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平均年収1800万円!キーエンスの営業力はコロナ後も通用するのか?=栫井駿介

キーエンス<6861>という会社をご存知でしょうか?多くの人にとっては年収が高いことで有名な会社として認識されていると思います。しかしその中身について詳しく知っている人は少ないのではないでしょうか。この記事ではキーエンスが従業員になぜそんなに高給を支払っているのか、事業分析から答えを見つけていきたいと思います。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

平均年収1,800万円!悪いことでもしてる?

経済誌で上場企業の平均年収ランキングを目にすることがあるでしょう。

キーエンスは上位の常連です。直近の有価証券報告書では、1,800万円もの平均年収が記録されています。平均的な年収が400万円程度と言われる中、その4倍以上にも相当する金額です。

これだけ高いと「何か悪いことをしているのではないか?」とさえ思ってしまいますが、決してそんなことはありません。

ここで、キーエンスの事業について改めて振り返ってみましょう。

取り扱っている商品は、計測機器など主にファクトリー・オートメーション(FA=自動化)のために工場で用いられるものです。

ただし、自ら商品を作るのではなく、「ファブレス」と言って製造そのものは外注し、自らは設計と営業だけを行う会社です。

この「設計と営業」というところに、キーエンスの会社としての本質が現れます。

キーエンスで高い給料をもらっているのは、営業の人たちです。給与体系はまさに成果主義と言え、売ったらそれだけ給与に反映される仕組みとなっています。ボーナスは年に4回もあるとのことです。

売れば売るだけ給料に跳ね返ってきますから、社員も必死に成果を求めて行きます。しかし、それは必ずしも押し売りのようなものではありません。

北極圏の住民に冷蔵庫を売る

彼らの営業スタイルは、顧客の要望を徹底的に聞き取り、それに沿った商品を提案することです。さらに「業界初」「世界初」という商品を持つことによって、キーエンスの商品を買わないといけない状況を作り出しています。

損益計算書を見ると分かりますが、この会社の原価率は2割未満に止まります。これはすなわち、200円で仕入れた商品を1,000円で売るのと同じことです。

自ら製造しているならまだしも、外注先からの仕入れ価格が200円ですから、いかに高い価格で売っているのかお分かりいただけるでしょう。

もちろん顧客も、それが決して安くはないことはわかっているはずです。それでも買わなければならないほど絶妙な提案をしてくるのが、キーエンスの営業マンなのです。

営業に関しては、以下のような逸話を聞いたことがある人もいるかもしれません。「エスキモーに冷蔵庫を売る」というものです。

エスキモーは北極圏の寒い地域に住んでいるので、冷蔵庫なんて必要ないと思われているでしょう。しかし、敏腕の営業マンは、そんな中でもエスキモーのニーズを汲み取ります。実は、彼らは食べ物が凍ってしまうので困っている……というわけです。そのニーズに対し、冷蔵庫は「温」蔵庫としての役割も果たせると宣伝することで、エスキモーに冷蔵庫を売ることができます。

キーエンスの営業マンとは、このような話を地でいくような人たちなのです。

Next: 年収1800万円でも「人件費安すぎ」!? 数字が語るキーエンスの実態



営業利益率50%超の化け物!すべての企業が目指すべきキーエンスの経営とは?

しかしそれでも、社員に2,000万円近い高給を支払っていたら、収益を圧迫すると思われるかもしれません。

ところが、有価証券報告書を見ると、売上高に占める人件費の割合は15%弱にすぎず、大きな負担となっているわけではないことが分かります。

高い給料がほとんど関係ないほど、高い価格で売りまくっているのです。

その結果、キーエンスの営業利益率は50%を超え、10%で優良、30%で優良と見られる製造業の中で、まさに化け物のような数字を叩き出しているのです。

この数字はキーエンスの企業理念をそのまま体現したものと言うことができます。

その企業理念とは「最小の資本と人で最大の付加価値をあげる」というものです。その成果が「50%」というとんでもない営業利益率となって現れているのです。

その原動力となっているものこそが、顧客のニーズを汲み取る営業マンということになります。ここまで来ると、キーエンスの社員がなぜ高い給料をもらえるのかおわかりいただけるでしょう。

