マネーボイス メニュー

コロナ禍で「スーパーシティ」整備へ改正国家戦略特区法が可決、個人情報がダダ漏れに?=原彰宏

改正国家戦略特別区域(特区)法が可決され、政府によるスーパーシティ構想が着々と進行中です。車の自動走行やドローン配送など、国民の生活が快適になる一方、個人情報取り扱いの観点から懸念事項も残ります。今回は、よりよい暮らしと、それを得るための代償について考えてみましょう。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2020年6月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

日本で「世界で一番ビジネスがしやすい環境」を作る?

「スーパーシティ」とは、AIやビッグデータを活用し、自動運転やキャッシュレス、行政手続きの簡易化や遠隔医療・教育など、生活全般をスマート化する「まるごと未来都市」となっています。

実現には複数のサービス間でデータを収集、整理し提供するデータ連携基盤(都市OS)が必要となります。

スーパーシティ構想は、国家戦略特別区域(特区)として行われ、この度、この国家戦略特別区域(特区)法が改正されました。

国家戦略特別区域(特区)制度は、成長戦略の実現に必要な、大胆な規制・制度改革を実行し、「世界で一番ビジネスがしやすい環境」を創出することを目的に創設されました。

経済社会情勢の変化の中で、自治体や事業者が創意工夫を生かした取り組みを行ううえで障害となってきているにもかかわらず、長年にわたり改革ができていない「岩盤規制」について、規制の特例措置の整備や関連する諸制度の改革等を、総合的かつ集中的に実施するものです。

2019年の通常国会で廃案になり、修正を加えて今国会に提出したもので、改正法案は、その整備事業を法定化し、事業主体が国や自治体などに保有データの提供を求めることを可能にするものとなっています。

スーパーシティ特区では自動運転車が走り、ドローンが舞う

スーパーシティ構想では、複数の分野にわたる規制改革をまとめて行い、テレワークや車の自動走行、キャッシュレス決済、ドローン配送、遠隔医療、遠隔教育などを進めることを想定しています。

担当の北村誠吾地方創生相は記者会見で、新型コロナの感染拡大で政府が接触機会の削減を訴えていることを踏まえ、「一層、デジタル社会の大切さを感じている。成立を果たさなければならない」と意気込みを示したとのことです。

政府は秋にも、スーパーシティ構想を進めたい自治体などを正式に公募する考えで、内閣府によると、全国の54団体からアイデアの応募があり、2025年の万博の開催予定地である大阪市の人工島「夢洲(ゆめしま)」を含む地域も「候補地」に挙がっているとのことです。

一般公道では走らせることができない自動運転車を、この特別区域(特区)では、道路交通法規制を緩和して走らせることができ、新型コロナ感染拡大対策で注目された様々なリモート、授業や診療などを積極的に行えるようにします。

ドローンを飛ばして輸送等に活用できるのも、特区ならではの規制緩和によるものです。

問題は「個人情報」の取り扱い

ここまでに関しては、受け入れやすい内容となっていますが、役所の手続き業務に加え、銀行業務のデジタル化及び情報共有化を図ることを勧めていて、その際の個人情報の取り扱いに関して、議論が起きているようです。

個人情報を集める際の本人同意や、自治体が対象地域を決める際の住民合意をどう得るかなど課題も多いが、内閣府地方創生推進事務局は「個別ケースの判断」としており、具体的に定まっていないとのことです。

この個人情報は、改正法案では、その整備事業を法定化し、事業主体が国や自治体などに保有データの提供を求めることを可能にするというのです。

Next: スーパーシティ構想は、縦割り行政によるそれぞれの複数の規制を、横断型――



個人情報を官民が利用することへの不安

スーパーシティ構想は、縦割り行政によるそれぞれの複数の規制を、横断型で同時に実現しようというもので、複数分野の規制改革を同時に実現できるよう、スーパーシティ用の特別な手続きを整備するものです。

