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コーナン、コメリ、DCM…コロナ特需で割安のホムセン株は本当に買いか?=栫井駿介

コロナ禍でお家で過ごす機会が増えたことで、ホームセンターがにわかに注目を集めています。アウトドアやDIYなどの需要も高まって、業績も株価も右肩上がりで伸びているのですが、一方で株価は一見割安にも見える数字に収まっています。今これらの銘柄は買いなのでしょうか?(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

コロナ禍でも業績「右肩上がり」

まずは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けた3月、あるいは4月以降の既存店売上高の推移を見てみましょう。

今回は、DCMホールディングス、コーナン商事、コメリという大手3社を取り上げました。DCMホールディングスが11.5%、コーナン商事が14.7%、コメリが13.8%と非常に大きな伸びを示しています。これに伴って利益の方も大きく上乗せされているという状況です。

DCMホールディングス<3050> 日足(SBI証券提供)

コーナン商事 <7516> 日足(SBI証券提供)

コメリ<8218> 日足(SBI証券提供)

当然、株価も上昇して、過去6ヶ月の株価推移を見ますと、DCMホールディングスがプラス40%、それからコメリがプラス60%、そしてコーナン商事がプラス80%と上昇していることがわかります。

一方で、これだけ上昇したにも関わらずPERの水準を見ますと、DCMホールディングスが13.7倍、コーナンが10.3倍、コメリが14.3倍と伸びている企業としてはかなり低い水準に抑えられています。PBRに関しても1倍を下回って、いわゆる割安株の条件を満たしています。

しかし足元でこれだけ調子が良いので、もっと株価が上がって高く評価されてもおかしくないのではないかと思います。

こういった時に考えるべきは、なぜこれだけ割安な数字に抑えられているのかということを深追いして考えることです。

Next: ホームセンター市場は頭打ち?「割安」には理由がある



業績は好調そのもの

まず業績を見てみます。

DCMホールディングスの売上高は、ほとんど伸びていません。ちなみにこのDCMホールディングス、持ち株会社で名前わかりにくいのですが、お店の名前としてはカーマ、ダイキ、ホーマックという3つが統合してできた会社です。その後もM&Aなどによって規模を拡大させてきましたが、一方であまり売上高が伸びていないという状況が続いています。しかし営業利益に関しては、ここ最近上昇基調で右肩上がりです。

コーナンはもっと好調で売上高も伸ばしていますし、利益に関しても過去最高の水準で推移しているという状況です。

それからコメリも一時期利益が落ち込んだということもありますが、売上高そのものは右肩上がりに成長を続けていって、これだけ見るとどちらかというと成長銘柄と捉えられてもおかしくありません。これに対してPERは10倍とか13倍という数字はやはり割安だと思われます。

ただし、ここで気になるのはマクロ経済、つまりもっと全体的な動きということになります。

ホームセンター市場は頭打ちか

こういった時に頼りになるのが『「会社四季報」業界地図』(刊:東洋経済新報)です。この業界地図は株を分析する人なら必ずと言っていいほど、手元に持っていて欲しいものです。

そこに書かれていることは、ホームセンターは店舗数はものすごく増えていますが、一方で市場規模自体がもはや頭打ちになっています。店舗が増えて市場が増えないということになると、店舗当たりの売上というのはどんどん減ってしまうので、これはホームセンターの経営にとっては厳しい状況になります。

つまりこの割安な理由として市場が飽和しているということで、これから激戦になってしまい、価格競争などにに巻き込まれてしまうということが考えられます。そういう意味で、投資家は不安視しているということが挙げられます。

また、そもそも現時点においても、ある程度は価格競争があり利益率が低いです。どの会社も営業利益率にして5%程度と、決して高くない水準です。

Next: 勢いのあるドラッグストアと競合する。「新しい日常」に入り込めるか



ドラッグストアと競合する

これに対し、いま勢いを伸ばしているのが「ドラッグストア」で、店舗もどんどん増やしています。ドラッグストアとホームセンターと言うと、市場がかなり被ります。薬や日用品、ペット用品なんかもその範疇に入ると思います。

今でも利益率が低いのに、競争によってさらに下がるということになると、売り上げが伸びたとしても利益が成長しないというようなところになってしまいます。

また消費増税後の落ち込みの懸念というのも大きいです。

先程のところに戻ってみますと例えばコメリで見ると非常にわかりやすいのですが、前回の消費増税があった2014年4月なんですが、それに向けて売上高・利益ともに一度大きく伸びました。しかし、これの一部は消費増税前の駆け込み需要だったということがわかります。だからこそ翌年には売上高・利益ともに大きく減らしてしまっています。コーナンに関しても似たような状況があります。

そして目下、昨年2020年2月期あるいは3月期にいずれの会社も利益が高いところを記録していますが、昨年10月に消費増税があったので、そこから同じようにやはり駆け込み需要とその反動ということが考えられます。

例えば、去年の業績で見た時のPERが仮に低かったとしても、今年利益が下がってしまうとしたら、その数字が低くても、決して割安ではないという判断ができるわけです。

「新しい日常」に入り込めるか

この新型コロナショックが起きる前は、ホームセンターは厳しいということで、割安に据え置かれていました。けれどもコロナで大きく流れが変わってきたわけです。

冒頭でも申し上げました通り、マスクや除菌アルコールなどを求めて、ホームセンターに人が殺到しました。お店などではビニールをあちこちに貼らないといけなくなったので、そういったビニールなども売れているということがあります。

そして、在宅勤務をお家で過ごす時間が増えたことによって、DIYあるいはインテリア、収納用品なども売れることになって、今にわかに脚光を浴びて売上高を伸ばしています。

