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いざ日経平均4万円へ!安倍辞任は株高の始まり、世界の終わりは宴の後で=矢口新

日本株はコロナショックでの下げからほぼ全戻しとなった。この先、日本経済は立ち直り、株価の堅調は続くのだろうか?私の結論は「日経平均は4万円を目指す」だ。(『相場はあなたの夢をかなえる ー有料版ー』矢口新)

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プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

日経平均は史上最高値「3万8,915円」を更新する

8月18日、米株はコロナショック後の何度目かの史上最高値を更新したハイテク中心のナスダックに続き、全上場企業の時価総額の80%を占めるS&P500も史上最高値を更新した。住宅など米経済の一部に回復の動きが見られるものの、まだコロナ禍が拡大中の最高値更新で、その後も続伸している。

一方の日本株も、まだ年初来高値には届かないまでも、コロナショックでの下げはほぼ全戻しとなっている。日本経済の回復ペースは欧米先進国や中国に大きく見劣りするものの、株価はそれなりに健闘していると言える。

先進国のPMI

こうした株価の堅調は続くのだろうか?日本経済は立ち直られるのだろうか?コロナ対策で悪化した日本の財政収支は大丈夫なのだろうか?

私の結論は「日本経済と財政の苦境は続くが、日経平均は4万円を目指す」だ。以下、その根拠を解説したい。

不景気の株高は「安倍政権後」が本番

2020年8月24日、安倍晋三首相の連続在任日数が佐藤栄作元首相を抜き、憲政史上最長となった。「7年8カ月、国民に約束した政策を実行し、結果を出すため1日1日、全身全霊を傾けてきた。その積み重ねの上に今日の日を迎えることができたのだろうと考えている。全てはこれまでの国政選挙で力強い支持をいただいた国民の皆様のおかげだ」。同日、首相はそう述べたという。

2012年12月に「日本を取り戻す」として再登場した2期目の安倍首相は、日銀総裁に財務省出身の黒田東彦氏を迎え、2013年4月に異次元緩和を敢行、6月には経済再生を謳って「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「成長戦略」を『3本の矢』とするアベノミクスを導入した。

ところが2020年現在、後になって「景気後退入りしていた」と判明した時期に強行した消費税増税が国民の消費を抑制し、コロナ禍とその対策として打ち出した「自粛勧告」が日本経済を最悪の状況に追い込んだ。

それにも関わらず、前代未聞の財政投入で株価はほぼコロナショック前に戻っている。そして、ここまで続けてきた金融緩和と財政出動は後戻りできない段階に来ている。ここに歴代最も長く日本経済を運営した歴史に残る宰相の経済成長の結果を振り返ってみたい。日本経済と財政の危機的状況を見れば、安倍政権後の政策の行方と、日経平均が4万円を目指す理由について理解できるだろう。

Next: 失政で壊れた経済は政策で立て直す。日経平均が4万円を目指すワケ



2回の消費増税を「功績」と呼ぶ安倍政権

アベノミクス下の景気回復期間は71カ月と、戦後最長とされた「いざなみ景気(2002年2月〜2008年2月)」の73カ月にあと2か月に迫る長さだった。もっとも、どちらも景気が落ち込んだところからゆっくりと回復しただけで、殊更に長さを強調する意味を見出せない。そこで、労働市場や経済規模の数値を見てみる。

異次元緩和直前の2013年3月に4.1%だった失業率は直近今年の6月に2.8%に低下した。0.86倍だった有効求人倍率は1.11倍と、大きく改善した。その一方で、今年5月の従業員1人当たり平均の現金給与総額は26万9,341円と、2013年5月の26万7,567円と、ほぼ横ばいだった。ちなみにボーナスを含む6月では今年が44万3,875円と、2013年の43万3,568円から1万円ほど増えた。このように所得はその前の10数年間同様一向に増えず、労働生産性も低いままなのだが、それを差し引いても労働市場は改善したと言っていいだろう。

また、経済の規模を測る名目GDPは、2012年度が494.4兆円だった。これがこの4−6月期には年率で506.6兆円となった。もっとも、これはコロナ禍で縮小した後の数値だ。実質GDPでは3四半期連続のマイナスで、2019年10−12月期に9.7兆円減、2020年1−3月期に3.2兆円減、4−6月期が41.1兆円減で、485.1兆円となった。