現行の国家戦略特区では、区域計画の決定と規制改革が別々のプロセスになっており、計画立案中に各省と個別に調整を行わなければならないのに対して、スーパーシティの事業計画は、案の段階で内閣府が仲立ちし、各省に必要な特例措置を求めていきます。

その内容を各省調整に先立って公表することで、各省の検討が一体的に進むようにするものですが、事業計画案については、事前に住民の合意を得ておくことが前提であるとしています。

例えば、自動車の自動運転、ドローンの遠隔操作または自動操縦と、これらに関連する電波利用などの実証実験については、関連4法(道路運送車両法、道路交通法、航空法、電波法)を一括で許可する制度を創設するというものです。

ただ広範囲に、個人情報は飛び交うことになります。

目指している方向性が問題なのではなく、そのためのプロセス、住民の賛同という問題と、個人情報の取り扱いが問われているようです。

主に、国家戦略特区改正案に反対しているグループの主張は、この「個人情報の取り扱い」に問題があるとしています。

スーパーシティ構想は、国や自治体が持っている個人情報や、民間企業が持つ行動履歴などの個人データを一元化して、様々な住民サービスに利用し、便利で快適な暮らしを実現しようというものです。

個人情報を、官民が利用し合うというものです。

それは、暮らしに直結するサービスに活用するため、地域の多くの住民の生活に大なり小なり影響を与えるものになります。

個人情報を自由に集めて使える特区?

NPO法人アジア太平洋資料センター共同代表の内田聖子氏は、次のように問題点を挙げています。

例えば、配車アプリを介して、市民の自家用車を利用する「通院タクシー」を導入しようとする場合、国や自治体は、情報を一元管理する都市OSを管理する事業者から、高齢者の住む場所、健康状態、要介護度の情報などの提供を求められる可能性がある。

政府は「個人情報保護法令に従い、必要な場合は本人の同意が必要」と説明しているが、行政機関個人情報保護法には、公益に資するなど特別な理由がある場合、本人同意なしで提供できるとも定められている。どちらが優先されるのか。政府は国会で、自治体や事業者や国でつくる区域会議が「判断する」と答弁したが、あいまいだ。

個人が特定されないマスデータとして処理されるとしても、生体認証やプロファイリングなどに対する市民の懸念が高まるなか、人権という観点から法案が精査されたとは思えない。米国のサンフランシスコ市では、行政が町に監視カメラを導入することを禁止する条例も可決されている。

出典:与党急ぐスーパーシティ法案 規制緩和だけではない問題(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース(2020年5月21日配信)

としています。

この観点から見れば、「スーパーシティ構想」とは、人工知能(AI)などを活用した最先端都市づくりのために個人情報を自由に集めて使える特区のことだと言い換えられそうです。

Next: 次世代インフラとか5G革命とか、第四次産業革命と言われるすべてにおいて――



ビックデータがすべて。そしてビックデータに大量の個人情報が含まれる

次世代インフラとか5G革命とか、第四次産業革命と言われる、すべてにおいて「ビッグデータ」なしでは成り立たないもので、ビッグデータがすべてだということです。

そのビッグデータには、大量の個人情報が含まれるということなのです。

ただ、社会インフラの効率化や利便性を高めるには、私たちが、積極的に個人情報を提供することが不可欠となってきます。

中国のように強制的に、個人情報を取り上げることはできません。

「住民の合意」は、どこかで取り付ける必要はありますね。

議論は十分か? 改正国家戦略特区法が可決

国家戦略特別区域(特区)法改正法案は、昨年の通常国会では実質的な審議が行われず廃案になりましたが、今国会では自民・公明・日本維新の会などの賛成で衆院を通過し、参議院本会議で可決され、成立しました。

27日の参議院本会議で審議が行われましたが、野党側は「本人の同意なしに個人情報の目的外使用や第三者への提供などが可能となる場合があり問題だ。明らかな欠陥法案だ」などと指摘しましたが、与党側は、討論を行いませんでした。

