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時給は上げないでくれ? 日本の貧困層は「最低賃金引き上げ」でさらに貧困化する=鈴木傾城

2019年10月、最低賃金が引き上げられた。これを歓迎する貧困層は多い。しかし、場合によってはアンダークラスはより貧困化する可能性もあり得る。(『鈴木傾城の「ダークネス」メルマガ編』)

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プロフィール:鈴木傾城(すずき けいせい)
作家、アルファブロガー。政治・経済分野に精通し、様々な事件や事象を取りあげるブログ「ダークネス」、アジアの闇をテーマにしたブログ「ブラックアジア」を運営している。

米国の二の舞?「最低賃金引き上げで貧困問題は解消する」は幻想

アンダークラスはさらに貧困化する?

日本では2019年10月から最低賃金が引き上げられた。これを歓迎するアンダークラス(貧困層)は多い。しかし、単純に最低賃金が引き上げられたからと言って、アンダークラスがみんな救済されるわけではない。

場合によっては、最低賃金を引き上げたことで、アンダークラスはより貧困化する可能性もあり得る。

最低賃金を引き上げると、企業は人件費というコストの増大に直面する。人件費の支払いが多いと、最終的に企業の利益は減る。

従業員の賃金増を喜んで利益の減少を甘んじて受け入れる経営者も中にはいるかもしれないが、ほとんどの経営者はそのように考えない。人件費の上昇によって利益が減るという事態に直面した企業は、いくつかの方策を考える。

その中で最も簡単な方法は、「従業員を減らす」というものだ。

3人の従業員が1つの仕事をしていたら、2人の従業員にそれをやらせて1人をクビにする。そうすれば、最低賃金の上昇分だけのコストを省くことが可能になる。どこの企業でも真っ先にそれを考えるだろう。

もうひとつ方法は、「AI(人工知能)やロボット化や無人化」などの合理化を推し進めるというものだ。

これらの合理化が成功すれば、より少ない人員で仕事が回せるようになるので、例えば3人働いているところを1人にして、2人をクビにすることができるようになるかもしれない。

他の企業が合理化に成功したら、自分の企業だけ人件費をかけて経営していたら利益減で淘汰されてしまうので、合理化は急速に社会に取り入れられていく。

もし従業員を減らすことも合理化もできない上に、経営がギリギリの企業があれば、どうなるのか。

最低賃金の上昇を見て廃業することになる。3人の従業員がいたら、彼らは最低賃金引き上げでまとめてクビになる。

Next: 米国で大問題に。最低賃金が高いと、スキルの低い人が排除されていく…



最低賃金が高いと、スキルの低い人が排除される

最低賃金の引き上げは他にも問題を引き起こす。

アメリカのケースだが、リバータリアニズム系のシンクタンク組織であるケイトー研究所のトーマス・ファイレイ氏は、「最低賃金を引き上げる」ことが逆に貧困層を追い詰める結果になっていると発表している。

アメリカの貧困層の多くは黒人やヒスパニック系なのだが、彼らが失業するのは、最低賃金が引き上げられた結果、賃金に見合わないスキルを持った人間が自然に雇用から排除されるようになるからだという。

つまり、賃金が低いままだと大したスキルがない人も雇えていたのだが、最低賃金が上がることによって有能な人を厳選して雇用し「残りを排除する」という現象が現場で起きていた。

最低賃金が高めに設定されると、最初から優秀な人を雇って効率を優先しないと利益が出せない。その結果、スキルの高い人しか雇わなくなる。

仕事に向いていない人、社会経験も実務経験も不足している人、年齢的にパフォーマンスが発揮できない人、育児と仕事の両立が難しいシングルマザーなどは、最低賃金の引き上げによってかなり厳しい状況に追いやられる。

つまりアンダークラスを構成している人たちが、最低賃金の引き上げで恩恵を受けるのではなく不利になってしまうのである。

実際にアメリカではそうなったと、トーマス・ファイレイ氏は報告している。

最低賃金を引き上げたら、アンダークラスが救われるわけではなかった。むしろ、最低賃金の引き上げによって、救われることが想定されていたはずの人に仕事が回ってこなくなるのだ。

