コロナ禍によって貧富格差は拡大しています。やがてほとんどの労働がロボット・AIに置き換わり、人件費はどんどん削られるでしょう。その恩恵を得るのは誰か。それを考えると恐ろしくなります。(『一緒に歩もう!小富豪への道』田中徹郎)
株式会社銀座なみきFP事務所代表、ファイナンシャルプランナー、認定テクニカルアナリスト。1961年神戸生まれ。神戸大学経営学部卒業後、三洋電機入社。本社財務部勤務を経て、1990年ソニー入社。主にマーケティング畑を歩む。2004年に同社退社後、ソニー生命を経て独立。
企業はロボット化で人員削減へ
今回は少し怖い話をさせていただきます。
ここのところ、貧富の差が拡大しているとよく言われます。例えばクレディスイスによれば、世界の最富裕層11%が、世界全体の富の80%を持っているそうです。
幸いに日本ではそれほどの格差を感じませんが、それでも貧困層の拡大はよく耳にする話題です。
今後、この格差は拡大傾向だと思いますが、僕はコロナによって、その傾向が一層強くなるのではないかと不安です。
例えば、工場のラインです。人と人との接触を減らすために工場のラインではできるだけ人の配置を減らさねばならず、そのためにはロボットの活用は有効な手段です。
物流の現場も同様で、無人化かつ自動化し、インテリジェンスを持たせた倉庫が急速に普及しつつあります。
事務部門でも同様のことが起きています。AI化・ネットワーク化・リモート化によって、データの入力や計算といった人間の手作業や移動は、徐々に必要なくなっていくに違いありません。
人間は人件費を受け取れなくなる?
いま企業は、従業員をロボットやコンピュータに置き換えつつあると言えるでしょう。そして、そのロボットやコンピュータを造るのもまた、ロボットやAIです。
このようにして今まで企業が支払っていた人件費の大半は、従業員ではなくロボットやコンピュータに支払われることになるでしょう。
いままでもこのような動きはありましたが、コロナによってこの動きが早まることは避けられないのではないでしょうか。
先ほども申しましたように、ロボ化・無人化・AI化によって深刻な影響を受けるのは、単純な労働を対価に企業から賃金をもらっていた従業員で、この層はさらに貧困化が進むのではないかと思います。
Next: 逆にロボ化・無人化・AI化によって利益を享受できるのは、いったい誰で――
ロボット化で得する人は?
逆にロボ化・無人化・AI化によって利益を享受できるのは、いったい誰でしょう。
一義的には労働者への賃金を支払う必要がなくなる「会社」ではないでしょうか。
ロボットやコンピュータも導入の際に費用が掛かりますが、いったん導入してしまえばおカネはさほど要りません。
確かに次の更新時には導入費がかかりますが、ロボットを造るのがロボットだとすれば、規模の拡大によって量産効果を得ることができるはずです。
つまり、ロボットの普及によってロボット自体の導入コスト抑制効果が出るということです。
これに対して人件費のほうはどうでしょう。
人間を量産することはできませんので、ロボットやAIと違い量産効果を得ることもできません。
これはどういうことかと言いますと、今後ロボットやAIの導入コストと人件費の差はますます広がり、それがさらにロボ化・AI化を速めていくということです。
深く考えると怖くなってしまいます。
最終的に得するのは投資家
先ほど僕は、ロボ化・無人化・AI化によって利益を享受できるのは、「一義的には」労働者への賃金を支払う必要がなくなる会社だと申しました。
では「一義的に」ではなく「最終的に」、ロボ化の恩恵を受けるのはいったい誰でしょう。
言うまでもなく会社の保有者である「投資家」です。
冒頭で世界の富裕層11%が世界全体の富の80%を持っていると紹介しましたが、おそらく富裕層の大半は株の所有者でもあるはずです。
FRB発表の資料によると、アメリカでは全株式の90%を上位10%の富裕層が持っているようです。もし前述の通り会社の所有者に、今後さらに富が集まるとすればどうでしょう。
世界はますます株を持つ者と持たざる者の差が広がり、さらに貧富の差は拡大することになるでしょう。
格差拡大はいずれ止まる?
私たちも負け組に入らないよう大局観を持たなければなりませんが、同時にまた、格差拡大がもたらす社会の変容に対する備えを怠ってはなりません。
僕にはどう考えても、このまま格差の拡大が延々と続くとは思えません。
もし今でも1人1票を前提とした大衆による民主主義が機能しているとすれば、いずれ揺り戻しが起こってもなんら不思議ではありません。
具体的には、格差是正を目的とした政策の転換です。
仮に今の連立与党体制でそのような政策転換が無くても、格差是正を目指す他党が「富の一極集中の被害者である国民」の支持を得て政権をとる可能性もあります。
具体的に申し上げるなら法人税引き上げと所得税の累進性強化ですが、それだけでは富裕層が既に持っている資産の再配分はできません。
同時に相続税と贈与税の税率引き上げが検討され、さらに累積している政府債務の一掃を目指した富裕層向けの資産課税が加わることになるかもしれません。
荒唐無稽とお感じになるかもしれませんが、決して可能性はゼロでは無いと僕は思います。
Next: 特に富裕層に属する方は、以下のような流れが起きることを念のため想定――
資産の質的分散が必要
特に富裕層に属する方は、以下のような流れが起きることを念のため想定しておいたほうがよいのではないでしょうか。
ロボ化、AI化の加速
↓
単純労働機会の減少
従業員の賃金減少、企業業績の拡大
↓
企業の所有者(株の保有者)へ一層の富の集中
↓
格差是正政策への転換
実態を伴わない「株式」という紙の資産は、諸刃の剣です。砂の上に築かれた楼閣のように、一種の危うさと不安定さを持っているということを、私たちは忘れるべきではありません。
その観点でも資産の質的分散は必要ではないでしょうか。
『一緒に歩もう!小富豪への道』(2020年6月16日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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