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ANA、5100億赤字からの再離陸なるか?「雇用維持」の変革に限界も=馬渕磨理子

ANAホールディング<9202>は、21年3月期の最終益は5,100億円の最終赤字(前年同期は276億円の黒字)になる見通しと発表しています。新卒採用の大幅縮小をはじめ人員と航空機の削減を進めていますが、復活はあるのでしょうか?

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プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter:https://twitter.com/marikomabuchi

「飛行機は、JAL派? ANA派?」こんな、コロナ以前の会話が懐かしい

「わたしはANA派だな。クレジットカードがANAマイルのほうが貯まりやすいから。ソラチカカードを使ってる」
「俺はJAL派。classJのシートが福岡出張のとき疲れなくて好きなんだよね。ちょっと余分に払うだけで乗れるし」
「ANA派。夫の実家が富山で、富山はANAしかないから」

そんな「ANAとJAL、どっち派?」という、永遠に答えの出ない議論が日本人の間でなされる“楽しみ”が、コロナによってなくなってしまいました。

エアラインは固定費率が高く、キャッシュの重要性が非常に高い業界。そんな航空業界は、リーマン・ショックを超える未曽有の危機に直面したわけです。

固定費が高い構造体質から、企業の活動がストップすれば、一気に財務状況が悪化してショートします。

いま航空会社は、コロナで稼働することが許されないなか、経費削減と資金の確保をして、どのように生き残る方法を模索しているのでしょうか。

今回は、正念場のANAを中心に「航空会社のこれから」について、直近の決算動向から解説します。

――旅に誘うパイロットは、わたくし、馬渕磨理子。フライト時間は、約3分間です。シートベルトをお締めになって、お待ちください。

10月27日、ANAホールディングスが発表した2020年4~9月期決算によると、売上高は2,918億円(前年同期比72.4%減)、営業利益は2,809億円の赤字。4~9月累計の旅客数は国際線で前年同期比96.3%減の19万人、国内線で同79.8%減の467万人と、売り上げの約7割を占める旅客事業が大苦戦しています。

ANAホールディングス<9202> 日足(SBI証券提供)

新卒採用大幅縮小、客室乗務員と地上職は中止

11月17日、ANAは、2022年度の新卒採用者数を大幅に縮小すると発表。新型コロナウイルスの収束が見通せず、先行きが不透明なためで、客室乗務員と空港の地上職員の新卒採用を中止の決断に至っています。

ANAはここ数年間、毎年3,000人前後の新卒を採用してきましたが、新型コロナの影響により、当初3,200人の新卒採用を予定していた来年度は約600人にまで大幅に縮小。再来年度は、パイロットや障害者など一部の職種に限定し、さらに少ない200人程度とする計画です。

この決断より以前、21年春には現金流出を防ぐ対策を、人員を配置転換することで始めていました。400人以上の人員を、家電量販店やスーパーマーケット、県庁など、グループ外の企業や自治体へ出向させています。ANAは出向先から対価を受け取ることで、人件費の負担を軽減するなど、人事面でも資金の流出を防ぐために動いています。

国内線では、政府の「GoTo」など観光支援策によって、旅客需要は回復しつつありますが、海外では感染が拡大している国も多く国際線では8割以上の減便が続いており、引き続き厳しい状況が続くでしょう。

それでも、ANAは「社員の雇用は守る方針」をとっており、対応策として、「航空事業の規模を縮小」「新卒採用人数を縮小」することでコロナ禍を乗り切る考えです。

Next: 来年度も黒字化は厳しい?ANAが打ち出した「事業構造改革」の期待値は



決算と同時に打ち出したANAの「事業構造改革」とは

10月27日の決算と同時に打ち出したのが、事業構造改革です。

まずは、大型機を中心とした機材の削減で、長距離路線のボーイング777を中心に、2021年3月末までに33機削減して、276機へ減らすと打ち出しています。

さらに、目を引くのは、ピーチ(Peach Aviation)に続く「第3のブランド」の航空会社立ち上げを表明した点です。

中距離東南アジア・豪州路線を中心に拡大が見込まれるレジャー需要獲得を担う新たな低コストエアラインの立ち上げです。ANAやピーチでカバーできないネットワーク補完を目的としています。国際線の需要の回復状況にもよりますが、22年度を目途に運航開始を予定。