トーマス・ファイレイ氏は、「最低賃金の引き上げと犯罪の増加には、直接的な因果関係があることも明らかになった」としている。

窮地に立たされた「若年層の黒人男性」

アメリカでは、最低賃金の引き上げによって最も悪影響を受けたのが「若年層の黒人男性」だった。最低賃金の引き上げが、むしろ社会の最も弱い層を仕事から排除し、無職に追いやっていたのだ。

アメリカの黒人層の生活環境は公民権運動以後の1970年代から大きく向上したと言われている。バラック・オバマ前政権も黒人だった。

しかし、実際には相変わらずアメリカ社会の底辺に取り残されて這い上がれない人が多く、それが黒人層の貧困と失業に結びついている。

貧困と失業は犯罪を招く。そのため、黒人層が多く住む地区は治安が悪いことが多い。しかも銃が蔓延しているので、ちょっとした諍いがすぐに銃撃戦という結果となる。

こうした地区をパトロールする警察官の過剰行動が問題になっているのだが、人種間の軋轢と共に油断したら自分たちも撃たれるという緊迫した状況があるからだ。

Next: 日本が米国の二の舞に?「最低賃金引き上げで貧困問題は解消する」は幻想



最低賃金を引き上げたら、より貧困問題は悪化した

地域の荒廃や暴力や犯罪や憎悪の蔓延というのは、その根幹の部分に「貧困問題」があるのは分かっている。そんなことは誰もが知っている。

だからこそ、今まで多くの人が「貧困層を救出するために最低賃金を引き上げよ」と提言をし、デモをし、政治家に働きかけてきたのである。

「最低賃金を引き上げたら貧困問題は解消する」

誰もがそのように考えていたが、それが逆に貧困層の一番弱い部分、つまりスキルのない人たちから仕事を奪って失業に追いやって問題を悪化させていたのがアメリカだった。

最低賃金を引き上げたら問題は解決するわけではなく、もっと問題が複雑化してしまった。

日本とアメリカはまったく違う国だ。だから、アメリカで起きたことは日本でも起きるとは限らない。しかし、「アメリカと日本は事情が違うので、日本はアメリカのようにならない」と言えるだろうか。

最低賃金を引き上げると雇用が減って失業が増える

最低賃金を引き上げた結果は、アメリカだろうが日本だろうが基本的に変わらない。資本主義の中では企業は似通った動きになるからだ。

だから、以下の動きが発生するのだ。

・従業員を減らして残った従業員の負担を増やす
・合理化を推し進めて従業員を削減する
・従業員を削減できない企業は廃業する
・有能な人材のみを雇って他は排除する

日本政府が段階的に最低賃金を引き上げることは、政府内でも大きな議論があった。つまり反対意見もあった。

政治側が最低賃金の引き上げを強く主張していたのに対して、商工会議所は真っ向から反対していた。

商工会議所は最低賃金を引き上げることによって、上記のメカニズムが発生することになることを懸念していた。さらに地方では最低賃金が上がることによって利益の上げられない中小企業が大量に廃業することも心配していた。

2020年代は、AI(人工知能)、ロボット化、5Gによる遠隔操作、無人化、ドローンや自動運転による効率化なども進んでいくので、合理化と効率化がより加速していく時代になる。

その中で最低賃金が引き上げられるのだから、政府は「人を雇うな」と命令を出していると経営者は考えるだろう。雇用される側にとっては「最低賃金の引き上げ=全員の給料が上がる」という認識なのだが、雇用する側にとっては「最低賃金の引き上げ=政府による人減らしの命令」という認識なのだ。

Next: 給料が上がって地獄に堕ちる。アンダークラスの苦境は加速していく



アンダークラスの苦境は加速していく

そうであれば、雇用がさらに激減していったとしても何ら不思議ではない。

これは、最低賃金の引き上げによって、結果的にアンダークラスがより仕事を見つけにくい環境になることを意味している。

それはバラ色の未来を約束しているわけではないのである。

最低賃金を引き上げで、むしろアンダークラスの苦境が加速していくとすれば、それは皮肉なことでもある。

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年1月22日)
※タイトル・見出し・太字はMONEY VOICE編集部による

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