ここで注目すべきなのは、2019年10−12月期に9.7兆円減と、コロナがなくても経済が縮小していたことだ。悪化要因は消費増税だ。

消費税と経済成長 出典:財務省

安倍政権の功績としては、消費増税を2度実現できたことだとされている。もっとも1度目は民主党野田政権中に決定していたのだが、在任中に2度も消費税率を引き上げたのは安倍首相が初で、財務省幹部は「首相の最大のレガシー(政治的遺産)は2度の消費増税だと思う」と指摘しているという。

しかし、どうしてこれが功績と見なされるのだろうか?日本経済を再生するはずのアベノミクスをほぼ台無しにしてしまったのが消費増税だからだ。

安倍首相が全身全霊を傾けてきたのが景気回復ならば、在任中に2度も消費税率を引き上げたのは何故だろう。増税は景気の過熱やインフレを抑える手段なので、首相の狙いが景気回復なのか、デフレ進行なのかの真意が読めないのだ。

消費増税は少子高齢化社会の社会保障費の財源という神話については後述する。

上記の図の青い棒グラフは名目GDPの絶対値の推移で、挿入の赤い棒グラフはその前年比での推移だ。

青い棒グラフで見ると、3%の消費税率導入後も経済は拡大しているが、赤い棒グラフの前年比で見ると、翌年度から拡大ペースが減速しているのが見て取れる。そして、5%に引き上げ後は青い棒グラフで見ても、赤い棒グラフで見ても分かるようにマイナス成長となる。いざなみ景気はそうした落ち込んだところからのゆっくりとした回復だ。

とはいえ、戦後最長の景気拡大をもってしても、5%の消費税率を導入した1997年度の経済規模を回復したわけではない。1997年度の名目GDPは533.4兆円だった。そして、それがその後19年間の最大規模だったのだ。

2016年度に計算方法の改定で30兆円上乗せし、536.9兆円とようやく過去最大の経済規模に成長できた。計算方法の改定は現状の経済の実情に合わせたものだとされたが、公文書の改ざんや黒塗りが当たり前の政府となっているので、本音は分からない。

ちなみに直近2019年度の既報値は552.6兆円で、30兆円を引くと522.6兆円と、戦後最長と2番目に長い景気拡大を合わせても、未だに1997年度の経済規模を更新できていない。

名目GDPの事実上のピークは1997年度 出典:財務省

上記の図で見ると、消費増税の時期と、景気減速や景気後退入りの時期とがピタリと重なるのだが、それでもアジア通貨危機やリーマン・ショックなど、海外要因のせいだとする人々がいる。

Next: 経済最悪でも上がる株価。量的緩和とマイナス金利は止められない



日本はまるで成長していない

そこで、世界トップ15の経済国の名目GDPを、1997年と直近の数値2018年とで比較してみた。ドル建てなので、各国通貨が高くなると、その国の成長率も大きくなる。つまり、円高がすすむと日本の数値は大きくなる。

興味深いのは1997年と2018年のトップ15の顔ぶれが同じなことだ。とはいえ、順位は大きく入れ替わっている。1997年のトップ5、米国、日本、ドイツ、英国、フランスの順番に、7位だった中国が2位に割って入ってきた。

2018年の順位は、米国、中国、日本、ドイツ、英国、フランスの順で、21年間の成長率は順番に、2.40倍、13.85倍、1.13倍、1.78倍、1.82倍、1.91倍だった。

7位インドが6.42倍、イタリア1.67倍、ブラジル2.11倍、韓国2.99倍。11位がカナダで2.61倍、ロシア3.82倍、スペイン2.43倍、オーストラリア3.34倍、メキシコ2.44倍と続く。

世界トップ15カ国の経済成長 出典:IMF 世界経済のネタ帳

この期間の成長率を高い順番に見てみると、中国、インド、ロシア、オーストラリア、韓国と続く。中国が突出して高く、日本が何周回も遅れているように低い。当然だ、円建てで見ても1997年からまったく成長していないのだから。

つまり、中国が着実に山を登っている間、日本は中腹で道に迷ったようにうろついていたのだ。

とはいえ、成長率に10倍以上もの差がつくのは、両者の意欲や能力の違いだけでは説明がつかない。この期間最近に至るまで、米国を含め世界中から応援されていた中国に対して、日本は何かと叩かれ続けていたのだ。これは個々の企業の力というより、政治力の弱さとしか言いようがない。それをパワハラ的に、お前が悪い、ここを直せと言い続けられているうちに、日本企業も自分を見失っていったのではないか?

