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米株、日本株は妥当値なのか?日経225の予想PER15倍に込められた投資家の期待とは=吉田繁治

現在の日経225の予想PER15倍とは、はたして妥当な値なのでしょうか?そこで今回は、投資家の期待とリスク、日米の株価に与える背景などを解説していきます。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)

※本記事は有料メルマガ『ビジネス知識源プレミアム』2020年1月20日号の一部抜粋です。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

日本株の予想PER妥当値はPER15倍、2020年の金融経済の予測

株価理論の拠り所は『現代ファイナンス論』

オプション料を計算するブラック・ショールズの方程式を作ったロバート・マートンが共著者である『現代ファイナンス論』での株価は、「次期予想純益×PER=次期純益÷株の益回り率=将来利益を益回り率で割り引いた無限等比級数」とされています。

ゼロ金利の現在、日本株(日経平均)の予想PERの妥当値は、15倍(株式益回りは6.67%)とされています(日経新聞:12月29日1面トップ記事)。IT株が高い米国株の予想PERは、
18倍付近です。

単独では、トヨタのPERは約10倍(株式益回り=リスク率10%)であり、企業規模と利益額は大きくても、純益の将来期待値は低い。一方ユニクロは38.4倍(株式益回り=リスク率2.6%)であり、将来純益の増加期待が高い。

【PER15倍の意味】

日経平均の価格が妥当とされているPER15倍のときは、1年当たり6.67%の割引率が、225社の合計企業純益のリスク部分です。

1年先は6.67%の純益リスク、2年先は(1-0.0667≒0.9333)を二乗した12.9%、3年先は三乗の18.8%…の純益リスクです。心理的な株価も、理論的な面では(1-株式益回り)の無限等比級数とみることができます。だたし、株式益回り率が投資家心理で変わるので、全体は心理的な方向性をもつブラウン運動の波動になります。

株式の益回りは、トヨタ(10%)とユニクロ(2.6%)のように、業界と企業によって異なります。将来純益の増加期待が高い会社は、株式の益回りがユニクロのように2.6%と低い(逆数のPERは38.4倍と高い)。

将来の期待純益が大きな米国のAmazon(株価時価総額は100兆円:トヨタの5倍)のPERは82倍です。株式益回りは「1÷82=1.22%」と低い。投資家の集合知で、ネット販売に将来の大きな利益が期待(=予想)されているからです。

1989年の日経225社の平均が80倍の予想PERのとき、日本の株式投資家は日本企業の将来純益が6倍くらいに増えるとみていたことになります(割引率=期待益回りは現在のAmazonに似た1.25%)。

米国の投資銀行は、当時の日本人投資家の高い期待を、横並び傾向の集団心理がもたらした「非合理なバブル」と見たのです。では、AmazonのPER82倍(割引率1.22%)は合理的な期待でしょうか(19年末)。科学的な解答はない。感性的な解答はあります。

Next: 米国の時価総額上位5社の評価は、妥当値とどれほど乖離しているのか?



米国の最上位株価の5社

米国の株価時価総額で、最上位の企業を示します。フェイスブックの5,750億ドル(63兆円)を除き、日本で1位のトヨタ(25兆円)の4倍の100兆円以上です(19年11月時点)。

懸案は、「世界中の過剰流動性」で上がってきたこれらの株価が高すぎるのか、妥当かの判断でしょう。

米国市場の80%の投資家は、妥当と判断しているでしょう。古来、バブルのなかでは、バブルとは認識されません。崩壊してはじめて、あの時はバブルだったわかると、データマニアだった元FRB議長のグリーンスパンも責任逃れとして述べています。

      時価総額  予想PER  将来純益割引率(=益回り)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
Apple   1,1870億ドル 15.2倍  6.6%  妥当値から+50%
Microsoft 1,1540億ドル 31.8倍  3.1%  妥当値から+50%
Google    8990億ドル 30.8倍  3.2%  妥当値から+50%
Amazon    8620億ドル 82.8倍  1.2%  妥当値から+70%
Facebook   5750億ドル 24.8倍  4.0%  妥当値から-40%
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※参考:世界投資

(注)アップルは、2010年代から、積極的な自社株買いを続けて株数を減らし、1株当たり純益を増やすことにより、見かけ上のPER(株価÷1株当たり純益)を15.2倍に下げています。米国には、時価総額100兆円のIT企業が、4社もあります。Googleは社名ではアルファベットです。

【1990年代後半の米国IT株バブル】

5社の株価は、20年前のIT株バブル(ドットコム・バブル)に似ています。IT企業が多いナスダックは、Windows95の1995年から上がり始め、4年後の2000年3月には、5倍に達しました。

