北朝鮮情勢は静かですが、水面下で粛々と打ち合わせが進んでいるようです。米軍によるイランのソレイマニ司令官殺害を見て、金正恩氏は内心は震えています。(江守哲の「ニュースの哲人」〜日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ)
本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」〜日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2020年1月24日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。
交渉は米大統領選直前までおあずけ? 金正恩のイライラは続く…
クリスマスプレゼントと誕生日プレゼントを巡る牽制合戦
北朝鮮情勢は静かですが、水面下で粛々と打ち合わせが進んでいるようです。
オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、米政府が北朝鮮に協議再開を打診したことを明らかにしています。
一方、北朝鮮は、トランプ大統領が韓国高官に託した金正恩朝鮮労働党委員長への誕生日メッセージを受け取ったことを確認したうえで、「金委員長とトランプ大統領の個人的関係が、協議再開に結びつくわけではない」とけん制しています。
オブライエン氏は、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が、かねて警告していた「クリスマス・プレゼント」を実行していないのは「前向きな兆候」とし、「われわれは北朝鮮にすでに接触し、昨年10月初めにストックホルムで行った協議を継続したい意向を伝えた」としました。そのうえで、「協議を再び軌道に乗せたいという意向を、さまざまなルートを通じて打診してきている」としています。
しかし、米国家安全保障会議(NSC)は明確なメッセージを出していません。
交渉が難航していることの証左でしょう。
一方、ワシントン訪問を終えて帰国した韓国大統領府の鄭義溶・国家安保室長は、「トランプ大統領から金委員長への誕生日メッセージを託され、送った」と明らかにしています。
トランプ大統領は、金委員長との良好な関係をテコに18年、19年と非核化協議を推進しましたが、実務レベルでは溝が深く、協議は停滞、北朝鮮の核軍事力への新たな懸念が浮上しています。
北朝鮮の朝鮮中央通信(KCNA)は、金委員長へのトランプ大統領からの誕生日メッセージを受け取ったことを確認したうえで、「米朝首脳の個人的な関係は非核化協議を再開するには不十分」とする金桂冠外務省顧問の声明を報じています。
1年半にわたる米朝交渉は無駄だった?
金顧問は声明で、「金委員長は個人的にトランプ氏を好きかもしれないが、個人的感情を基に国を率いることはない」とし、「金正恩委員長はトランプ氏に対し個人的に良い感情を持っているが、それは文字通り個人的なものだ」としています。
そのうえで、「われわれはこれまで米国に裏切られてきた。1年半あまりにわたり交渉に関わってきたが、われわれにとっては失われた時間だ」との認識を示しています。
そのうえで、19年2月のハノイ会談でトランプ大統領が提示した提案などについて「協議するつもりはない」とし、協議再開は米国の譲歩が条件としの立場を明確にしています。
しかし、米国とイランの緊張が続く中、北朝鮮は事態の推移を注視しつつ、対米戦略を探っているようです。
Next: ソレイマニ司令殺害を見て震える北朝鮮。米韓両軍の「斬首作戦」が進行中?
ソレイマニ司令殺害を見て震える北朝鮮
米軍によるイラン革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官殺害で、北朝鮮は改めて米国の脅威を見せつけられた格好です。
イランが手を出せなくなったことが明確になった今、北朝鮮が非核化交渉で強硬姿勢を取ることが難しくなっています。
金正恩朝鮮労働党委員長は昨年末の党中央委員会総会で「約束に一方的に縛られる根拠はなくなった」とし、核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射の再開を示唆し、制裁解除に応じない米国に軍事挑発をちらつかせています。
しかし、内心はそうとうびくびくしながら発言していることだけは確かです。
イランと北朝鮮の違いが、トップ同士が直接会って話をしたことがあるかどうかにあります。この点では、金委員長はイラン指導部ほど現状にびくついているわけではないでしょう。しかし、それでも不安になるのは当然といえます。
イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害以降、西部・平安南道順川にある肥料工場の建設現場を視察したことを7日に報じた以外、北朝鮮国営メディアは金委員長の動静を伝えていません。8日の誕生日についても、祝賀行事などは報道されていません。
それだけ、北朝鮮側に緊張感があるということでしょう。
北朝鮮指導部を排除する「斬首作戦」が進行中?