それでも、安倍政権下ではリーマン・ショック後の低いところからの回復期だったとはいえ、戦後2番目の長い期間、それなりの成長率を見ることができた。

危険レベルの量的緩和とマイナス金利政策

しかし、それには大きなコストがかかっている。資金供給量とマイナス金利政策だ。

1997年3月の資金供給量は50.6兆円だった。2013年3月は134.7兆円だ。それが直近の今年の7月には566.8兆円に膨れ上がった。実体経済の規模が大きくなっていないのに、この期間にマネーの量は11.2倍に、量的緩和の前からだと4.2倍に増え、遂に実体経済を超えたのだ。

また、黒田日銀は2016年1月からマイナス金利政策を導入した。マイナス金利とは貸し手が借り手に金利を支払うものなので、低利で調達した資金をより高利で運用するという金融ビジネスの否定につながる。利ザヤが超薄い超低金利政策に続く、マイナス金利政策では銀行経営は成り立たない。成り立っているところは、海外証券投資を含め、本業とは呼べないところのリスクを取っているのだ。倫理的に逸脱したリスクを取ったところもある。ここでも、銀行経営の非効率が指摘されているが、マイナス金利政策で利益を上げられる方が不思議なのだ。

経済成長と資金供給量 出典:財務省

経済規模を超える量的緩和やマイナス金利政策が危険なのは、次の危機に対する打つ手がなくなることだ。実際、コロナ禍だといっても、日銀にこれといった対策はなかった。

Next: コロナ自粛で経済壊滅。失政の穴は公的資金で埋める



「自粛勧告」で経済壊滅

新型コロナウイルス・パンデミックへの対策として、スウェーデンを除く各国政府はロックダウンや経済活動の自粛を推し進めた。下図は米国の例だが、ロックダウンにより確実に起きたのは景気後退と失業者の増加で、感染者数が減った形跡はない。新型コロナウイルスは無症状でも感染を広げるなど、厄介な疫病には違いないが、短期間の封鎖で拡大が防げるとは、あまりにもパニック的で、短絡的な対策だった。

これは日本なども基本的には同様だ。だからこそ、感染者数が拡大し続けている国々でも、ほとんどの政府は二度とロックダウンや自粛勧告は行わないとしている。どこの政府も謝罪こそしていないが、実際に効果が見えない対策によって企業経営や家計を苦境に追いやったからだ。

ロックダウン後の失業者数と感染者数の推移 出典:NYタイムズ

結果的に、各国政府は自らの政策ミスによる損失補填を行っている。

膨れ上がる公的債務。最も余裕がないのは日本

GDP比では米国、日本、ドイツ、オーストラリア、カナダの順に、大量の財政資金を投入している。ここでの問題は、ほとんどの国がもともと財政赤字なので公的債務が膨れ上がっていることだ。

世界の公的債務は先進国、新興市場国問わず過去最大となった。現在、先進国の政策金利で最も高いのは0.25%なので、各国ともに利下げの余地はなかったのだが、これらの国々は過去最大の借金を過去最低の金利でできたことになる。

しかし、これは将来の大きな懸念となりかねない。超低金利とは、債券では超高値を意味するからだ。購入者はこれ以上値上がりしようのない超高値で大量の債券を保有していることになる。

日本も同様で、90兆円を超える国債を発行し、コロナ禍対策によって経済活動を止めた損失補填の財源に充てた。下図のお茶目なワニは財務省のホームページにあるもので、これまでは財政赤字の拡大をあんぐりと開けた口で象徴していた。ところが、直近の財政赤字の急増はもはやワニの口には収まらず、上顎が外れた状態となっている。よく見れば、ワニは赤い血の涙を浮かべているようだ。