そして採決が行われ、改正法は、自民・公明両党などの賛成多数で可決され、成立しました。

スーパーシティ構想で行われることは以下のとおりです。

移動:自動走行、データ活用による交通量管理・駐車管理など
物流:自動配送、ドローン配達など
支払い:キャッシュレスなど
行政:ワンスオンリーなど
医療・介護:AI ホスピタル、データ活用、オンライン(遠隔)診療・医薬品配達など
教育:AI活用、遠隔教育など
エネルギー・水:データ活用によるスマートシステムなど
環境・ゴミ:データ活用によるスマートシステムなど
防災:緊急時の自立エネルギー供給、防災システムなど
防犯・安全:ロボット監視など

目指す方向性は良いのですが、そのプロセスに問題あり……そういうことなのでしょう。

Next: 「便利」を得る代わりに、大事なものを手放す。かつて誰かが言っていた――



“便利”をとるか、“個人”をとるか

「便利」を得る代わりに、大事なものを手放す。

かつて誰かが言っていた言葉だったかと思います。IT社会が進むにつれ、いつもこのフレーズが頭をよぎります。

個人情報を提供しなければ、社会インフラの効率化と私達の利便性は手に入りません。

不自由でもいいから、非効率でもいいから個人を守り抜くことを「昭和」と片付けるのはあまりに乱暴だと思いますが、どこかで折り合いをつけないとイノベーションは起こせないのも事実で、やはりそこには情報を運営および管理する側への信頼がないと成り立ちません。

すべてはそこにあるのかも知れませんね。

中国の人は「指のタッチ1つで完結できるのなら、個人情報が漏れても構わない」と、堂々と答えています。「便利>個人」が中国国内のコンセンサスです。IT技術で中国が先行するのもよくわかります。

民主主義というのは、面倒なもので、手間のかかるもの。これも誰かの言葉だったように思います。

世の中の進歩、利便性の共有とともに、やはり大切にしなければならないものがあるように思えるような気がしますね……。

続きはご購読ください。初月無料です

【関連】なぜ孫正義は一般投資家以上の被害を受けた?バフェットもハマった大物投資家の落とし穴=矢口新

【関連】コロナ騒動で報道されぬ重要法案。異例の公務員法・検察庁法改正と高齢者フリーランス化=らぽーる・マガジン

【関連】消費増税で中小企業の倒産加速。これが安倍政権の言う「企業の新陳代謝」なのか?=らぽーる・マガジン

<初月無料購読ですぐ読める! 6月配信済みバックナンバー>

※2020年6月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。

2020年5月配信分
  • 金融機関保有のCLOが危険水域に/改正国家戦略特区法が可決(6/2)

いますぐ初月無料購読!


※本記事は、らぽーる・マガジン 2020年6月1日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

【関連】消費税ゼロ%で救える命。コロナ恐慌で死ぬ間際にも黙って10%を払い続けるのか?=鈴木傾城

【関連】天才投資家ジム・ロジャーズが警告「次の金融崩壊が私の人生で最も大きなものになる」=花輪陽子

【関連】10万円給付金は「パーッと使う」が大正解!ただし消費税おまえはダメだ=澤田聖陽

らぽーる・マガジン』(2020年6月1日号)より一部抜粋
※タイトル、本文見出しはMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

らぽーる・マガジン

[月額330円(税込) 毎週月曜日]
絶対に知るべき重要な情報なのに、テレビなどが取り上げないことで広く知らされていないニュースを掘り起こし、また、報道されてはいるけどその本質がきちんと伝わっていない情報も検証していきます。情報誌は二部構成、一部はマーケット情報、マーケットの裏側で何が動いているのかを検証。二部では、政治や時事問題、いま足元で何が起こっているのかを掘り下げていきます。“脱”情報弱者を求める人、今よりさらに情報リテラシーを高めたい人はぜひお読みください。CFP®資格の投資ジャーナリストが、毎週月曜日にお届けします。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。