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感染防止「国民に丸投げ」で欧州の二の舞に?菅政権は2つの施策を急げ=斎藤満

政府は経済回復と感染防止の両立を謳っていますが、バランスが崩れつつあります。感染予防は実質的に国民に丸投げ状態。その中で政府にできることが少なくとも2つあります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年11月9日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

経済と感染防止の両立に疑念

政府のコロナ戦略に不安が広がっています。

経済の回復と感染防止の両立を謳っていますが、日本でもバランスが崩れつつあります。北海道では1日の感染者が100人を超え、全国でも1,000人を超えました。

その中で、政府は「Go To」キャンペーンの継続、拡大を考えていますが、その成果が上がるかどうかは、年末年始の需要期を前に感染を抑えられるかどうかに大きく依存しています。

欧州では再びロックダウンに

実際、欧州ではこの秋になって気温が下がるとともに、感染者数が急増しています。1日の新規感染者数が20万人に達する日もありました。

このため、フランスに続いてドイツも再びロックダウンに入り、約1か月は経済活動が大きく制限されます。そしてスペインや英国などでも経済活動の制限がなされるようになりました。米国でも11月5日には1日の感染者数が12万人を超えました。

寒くなって屋内の換気が十分にできなくなったことも一因と見られ、このため多くの地域でレストランの屋内での飲食が禁止され、バーも営業停止に入っています。個人の外出も許可証携帯のもと、必要不可欠のものに限定されます。英国では5日、外出制限違反で104人が逮捕されました。

欧州や米国では感染拡大を受けてレストランでの屋内飲食を禁止していますが、日本では「Go To」トラベルに続いてイーツも補助対象として集客キャンペーンを行っています。

欧米の感染急増を見るにつけ、こうしたキャンペーンに乗ってよいのか、不安の声が聞かれます。

Next: マスクの付け方を注意され催涙スプレー。緩み・危機感の後退は顕著



危機感の後退、緩みも

先日地下鉄半蔵門線内で、マスクの付け方について注意した人が、催涙スプレーをかけられた事件がありましたが、マスクを着用しない人や、せっかく着用しても顎にかけているだけという人も多くみるようになりました。

春の緊急事態宣言時と比べると、明らかに危機感が後退したか、緩みが出ているように見えます。

駅前のハンバーガー・ショップの前にはスマホを持った人の長蛇の列ができて、前の人と触れそうな距離で並んでいます。銀行など、混雑時には入店規制をしたり、足跡マークをつけて距離をとって並ぶよう促すところもありますが、スーパーや普通のお店ではソーシャル・ディスタンスも守られなくなっているケースが少なくありません。

飲食店でも寒くなってドアや窓が閉められ、換気が不十分な中で、隣の席との距離も不十分で、衝立のない店も少なくありません。換気が良くないために、屋内感染やそこでのクラスター発生事例も示されています。

政府は飲食代割引きで消費を刺激しようとしていますが、そこでの感染防止は企業や顧客任せの状態にあります。

キャンベーンを行っても、感染がまた拡大して国民が不安になれば効果がそがれ、さらに日本も欧米並みに感染が急増すると、再び経済活動を制限せざるを得ない事態になります。

経済優先でいられるのも、感染が今程度に収まっていることが条件になり、欧米のようにまた感染が急増すれば、キャンペーンどころではなくなります。

また入国管理の規制緩和も感染拡大リスクを高めます。

情報開示を

政府の経済優先と、国民の感染不安との間にギャップがあるように見えます。

政府は「正しく恐れる」と言い、一部には日本の感染率、致死率の低さが政府の経済優先姿勢の背後にあるとの指摘もあります。日本には欧米と違った「何か」があってさほど心配しなくても良いのなら、国民の過剰な不安を軽減するためにもその情報を開示すべきです。

そのためには新型コロナの特性や、日本で広がっているものと欧米のウイルスとで違いがあるのかどうかも説明が要ります。

「正しく恐れる」ためには、新型コロナの特性、危険性についての十分な情報が必要です。それがないと、重症化しやすい高齢者や基礎疾患を持つ人はずっと不安から解消されず、政府が旗ふりしても旅行にも外食にも行けません。

