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ZOZO復活の兆し?アパレル各社の「ZOZOがえり」は前澤氏不在のつまらなさを埋めるか=栫井駿介

アパレル大手のオンワードホールディングス<8016>とZOZO<3092>の業務提携が発表されました。両社が協力して、オーダーメイド・ビジネスファッションを販売していくとのことです。契機となったのは、何かとトラブルを引き起こしていた前澤社長の退任です。風雲児不在のアパレル業界とZOZOの今後を考えます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

アパレル業界を馬鹿にした前澤氏

オンワードはかつてZOZOタウンに出店していましたが、2018年末に撤退していました。きっかけはZOZOがはじめた「ZOZOアリガト」サービスです。出店者に無断で割引販売を行ったのです。

これにオンワードをはじめとするアパレル各社は反発しました。アパレルは価格を下げないことでその価値を維持していますから、勝手な値下げは死活問題です。オンワードだけでなく、ライトオンやミキハウス、ゴールドウィンなども撤退を決めました。

極めつけが、前澤社長(当時)のTwitter上での「失言」です。

「いまお店で約1万円くらいで売られている洋服の原価がだいたい2000~3000円くらいだということを、皆さんはご存知ですか?」

「どうせ少し時間がたてばセールになるので、洋服を定価で買うのは馬鹿らしいと思う」

「自分が定価で買った洋服が、あとあとセールで安く売られているのを見たときの気持ちは?」

上記のような発言が反感を買い、Twitterの「一時休止」に追い込まれました。

アパレル各社はZOZOにとっての顧客です。そこの製品を「定価で買うのが馬鹿らしい」とこき下ろしたのです。ビルのオーナーがテナントの商品を馬鹿にするようなもので、前澤氏が彼らを「ダシ」に私服を肥やしたと考えると腹が立って当然です。

このような思想が根底にあったからこそ、「ZOZOアリガト」のような反発を招く施策を行ったとも考えられます。

「ZOZOアリガト」「Twitter失言」により、離反したブランドの復帰は絶望的にも見えました。

前澤氏なきZOZOは「与しやすい」

状況を変化させたのが、前澤氏の突然の退任でした。2019年9月、Zホールディングス(ヤフー)<4689>が前澤氏の持つZOZOの株式を買い取り、同社を子会社化することを発表したのです。同時に、前澤氏の退任も発表されました。

それまでZOZOの経営のみならず、女優との交際や御殿の購入、宇宙旅行計画などで公私ともに世間を賑わせた同氏でしたが、その退任まで「破天荒」だったのです。

一旦は退任しながら舞い戻ってくる経営者が多い中で、前澤氏はスパッと経営から身を引いたことには好感が持てます。破天荒な彼にとって、上場企業の社長という肩書は単なる足かせにすぎなかったのかもしれません。

社長の言動により良くも悪くも注目されがちなZOZOでしたが、これにより「普通の会社」としての道を歩むことになりました。

その象徴的な出来事が、今回のオンワードとの提携でしょう。前澤氏は退任し、「ZOZOアリガト」も終了しました。オンワードの保元社長とZOZOの澤田社長は旧知の仲ということで、提携も進みやすかったことでしょう。

前澤氏という「爆弾」がいなくなった今、業界にフレンドリーな立場を取ることでZOZOは安定した成長軌道に乗ったように見えます。

Next: 一方のオンワードですが、会社は存亡の危機に立たされています――



窮地に陥るアパレルは「ZOZOがえり」か

一方のオンワードですが、会社は存亡の危機に立たされています。

2020年2月期は500億円もの最終赤字を計上しました。業績不振は今にはじまったことではなく、売上高はピークから2割以上も減少していました。

同じく百貨店を中心に店舗展開するレナウンが経営破たんしてしまったことからも、中高価格帯ブランドの厳しさがうかがえます。

追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスです。ただでさえ苦しい経営環境の中で、緊急事態宣言による店舗閉鎖や外出自粛によるファッション需要の減少により、まったく売上が立たない状況になってしまったのです。

