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中央銀行デジタル通貨の誕生で人類は暗黒時代へ? 米国はキャッシュレス禁止法で対抗=矢口新

現金は、反社会的勢力を含めて弱者に優しい。一方の中央銀行デジタル通貨は、中央政府による国民の完全支配を可能にする。私は、これが人類の暗黒時代に繋がりかねないと危惧している。(『相場はあなたの夢をかなえる —有料版—』矢口新)

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※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる —有料版—』2020年1月27日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。信済みバックナンバーもすぐ読めます。

プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

中国の「デジタル人民元」発行は危険?人間はまた不自由になる

弱者に優しい「現金」が消える?

現金は、反社会的勢力を含め、弱者に優しい。

一方の中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency=CBDC)は、中央政府による国民の完全支配、あるいは、覇権国家の世界人民支配を可能にする。私は、これが人類の暗黒時代に繋がりかねないと危惧している。

2020年1月、日本・スウェーデン・カナダ・スイス・イギリス・欧州の中央銀行と、国際決済銀行(BIS)は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の有用性や発行可能性を探る「ワーキンググループ」を結成した。

BISを含む7行は、CBDCの「国境を超えた相互運用性を含めて、経済的、機能的、技術的な設計の選択肢」の評価を続け、その結果を共有する。

2019年6月にフェイスブックによるデジタル通貨、リブラ(Libra)が発表され、それに続き、中国が「デジタル人民元」の発行を検討しているとされたことで、決済通貨としてのCBDCを本格的に検討することとなった。

中銀の市場委員会がまとめた「中央銀行デジタル通貨」の報告書(要約)

それに先立つ2018年3月に、欧州中央銀行、オランダ中央銀行が率いた決済・市場インフラ委員会が、市場委員会報告書として「中央銀行デジタル通貨」を取り上げているので要約する。
※参考:市場委員会報告書「中央銀行デジタル通貨」(PDFファイル)

【序文】
中央銀行業務の歴史は、中央銀行による決済サービスの提供と共に始まり、それ以降、決済のイノベーションは、常にセントラルバンキングの中核にある。

CBDCも、潜在的なイノベーションの可能性を示すものである。報告書では、決済システム、金融政策、金融システムの安定の観点から、CBDCの潜在的な影響について概観している。これらは、現時点での検討結果を示したものであり、今後の議論や研究の礎となることを企図している。また、報告書では、CBDCの発行には慎重な検討が必要であることを強調している。

【要旨】
分析の主なポイントは、以下のとおりである。

(CBDCの定義、設計)
CBDCは、民間銀行が中央銀行に保有する当座預金とは異なる、新たな形態の電子的な中央銀行マネーと定義され得る。

CBDCの設計にあたっては、
1)アクセス可能な主体の範囲(幅広い主体が利用可能とするか、一部の先に限定するか)、
2)匿名性の度合い、
3)利用可能な時間帯(24時間365日利用可能とするか)、
4)付利の有無
など、様々な要素について検討が必要となる。

CBDCの設計の2つの主な類型として、利用者を一部の先に限定するホールセール型と、幅広い主体による利用が可能となる一般利用型(general purpose)について分析している。

CBDCは、中央銀行マネーの役割、中央銀行債務に直接アクセスできる主体の範囲、金融仲介の構造といった、古典的な問題に関わるものである。

中央銀行は、伝統的に、様々な理由から、(デジタルかつ)口座形態の中央銀行マネーの利用者を、銀行、その他の金融機関や公的機関に限定してきた。

これとは対照的に、物理的な形態の中央銀行マネーである現金は、幅広い主体による利用が可能である。

このようなアプローチは、社会全体および金融システムの安定に総じて寄与してきており、現行の貨幣・金融構造を敢えて変更することのハードルは高い。

Next: 報告書を読めば、より「現金」の特性が浮き彫りになってくる



(決済システムの観点)
ホールセール型のCBDCは、分散型台帳技術と組み合わせることで、証券取引やデリバティブ取引の決済の効率性を向上させ得る。

もっとも、これまでホールセール決済について提案された応用事例はーー性能、効率性や頑健性の面で既存の中央銀行システムの要件をベースとしたものであることからーー既存のインフラと概ね類似しており、特筆すべきメリットは見出せない。

将来的には異なるシステムの設計に基づく実証実験も登場するかもしれないが、中央銀行が新技術を用いてホールセール型のCBDCを安全に導入できるようになるまでには、より多くの実験や経験が必要となるだろう。

一部の中央銀行は、国内において現金利用が急速に減少していることもあり、一般の人々が広く利用可能なCBDCを、新たな安全かつ便利な支払手段として提供することを検討している。

中央銀行マネーを、一般の人々に対しては物理的媒体により、また銀行にはデジタルな形で提供するという伝統的なアプローチが、現金の消滅により変化する場合には、CBDCの提供がメリットをもたらすかもしれない。

