世界で反グローバル化の動きが加速しています。それが日本経済を圧迫していることに気が付かずに消費増税をしてしまい、さらにコロナが追い打ちをかけました。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年5月25日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
加速する反グローバル化
日本は人口の減少、少子高齢化の急進展、国内の生産コスト高などを背景に、経済の多くの分野でグローバル化に乗り、これに依存してきました。
しかし、このところそのグローバル化の流れが逆流するようになり、むしろ反グローバル化が進んでいます。実際、世界貿易は昨年0.4%の減少となり、新型コロナウイルスの感染拡大以前から縮小に転じています。
米中間の貿易戦争の影響もありますが、英国がEUから離脱を決め、米国以外でもブラジルなど「自国第一主義」を掲げる政権が増えています。
その中で日本の輸出も減少を余儀なくされ、国内では消費増税も重なって経済が急縮小に転じています。
反グローバル化の動きが知らぬうちに日本経済を圧迫するようになっているのに気づかず、消費増税をしてしまい、これにコロナが追い打ちをかけました。
トランプとコロナの相乗効果
反グローバル化の流れはトランプ政権が強く進めていますが、これにコロナが加わって流れが一気に加速、日本はいよいよ着いて行けなくなりました。
トランプ大統領はそれまで世界を治めてきた「ディープ・ステート(影の政府)」の支配体制を壊す意図で登場し、実際、WTO(世界貿易機関)を実質形骸化させ、中国とのディカップリングを進め、世界のサプライチェーンを壊しにかかりました。
この象徴が米中貿易戦争で、昨年までに米中が相互に関税引き上げ戦争を繰り返しました。
トランプ政権は中国だけでなく、EUや日本、カナダ・メキシコにも通商交渉を仕掛け、米国第一主義を主張しました。その過程で、米系のグローバル企業には海外での環境を厳しくして米国回帰を促しました。昨年、世界貿易を抑圧した主役は、中国よりもむしろ米国でした。
そこへ新型コロナウイルスの感染拡大がヒト・モノの国際移動を決定的に抑え込んでしまいました。
中国で真っ先に生産を止めてしまったために、日本の自動車産業などは部品が手に入らず、生産できずに工場を止めざるを得ないところも出ました。
自動車以外でもサプライチェーンの制約で生産できない分野が少なくなく、日本も含めて世界の生産活動がコロナ禍で大きな制約を受けることになりました。
Next: 日本の輸出依存度は14%程度で、世界の主要国の中ではむしろ低いほうに――
海外依存の高い日本
日本の輸出依存度(つまりGDPに占める輸出の割合)は14%程度で、世界の主要国の中ではむしろ低いほうになります。
しかし、資源のない日本は、石油や鉄鉱石など、エネルギーや原材料、食料の多くを海外に依存しています。石油は99%海外に依存し、食料でさえ6割以上を海外からの輸入に依存しています。
そして近年ではコストの安い海外で生産を行い、部品もコストの安い海外から取り寄せるようになっています。
このため、石油ショックのように、石油が入らなくなるとか、価格が高騰すれば日本は逃げ場がなくなり、生産が止まるか、異常なコスト高に見舞われます。
長雨など異常気象でコメが不作になると、主食のコメまで輸入米に頼らなければならないこともありました。
武器、防衛も米国頼みです。
貿易額が示す以上に、日本は海外依存が高い国となっています。
内需拡大が必要
その海外への依存が制約されるようになっているだけに、日本もこれを踏まえた戦略の切り替えが必要です。
すでに米国は約200年前の「モンロー主義」を超えた「米国第一主義」を貫き、反グローバル化を進めています。実際、大規模な経済政策で内需を拡大し、世界に出ていた米系のグローバル企業を米国に呼び戻しています。
EUもコロナ禍を経て再び国境を制定し、あのドイツでさえ、大規模な財政政策を打ち出し、内需拡大を図るようになりました。
日本はコロナ対応も遅れましたが、ようやく117兆円という事業規模の緊急経済対策を打ち出しました。これも見た目ほど内需拡大効果はありません。営業できない企業、働けない労働者に給付金を与えても、当座の「呼吸」をできるようにするだけで生産には結び付きません。
つまり、支払いの猶予や困った人への所得の移転が中心の政策で、グローバル化縮小を穴埋めするような内需の掘り起こしは意図されていません。
一時的ではなく、かなりの期間反グローバル化が続くとの前提で、これに対処する必要があります。
Next: それには2つの道しかありません。米国を説得し、他国と協力して再び――
コロナ恐慌回避への道は2つだけ
それには2つの道しかありません。米国を説得し、他国と協力して再びグローバル化に戻す努力をするか、内需主導の経済運営に切り替えることです。
しかし内需転換もそう容易でありません。多くの企業はグローバル化の中で国際競争力を高めるべく、賃金など人件費を抑制し、海外現地生産、海外部品の利用を進めてきました。これ自体が内需抑制をもたらします。
政府もグローバル化を前提に輸出企業優先の円安誘導をしてきました。これは一時的に株を押し上げましたが、内需にはマイナスです。
反グローバル化に対応するためには、政府も企業も頭を切り替え、輸出よりも内需にプラスとなる政策に切り替える必要があります。
企業は労働分配率を適度な水準に戻し、労働者に応分の還元をし、政府日銀は交易条件を改善し、内需にプラスとなる円高を受け入れることです。
「油断」や海外からの供給が途絶えてもいいような、エネルギーも含めた自立型、自給自足型経済に転換する必要があます。
その点、日本の賃金水準はかつての「割高」を失い、東アジアの中ではあまり変わらず欧米よりはむしろ安くなっています。
国内回帰で国内の生産雇用、投資を復活させる条件は整いつつあります。そこでは円安よりも円高が有利となります。金利の正常化も内需にはプラスに寄与します。
食料安保の不安も
その中で緊急を要すのが、食料自給率の低さを修正することです。
日本の食料自給率は37%台で、世界の主要国では突出して最低レベルにあります。コロナの制約があったとはいえ、国際的な物流が途絶えることで日本の食生活が危機にさらされるような事態は何としても回避する必要があります。
農産物の輸出が増えていますが、まずは国内需要を優先し、余剰能力分を輸出に回すのは問題ありません。
しかし、黒毛和牛や日本のイチゴなど果物の種子を中国や海外に輸出する前に、国内の産業保護、消費者保護が優先されるべきで、食料自給率を欧米並みの8割以上に引き上げることを優先的に考える必要があります。
日本はかつて「ABCD包囲網」で日本への供給が遮断され、苦し紛れに海外資源を求めて戦争を余儀なくされた苦い経験をしています。軍事的な安保のみならず、経済安保、食料安保についても十分な配慮が必要な世界になりつつあります。
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『マンさんの経済あらかると』(2020年5月25日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。