上昇率が低すぎるのです。
以下の図表③は、1976年から2019年までの地価変動推移をグラフ化したものです。
これを見ると一目瞭然ですが、1987年前後の地価上昇率は突出しています。これがバブルです。
これに比較すれば、2007年前後のITバブルの時期でも大したことない上昇率だったことがわかります。いわんや2019年の地価上昇をやです。
つまり、オリンピックバブルなどほとんど存在していないということなのです。さらにバブルでないのは各都道府県の地価変動率を見ていくとより明確になります。
以下の図表④は、都道府県別の地価変動率です。
これを見ると47都道府県のうち、かろうじてプラスが15都府県であり、残りの32道県はマイナスであることがわかります。
沖縄や東京はプラス幅がそれなりに大きいものの、全国1位の上昇率となった倶知安町を有する北海道は小幅ながらマイナスです。
これらのことから、現状のオリンピックバブルなどはそもそも(一部以外)存在しないわけで、存在しないものの崩壊を恐れるのは、杞憂というわけです。
そもそもかつての土地バブルの反省をもとに様々な政策、税制などが整備されているため、現在の日本で土地価格の極端な乱高下は起きず、ソフトに上昇・下降をするはずなのです。
ということで、2020年にオリンピックが終わったとしても、日本の国土の99%には影響がでないのです。
Next: 貯金だけでは貧困に。2020年の不動産投資は攻めるべき?守るべき?
2020年の不動産投資は、攻めるべきか、守るべきか
さて、最後に読者の皆様、1人1人が2020年に不動産投資でどう行動すべきかの指針を検討したいと思います。
2020年は攻めるべきか、守るべきかです。
<攻めてもよい人はこんな人>
まず、不動産投資を行いたい人で、攻めるべき(攻めてもよい)人は、こういう人です。
- 投資用ローンが組めるギリギリの年齢の人
- そろそろ健康診断の結果が黄信号になってきた人
- 地価上昇エリア(3大都市圏や地方4市)に地の利がある人
不動産投資は融資が必要になりますので、ローンが組めないと話になりません。
銀行にもよりますが「70歳ー年齢=最大融資期間」としている金融機関もありますので、若ければ若いほど有利となります。ご自身の年齢に不安がある方は、景気動向に左右されず、1年でも期間が延びるうちに好条件の物件を買ってしまう必要があるでしょう。
また、同様に健康診断の結果が微妙だった人は、早めに購入したほうが良いでしょう。
というのも、大病や一部の持病があると、団体信用生命保険(団信)に加入できず、ローン不可となる恐れがあるからです。
健康診断でメタボや高血圧など黄信号が灯った人は、日々の生活習慣に気をつけて、これ以上悪化しないようにしてください。同時に、団信に入れるうちに物件探しを行う必要があるでしょう。
ご家族にガンなど大病を患った方がいる場合は、ご自身の家系では何歳くらいに大病になっている親戚がいるのか把握することで、ご自身が大病を患うまでのリミットを知ることができるでしょう。そういう方は、元気なうちに物件購入しておかないと、今後の拡大は見込めなくなってしまいます。
2020年は一部の金融機関が門戸を再び開き始めるため、努力次第で2019年よりも融資の可能性は広がってくるでしょう。その機会をしっかりと捉えてがんばりましょう。
最後に、基本中の基本ですが、不動産投資は、人口増加、人口集中しているエリアに在住している方や、アクセスできる方など、地の利があるというのが絶対条件です。
努力で立地の不利をカバーすることができないとは言いませんが、それができるのは努力する人かつスーパー経営センスの持ち主だけです。そういう人は、不動産投資に限らずどんなビジネスでも成功できると思います。
そういうスーパー経営センスがなくても、努力で誰でもそこそこ成功できるというのが、不動産投資の醍醐味だと私は思います。
ですので、普通の人が成功するためには最初に立地ありきで、好立地に地の利があるのが絶対条件なのです。
2020年に不動産投資を始めたいという意思が強いのであれば、人口増加・人口集中エリアにアクセスできるようになってください。まずはそれからです。
Next: 焦りは禁物? 2020年、守りを固めた方がいいのはこんな人
<こんな人は守りを固めて、焦って動かないこと>
次は2020年、守りを固めるべき人についてです。
以下のような人は、焦って2020年に動かなくても大丈夫です。それよりも、しっかりと守りを固めてください。
- すでに物件が回っている人
- 現在の物件ローンを高金利で借りている人
- まだ若く、預金が少ない人
2020年は都市圏でも外周エリアの物件で、多少利回りが回復することが見込まれます。
ですが、すでに物件を保有しその物件が十分収益を上げている人であれば、わざわざ買い進める必要はないでしょう。
というのも、いまだ23区内など好立地エリアでは物件価格の高騰が続いているからです。
ご自身の保有する物件と比較して、それ以下のレベルの物件しか出ていないのであれば、焦って買う必要はまったくありません。
また、現在の物件のローンが高金利の人も同じ理由で、まずは守りを固めるべきでしょう。
低金利の金融機関に借り換えと繰り上げ返済を行うことで、金利負担を減らし、担保保全力を高めましょう。来るべき物件価格の下落に備え、いま手持ちの物件が共同担保として使えるように準備するのが望ましいでしょう。
最後に、まだ若く、預金のない人は、焦らず備えてください。年齢が若ければローンで十分な期間をとることができますので、直近の1〜2年で焦る必要はありません。
2020年は金融機関の融資が再稼働し始めるといっても、まだまだ条件は厳しく、預金が少ない人は相手にしてもらえませんので、まずは物件価格の2割程度は頑張って預金してください。
投資物件の99%は「ハズレ物件」?
不動産投資は基本的に人生において“やっても、やらなくても良いこと”です。
そして、投資物件の99%は、ハズレ物件です。かぼちゃの馬車やレオパレスのように、営業マンが全部やってくれるみたいなお客様気分で不動産投資に参入すれば、99%のハズレを掴むことになります。
“やらなくても良いこと”に手を出して、大損するなんてあほらしいです。ろくでもない物件を買うくらいなら、やらないほうがマシなのが不動産投資です。
2020年に、どうしても不動産投資を始めたいのであれば、覚悟を持ってめちゃめちゃ勉強して参入してください。まずは新年早々に大きめの本屋に行って、不動産投資の本を30冊買うことから始めましょう。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年12月26日)
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