日本の財政状態 出典:財務省

世界で2番目に多いコロナ対策費を使っている日本政府だが、実は最も余裕がないのが日本なのだ。これも財務省のホームページにある図なのだが、日本の公的債務のGDP比での大きさは2017年の数値で、調査113国中1番目の大きさだからだ。GDPは世界3位の大きさなので、絶対額でも1位の米国に迫る堂々の2位となる。

下図のグラフの深刻なところは、これをトラックレースに例えると、ドイツが先頭集団から抜け出し、イタリアが集団から遅れているところに、日本は周回遅れとなっていることだ。最後に1人でゴールまで完走できても、誰も拍手などしてくれないだろう。

世界における日本の債務残高の順位と、主要国の推移 出典:財務省

日本の公的債務の大きさは財政赤字の穴埋めに使われたものだ。

Next: 税収減でも止められない。財政資金「大量投下」で日経平均4万円へ



もう日本の税収は増えない

では、日本の財政はどうしてこうも悪化したのだろうか?

前頁のワニの図でも分かるが、1990年度時点の財政赤字はさほど大きくなく、国債発行も6.3兆円と、今年の7%で済んでいた。実はこの年までは税収が順調に伸びていたのだ。

1990年度の税収は60.1兆円とその後20数年間のピークとなった。次に60兆円を超えたのは2018年度で、60.4兆円と、0.3兆円だけ過去最大を更新した。2019年度は下図では60.2兆円とされているが、58.4兆円に下方修正された。今年度2021年3月期は図では63.5兆円となっているが、もはや夢物語だと言ってよく相当落ち込む見通しだ。もしかすると、日本の総税収が60兆円を超えたのは、1990年度と2018年度の2回だけの、今後永遠のダブルトップになるかもしれない。かもしれないどころか、今の税制のままだと、その可能性が非常に高いのだ。

総税収と主な内訳 出典:財務省

上の図の棒グラフは総税収。赤の折れ線グラフは所得税収。黒の点線の折れ線グラフは法人税収、黒の実線の折れ線グラフは消費税収だ。なるほど、消費税は安定財源で、税率を上げる度に税収は増えている。しかし、前述のように景気は悪化し、所得税収も法人税収も減っている。そして今では、消費税が最も大きな財源となっているのだ。

これで見ると、消費税と、成長率、所得税、法人税は、あちらを立てればこちらが立たずのトレードオフの関係にあることが分かる。このことは、逆に消費税率を引き下げれば、他の3つが上振れすることを示唆している。

1989年の消費税の導入は、実は法人税率の引き下げとセットになっていた。私はなぜ法人税率を引き下げたのかが分からない。なぜなら、法人税率を下げても景気は良くならず、財政は悪化し、ご存知のように日本企業の競争力も下げ続けたからだ。

法人税率の推移と経済成長 出典:財務省

法人税率の引き下げで確実に起きたことは、法人税収の減少だ。下の図の棒グラフを見ても分かるが、1990年3月期に19.0兆円あった法人税収は、売上高純利益共に過去最高を更新した2018年3月期には12.3兆円と、35%も減っていた。

この棒グラフと、税引前当期純利益を表した黄色の折れ線グラフを合わせて見ると、利益が減った時に税収が減るのは当然だが、利益が急増しても税収の伸びは鈍く、逆に税収が減ることもあることが分かる。

このことは今後景気が回復しても、企業利益が増えても、法人税収は伸びないことを強く示唆している。あえて強調するならば、日本政府は企業からの税収に期待することを止め、個人の消費税だけに期待することにしたのだ。

企業優遇、個人冷遇の安倍政権。税制が日本を破壊した

それで景気が悪くなり、総税収も減り、おまけに企業の競争力さえ低下したのだから、1989年の税制改革は、日本を弱めるためのものだったことになる。

企業利益と法人税率、法人税収の推移 出典:財務省

消費税が社会保障費の財源となるというのは限りなく神話に近い。過去20年ほどの財政赤字幅は概ね30〜40兆円で推移してきた。2020年度は100兆円を超えてくる見通しだ。消費税率10%での税収は多くても20数兆円止まりだ。しかし、その20兆円を得たために、成長率、所得税収、法人税収を犠牲にし、かえって総税収が減るリスクを冒してきた。