しかしながら、一般利用型のCBDCは、重要な論点や課題を提起することも踏まえると、こうした目標が他の手段により達成できるか検討することが望ましいかもしれない。

最も重要な点は、迅速(さらには即時)かつ効率的な民間リテール決済サービスが既に存在する、または導入予定にある場合、一般利用型のCBDCを敢えて発行するメリットは限定的となり得ることである。

一般利用型のCBDCは、状況によっては(匿名性を有する)現金を代替するものとなる一方で、マネー・ロンダリングやテロ資金供与への対策(AML/CFT)や、他の監督・税務当局の公共政策上の要請を満たす必要も生じると思われる。

また、一般利用型のCBDCの発行については、中央銀行がそうしたCBDCを発行する法的な権限を有しているか、安定的な設計・運営をいかに確保するか、といった論点もある。

一般利用型のCBDCが真の匿名性を備えている場合は、より多くの懸念や課題が生じる。そうしたCBDCについてはあまり想定されないものの、リテール決済だけでなく、不正取引などにグローバルに広く利用される可能性がある。その一方で、匿名性のないCBDCは、現状と比較して、デジタルな記録やトレースが可能となるため、AML/CFTの観点からは改善が見込める可能性もある。

(金融調節の観点)
CBDCの発行は、公開市場操作など金融政策遂行の基本的なメカニズムを変えるものではないと思われる。CBDCは、新しい中央銀行マネーの一つであり、現金と同様、その資金需給への影響に対応する必要がある。

また、中央銀行は、仮にCBDCを導入したとしても、金融政策手段(証券の買入れや、銀行への貸出など)や、保有資産の特性(満期構成、流動性、信用リスク)を引続き自由に決定することができる。

もっとも、金融ストレス時など、銀行券の代替にとどまらない量の資金が民間からCBDCへシフトした場合は、中央銀行が保有あるいは担保とする資産の範囲を拡大しなければならなくなるなどの課題に直面する可能性がある。

CBDCの発行は、政策金利から他の金利への波及効果の強化や、名目金利のゼロ制約(または、さらなる下限制約)の克服などにより、中央銀行の金融政策手段の拡充につながる可能性がある。

もっとも、そもそも現行の波及経路が不十分であるかは、明確ではない。また、より伝統的な手段や政策でも、新たなリスクや課題(例えば、一般国民が保有する一般利用型のCBDCにマイナス金利を付すことに伴うもの)を生じさせることなく、同様の効果をある程度実現することは可能と考えられる。

さらに、上記のようなメリットを実現するには、高額紙幣の廃止を合わせて行わなければならないと考えられるが、AML/CFT上の要請には役に立つとしても、そのこと自体にもコストが伴う。

金融政策の波及経路や金融市場への影響がより顕著となるのは、CBDCが魅力的な金融資産として設計される、または事実上そのように捉えられた場合である。

機関投資家が利用可能なホールセール型のCBDCは、付利対象となる中銀当預やリバース・レポ・ファシリティと同様の機能を持ちながらも、広く取引できるため、流動性と信用力の高い資産として、政府短期証券に似た安全資産として機能することが考えられる。

一般利用型のCBDCは付保された民間銀行預金と競合し、銀行の資金調達のコストや構成に影響を及ぼし得る。

(金融仲介、金融システムの安定、クロスボーダーの観点)
CBDCの発行は、決済システムや金融政策にかかる論点にとどまらず、より根本的な事項についても評価する必要がある。

一般利用型のCBDCは、民間銀行の預金調達を不安定化させる可能性がある。当初は決済での利用を想定して設計されたとしても、危機時には民間銀行預金からCBDCへの資金のシフトが急激かつ大規模に生じる可能性があり、民間銀行や中央銀行がそうした状況に対応することは容易ではない。

また、CBDCの導入は、金融システムにおける中央銀行のプレゼンスの拡大につながり得る。これは、中央銀行が経済資源の配分においてより大きな役割を担うことを意味し、そうした機関が資源配分に関して民間セクターと比べて非効率的である場合には、社会全体に経済的損失を生じさせ得ることになる。

このような中央銀行による資金仲介は、中央銀行を未知の領域に踏み込ませ、政治からの干渉を増大させるかもしれない。

クロスボーダー取引に広く利用される通貨では、特に安全資産への逃避がみられる場面において、上記の要素を考慮することがより強く求められる。ある国におけるCBDCの導入が、他の国に悪影響を及ぼすこともあり得る。

CBDCが金利、金融仲介構造、金融システムの安定や監督に与える影響に関する更なる研究も欠かせない。為替レートの動きや他の資産価格の変動に及ぼす影響についても、なお未知な側面が多く、更なる検討が必要であるものと思われる。

