日本のコロナ死者数は世界でも目立って少なく、麻生大臣は「民度の問題」と胸を張りました。しかし経済の実態が見えてくるにしたがって、コロナ危機の深刻度が高まっています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年6月19日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
「民度」では乗り切れないコロナ危機
新型コロナウイルスの感染拡大が「パンデミック」となり、世界の感染者は806万人、死者は44万人を超えました。
その中で日本の感染者1万7,668人、死者数935人(いずれも6月18日現在)は、主要地域の中でも目立って少なく、麻生大臣は「民度の問題」と胸を張りました。
しかし、経済の実態が見えてくるにしたがって、コロナ危機の深刻度が高まっています。
輸出は、今や世界の感染の中心となりつつある米国大陸向けが半減し、中国向けは下げ止まりを見せています。それでも「外需」は4-6月のGDPを4%近く押し下げる勢いです。
GDPの6割を占める個人消費はさらに大きな足かせとなってGDPの足を引っ張っていますが、分野によって明暗が大きく分かれているのも、コロナ禍ならではの特色です。
バンデミックで輸出が急減
新型コロナウイルスの感染が世界に広がる中で、これと軌を一にするように、日本の輸出が急減しています。
昨年の輸出金額は5.6%減少しましたが、コロナの感染拡大に伴って、今年3月の輸出は前年比11.7%減、4月は21.9%減、そして5月は28.3%減と、パンデミックの影響をまともに受けています。
感染が当初中国で、次いで欧州、米国に広がり、今では米国、ブラジルなど南北米国大陸が感染の中核となっています。
輸出も5月は米国大陸向けが5割を超える減少となり、EU向けは34%、中国向けは1.9%減と、感染の中心が動いているのを、そのまま反映しています。
その影響を最も強く受けているのが自動車で、米国向けは8割減、EU向けは5割減と、輸出全体の足を引っ張っています。
コロナの影響は人との接触を伴うレジャー関連、サービス関連中心と見られましたが、輸出では何と自動車、及びその部品が最大の影響を受け、大きく落ち込んでいます。
物価変動の影響を除いた実質ベースの輸出は、4-5月の水準が1-3月を18%も下回っていて、6月によほどの回復がないと、4-6月のGDPを3%近く押し下げます。
インバウンドの減少で「サービス輸出」も大きく減少しているので、輸出全体では3%を超える減少寄与になりそうです。この間、実質輸入は1-3月を4.5%上回っているので、「外需」全体ではGDPを4%近く押し下げる効果を持っています。
Next: モノの輸出はGDPの14%に過ぎませんが、個人消費はGDPの約6割を占めるので――
個人消費は内閣府と日銀で評価が割れる
モノの輸出はGDPの14%に過ぎませんが、個人消費はGDPの約6割を占めるので、これの好不調がGDPにはより大きな影響を持ちます。
そして今回の新型コロナウイルスの影響は、消費関連分野でも大きく明暗を分けています。
コロナ前よりも消費水準が4割から6割も増えているもの(宅配、SNSコンテンツ、酒屋など)がある一方、コロナ前に比べて9割以上も減少しているもの(パック旅行、宿泊など)もあります。
かつてない今回の需要分断は、統計によって「個人消費」の様相が異なる結果をもたらしています。残念ながら個人消費全体を表す統計はなく、いくつかの関連統計を組み合わせて評価するのですが、統計によって個人消費の落ち込み度合いが変わってきます。
そこで消費の全体像を反映する指標を内閣府(消費総合指数)と日銀(消費活動指数)が考案しました。
これまで両者に大きな差は見られず、いずれもGDPの個人消費を代弁するものと豪語していました。ところが、日本でコロナの影響が出始めた3月・4月には、両者の間に大きな差が出るようになりました。
例えは、4月の消費水準を1-3月と比べてみると、内閣府の「消費総合指数」は7.7%減となっているのに対し、日銀の「消費活動指数」は14.0%の大幅減となっています。
両者がここまで大きく乖離したことはこれまでありません。
消費関連統計の組み合わせが違うために生じたと考えられますが、それだけ今回のコロナの影響は、指標・統計に大きなブレをもたらしているのが特色と言えます。
内閣府は需要面で総務省の「家計調査」を、供給面で経産省の小売り統計などを、サービスを第三次産業活動指数を用いて「統合」しています。
一方、日銀は家計調査や第三次産業活動指数を使わず、主に供給サイドの指標を広く統合して消費統計をまとめ上げています。
この指標作成の過程の差によって今回の数字の差が大きく出たことになります。
では、どちらが実態に近いのでしょうか。
家計調査のゆがみ
その点、「家計調査」にはサンプル数の少なさに加え、対象に公務員が多いといわれ、職の安定が確保された対象が多い分、コロナの影響が出にくくなっている面があります。
実際、4月の勤労者の実収入は安定していて減っておらず、自動車購入費が増えています。新車販売は27%も減っている中でです。4月の「家計調査」は消費を過大に表示している可能性があります。
また「第三次産業活動指数」についても、個人向けサービス以外に企業向けも含まれているので、純粋な消費関連データとは言えません。
それでもコロナ以前はこれらが消費を大きくゆがめることにはならなかったのですが、コロナが分野ごとに、主体ごとに大きな差をもたらすようになったため、この2つの統計が消費を却ってゆがめる面を持っています。その点、日銀の「消費活動指数」に多少分があると考えられます。
それだけ4-6月の個人消費は大きな落ち込みがあったと見られ、帰属家賃を除いた純粋個人の消費は10%以上の大幅減となる可能性を示唆しています。
先の「外需」と個人消費だけで4-6月のGDPを10%押し下げる面があり、これに設備投資や住宅投資、民間在庫の減少を加えると、GDP全体は年率40%以上の大幅縮小の可能性が出てきました。
おまけに、3月から景気が急減したため、例えばGDPに近い「全産業活動指数」の3月分は、1-3月の平均より2.5%ほど低くなっています。つまり、4月以降横ばいでも4-6月は2.5%(年率約10%)のマイナス成長になる「マイナスの下駄」を履いています。
従って、これも加味すると、4-6月のGDPは年率50%近いとんでもないマイナス成長となる可能性を秘めています。
Next: 米国で5月の小売りが前月比17%余りの急回復を見せたので、一部にまたV字――
7-9月も反発は期待薄
米国で5月の小売りが前月比17%余りの急回復を見せたので、一部にまたV字回復を期待する声が出ています。
しかし、日本ではいまだに給付金の支給が限られ、夏のボーナスも6%の減少(経団連)が予想されています。
さらに、旅行を刺激する「Go-to」キャンペーンも8月以降の実施となりそうで、それまで旅行を「待つ」人が増えそうです。
オリンピック関連需要がなくなり、夏のレジャー支出が遅れると、7-9月のGDPも反発できなくなります。
抗ウイルス薬が一般認可されないままコロナの感染がまた拡大すると、営業再開でも感染防止の「距離」をとることで集客は減り、従来の消費活動には戻りません。
特効薬の開発と新しい「with コロナ」型のビジネスを生み出し、穴埋めすることが急務となっています。
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『マンさんの経済あらかると』(2020年6月19日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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