実際、総務省が発表した9月の「家計調査」報告を見ても、家計全体でみると旅行や外食は落ち込んだままで、キャンペーン利用者は一部の若い人々に限られている可能性も考えられます。

皆が旅行しても外食に出ても心配ないのなら、それなりの判断材料の提供が必要です。

Next: 国民に丸投げで大丈夫か?政府がやるべき「2つの施策」



感染防止も政府の重要な役割

そうした安心材料がないのなら、感染防止を国民任せにせず、企業に責任を押し付けず、政府が率先して感染防止に動く必要があります。

医療関係者からは「三密」の回避とか、マスクの着用、十分な距離(ソーシャル・ディスタンス)の確保、手洗いの有効性が言われています。東大の調査でも、マスクの感染予防効果が認められています。

しかし、政府の規制緩和もあって、また「密」が増えています。

交通機関の混雑のなかでは「密」を避けられません。そこでマスクをしていなかったり、していても顎にかけるだけとか、大きな声で話をしていたりする人が増えています。

これを注意しようとすると催涙ガスでなくても、反発を受ける懸念があり、不安のままに耐えるしかありません。

政府がやるべき2つのこと

その中で政府にできることが少なくとも2つあります。

1つは、国でも都道府県でも良いのですが、公衆の場でのマスク着用、ソーシャル・ディスタンスの確保を条例化するなど、国民任せではなく、ある程度政府や自治体がルール化するか、せめてエチケットとしての行動を求めるくらいはしても良いと思います。

それをファシズムと批判する人は、シートベルトのルール化もファシズムだというのでしょうか。

もう1つは、医療体制での支援です。今は海外でワクチンができれば、日本にも回してもらえるよう、量の確保をし、もし副作用が出れば国が補償するとしています。

それよりも、国内で抗ウイルス薬の開発をしている企業に支援をするとか、阪大などでの開発支援をするなど、特効薬の開発を外国任せにせず、安全のためにも日本自身で進める必要があります。

Next: 困っている国民に直接支援を!GoToが格差・不公平をもたらしている



GoToが格差・不公平をもたらしている

そして一部の人に悪用されかねない「Go To」での資金提供より、その分を困っている宿泊施設、飲食店などに直接資金支援するほうが、公平感、効率性の面からも良いと思います。

GoToの各キャンペーンは、対象企業・利用者両面で、新たな格差と不公平をもたらしています。

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  • 感染防止は国民任せでよいのか(11/9)
  • トランプの勝利宣言が新たな混乱の種に(11/6)
  • 長期金利が示すコロナ対応策の差(11/4)
  • 追い詰められた日銀に姿勢変化の兆し(11/2)

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  • バイデノミクスも悪くない(10/30)
  • 4年前とは異なる大統領選の決着と市場の反応(10/28)
  • 個人の景況感悪化にどう応えるか(10/26)
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  • 鬼の居ぬ間の地政学リスク(10/5)
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2020年9月配信分
  • 法廷闘争を目論むトランプ陣営(9/30)
  • 密かにドル安策をとり始めたトランプ政権(9/28)
  • 米の中東和平がかえって緊張高める(9/25)
  • 日銀の物価安定目標は景気の足かせ(9/23)
  • 勢いを失ったトランプの選挙戦(9/18)
  • 広がるW字型景気リスク(9/16)
  • アベノミクス継承政権買いの限界(9/14)
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  • 世界貿易は6月底入れだが(9/9)
  • 法人企業統計にみるコロナの明暗(9/7)
  • 中国習近平政権に異変か(9/4)
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2020年7月配信分
  • 失った時間は永久に取り戻せない(7/31)
  • ワクチン開発の政治化リスク(7/29)
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  • 米国のW字型回復を懸念するFRB(7/20)
  • 劣勢のトランプ大統領に「ウルトラC」はあるか(7/17)
  • ウィズコロナで注目される健康ビジネス(7/15)
  • コロナ対策で使った11兆ドルの後始末(7/13)
  • 回復の力をそぐ2メートルの壁(7/10)
  • 試される人間の知恵(7/8)
  • 計算違いした香港中国化の代償(7/6)
  • 政治リスクが高まる日米株式市場(7/3)
  • 規制と自由、コロナ共生下の経済成果は(7/1)