この税制のままでは、日本は破滅する。

Next: 政策で失ったものは政策で取り返せ。米国は過去最高値を更新



消費増税で陥落する日本

1955年から2012年までの日本経済を、高度成長期、安定成長期、バブル崩壊以降に分けたグラフがある。

名目GDPとインフレ率の推移

分かりやすい図なのだが、経済成長を止めたのがバブル崩壊ならば、回復期があるはずだ。通貨危機やロシア危機、ドットコムバブル崩壊、リーマン・ショック、これらの前にはバブルがあったが、崩壊後は回復した。世界経済のトップ15カ国で、そのまま衰退したのは日本だけなのだ。いや世界全体で見ても、戦争や経済制裁以外で衰退した国などあるだろうか?

そうした日本経済の衰退、日本財政の悪化、公的債務の拡大に、ポイントポイントで最もよく貢献してきたのが消費税なのだ。

消費税が社会保障費の財源となるというのは限りなく神話に近い。消費税収は20数兆円止まりだが、社会保障費はその倍もある。部分的に埋めても、そのために他の税収が減れば財源にはなり得ない。また、成長鈍化、雇用不安、所得減は少子化を推し進める。成長のない国で、子供を増やせるのか? つまり、消費税は少子高齢化を推し進め、社会保障費を増やし、若年層の負担を更に増やすものなのだ。少なくとも、これらの図はそう語っている。

それでも、日本の公的債務の貸し手は広義の日本国民なので、政府の借金は問題ないとする説がある。このことは、政府は民間の資金を何らかの形で没収できることを示唆している。もし、それができずに1000兆円を優に超える借金が増え続けるとどうなるか?

社会保障費を削る。教育費を削る。公共サービスを低下させる。インフラの劣化を放置する。こうしたことは、世界の破たんした政府や自治体が普通に行っていることだ。

日本政府は当てにならない。当てにならないどころか、日本政府の評価がまだそれなりに保たれているのは、それなりに勤勉な国民がいるからだ。つまり、他国の政府以上に国民に頼っているのが日本政府なのだ。

政策ミスで落ちた経済は、政策で取り返せる

コロナ禍で自宅待機となった人々が行ったのは、当たり前だが、自宅で行えることだった。買い物、映画鑑賞、音楽鑑賞、ゲーム、リモートワーク、オンラインフィットネスなどを自宅に居ながら行った。オンライン旅行などもあったらしい。そして、投資運用だ。米国でも日本でも、証券口座の開設が急増した。

そして冒頭で触れたように、米国株は最高値を更新し続けている。株価を押し上げている最も大きな要因はカネ余りだ。景気や企業業績を買っているのではない。下図に見られるように、今回の世界経済の落ち込みは前代未聞だ。リーマン・ショックなどは比較にもならない。

OECD諸国のGDPの推移 出典:OECD

そもそもリーマン・ショックと比較するのがおかしな話なのだ。リーマン・ショックは米国の住宅バブルの余波で、バブルとその崩壊は程度の差こそあれ、繰り返し起きる通常の出来事だ。従って、私などにも予測の範囲の出来事だった。

ところが、今回のものは世界的な政策ミスで、おそらく人類の歴史で初めてのことなのだ。これまで、施政者が住民に働くな、外出するな、などと命令したことなどあっただろうか?少なくとも、それが世界規模に及んだことは人類史上初に違いない。そのため、景気悪化の規模も、世界的な広がりも、第二次世界大戦時よりも深刻なものとなった。

しかし、政策で失ったものは、政策で取り返せることを示唆している。その象徴が米国の株価だ。最高値の更新だ。

コロナが世界を変えたことは疑いがないが、そうした新しい環境に順応することはこれまでの人類が常に行ってきたことだ。見方を変えれば、ポストコロナ仕様にインフラやビジネスを変えていくことは、今後の経済成長の大きなエンジンになり得るのだ。

