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緊急事態宣言は人気店も軒並み潰す〜2か月の休業で年間利益がすべて溶ける=井戸実

飲食業を営んでいて、月商1億円、年商で12億円規模の会社を事例にしたいと思います。「年商12億円で、年間5,000万円の利益が出れば立派だよ」という世界で、1か月の休業コストで2,600万円を失ったことになります。そして緊急事態宣言の延長。2か月の休業で、「立派」な外食企業の年間利益が溶けたのが確定したのがわかりますよね?(『<ロードサイドのハイエナ> 井戸実のブラックメルマガ』井戸実)

※本記事は有料メルマガ『<ロードサイドのハイエナ> 井戸実のブラックメルマガ』2020年5月13日号を一部抜粋したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にご購読ください。

プロフィール:井戸実(いど みのる)
神奈川県川崎市出身、1978年1月19日生まれ。川崎市で一番偏差値の低い工業高校を卒業後、寿司職人の修業を経て、数社の会社を渡り歩いて26歳で目黒区祐天寺に居酒屋を開業。2006年7月にステーキハンバーグ&サラダバーけんを開業し、同年9月に(株)エムグラントフードサービスを設立

コロナ禍で大手飲食チェーン店の営業成績は…

さて、緊急事態宣言が発動された地獄の4月度の営業スコアが上がって参りました。

もう圧巻としか言いようの無いスコアに驚いたのが、王者「マクドナルド」です。既存店前年同月対比が、なんと106%とのことです。減少どころか上げて来たことに驚きしか感じません。

吉野家も強かったですね。既存店のスコアは96%で着地しました。一方、松屋が77.4%というスコアでした。この違いの分析ができません。なんで吉野家が良かったのに、松屋は駄目だったんだろ。

ファミレス各社も例外なく撃沈してます。サイゼリヤは38%という落ち込みでした。もちろん同社創業来、初めての異常事態です。店舗営業ではソーシャルディスタンスを保つために、席を1テーブルずつ潰して実質半減となりました。4人テーブルが4つ並んでいて通常16席稼動できるエリアが、1テーブルに1人客が2卓稼動していて、2名しか集客できないなんていう状態で営業をしております。

さらに、アルコールを多く摂取すると声も大きくなり感染リスクも拡大することから、ボトルワインの販売停止やアルコールの販売制限をした結果、多くの機会損失が生まれ、この減少率となりました。なんかこう言ってはアレですが、負けるべくして負けた感じがしますね。

スシローも負けましたね。前年同月比55%という数字でした。テイクアウトが好調だと耳にしていたのですが、店内客を補うには程遠いスコアだったのですね。

そしてアルコールの提供を19時までと、ふざけた要請で息の根を止められた居酒屋業態ですが、ワタミが強烈なスコアを発表してくれました。既存店前年同月比7.5%です。ワタミに限らずですが、例外なく居酒屋業態を展開している会社の実状です。そしてこれが5月も続くわけです。なんともエゲつない数字が出て来ることでしょう。

ロイヤルホストの「ロイヤルHD」が苦境に

ロイヤルホスト等を展開する「ロイヤルHD」が相当厳しいと思うんですよね。ロイヤルHDは大きく分けて外食事業・コントラクト事業・機内食事業・ホテル事業と多角経営を展開しております。

まず外食事業に関しては、主力業態のロイヤルホストやカウボーイ家族。グループ会社に天丼の「てんや」やHUBなどがあります。てんやも4月の昨対は59%。HUBに関してはクラスターを発生させてしまい、4月7日より全店休業を継続中であります。5月いっぱいは全店休業確定なので、昨対は0%になります。死亡ですね。これら外食事業の2019年度の売上は626億円で経常利益は23億円です。

次にコントラクト事業ですが、空港ターミナル内や高速道路のPA、オフィスビルや医療介護施設、コンベンションセンターと言った特殊エリアで展開するレストラン事業で、このセグメントの売上は、346億円でセグメント利益は14億円です。こちらも空港は悲しいほどに撃沈してます。サービスエリアも厳しい状況です。安定して利益を出し続けていた機内食事業においては、関空、福岡空港、那覇空港等において、機内食の調製業務と搭載業務を受託しております。セグメント売上高は95億円で経常利益は10億円です。こちらももはや飛行機なんか飛んでおりません。壊滅的な状況です。

そして最後にホテル事業ですが「リッチモンドホテル」の屋号で全国に43店舗を展開しております。実は一番の稼ぎ頭がホテル事業で、セグメント売上は302億円。経常利益は36億円です。もう言うまでもありませんが、ホテル事業者も大変な状況となってます。