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2020年6月配信分
  • 世界貿易にもコロナ・ショック(6/29)
  • 転倒した憲法改正解散(6/26)
  • 市場の期待と当局の不安がぶつかる米国経済(6/24)
  • 狂った朝鮮半島統一シナリオ(6/22)
  • 見えてきたコロナ危機の深刻度(6/19)
  • 崖っぷちの習近平政権(6/17)
  • FRBが作ったドル安株高の流れに待った(6/15)
  • 長期金利上昇を意識し始めた主要中銀(6/12)
  • コロナで狂った中国の覇権拡大(6/10)
  • トランプ「拡大G7」の狙いは(6/8)
  • 準備不足の経済再開で大きな代償も(6/5)
  • コロナより政権に負担となった黒人差別(6/3)
  • 自動車依存経済に警鐘を鳴らしたコロナ(6/1)

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2020年5月配信分
  • 非効率のビジネスモデル(5/29)
  • 再燃した香港での米中戦争リスク(5/27)
  • 日本は反グローバル化への対応に遅れ(5/25)
  • 日銀の量的質的緩和は行き詰まった(5/22)
  • トランプ再選に暗雲(5/20)
  • トランプ大統領、ドル高容認発言の真意は(5/18)
  • 堤防は弱いところから決壊する(5/15)
  • コロナの変革エネルギーは甚大(5/13)
  • 株の2番底リスクは米中緊張からか(5/11)
  • 「緊急事態宣言」延長で経済、市場は?(5/8)
  • 敵を知り己を知らば百戦危うからず(5/1)

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2020年4月配信分
  • コロナ対応にも米国の指示(4/27)
  • 原油価格急落が示唆する経済危機のマグニチュード(4/24)
  • ソーシャルディスタンシングがカギ(4/22)
  • ステージ3に入る株式市場(4/20)
  • 「収益」「効率」から「安心」「信頼」へ(4/17)
  • コロナショックは時間との闘い(4/15)
  • 株価の指標性が変わった(4/13)
  • 108兆円経済対策に過大な期待は禁物(4/10)
  • コロナ恐慌からのV字回復が期待しにくい3つの理由(4/8)
  • コロナを巡る米中の思惑と現実は(4/6)
  • 働き方改革が裏目に?(4/3)
  • 緊急経済対策は、危機版と平時版を分ける必要(4/1)

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2020年3月配信分
  • コロナ大恐慌(3/30)
  • 大失業、倒産への備えが急務(3/27)
  • 新型コロナウイルスと世界大戦(3/25)
  • 市場が無視する大盤振る舞い政策(3/23)
  • 金融政策行き詰まりの危険な帰結(3/18)
  • 政府の面子優先で景気後退確定的(3/13)
  • 市場に手足を縛られたFRB(3/11)
  • コロナの影響、カギを握る米国が動き始めた(3/9)
  • トランプ再選の真の敵はコロナウイルスか(3/6)
  • 2月以降の指標パニックに備える(3/4)
  • 判断を誤った新型コロナウイルス対策(3/2)

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2020年2月配信分
  • 世界貿易は異例の2年連続マイナス懸念(2/28)
  • 政府対応の失敗で「安全通貨」の地位を失った円(2/26)
  • 信用を失った政府の「月例経済報告」(2/21)
  • 上昇続く金価格が示唆する世界の不安(2/19)
  • IMFに指導を受けた日銀(2/17)
  • 中国のGDP1ポイント下落のインパクト(2/14)
  • 習近平主席の危険な賭け(2/12)
  • 政府の「働き方改革」に落とし穴(2/10)
  • コロナウイルスは時限爆弾(2/7)
  • 鵜呑みにできない政府統計(2/5)
  • FRBにレポオペ解除不能危機(2/3)

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マンさんの経済あらかると』(2020年11月9日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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