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始まった「働き方改革」で日本人はさらに貧乏に。企業利益優先で総人件費は減少へ=斎藤満

政府は「働き方改革」を一歩進めるために、定年延長と同一労働・同一賃金を目指しています。しかし、企業が人件費増になる方策を受け入れるはずもありません。ここには2つの落とし穴があります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

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※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年2月10日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

結局は「働かせ方改革」。トータルの人件費を下げ続ける日本企業

「働き方改革」に2つの落とし穴

政府は「働き方改革」を一歩進めるために、「定年延長」と「同一労働・同一賃金」を目指しています。

年金支給時期を遅らせたいこと、非正規雇用の「ワーキング・プア」を改善せねばならない事情に迫られているためです。

しかし、企業が進んで人件費増になる方策を受け入れるはずもありません。

ここには2つの落とし穴があります。

定年延長は政府の都合

まず、政府は年金財政を維持するために、その支給開始年齢をさらに遅らせ、できれば70歳からにしたい考えです。

その場合、労働者に対しては年金支給までの収入獲得の道を確保しなければならず、それを企業に「定年を70歳まで延長」と言う形で協力を求めようとしています。

企業はまだ定年を従来の60歳から65歳に延長する過程にあり、これもすべての企業に浸透しているわけではありません。

それをさらに70歳まで延ばせと言うのは、企業にとってかなり高いハードルです。熟練労働者が増えても、彼らを処遇するポストがありません。

雇用延長は、当然、人件費の増加をもたらします。

Next: 苦しむのはサラリーマン。企業の人件費支払い額は明確に減少している…



企業の対応は…

では、それに対して企業はどう対処するのでしょうか。

新年賀会での経済団体幹部の発言からは、「日本的経営」「日本型雇用」の見直しが示唆されています。具体的には「終身雇用制」「年功序列賃金」はもはや維持できない、ということです。

政府の定年延長要請とリンクさせる場合、「終身雇用」の中身が変わります。つまり、70歳まで働かせるとしても、社内に高齢雇用を処遇するポストがないために、子会社、関連会社に出向させる形で雇用を維持する可能性があります。

その場合には、年功序列賃金は維持できなくなり、賃金カーブのピークは、現状の50代前半から40代にシフトすると見られます。

結果として、企業が支払う総人件費は増えず、従って労働者も70歳まで職を得られるとしても、給与水準は40台をピークに、以後漸減する形になりそうです。

これは将来の昇給を当て込んで住宅ローンを借りる人、すでに借りている人にはハシゴを外されたようなもので、途中から実質負担が高まるリスクとなり、生活を圧迫する形となります。

同一労働・同一賃金

次に「同一労働・同一賃金」ですが、正社員と同じ仕事をしていながら、非正規雇用と言うだけで給与が低く、ボーナスも出ないのは不当、との訴えが増えています。

この批判に、一部の企業では非正規雇用を正規雇用にシフトする動きも見られます。

しかし、この動きはマイナーで、そもそも政府と一体となって人件費削減を進める手段として非正規雇用を増やしてきた企業が、みすみす正規雇用に戻すとも考えられません。

実際、「働き方改革」が実施に移された昨年4月以降、企業の人件費支払い額は、明確に減少しています。昨年1-3月までは増加基調にあった人件費支払い額が、4-6月は前年比0.7%減、7-9月は1.8%減となっています。

この動きを見る限り、「同一労働・同一賃金」を進める上でも、企業はトータル人件費を増やさない形で進めることを考えると見られます。

非正規雇用の給料を上げるだけのはずが、正社員の給料も下がっていく?

その場合、現在大きな差が見られる正規雇用の給与と非正規雇用の給与と、どちらに収れんするのでしょうか。

因みに、国税庁の「民間給与実態調査」によると、2018年度の年間給与は正規雇用が504万円、非正規雇用が179万円と、3倍近い差が見られます。

常識的には、同じ仕事をしているのであれば、非正規雇用の179万円を504万円に引き上げる方向が期待されます。

政府は今年度予算で、非正規雇用の基本給を引き上げた企業に政府助成金を出すため、2億円の予算を組み、20年度には7億円に増額しますが、実際の適用は想定の7千人ではなく、数人に留まりました。

かつて雇用調整助成金を出した際、中小企業トップは労働者に使わずに、自ら外車購入に充てていたケースが報じられ、批判を浴びましたが、同様の悪用が懸念されています。

前述のように、企業はトータル人件費の増加にはかなり抵抗があります。企業としては正規雇用の給与を引き下げ、非正規を引き上げ、均衡をとろうとすると見られます。 

Next: トータルの人件費を下げ続ける企業。働き方改革で何が起こるのか…



トータルの人件費を下げ続ける企業

とはいえ、日本ではマイナスの「ベア」つまり「ベースダウン」は困難です。従ってここでも正社員の「年功賃金」を見直し、稼げる労働者には「プロフェッショナル」として高い給与を与えます。

その一方で、貢献度の低いその他社員については職制を変えて給与を下げるか、低い給与の子会社、関連会社に出向させ、トータルの正規雇用給与を引き下げることになりそうです。

その分を非正規雇用の給与引き上げ、正規へのシフトによる人件費増にあてることになるでしょう。

非正規雇用にとっては正規雇用に転換することで給与増になりますが、年収179万が504万円になるわけではないと思われます。

落としどころは、179万円と504万円の間で、企業にとって人件費負担が増えない水準となり、企業にとって自由度の高い雇用制度に転換することになると思われます。

「プロフェッショナル」人材には残業代はつかず、成果を挙げなければ、プロフェッショナル職も失うことになります。

制度化は労働者を守るか

結局、定年延長、同一労働・同一賃金を政府が掲げても、その制度の下で労働者が豊かになる保証はありません。

むしろ新しい制度の中で、自由度は企業にあり、企業が全体としての人件費を増やさないような形の「働かせ方」に変えることになります。

70歳まで働く機会は確保されるかもしれませんが、その分、40歳代で本社を離れ、子会社、関連会社に出向させられ、給与水準のピークも40歳代に低下するか、年功賃金カーブがなくなり、年齢階級別にはフラットなカーブとなり、職能給にウエイトが置かれると考えられます。

従って、長く勤めれば給料が上がることはなくなり、転職、中途採用が増え、労働コストはやはり変動費化が進みます。労働者にとっての生涯設計は必ずしも楽にならず、結婚、出産、子育てには厳しい環境が続きます。

Next: 日本は結局「働かせ方改革」…。企業利益を優先しているうちは地獄



日本は結局「働かせ方改革」

結局、「働かせ方改革」ではなく、労働者にとっての「働き方改革」にするためには、彼らに労働再生産に耐えられる最低賃金の保証を与え、あとは企業ではなく、労働者に選択の自由を与える形にすることで、労働のインセンティブを確保する必要があります。

定年延長ではなく、米国のように定年制を廃止し、働きたい人にはいつまでも働ける場を与えるのが良いでしょう。

雇用改革の狙い、出発点が「企業利益」から「労働者の利益」に代わる必要があり、低下しすぎた労働分配率が修正されるような改革に持ってゆく必要があります。

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  • 政府の「働き方改革」に落とし穴(2/10)
  • コロナウイルスは時限爆弾(2/7)
  • 鵜呑みにできない政府統計(2/5)
  • FRBにレポオペ解除不能危機(2/3)

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マンさんの経済あらかると』(2020年2月10日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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