ここでオンワードは大胆な賭けに出ます。約3,000あった実店舗のうち1,400店舗を閉鎖し、将来的には売上の半分をECで稼ぐことを目指すというのです。すでに400名超の希望退職を実施するなど、着々と改革を実行しています。

そこで白羽の矢が立ったのがZOZOです。アパレルでECを目指すとすれば、ZOZOは避けては通れない存在です。前澤氏がいなくなりやりやすかったところもあるでしょうが、在任していたとしても背に腹は変えられなかったかもしれません。

それほどアパレル業界では生死をかけた攻防が繰り広げられているのです。

同じようなことが他のアパレル企業でも起きてくるのではないでしょうか。これまで百貨店に看板を掲げていれば服が売れましたが、もはやそんな時代ではありません。

若者はユニクロやジーユー、H&Mなどのファストファッションを着こなすことがオシャレとなっています。高級ブランドなら一定の需要があるものの、中途半端に値段の高いところはますます厳しさを増すでしょう。

安泰じゃない? ZOZOの決算資料から見える「衰退」

そのZOZOですが、決算資料を見ると少し気になる点があります。

「年間購入者数」のグラフを見ると、合計数こそ減少していませんが「ゲスト購入者数」が明らかに減少しています。これは、新規顧客が取り込めていないということです。

出典:2020年3月期決算説明資料

新規顧客がいなければ、やがてジリ貧になってしまいます。この点、かつては良くも悪くも前澤氏が話題になり、ZOZOの知名度を高めたことが効果を発揮していた可能性があります。その手段を失ってしまったことはマイナスと捉えられます。

また、1人あたり購入金額を見ると、これは明らかに下降線をたどっています。顧客が増えず、購入金額も減少したとなれば当然トータルでの売上は下がってしまいます。

出典:2020年3月期決算説明資料

1人あたりの購入金額が高いということは、熱狂的なファンがいるということです。前澤氏はもともとバンドマンですから、ファンを虜にする感覚を持っていたのではないかと推測されます。
このまま1人あたり購入金額が下がってしまうと、残るのは「金にうるさいケチな客」という事になり、ZOZOタウンというプラットフォームに魅力がなくなる懸念があるのです。

このような最近の流れを見ると、やはり前澤氏がいたほうが成長性があったのではないかと思えてきます。問題も多い人ですが、これだけの企業を育てたカリスマ性はやはり確かだったと思います。

Next: 2020年に入り、新型コロナウイルスがデジタル・トランスフォーメーション――



嘆く株主「前澤氏がいれば」

2020年に入り、新型コロナウイルスがデジタル・トランスフォーメーション(DX)に拍車をかけています。ZOZOにとっては間違いなく追い風です。

行き場のなくなったアパレル業界にとっての「駆け込み寺」としての存在価値は大きいと考えます。ヤフーのバックアップがあれば、これまでのような問題も起きにくくなるでしょう。

ただ、投資対象としてはあまり面白味のある銘柄ではなくなってしまいました。

昨年度業績に対するPERは42倍と高めの水準にあります。着実な成長にしてはやや割高な印象です。

これが前澤氏がいればもっと大きなことをやって、何倍にも化ける可能性があったのでしょう。それならこの高いPERも許容できました。

しかし、今や単なる子会社になってしまいました。そんなに大きな成長は望めないでしょう。だとするなら、この水準で買いたい動機も特にないというわけです。

ZOZO<3092> 週足(SBI証券提供)

悪い会社ではありません。急成長期は終わりましたが、なお高収益なことに変わりはなく、コロナ禍でも業績を伸ばしています。でも、夢を見たい投資家にとっては「前澤氏がいたら」と思ってしまうこともあるわけです。

「堅実」と「破天荒」――経営にはこの両方が求められると言えます。


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image by:Koshiro K / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年7月26日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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