幸いにしてBS(バランスシート)は軽い会社で、自己資本比率は49%と優良企業です。グループ1,400億円の規模の年商がありながら、長短借入が30億ちょっとしかありません。ホテルがたくさんあるので。リース債務は260億と膨らみますが、売上規模を考えると適正範囲です。

ただ現預金が44億円と、この年商規模にしては若干、心許ないですね。恐らくこのコロナの状況ですでに資金調達を済ましていると思いますが、100億円単位の調達になるでしょうね。1,400億円もやってたら、今回のコロナなんか月に10億〜20億は軽く吹き飛びます。

あまりに規模が大きいので、もう少し小さいスケールで解説したいと思います。

Next: 飲食業を営んでいて、月商1億円、年商で12億円規模の会社を事例に――



年商12億円の飲食店なら、5,000万円の利益を出せれば立派

飲食業を営んでいて、月商1億円、年商で12億円規模の会社を事例にしたいと思います。

・月商500万円の店を20店舗展開している会社
・月商1,000万円規模のお店を12店舗展開している会社

ざっくりこんなイメージをしてください。

さて、年商12億円の会社でズバリいくら経常利益を出していたら立派かと言うと、5,000万円を出してたら立派です。

非上場のオーナー会社で会社に5,000万円の利益を残すとなると、大体同じ額か少し欠けるくらいの役員報酬と経費を使います。役員報酬で年間3,000万円、経費で1,000万円から2,000万円くらいです。つまり、それらが無ければ1億円の利益が出せる感じのスコアを作れれば、飲食店経営では立派です。

外食業界平均の経常利益率は、4%から5%です。

これは外食上場企業や帝国データーバンクや商工リサーチのインタビューをキチンと受けて数字を公開できる会社から出て来た根拠の数字であって、もちろんもっと高い利益率の会社もあれば、それより営業利益率の低い会社もたくさんあります。

店舗から上がる利益だけで見れば、1店舗のお店で月に1,000万円を売ったら5%と言わず、もっと利益が出るはずです。ただ本部経費や法定福利費など店舗以外にかかるコストがあって平均を取ると4~5%という数字になるわけですね。

家賃比率「売上の10%」で胸を張れる

で、次に利益の手前。経費の内訳で言うと、固定費で1番大きい「家賃」の比率は、大体売上対比で10%くらいです。家賃50万の物件で500万の月商があればまぁ立派で、10%を切ってくると周りに自慢したくなるお店になります。

「この店、家賃25万で500万円売ってんで!家賃比5%やで(ドヤっ)」みたいな会話は飲食店経営者同士ではよくあるやり取りです。

そんな飲食店オーナーでも、別の店では45万の家賃の店で300万の売上の店があったりします。家賃比15%です。

こんな感じで結局、組み合わされるので、家賃比率は10%くらいになるのです。

なので月商1億円だと、大体総額で1,000万円くらいの家賃が掛かっている計算になります。固定費で1番大きいのが家賃というのはわかりましたね。

Next: 次に変動費に触れます。飲食店で1番大きな費用は原材料費です。原材料費――



今や人件費率は抑えられない

次に変動費に触れます。

飲食店で1番大きな費用は原材料費です。原材料費が人件費より下回る業態と言えば、バー、キャバクラ、相席屋みたいなイメージです。

人件費率につきまして、業態にもよるのでなんとも言えませんが、通常の飲食店だと大体27%くらいが大人の会社の限界の数字です。

僕が全盛期のブラック企業状態の頃は、人件費率は22%でまとめて来て合格。25%でふーん。で、28%とかだと「殺すよ?」みたいな感じでした(10年も前の話なので、今では200%そんなことはできません)。

なので、真面目に社員の労働時間を月間230時間以内に収めて、キチンと週休2日を取らせると28~32%とかになってしまいます。年商10億以下の外食企業だと、25%くらいで仕上げて来いみたいな感じになるので、ここでは人件費は25%にしておきましょう。

で、こちらも業態によりますが、正社員を複数名配置して営業しなければならない寿司店や和食店、客単価の高いレストランのような業態と、社員1名が店長して配属されて、あとはアルバイトさんだけで運営できるお店と業態が分かれます。

ここでは40万円の給料の店長と、30万円の給料の社員さん計2名が店舗に配属されているお店という設定にしましょう。

2人合わせて70万円が社員人件費です。月商500万円のお店だとすると、社員人件費率が14%、残りの11%はアルバイト人件費となります。

今ここまでの数字で、家賃比率は10%、社員人件費率は14%とします。

お店を閉じていてもコストはかかる

あとはお店をまったく営業しなくとも掛かるコストと言えば、水光熱費。冷蔵庫の電気代とかガスや水道の基本料金とかですね。

また、「ぐるナビ」や「食べログ」なんかも、月ごとの契約では無く、3ヶ月とか6ヶ月とか1年なんて契約なので、お店は休業しているけど、月額の利用料は問答無用で請求されます。