Next: 政府が全力で財政資金を投入。株価は過去最高値を目指す



史上最大のカネ余り相場へ。日本株も過去最高値を目指す

コロナでの損失、その対策ミスによる桁違いに大きな損失への補填に、最も大きな財政資金を充てたのは米国だ。世界最大の経済規模を誇る国が、そのGDP比でも世界最大の財政資金を投下した。加えて、それに勝るとも劣らない資金と信用供与を行っているのが米連銀だ。

その米連銀が8月27日に、これまでのインフレ目標であった2%を取り払った。2%をそこそこ超えることを望んでいるとした。このことは、相当の長期にわたって金融緩和政策を続けることを意味している。ふんだんに資金を供給し、ほぼゼロ金利を継続するのだ。このことは株高が継続することを示唆している。

米連銀の実行政策金利の推移 出典:NYタイムズ

株価の史上最高値更新に次に最も近いのがドイツだが、経済規模4位のドイツが、3位の比率で財政資金を投入している。

日本はと言えば、経済規模3位で、2位の比率で財政資金を投入している。また、日本の場合は日銀が未曽有の量的緩和を続け、実際に株式ETFまで買っている。

その意味では、最高値を更新しても何ら不思議ではないのだ。

ようやく個人投資家が「買い」に転じた?

では、誰が実際に売り買いしているのかを日本取引所のデータで見てみる。先物は長期的にはネットゼロの売買なので、目先の動きはともかく、長期的には無視していい。

投資家別売買動向 出典:日本取引所, 日本銀行

単位は億円。黒字が買い、赤字が売りだ。ここ何年かの買い手の主役は日銀の政策買いと事業法人の自社株買い、そして信託銀行(年金)だ。

ここで特筆していいのは、長期間にわたって最大の売り手であった個人投資家がようやく買いに転じた気配があることだ。

年金は日本株投資枠25%ほぼ満杯まで買っているので、ほとんど買い余力がない。そこで株価が下がれば買い、上がれば売りで、投資比率の調整を行っている。ここで、投資枠の50%を占める外貨が値上がりする(円安になる)と、日本株の比率が下がるので、買えるようになる。また、外貨に動きがなくても、投資枠の25%の占める外国株が値上がりすると、日本株の比率が下がるので、買えるようになる。逆に、投資枠の25%を占める国内債券、やはり25%を占める外国債券が値下がりすると、日本株の比率が上がるので、売らねばならない。

考えやすいシナリオは、金融緩和政策の長期継続で、高値の債券はこれまでと同様に動きがとれない。変動要因は外国株と外貨で、米国株などが上げ続ける限り、日本株の買い余力が増すことになる。円安でも買えるようになる。

これは外国の投資家の比率も同じで、株式ポートフォリオの外株が値上がりすると、比率調整で日本株の買い余力が増すことになる。円安でも同じことが起きる。外国人投資家は過去5年ほど売り続けてきたが、どこかで反転する可能性を秘めているのだ。

Next: 米国株に続くのはドイツ株。その次は日本



株価は実態経済よりも早く回復する

前頁の表の兆円単位の売買だけを、チャートと合わせたのが、下の図だ。

日経平均と投資家別売買動向 出典:日本取引所, 日本銀行

日銀は今年7末までで5.5兆円買っている。年末までの政策買いの余力は6.5兆円もある。高値では買いにくくても、売られたところはいくらでも買える。年金もそれは同様だ。下値が堅いと、上値は時間の問題で軽くなる。

日本株の最高値を更新も夢物語ではない。

日銀+33.8兆円というのは、2010年以降の総計だ。こうした購入により日銀が日本企業最大の株主になっている。いびつだ。これは問題だ。しかし、政治で経済活動を止めるような暴挙以上の問題だとは思えない。

バブルは火が付くとあっという間に値上がりするものなのだが、そうでなくても、世界の政府は自らの失政を資金投入で埋め合わせるしか政策がない。その時、実体経済は重いので回復までに何年もかかるのだろうが、株価は軽い。

米株に続くのはドイツ株、その次はどこだろう?

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image by:StreetVJ / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年8月31日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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