2000年4月からは、2001年の9.11をはさんで、2002年にかけ、ピークの5,048ポイントから77.9%下がり、1,114ポイント(22.1%)に下がったのです。「半値、八掛け、2割引き=0.5×0.8×0.8=0.32」以下でした。

上げた速度が速いほど(4年で5倍)、破産の恐怖に駆られた投資家の投げ売りで下がるときの底が深い。

定価のない株価は、物価と違い、「売り>買い」になった市場で売買が一致するところまで、下がります(米国株には、額面もありません)。このときは、下がるから売りが増えて一層下がるという理由づけになります。しかし、相場商品は底値で終了ではない。

低く行き過ぎる底値で買うと、利益は大きくなります。しかしこれは、およそ90%以上の投資家とメディアが、底なしの恐怖に駆られている時期に、独り、買い進むことです。

将来の計算と蛮勇(アニマルスピリット)が必要です。株価バブルの崩壊のときの底値の判断は、経験から見出された法則である経験則では、「半値・八掛け・二割引き=32%」付近でしょう。

2002年に、1,114ポイントに下げたナスダックが、2000年3月の5,000ポイントを回復したのは2015年です。08年のリーマン危機を挟んで、13年を要しています。

1989年までの日本の株価バブルの底値も日経平均で8,000円、ピークの3万8,900円から20%でした。PER(株価÷1株あたりの次期予想純益)が上がるときに経済合理性がない株価は、PERが下がるときも経済合理性はありません。

Next: 2019年の株価の方向性は、FRBの利下げで事前の予測と変化した



昨年秋の2019年株価への当方の予想

昨年の2019年株価予想では、以下の趣旨を書きました。

(1)2011年から18年までが4兆ドル(440兆円)であり、株価上昇の主因だった米国の自社株買いは、2019年はさすがに減少の方向に転じるだろう。2018年には自社株買いをしても、株価は下がったからである。

減る自社株買いより、2017年に発効したトランプ減税(法人税35%→21%:-40%)という要素で上がってきた株価は、下がるだろう。40%の減税は、企業の利益が同じでも、1株あたり純益(税後利益)を40%上げるからである。米国の会計では、法人税の支払いは、利益金処分ではなく、経費とされている。

(2)しかし、FRBが、過去4年の利上げから、2019年は利下げに転じ、ドルを増発したときは、自社株買いの減少による米国株低下を、カバーする。米国の株価下落が銀行の資本危機になることをFRBは知っているので、FRBは、金融緩和に転じるだろう。
※参考:【図解・国際】米政策金利の推移‐時事ドットコム

2019年の自社株買いは、確かに20%くらい減りました。
※参考:米企業の自社株買い減速、下支え失う市場‐THE WALL STREET JOURNAL.(2019年8月22日公開)

しかし2018年秋の25%の下落が銀行危機になることを恐れたFRBは、
・2019年には利下げをして(3回:0.75%)、
・レポ金利が10%に上がった19年9月18日からは、米銀のドル不足に対応して、3か月で8000億ドル(88兆円)の緊急ドル供給を行っています。

とりわけ19年12月は、4,900億ドル(53兆円)という巨額でした。目的は、ドルが不足していたヘッジファンドに投資銀行経由でマネーを預託して株買いを行わせることです。
※参考:FRB、金利抑制に全力 越年資金53兆円供給‐日本経済新聞(2019年12月15日公開)

【2019年の、FRBによる金融緩和の効果】

FRBの、半年で巨大になった金融緩和(8,000億ドル:88兆円)による株価対策で、米国債の増発(1.4兆ドル:154兆円:17年の2.5倍)と中国の売りから来ていた、米銀のドル不足(半年で推計8,000億ドル)が解消され、銀行がもつ国債を買い上げることにより、増刷された短期マネー(FRBのレポ金融)が、銀行からヘッジファンドに供給されました。

2019年のNYダウの上昇は、25%です(年初2万3,000ドル→年末2万8,645ドル)。株価の時価総額が世界の40%もある米国株に動かされて、欧州、日本、世界の株も約20%上がったのです(2019年)。

【清算売りは3か月から6か月後】

銀行への現金の供給を、投資の預託マネーとして受けたヘッジファンドの、レバレッジがかかる先物買いにより、米国株は逆に上がっています。しかし、3か月から6か月先には(2020年の3月から6月)、先物買いの清算の売りも、同じだけ大きくなります。

20年3月から6月には、仮に、FRBによる追加の金融緩和がない場合、米国株の下落が予想されます。経済のファンダメンタルズ(基礎的な指標(GDPの増加、失業率、金利、輸出入の増加)とは無関係に、「ヘッジファンドの先物買い=限月の数か月後は清算売り」になるからです。

【先物買いの原理】

先物の買い越しのあとには、同額の清算売りが生じます。先物で、1年間上げるには、先物買いを増やしていかねばならないのですが、この場合は、一層大きくなった、清算売りの時期がきます。短期(3~6か月)の株価を動かす先物の売買は、長期(1年)の株価には、中立的です。

Next: 2020年の米国株は、現在の状況からどうなると考えられるのか?