特定の個人や組織の債務ではなく、いかなる当局の裏付けもないような民間デジタルトークンは、価格変動が大きく、投資家・利用者の保護が不十分であることから、日常的な支払手段、安全な価値貯蔵手段、価値尺度として信頼に足るものではない、と一般的に理解されている。

出典:市場委員会報告書「中央銀行デジタル通貨」(PDFファイル)

「現金の特性」が見えてくる

上記の報告書がCBDCの将来性や問題点を整理してくれている中で、よりはっきりと見えてきたのが、現金の特性だ。

1)物理的な形態の中央銀行マネーなので、幅広い主体による利用が可能
2)匿名性に優れる
3)現金に利子が付かないことは、マイナス利子もないことを意味する

これが、中央銀行が管理するCBDCとなると、

1)利用主体を中央銀行が限定できる
2)匿名性を奪えば、マネー・ロンダリングやテロ資金供与への対策(AML/CFT)や、他の監督・税務当局の公共政策上の要請を満たすことができる
3)一般国民が保有するCBDCにマイナス金利を付すこともできる

つまり上記の報告書にあるように、CBDCの導入は、金融システムにおける中央銀行のプレゼンスの拡大につながり得る。

これは、中央銀行が経済資源の配分においてより大きな役割を担うことを意味し、そうした機関が資源配分に関して民間セクターと比べて非効率的である場合には、社会全体に経済的損失を生じさせ得ることになる。

このような中央銀行による資金仲介は、中央銀行を未知の領域に踏み込ませ、政治からの干渉を増大させ得る。

Next: 中国の「中央銀行デジタル通貨」推進は当然? 人間はまた不自由になる



中国の「中央銀行デジタル通貨」推進は当然

このように現金とCBDCの特性を対比すると、中国が民間のキャッシュレス化を推し進め、CBDCの導入を検討するのは、共産党独裁の政治形態、国家管理型の経済からして、必然だということが分かる。

つまり、国民の生活を根本の部分から管理できるようになるのだ。

CBDCのマイナス金利は、徴税以上に効率的な国民資産の没収となる。また、政府の意向に背くものは、何も買えず、どこにも行けず、事実上の死刑宣告に等しい罰を受けることになる。

ところが、そこまでもしても、政府機関が民間セクターと比べて非効率的である場合には、社会全体に経済的損失を生じさせ得ることになるのだ。

米国では「キャッシュレス禁止法」が登場?

一方、このように世界がキャッシュレス化に進む中で、米国には「キャッスレス禁止法」なるものが現れた。

ニューヨーク市議会は1月23日、小売店やレストランが現金による支払いを拒否することを禁じる法案を可決した。この法案は『キャッスレス禁止法』とも呼ばれ、ニューヨークは米国で3番目にこの種のルールを設ける都市となった。

出典:ニューヨークで「キャッシュレス禁止法」可決、米国で3例目 – Forbes JAPAN(2020年1月24日配信)

ニューヨーク市会議員のTorresが最初にキャッシュレス禁止法案の導入を呼びかけたのは2018年のことだった。その後、キャッシュレス化の是非を問う議論が全米で巻き起こり、サンフランシスコ市とフィラデルフィア市は、2019年にニューヨークと同様の法律を制定した。さらに、ニュージャージー州は州全体でキャッシュレス禁止法を導入した。

出典:同上

キャッシュレス化は米国において、“アンダー・バンクト(underbanked)”と呼ばれる銀行口座やクレジットカードを持たない人々の不利益につながると、以前から指摘されてきた。それに対し、キャッシュレスに賛同する店舗は現金を扱う手間から解放される点や、防犯上のメリットを訴えていた。

出典:同上

2015年のニューヨーク市による調査では、ニューヨーク市民の12%が銀行口座を持っていなかった。これは全米平均の8%を上回る数値とされた。

出典:同上

Next: 中央銀行デジタル通貨は人類の暗黒時代に繋がりかねない?



中央銀行デジタル通貨は人類の暗黒時代に繋がりかねない

現金の持つ特性、
1)物理的な形態の中央銀行マネーなので、幅広い主体による利用が可能
2)匿名性に優れる
3)現金に利子が付かないことは、マイナス利子もないことを意味する
は、反社会的勢力を含め、弱者に優しいことを意味する。

一方のCBDCは、中央政府による国民の完全支配、あるいは、覇権国家の世界人民支配を可能にする。

私は、人類の暗黒時代に繋がりかねないと危惧している。

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・中央銀行デジタル通貨と「キャッシュレス禁止法」(1/27)
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・大和魂に頼る経済政策(1/20)
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image by:Valeriya Zankovych / ShutterStock.com

※本記事は、矢口新氏のメルマガ『相場はあなたの夢をかなえる —有料版—』2020年1月27日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。信済みバックナンバーもすぐ読めます。

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相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』(2020年1月27日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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