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なぜ遺産相続「子ども全員に均等分割」は難しい?遺産“争族”にしないためにできること=牧野寿和

親の死後、どうしても揉めがちな遺産相続。遺された家族や子どもたちが笑顔で過ごせるよう、誰もが納得する遺産相続の分割の方法をFPの立場から考えていきます。(『【人生の添乗員(R)】からのワンポイントメッセージ』牧野寿和)

プロフィール:牧野寿和(まきの ひさかず)
ファイナンシャルプランナー、牧野FP事務所代表。「人生の添乗員(R)」を名乗り、住宅取得計画やローンプラン、相続などの相談業務のほか、不動産投資、賃貸経営のアドバイスなども行う。著書に『銀行も不動産屋も絶対教えてくれない! 頭金ゼロでムリなく家を買う方法』(河出書房新社)など。

子ども全員に「均等に相続」はなかなかできない?

親の残した遺産は、通常、その子どもが複数いれば、親が亡くなるごとに、特に遺言がなければ均等に分割して相続します。

そのように民法に定められています。また、子どもたちは学校でも学んでいることです。

ただ、その定め通りにできないのが世の中の常でもあります。

そこで今回は、相続の当事者の子どもたちが満足できる遺産分割の方法について、私のこれまでのFP業務経験や相談をいただいた内容をカスタマイズして考えてみたいと思います。

なお、今回のテーマは、相続する資産にいくら相続税がかかる、といった問題を取り上げるのではなく、相続税を払う払わないにかかわらず、親から何らかの相続があるすべての子どもが対象に成り得る内容です。

親が相続する資産を持っている場合、その資産を永遠の旅立ち後に、どのように子どもたちに分配すればよいのしょうか?

その案を生前に作っておけばよいことは、親はわかっています。しかし、いざ作成するときになると、個々の子どもの誕生から今までの出来事を思い出して、なかなか完成できないことも事実のようです。

また、苦しんで作成した分割案は子どもたちや配偶者から反対されることもあり、子どもたちにご自身の思いは直接語らず、

・遺言書を残す
・ご自身が亡くなった後に子どもたちに任せる

といった方法で遺産を分割する方もいます。

なぜ遺産分割は難しいのか

そもそも、なぜ遺産分割は難しいのでしょう?

その原因のひとつは子どもの人数で、きれいさっぱり均等割りに遺産を分けることができないからです。

親の遺産が現金や株式などの有価証券だけでしたら、子ども数で均等に分けることも可能でしょう。しかし、近年家庭裁判所で相続税がかからない遺産分割の調停が多いと統計上でも発表されています。

遺産の総額に係わらず、遺産を均等に分割することは難儀なことでもあるようです。

そこで、戸建て住宅を遺産分割する例で、話を進めてみましょう。

Next: 子どもたちはすでに独立していて、両親が亡くなった後、実家に誰も住んで――



実家の「資産価値」を均等に分けるだけ

「戸建て住宅」を遺産分割する例を挙げます。

子どもたちはすでに独立していて、両親が亡くなった後、実家に誰も住んでいなければ、その家を売却して得たお金を均等に子どもの数で割ればよいのです。

ただし、両親と子どものうちの誰かが同居していた場合は厄介な問題になることもあります。

A家では、長男のBさん家族がBさんの両親と同居していました。

両親が亡くなった後、長男のBさん家族も実家を離れて別のところに住むのであれば、実家の売却は可能でしょう。

しかし、長男のBさん家族がこのまま実家に住み続ける場合、実家の相続資産価値を税理士に算定してしてもらい、長男のBさんがほかの兄弟よりもらいすぎている分を、通常は、ほかの兄弟には現金で渡します。

例えば、実家の相続資産価値が900万円で、2人兄弟であれば兄弟ともに450万円ずつ遺産を相続することになり、長男のBさんが、実家(不動産)を相続したので現金で450万円、長男のBさんがもう1人の兄弟に払います。

3人兄弟であれば、長男のBさんがほかの兄弟に300万円ずつ、計600万円支払うことになります。

ただ、例外だらけで現実的ではない?

ただ、この解決策は机上だけで通用することが多く、現実的ではないことの方が多いです。

なぜなら、家庭ごとに事情は違うからです。

上記の場合でも、父親の遺産は実家の戸建て不動産だけも、母親はかねてより貯蓄をしていて、その貯めたお金の一部を生前に長男のBさんでない方の子どもに生前贈与しているかもしれません。

また、こんな例もありました。

親と同居しているCさんは、両親が生前介護の状態になり、公的な介護認定も受けました。

両親の介護のケアにかかった費用は、両親の貯えや介護保険から負担できました。しかし、一部はCさんの家計から負担した分もありました。Cさんは、両親の介護の世話は子どもたち全員が費用を負担し合うものであり、ほかの兄弟からも費用の負担を希望していました。

ただ、両親が介護の状態になった時に、自宅の玄関や階段に手すりの設置や洗面所、風呂の改修などもしました。この改修費用についてもCさんは、ほかの兄弟にも均等に負担してもらいたく思っていました。

しかし、ほかの兄弟からは、手すり、洗面所や風呂は、将来的にCさん家族も使えるものだからと費用負担に難色を示しました。

Cさんは、実家は築古の建物だから両親亡き後の近い将来に建て替えを予定していると言っています。

相続税法は、社会の実態に合うように改正はされてはいるようですが、繰り返しになりますが相続税が必要ない相続でも家庭に即した相続対応策を練っておくことは、いつの時代でも大切です。

Next: 事業承継が関係している相続は、事業主の家族だけの問題に留まらず従業員――



負の遺産にもなりえる。だから必要なこと

事業承継が関係している相続は、事業主の家族だけの問題に留まらず従業員の生活にも影響を及ぼすこともあり、当事者同士が慎重に対応することが多くあります。

しかし、上記のケースのような、単に家族内の場合は、両親自身がその親から相続を受けたのであれば、その時の経験を活かすことができるかもしれません。

しかし、家庭や社会の環境が以前の世代と同じではありません。

親の遺産分割と同じ方法で、ご自身の遺産分割が解決できるのか?疑問なところでもあります。

また、親が分割案を出すことなく、また、検討している途中で亡くなることもあるでしょう。それでは子どもたちが困ります。実際に困っている人たちもいます。

例えば、築古の実家を残しておけば、将来は子どもたちの役に立つだろうと、子どものことを思い残していっても、子どもたちはほかのところに住んでいて、誰も実家に住まないかもしれません。

築年数や立地などの条件で空き家を活用することも可能かもしれません。一方で、実家を空き家で残しておけば、防犯上、環境上でも問題が起きます。

また、残された子どもに固定資産税などの負担を強いることにもなります。従って、親が自ら処分した方が良い場合もあります。

子どもから見れば親の資産は親の持ち分です。親は、ご自身の持ち物を生前に責任を持って誰に譲るか処分するか、決めて実行するべきでしょう。

そして、決めたことは、子どもや配偶者などの前で話す。

話すだけでは不安であれば遺言にして、書き留めておくことも大切です。相続は、安易に子どもに任せることではありません。また、親しかできないことです。

ご自身の財産をリストアップして、何を誰に譲るのか、相続をする人をご自身で決めましょう。

譲る先がない、もらった人が迷惑になるようであれば自ら処分しましょう!

これで、当事者たちも満足できるのです。

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image by:Rawpixel.com / Shutterstock.com

【人生の添乗員(R)】からのワンポイントメッセージ』(2020年7月29日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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