2020年の米国株、株買いの原資からの予想

(1)2020年のマネーの動きで、確定していること

まず、拡大した財政赤字(減税+医療費・年金の増加傾向)からの、米国債の新規発行が、1.5兆ドル(165兆円:1か月の平均で13.75兆円)と大きくなります。

i)日本の金融機関の米国債の買い増しは、10兆円程度でしょう。

ii)18年8月のトランプ関税から貿易黒字が減っている中国の米国債の買い増しは、少なくなります。逆に、米国債の売りがある可能性が高いでしょう。

iii)2018年の、80ドルからの石油価格の下落(60ドル付近:19年10月)から、財政が赤字になっているサウジ(-321億リアル:約9兆円)は、米国債の売り手にはなっても、買い手ではない。

iv)ブレグジットと中国貿易の減少が重なって、先進国でもっと不況になっている欧州も、米国債を買い増す余力はない。

欧州の全部の銀行が、日本の-0.2%より一段深いマイナス金利(-0.6%~-0.4%)がもたした利益危機に対し、合計で6万人以上の人員カットの最中です。日本の国債のゼロ~マイナス金利を主因として、本業が赤字の地銀(105行のうち42行:構成比40%)に似ています。

ゼロ金利が銀行の赤字をもたらすときは、日銀はゼロ金利を停止しなければならない。しかし利上げをすると、1,000兆円の国債金利が上がって、国債価格が下がるので、金利序章には踏み切っていません。

以上の事情から、増える米国債1.5兆ドル(月平均1,250億ドル:13兆7,500億円/月)のうち、およそ1.2兆ドル(月平均1,000億ドル:11兆円)は、一旦は、米銀が財務省に入札して買わねばならない。(注)海外銀行も入札します。

米銀による、1か月に約11兆円の国債買いが続くことは、「米銀システムでの、2019年より大きなドル不足」を意味しています。国債を買うために、株を買い増すどころか、逆に、換金売りが増えるでしょう。

米国は、ドルの海外流出を示す経常収支が、構造的な赤字(2019年は5,394億ドルに増加:59兆円)です。このため、米銀には、新しく発行される米国債を、全量は買い受ける資金がなく、発行が増えた国債を買えば、銀行が現金不足になるからです。(注)日本は、経常収支(貿易収支+海外投資の所得収支)が黒字であり(2019年は1721億ドル:19兆円)、新規国債の全量の国内での引き受けができます。

(注)米国の赤字国債が、米政府の財政支出(医療費・年金・公共事業)になると、企業と世帯の預金を通じ銀行預金になっていずれ戻ってきます。しかしそれには、半年以上の時間差があり、その間、銀行の国債の買いが増えた分、ドル現金が不足するでしょう。

Next: 2019年の米国企業の自社株買いは前年から20%減少した



2020年の自社株買いは増えない

2011年から、米国株上昇の原動力になっていた自社株買い(2011年~18年で4兆ドル:440兆円)は、2018年がピークであり、8,000億ドル(88兆円)でした。2019年は、6,400億ドル(70兆円)に減っているでしょう(前半四半期の傾向からの推計)。20%の減少です。
※参考:米企業の自社株買い減速、下支え失う市場‐THE WALL STREET JOURNAL.(2019年8月22日公開)

2020年は、6,400億ドル(70兆円)以上の自社株買いがあることは、想定できません。自社株買いの原資だった社債発行(企業負債の増加)の過剰が生じているため減少するでしょう。発行が増える国債を買うために生じる米銀のドル不足と重なって、自社株買いの減少も米国株を下げる要素です。

物価上昇率(米国は2.44%:2018年)を引いた実質金利が、マイナスなっているなかで、米国企業の借入金が、GDPの上昇率を上回って増え続けてきました。これ以上企業負債が増えれば、デフォルトが増える限界点である15兆ドル(1,700兆円)超になっているからです(2019年)。企業負債の増加になる社債の新規発行による、自社買いは、増加の限界点に達しています。
※参考:FRB、米企業債務膨張を警戒 過去最大の15兆ドル‐日本経済新聞(2019年5月21日公開)