また、格安航空会社(LCC)との連携策で、傘下のピーチ・アビエーションとコードシェア(共同運航)に向け検討を開始しています。特に、ANAとピーチが就航する路線は今まで、かなり重複しているのもが多かったところを、スリム化していく方向のようです。

ピーチは国際線の運休で使用していない機材を活用して、10月25日には新千歳―那覇線や那覇―仙台線を就航するなど、国内線の地方路線を急速に拡大しています。

そして、路線網も縮小させる方向です。現状、8割以上が運休している国際線では、比較的需要の回復が見込みやすい羽田空港発着の路線を優先して再開するとしています。一方、成田や関西空港発着の復便は今後の需要動向を見ながら判断するとしています。

今回、撤退する路線について具体的な言及はありませんでしたが、地方から地方までを直接結ぶ路線では今後は減便・撤退が考えられます。ANAが縮小方向に向かう地方と地方を結ぶ路線をピーチが埋めていくという、すみ分けを図ろうとしているのでしょう。

その他、3,700万人のマイル会員組織や4兆円規模の決済額を持つANAカード事業を中核に、非航空収益の拡大も掲げていますが、この部分に関しては具体的な中身は示されていませんでした。

この辺りは、幅広いグループ戦略の見直しを迫られている今、もう少し踏み込んだ内容を今後期待したいところです。

ANA、21年3月期の最終損益は5,100億円の赤字となる見通し

今後の見通しとして、21年3月期の売上高は前年同期比62.5%減の7,400億円、最終益は5,100億円の最終赤字(前年同期は276億円の黒字)になる見通しと発表しています。

5,000億円を超す赤字の中には、機材削減などに伴う1,100億円もの特別損失が含まれています。

上記のように、航空事業の規模を縮小し、機材・人員削減などを行い、来年度はコストを2,500億円削減する見通しで、劣後ローンで4,000億円を調達し、財務基盤も改善させる努力も進めています。

片野坂真哉社長は会見で、「あらゆる手を打ち、来年度(22年3月期)は必ず黒字化を実現したい」と述べています。

しかし、黒字化を確実に進めたいのであれば、さらなる固定費削減に踏み込むことが必要になってきます。機材の退役を進めれば、減損損失が発生してしまいますし、人員削減については、「社員の雇用は守る方針」と表明している以上、ここに踏み込むのは今のところ難しいでしょう。

行き詰まり感のある状態です。

Next: ビジネスモデルの変革は進むのか?JALに続いて、ANAも公募増資



JALに続いて、ANAも公募増資

JALが11月6日に公募増資などにより最大で1,679億円を調達すると発表した際には、「ANAではなくてJAL?」との声も聞かれました。

2020年9月末時点で2社の自己資本比率は、ANAが32.3%、JALが43.6%。ANAの方が体力的に厳しい点が挙げられていたからです。

しかし、3週間後の11月27日に、ANAも公募増資などで最大約3,320億円を調達すると発表。調達額のうち、2,000億円を運航コストを減らせる米ボーイング社の中型機の購入や、既存機の客室改修などの設備投資に使うとし、残りの約1,320億円で有利子負債を返済するとのことです。

これを受けて、日経新聞によれば、同日のオンラインで会見でANAの中堀公博執行役員が「ビジネスモデルを変えるために必要な投資」と理解を求めたと報道しています。

厳しい状況が続く、航空業界における「ビジネスモデル」の変革はどの程度まで進めることができるのか。

“事業”という名のフライトが、順調に飛行できることを祈って、引き続き見守りたいです。

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image by:Vytautas Kielaitis / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年12月2日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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