企業のあるべき目的とは付加価値を生み出すことであり、それを実現する人材に対しては惜しみなくお金を支払う。これこそが、すべての企業が目指すべき姿です。

経営学部の大家であるピーター・ドラッカーも、「企業の役割はマーケティングとイノベーションである」と言いました。キーエンスの経営はそれを体現したものなのです。

素晴らしい企業の戦略ほど単純明快

キーエンスの近年の業績は右肩上がりに成長しています。要因としては、FA市場の拡大と海外進出の加速があります。

特に海外進出に関しては、この10年の間に海外売上比率を30%から50%へと引き上げています。

上述したような原理原則に加えて、キーエンスの戦略といえば「海外進出の加速」に集約されます。足元がしっかりしているからこそ、たったこれだけの戦略で十分に業績を伸ばすことができますし、逆に言えば素晴らしい会社の戦略こそシンプルだということができます。

全ては付加価値の創造のために
1974年の会社設立以来、付加価値の創造こそが企業の存在意義であり、また、そのことによって社会へ貢献するという考えのもと、全社一丸となって事業活動に取り組んでまいりました。
世の中にない価値を生み出すことに取り組み続け、新商品の約70%が世界初、業界初の商品となっており、世界のさまざまな業界のお客様に当社商品をご採用いただいております。おかげさまで世界のグローバル企業の中でも有数の優良企業として高くご評価いただけるようになりました。

本来の目的を見失うことなく、行動し続ける。
当社の経営において大切にしていることは、「経営にとって当たり前のことを当たり前に実践する」ということです。これを実践するうえで「目的意識」を持つことを常に意識しています。
たくさんの人数で仕事を進めると、その手段が目的となり、結果として当たり前のことが徹底できなくなってしまいます。「何のためにその仕事を行っているのか、何に役立つのか」を考え、本来の目的を見失わないように心掛けることで、当たり前のことを当たり前に実践することが可能となります。

今と将来に向けて
当社の経営において優先度の高い課題は、「海外での販売比率を高めること」です。
現在の海外売上比率は市場のポテンシャルに比してまだまだ低いと言わざるをえません。大きく成長余地のある海外市場において、当社ビジネスモデルであるダイレクトセールス体制をしっかりと根付かせることで、売上を大きく伸ばしていけると考えております。
また「高い付加価値を持つ商品を世に送り出し続けること」も重要な課題です。ものづくりの現場で何が起きているか正しく把握し、先を見通すことで、お客様もまだ気づいていない課題を解決する新しい価値を持った商品が生み出されます。
社員一人ひとりが生み出した付加価値が社会の皆様のお役にたてますよう、全社員一丸となって真摯に業務に取り組んでまいります。

代表取締役社長
中田 有

出典:社長メッセージ − キーエンス企業サイト

皆さんもぜひ会社の開示資料を見比べてみてください。

業績が伸びている企業のものはわかりやすく、逆にそうではない企業のものはごちゃごちゃしていることが多いものです。

それがそのまま株式投資における銘柄選択にもつながってきます。

Next: 「コロナ禍で営業が難しい…」キーエンスにそんな常識は通じない



PER50倍は割高か?長期株価上昇の裏付け

業績の伸びに伴い、株価の上昇も加速しています。

特にここ数年の伸びは顕著で、キーエンスが優良企業として認識されてきたことが分かります。時価総額では国内3位にまで躍り出ました。

キーエンス<6861> 月足(SBI証券提供)

PERは50倍を超え一見割高にも見えます。しかし、今後もFA市場の拡大と海外進出の加速が続くのであれば、まだ成長が続くはずです。

例えば、これから5年間、年率10%程度の利益成長が続くとすれば、5年後のPERは35倍、10年続くとすれば20倍となります。危険な水準と呼べるほど割高ではないことがお分かりいただけるでしょう。

何より、素晴らしい経営をしている会社ですから、持ち続けることに不安がありません。それだけでも長期投資の対象としてはうってつけといえます。

コロナで強みの営業力が発揮できない? それは一時的なこと

直近では、新型コロナウイルスによる営業の不振や企業の設備投資減退により、業績がマイナスに転じています。

しかし、これは一時的なものだと考えられますから、株価が下がるとしたら押し目買いのチャンスを提供してくれるでしょう。

経営と株価は長期的に見れば表裏一体です。みなさんもぜひ良い会社を探し、株価変動を楽しみながら、投資をやってみてください!


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image by:Pavel Kapysh / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年8月17日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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