FRBによる、銀行システムへのドル供給

2019年12月には、FRBは「テクニカルな越年資金」と市場を煙に巻きながら、4,900億ドル(53兆円)の銀行保有国債・債券を買って、現金を供給しました。加えて、2020年の6月まで、毎月500億ドル(5.5兆円)の国債買いを続けることは、19年9月に明らかにしています。

しかし、トランプ財政(減税+軍事費と公的医療費・年金の増加+公共投資)から1.5兆ドル(165兆円)に新規発行が増える米国債に対し、FRBの資金供給の月500億ドル(年間6,000億ドルペース:66兆円)では、足りません。

2020年は、FRBが年間で1兆ドル以上の史上最大の「国債買いとドル供給(わが国の異次元緩和の最大が80兆円/年)」を行わないと、現金が国債に吸収されて、金融機関とヘッジファンドが株を買い増す原資が少なくなるでしょう。

【米国の金利は下げる】

FRBが、仮に年間1.2兆ドル(132兆円)の金融緩和(国債買いとドルの増発)を行うと、米国の短期金利も、現在の「1.50%~1.75%のFRBによる誘導ゾーン」から少なくとも1.0%には下がるでしょう。(注)トランプ大統領は、FRBに「パウエルの首をすげ変える」として供給している短期金利は、0%~0.5%です。

ドル国債の金利が1.0%に下がって、イールド(内外金利差)がなくなると問題になるのが、日本・中国・産油国・欧州からの、米国債の売りです。海外は、米国債の約40%の、737兆円のドル国債を持っています。海外から買ってきた金融機関には、「米国債の高い金利-自国の低い金利=プラスのイールド」が誘因になっていたからです

【イールドスプレッドの縮小】

米国債の金利と海外の金利差をイールドスプレッド(金利差)といいます。ドルとの金利差が1%から0.5%に向かって小さくなったとき、金利低下の過程では上がる米国債の、海外からの売りが増えないかという懸念です。(注)金利0.5%や1.0%に低くなった国債は、金利の上昇による国債価格下落のリスクが大きくなります。

海外は、米国債を6.7兆ドル(737兆円)もっています。日本が1.1兆ドル、中国が1.1兆ドル、英国が3340億ドル…です(19年12月)。
※参考:MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES

対外的な経常収支(貿易収支+所得収支)が構造的な赤字であるため、「数年の長期では」必然のドル安が予想される米国債を、海外が買ってきたのは、米国と2.5%金利差があるからでした。2.5%という超過金利の受け取りによって、米国債のドル安リスクを消していたのです。
(注)1年に2.5%のドル安を、米国の株、国債、社債を買うときのリスクと見ていたといっても同じです。

Next: 2020年はドル国債買いが見込めない…その背景とは?



【日欧の金利がマイナス圏から上昇の気配を示す】

2019年12月には、日本の長期金利は、-0.2%のマイナス圏から、0%に上がっています(10年債の価格は2%下落:100万円→98万円)。

日本の金利が、どこまでも下がる時代は、2019年9月に終わっています(10年債の金利-0.3%)。19年12月からは、0.010%のプラス圏です。

この長期金利の上昇の原因は、国債買い(銀行の国債売り)の困難に陥った日銀による国債の買いが1年50兆円のペースから、2018年は40兆円、19年は20兆円と、白川総裁時代の水準に減ったからです。黒田日銀は、黙ったままで、異次元緩和(年50兆円の国債買い)はやめています。

このため、円の長期金利が0.3%上がり、米国債とのスプレッドは1.4%に縮小しています。欧州でもマイナス金利への誘導は終わりつつあります(-0.6%が、-0.2%に上がっています)。日本とユーロのマイナス金利の時代は終わったのです。海外に米国債を買わせていたイールドスプレッドは、今後、縮小します。
※参考:日本国債10年 年利回り(楽天証券)
※参考:日銀、「異次元」の国債購入終了 黒田緩和前の水準に‐日本経済新聞(2019年9月11日公開)

【中国の貿易黒字は、減少している】

中国は、18年8月以降のトランプ関税から、世界への輸出が減り、貿易黒字(=基軸通貨ドルの流入)は、2015年の5,930億ドルから2018年は3,509億ドル(38兆円:GDPの2.5%)に減っています。

短期負債が64.7%と多い、ドル建ての対外負債(1.9兆ドル:209兆円)の返済のために、中国にとって最低限必要なものであり、この貿易黒字ではドル国債を買い増すことはできません。