電話代や有線、Wi-Fiの費用など、ちょこちょこ積み重なると、営業していなくとも2%くらいのコストが掛かるんですね。

これでお店があるということで、営業をやろうがやらまいが掛かるコストが出てきました。

・家賃比率:10%
・社員人件費率:14%
・その他経費:2%
計:26%

コロナ前に月商500万円の売上を作っていた店だとすると、130万円です。

冒頭の月商1億円、年商12億円の会社だとすると、20店舗あるわけですから、総額2,600万となるわけですね。

Next: で、先月4月は緊急事態宣言が発せられ、多くの店が休業を致しました――



優秀な外食企業も「休業」で窮地に

で、先月4月は緊急事態宣言が発せられ、多くの店が休業を致しました。早い会社では3月の上旬から休業しているところもあります。

これは自粛に従えば雇用調整助成金が支給されることを見込んでの休業でありますが、雇用調整助成金が果たしていつ受給されるのか、現時点では皆目見当がつきません。従って、キャッシュアウトは避けられません。

家賃について大家さんによっては減額に応じてくれる方もたくさんおりますので、もう少し下がるかもですが、そこは加味せずに参りましょう。

で、4月まるっとお店を閉めて、月商1億円の外食企業は家賃とその他経費の赤字で1,200万円。社員人件費で丸々1,400万円。合わせて2,600万円が赤字になる計算になります。

「月商1億円、年商12億円で、年間5,000万円の利益出れば立派だよ」という世界で、この1か月の休業で2,600万円を失ったわけです。

そしてこの度の緊急事態宣言の延長です。これで4月の状況と同じですから、2,600万円×2ヶ月です。5,200万円。

はい。「立派」な外食企業の年間利益が溶けたのが確定したのがわかりますよね?

売上「V字回復」などありえない

で、5月末はすでに確定ですが、6月からヨーイドンでコロナ前の100%に売上が戻ると思いますか?

絶好調吉田くらいのスーパーポジティブ経営者であれば、元気いっぱい200%!とか公言するかもしれませんが、常識的に考えて起こり得ません。居酒屋業態で、80%まで戻れば御の字と考えてる経営者がまともな肌感ではないでしょうか。

GWの最中に、安倍総理が緊急事態宣言の延長を5月いっぱいまでと発表しました。解除の根拠となる具体的な指数を公表することもなく、とにかくキリが良いからでしょうか。5月いっぱいまでと。

それを受け、大阪府の吉村知事が大阪では独自の解除基準を打ち出しました。パチンコ店の店名公表で、ドヤってた時はどうかと思いましたが、全国で先駆けて打ち出したこの施策はまともです。

それを受けてすぐに安倍総理も緊急事態宣言解除は状況に応じて前倒しになる可能性もあるという提言を出しました。情けない限りです。

Next: 「キリが良い」で企業の命綱をしごかれたら堪ったもんじゃありません――



1日でも早い緊急事態宣言「解除」が国益になる

「キリが良い」で企業の命綱をしごかれたら堪ったもんじゃありません。

営業が再開できないことで、日々お金が流れて行きます。1日でも早い外出制限の解除が国益になるのです。

何度も言います。まともな企業の年間の利益が2ヶ月で綺麗に溶けます。「1日も早い緊急事態宣言の解除」これが国益です。

重篤化しやすい高齢者は引き続き外出制限を継続。年寄りは外に出るな。そして、それ以外の疾患の無い人間は、マスクの着用・手洗いの徹底・ソーシャルディスタンスの確保。

以上で、通常の社会生活に一刻も早く戻ること。これの実現を待つばかりであります。

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※本記事は有料メルマガ『<ロードサイドのハイエナ> 井戸実のブラックメルマガ』2020年5月13日号を一部抜粋したものです。興味を持たれた方は、ぜひこの機会にご購読ください。

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<ロードサイドのハイエナ> 井戸実のブラックメルマガ』(2020年5月13日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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2010年度外食企業売上高伸長率で日本一となった株式会社エムグラントフードサービスの創業者オーナーです。2011年9月で会社設立から丸5年を迎えます。たった5年で総店舗数260店舗以上。売上高で165億円の社を作った軌跡の一部をメルマガにてお伝えします!

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