ホームセンターの多くは非常に広いです。広い店舗を持っていて何が良いかと言うと、密になりにくいです。だから家族連れでもスーパーなどに比べても比較的気軽に行くことができます。

少し見て回るだけでもいろいろな商品があるので、楽しいというのも間違いありません。

したがって、ここで人々の流れが変わるのかどうかということが、今後のホームセンターの成長の鍵を握ります。

大切なのは、ホームセンターが人々の日常に入り込むことです。

例えば、東日本大震災後のコンビニエンスストア考えてみてください。東日本大震災では物流が止まってしまって物が不足するという状況がありました。そんな時に強い物流網を発揮して、身近にあって商品を買える場所がコンビニエンスストアでした。東日本大震災を機に、コンビニエンスストアは大きく業績を伸ばし、株価を伸びたという事例があります。

ホームセンターがこの新型コロナショックを受けて、人々の動きが変わったことによってその恩恵を受けられるのかどうか、というのが各社の天下の分かれ目ということにもなってきます。

Next: ポストコロナを最大限に利用できるか?参考になるのはアメリカの例



規模拡大で様々なビジネスチャンスが生まれる

成長するホームセンターの条件として参考になるのが、アメリカの「ホームデポ」の事例です。

ホームデポというと、ものすごく大きな売り場に、大きな大工用品などを大量に安く売っています。これでいて売上高11兆円の世界最大のディスカウントストアですし、その中で営業利益率も14%と高い数字を誇っています。先ほど日本のホームセンターの営業利益率が5%程度と言いましたが、それに比べても高い数字となっています。これぐらいになるとPERが今25倍ぐらいあるのですが、高い評価をされるということになります。

つまり、ホームセンター成功の鍵は、とにかく規模を拡大しないといけません。日本のホームセンターというとまだ数千億円単位なんですが、ホームデポは11兆円です。11兆円もあれば、当然「バイイングパワー(物を買う力)」というのが強くなるので、仕入先に対して「大量に買うから安くしてよ」というような形で有利な条件を引き出すことができます。

また名前も知れているので、お客さんに対する宣伝というのもより効率的になってきます。その延長線上にあるのが、「プライベートブランド」です。

いまホームセンター各社ともプライベートブランドを強化しているのですが、何故かというと、結局は仕入れて売るよりも、より低い原価で商品を作ることができるためです。規模が大きくなって知名度が上がれば、そのメーカーにおける広告宣伝費なども必要なくなります。

ホームデポの場合であれば、売り場で「人気のホームデポ商品」というような形で売れば、人々が自然に集まってきて、高い利益率で物を売ることができるようになります。

Amazonに頼らずにやっていける

そして、もうひとつはウェブ対応です。

アメリカでは、今だと特にAmazonによる小売業への侵略がどんどん続いていまして、百貨店などはこの新型コロナ禍でも潰れたりしてしまっています。

そんな中でホームデポは影響をまったく受けていないというわけではないですが、かなり低い数字にを抑えられていて、むしろ業績を伸ばしている会社のひとつです。

なぜかというと早い段階からウェブ対応を進めていて、ホームデポにおいてあるような大型の商品というのは、Amazonでは取り扱いにくいわけです。

そういったところで早くからウェブの対応を進めて、利益率を下げることもなく、今の業績を残せているというのが、ホームデポの成功のを事例ということになります。

Next: 日本のトップを走るのは非上場のカインズ



トップを走るのは非上場のカインズ

じゃあ、日本でこのようなことを先進的に行っている企業があるのか?というと、実はひとつあります。それが業界首位の「カインズ」です。

冒頭で挙げた3社(DCM・コーナン・コメリ)を上回って、カインズは業界1位になっています。

それならば、なぜ冒頭の分析に入っていないのか?ということになると思うのですが、実はこのカインズ、残念なことに上場していません。だから、私たちが株を買うことはできないのです。

非上場ながらカインズはものすごく注目すべき対象で、実はスーパーのベイシアグループです。関東の田舎の方に行くとも必ずといってよいほど「ベイシア」がありますが、ここがものすごく安く商品を売っています。

ベイシアグループは、スーパーの成功の鍵となる「流通」がすごく上手だと言われています。この流通グループの中に入っているのがカインズであって、もっと言うと、いま絶好調の「ワークマン」も実はベイシアグループです。

ワークマンの株をカインズの創業者や、ベイシアカインズが直接持っていて、実質的に過半数を持っているという形のグループになっています。ワークマンが成功した鍵というのも、このベイシアグループの理念といったところにあるのでしょうし、もしカインズやベイシアといったところが上場していたとしたら、この新型コロナの状況を追い風にして、ますます成長を遂げたということが考えられます。そういった意味で、非常に惜しいです。

ホームセンターは注目株

ただし、私もホームセンターは他の会社についても注目していて、やっていることといえば規模拡大を目指しているというのは間違いありません。

DCMもよくM&Aなんかをしていますし、コーナンについても同じような形で行なっています。プライベートブランドの拡充というのはもちろんですし、最近になって利益が向上してきたのも、このプライベートブランドが増えたからという側面もあります。

ウェブ対応がもっとも進んでいるのは、やはりカインズで圧倒的と言える状況なのですが、その他の会社も徐々に始めているというところであります。

惜しむらくは、まだ分散しすぎていて、十分な規模(たとえば売上高1兆円ぐらいは欲しいところ)にまで、いずれの会社も達していないという状況があります。

しかしながら、この中で良い経営をして、将来のホームデポのような会社になるところがあれば注目に値すると思いますし、またこの株価・PERが低いということも考えると、少なくとも大きく値下がりするというようなリスクはかなり抑えられるのではないかと考えます。

そういった観点で、私はこれからの行方に注目してみたいと思っています。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)

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バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2020年9月9日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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