2019年は、トランプ関税から中国の貿易黒字は、一層減っています。2020年に、これが増えることはない。欧州、日本、米国への輸出も減っているからです。

人民元とドルの交換の中心である香港の、市民・学生からの民主化要求の持続が加わって、中国は、今、大変な事態です。過去から、中国の富裕者と企業からのマネーロンダリングが多い英国系のHSBC(総資産2.2兆ドル)が、その銀行です。中国は、香港で「人民元売り/ドル買い」をしてきました。
※参考:中国の貿易収支・貿易輸出入額の推移‐世界経済のネタ帳(2019年10月18日公開)

※参考:中国、8月の輸出・輸入とも前年割れ 対米が大幅減‐日本経済新聞(2019年9月8日公開)
※参考:中国が外貨準備の詳細を初めて公表、ドル依存度が低下‐JEORO(2019年8月13日公開)

中国政府は、GDPの実質成長を6%台と、実態より高くしているため、GDPのプラス要素である貿易黒字の数字を減らすことができない。
(注)実際のGDP成長は、3ポイントは低い3%台でしょう。

中国の輸出額にも、粉飾(ドレッシング)があります。本当は、貿易黒字がなくなっているかもしれない。2020年の中国は、ドル国債の買いどころか、外貨準備の売りに回る可能性も高いのです。

以上で挙げた事情から、海外つまり、日本、中国、産油国、欧州からのドル国債買いは、2020年は大きくは見込めません。

◎米国債の買いが増える米銀を、ドル不足に陥らせないためには、FRBのドル国債の買いとドル増発が1兆ドル(110兆円:毎月約10兆円)以上は必要になります。

FRBがドルの供給をしないと、買うための原資(ドルの現金)が減った米国株は下がるからです。米国株が下がれば、同じ率、日本株も下がるでしょう。

Next: FRBは株価を下げないために、1兆ドルの国債買いを迫られる…



FRBの対応の予想と、ドル増発で生じるドル安

◎2020年の米国FRBは、株価を下げないために「年間で1兆ドルの国債買い」というQE4(量的緩和第4弾)の開始を迫られるでしょう。そのとき、海外からのドル債の売りの超過からドル安になると、大統領選挙の年の米国株にとっては、致命的になっていくでしょう。海外がドル債券(米国の国債、社債、株)をもつ米国には、ドル安は株価にとって危険です

(注)米国の対外負債を1/2に減らしたプラザ合意(1985年)のような、一挙のドル切り下げは、また別のことです。このときは、対米貿易が黒字だったドイツと日本が、外貨準備のドル売りで損をすることに協力したのです。

市場の売買で価格が決まる相場商品の株価(売買で動くリスク資産)は、価格が株に比べれば少ししか動かない債券(金利で動く安全資産)と違い、上がるか、下がるかです。1年間の波動が、直線で横ばいになることはない。下がる要素が少ない時は上がり、上がるための資金的な要素が少ないときは下げます。

【株ETFの買い】

米国FRBも、日銀のように、株ETFの買いに、乗り出すでしょうか。米国株が下がったときは、十分に考えることができます。

FRBが、直接に株ETFを買えば、米国株も、日本のように30%高い官製相場になります。しかし、時価総額が3800兆円と日本の6倍なので、株ETFの買いに必要な資金も、日銀の6倍(1年に36兆円)と大きい。2020年の米国株を支えるのは、FRBだけになりました。

(注)短期売買が多い米国株の1日売買額は大きいので、FRBが株価買い支えのため株ETFを買うとなると、「米国株も官製相場になった」と見た売りが増えて、下がる可能性もあります。株への官の関与をいとわない日本と違い、米国は「民間市場性」が強い国です。

●トランプ減税のあとの米国は、赤字の財政支出が拡大しているので、赤字国債をFRBが買い受けて、エコノミストの主流派が反対しているMMT(現代貨幣論)を実践することになっていくでしょう。

米国FRBは、なんとしても、リーマン危機以上の金融危機になる30%の株価下落は、避けなければならない。2020年に米国株が大きく下がる確率は60%以上と見ています。

FRBが、2020年にも、株価を下げないために、ドルの増刷とQE4(6年ぶりの量的緩和、第4弾)として再開した場合、増刷されたドルがドル安に向かうからです。ドル安とは、海外からの米国債、米国株、米国社債の売りです。

対外債務国である米国の株価は、ドル高(海外からのドル債の買い)で上がり、ドル安(海外からのドル債の売り)で下がるからです。
(注)対外債権国の日本は、円安で株価が上がり、円高で下がりますが、債務国の米国は逆です。

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