米韓両軍は核攻撃を阻止するため、金委員長を含む北朝鮮指導部の排除を目指す「斬首作戦」の訓練を重ねているとされています。
金委員長との良好な関係を誇示するトランプ大統領ですが、かつては北朝鮮がミサイル発射に踏み切れば「炎と怒りに直面する」と警告していました。
米国のイランへの対応を見た金委員長が慎重な態度に出ざるを得ないのも当然です。
韓国は用無し? 米朝間には特別な連絡ルートが存在する
一方、興味深い発言も聞かれています。
韓国大統領府の鄭義溶国家安保室長は10日、トランプ大統領が文在寅大統領に対して、8日に誕生日を迎えた金委員長にメッセージを伝えるよう託したと説明していましたが、米国から直接、北朝鮮側に伝達されています。
金桂冠氏はトランプ大統領の親書に関し、「韓国政府が緊急通知文でメッセージを伝えてきた」とした上で、「朝米首脳間に特別な連絡ルートが別にあることをまだ知らないようだ」と指摘しています。
さらに、「韓国には、朝米関係で仲裁者の役割を果たそうとする未練がまだ残っているようだ」とし、「金委員長とトランプ大統領の親交に入り込むのはせんえつだ」と痛烈に批判しています。
これは、北朝鮮が韓国について、米朝間の交渉においては用無しであることを明確に示しているといえます。
韓国の国際社会における立ち位置はますます不明瞭になっていくでしょう。
Next: 「弱者の強がり」を見せる金正恩、非核化は一気に進むのか?
往生際の悪い金正恩
一方、非核化交渉に関しては、「北朝鮮が提示した要求を米国が受け入れる条件でのみ対話が可能だ」と繰り返し主張しています。
また、「両首脳の関係が悪くないのは事実」としつつも、「金委員長は国家の利益を代弁する者として、私的な感情を基に国事を論じない」と強調しています。
弱者の強がりがここでも見ることができます。
北朝鮮政府は21日、「米国が米朝非核化協議の期限を無視した」とし、「核実験や大陸間弾道ミサイルの発射を中止する約束に縛られる必要はない」として、「新たな道」を模索する可能性も明言しています。これもまた強がりです。
金委員長は米国との非核化協議の期限を19年末に設定していましたが、これも北朝鮮側の焦りといえます。
オブライエン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は先に、「協議再開を打診した」とし、金委員長がトランプ大統領との首脳会談での非核化に関する約束を守ることを望んでいるとしています。
一方、ウッド軍縮大使は北朝鮮のこの発言に懸念を表明し、「トランプ大統領と金委員長が18年に至った合意から離れることを示唆しているわけではないことを望む」とし、米国は北朝鮮の協議復帰を求めているとしています。
このように、米国の立場は明確です。北朝鮮が勝手にブラフを仕掛けて、交渉を有利にしようとしているだけです。
結論が決まっているのですから、北朝鮮はまさに往生際が悪いということになります。
非核化も軍縮も進展は見られない
それでもなお、北朝鮮の関係者は自己主張を続けています。
国連ジュネーブ駐在の北朝鮮外交官の朱勇哲氏は、「北朝鮮がここ2年間にわたり米国との信頼関係を築くため、核実験と大陸間弾道ミサイルの発射を停止してきたが、米国は米韓合同演習や対北朝鮮制裁で応じている」と主張しています。
さらに朱氏は、国連の軍縮会議で「米国は、北朝鮮の発展を阻止し北朝鮮の政治体制を破壊する野心を変えないことが分かった。先方が守らない約束をこちらが一方的に守らないといけない理由はない」とし、「米国が最も残忍で冷酷な制裁を科している」と非難して、「米国がこのような敵対的政策を続けるのであれば、朝鮮半島における非核化は実現しない」と主張しています。
北朝鮮は昨年12月に、「米国が交渉の態度を改めない限り、新たな道を模索する可能性がある」と表明していましたが、その「新たな道」の詳細は明らかにしていません。米国の軍関係者は、北朝鮮が17年から停止していた長距離ミサイルの発射の再開や核弾頭実験を可能性として挙げています。
北朝鮮は一方的な軍縮には反対しています。世界的な非核化は支持する姿勢を示しているものの、それ以上の意欲があるかどうかは明確にしていません。
Next: 交渉は米大統領選直前までおあずけ? 金正恩のイライラは続く…
交渉は米大統領選直前までおあずけ?
北朝鮮はこれまでの非核化協議で、「米国が駐韓米軍を撤退させ、韓国と日本における米国の核の傘を撤去することで安全保障上の保証を与えるのであれば、北朝鮮が核兵器を持たないことを検討する」としてきました。
また、朝鮮戦争(1950~53年)は休戦状態との認識であり、北朝鮮と韓国は厳密には依然として敵国関係にあります。
18年に韓国で開催された冬季オリンピックの後に関係が修復し始めたものの、それまでは北朝鮮は韓国の主要な同盟国である米国を破壊すると脅かしてきました。北朝鮮は依然として中国・ロシアとの関係を維持しつつ、両天秤に掛けながら米国にゆさぶりをかけています。
米大統領選挙が11月3日にあります。ここに向けて、外交成果をどのように出していくのか。
トランプ大統領は上院での弾劾審議への対応や、EUとの貿易交渉で忙しいところです。しかし、いずれ北朝鮮問題は大統領選前に一定の結論を出すでしょう。
それまで、金委員長はイライラいさせられることになりそうです。
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いまの国際情勢〜イラン情勢は沈静化していない
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