アメリカ流通界の巨人ウォルマートが、日本の「西友」から撤退します。さらっと短くニュースで流れたりしましたが、このウォルマートの撤退は重大な意味を持ちます。(『「ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ!」連動メルマガ』児島康孝)
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「日本人にはウォルマートの冷凍食品で十分だ」
かつては、西武百貨店と同じ系列で、堤清ニ氏が率いたセゾングループの中核事業の1つでもあったスーパー「西友」(西友ストアー)。
ファミリーマートや無印良品も、実は「西友」から分離して始まったのですが、今ではその記憶も薄れています。
1990年のバブル崩壊でセゾングループが解体されていく中で、西友も翻弄された歩みでした。
福岡でお馴染みの食品スーパー「サニー」も、2001年以降に地場百貨店「岩田屋」から西友が買収し、その傘下です。
アメリカで金融界を牛耳る一部勢力は、バブル崩壊後の日本を見て、日本人には「ウォルマートの冷凍食品で十分だ」と常々、豪語していました。
つまり、中流から転落して貧困化が進む日本人は、冷凍食品を食っていれば十分だと話していたのです。
日本は「高級スーパー」だらけ
日本のスーパーマーケットは、戦後の高度経済成長の時代に独自の進化を遂げました。
バブル崩壊の頃には、日本人の中流層が利用する一般のスーパーは、世界基準では「高級スーパー」の範疇に入っていたのです。日本人はあまり気付いていませんが、日本のスーパーは、大手から食品専業まで、世界基準では「高級スーパー」なのです。
ですから、ニューヨークでも見かける、ホールフーズやトレーダージョーズ、フェアウェイなどは、日本人から見れば「普通のスーパー」です。
支配力を強めるウォルマート
バブル崩壊顔の日本の状況を見て、「これから貧困化するから冷凍食品でも食ってろ」「それで十分だ」と、とある勢力からは言われていたのです。
その「本丸」が、ウォルマートによる西友の買収でした。ウォルマートは、2002年に西友との業務・資本提携を発表した後、順次、支配力を強めました。
2007年には、TOB(公開株式買付)により、西友を完全子会社にすると発表。翌2008年に、完全子会社化しています。
エブリデー・ロー・プライスの路線を進め、毎日、地域の最安値戦略をとってきました。
Next: 西友の苦戦は客から見ても明らか。ウォルマート撤退は喜べない?
西友の苦戦は客から見ても明らか
ウォルマートの西友は、他店のチラシを持参する客には、それに合わせて最安値で販売するというキャッチフレーズで、毎日、低価格販売を強調しました。
しかし、西友では、コスト削減の人員削減が相次ぎ、売り場に活気がありません。当然、そのような雰囲気では、客も、楽しく買い物をする気分になりません。
また、低価格といっても、最近台頭している「業務スーパー」ほどは目玉商品がなく、またディスカウントショップやドラッグストアなどの低価格にはついていけません。
西友調布入間町店(調布市)は、世田谷区の成城エリアに隣接した立地ですが、2017年に八百幸(ヤオコー)成城店がディスカウントショップの跡地にできて(同じく調布市)、わずか数百メートルの道路並びとなりました。
西友は、外壁を白に一新して対抗しています。「24時間営業」というメリットはあるものの、売り場の華やかさや、商品の見た目の良さでは、八百幸(ヤオコー)に押されています。
八百幸の店舗では、買い物の楽しみがあり、つい余分に買ってしまう場合があるのです。価格は、西友がやや安い場合がありますが、明らかな違いまでは実感がありません。
周辺には「サミット」や「オーケー(スーパー)」もありますから、西友の独自性はほとんどありません。
もっとも西友も、最近は、マクドナルドやバーガーキングのようにアンケートを実施していて、その質問項目には「商品がおいしそうに見えるか」という項目などが入っており、問題点は把握しているようです。
しかし、価格では「業務スーパー」が安いですし、24時間営業では「セブンイレブン」「ローソン」「ファミリーマート」などのコンビニが揃っています。
このような状況で、西友は、中途半端な立ち位置で苦戦していました。
ウォルマート撤退は喜べない
ロイター通信の記事によりますと、ウォルマートは、西友に対して、2007年に発表したTOBで約1,000億円を投入。2002年から2007年までを合わせると、約2,470億円を西友に投じています(2007年時点のロイター)。
ウォルマートは、これだけの金額を投じて自信満々だったわけですが、ついに、アメリカの投資ファンドKKR(65%)と、楽天(20%)に株式を売却し、事実上、西友から撤退します。
ウォルマートが撤退すれば、日本勢のスーパーが勝ったように見えますが、これには、実は重大な意味があります。
つまり、日本のデフレ消費不況があまりにも激しく、今後も「消費は回復しない」とウォルマートは日本を見限ったわけです。
Next: ウォルマートは日本を見限った? デフレ不況で消費減退へ
日本のデフレ不況は危機的状況
総務省は11月20日、10月の消費者物価指数をマイナス0.7%と発表しています。
「GoToトラベル」で宿泊料が下がったためと説明しているようですが、8月・9月・10月と連続して、消費者物価指数はずっとマイナスです。
これは、従来からのデフレ不況に加えて、コロナ禍の収入激減が国民生活を直撃し、とても消費どころではないということでしょう。
アメリカぐらいの消費の水準であれば、ウォルマートの西友は何とかなっていたでしょう。あまりにも、日本のデフレ不況が危機的であるということです。
そもそも、コロナ禍の前から、日本人のタンパク質の摂取量は、1950年代のレベルにまで落ち込んでいます。もう一段落ちますと、1940年代(含む戦時中)のレベルにまで、いってしまうのです。
これは当然、現状が肉や魚を買う余裕がなく、長年のデフレ不況で生活がギリギリということを意味しています。
ですから、ウォルマートの西友撤退は、あまりにも深刻な日本のデフレでは、商売にならないという話になります。
「日本人には冷凍食品でも食わせておけ」ということだったわけですが、日本の深刻度は、実は、それ以上であって、ウォルマートでさえも逃げ出してしまった…というのが実際のところでしょう。
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『ニューヨーク1本勝負、きょうのニュースはコレ! 連動メルマガ』(2020年11月6日号)より抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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日本に影響を与えてきた欧米勢の勢力図が変化し、国際情勢も激変の時期を迎えています。トランプ政権の前の欧米勢力は、日本の1990年のバブル崩壊以降、日本の衰退を狙ってきました。超長期の経済サイクルである、コンドラチェフ・サイクルが、戦後最悪の大底でもあったことから、日本経済はデフレに陥り、低迷したままであったのです。ところが、トランプ政権の誕生以降、欧米勢の勢力は変化し、日本の今後も、大きく変わろうとしています。このメルマガでは、有料読者に限定して、ちょっと書きにくい話にも踏み込んで、欧米勢の動きをお伝えします。