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習近平が戦争準備に本腰。圧倒的「経済力」にバイデンもプーチンも屈服する=江守哲

覇権国の移行は、軍事的・政治的なものだけではなく、「経済」が大きく関係している。特に経済と通貨に関しては、実は軍事力よりも重要な面がある。経済と通貨を牛耳ることができれば、世界を仕切ることができる。中国はいよいよ本格的に覇権国家を狙い始めたといってもよいだろう。(『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』江守哲)

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2020年11月27日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

中国の「戦争準備」着々と

中国で10月下旬に開かれた重要会議を受け、中国軍が「戦争準備」の動きを強めているとの報道がある。

制服組トップの許其亮・中央軍事委員会副主席は「能動的な戦争立案」に言及。習近平国家主席(中央軍事委員会主席)は、米国の新政権発足後も台湾や南シナ海をめぐる緊張が続くと予想し「戦って勝てる軍隊」の実現を目指しているもようだ。<中略>

許氏は今月上旬に発行された5中総会の解説書で「受動的な戦争適応から能動的な戦争立案への(態勢)転換を加速する」と訴え、中国軍が積極的に戦争に関与していく方針を示唆した。

出典:中国、「戦争準備」本格化 制服組トップ、態勢転換に言及―台湾などの緊張にらむ:時事ドットコム(2020年11月16日配信)

中国の姿勢がより積極的になりつつあり、非常に危険な発言ととらえることができる。また軍事演習もより実践的な内容にシフトしているという。米大統領選挙のどさくさに紛れて、中国は軍事力の強化に走り出している。

党機関紙・人民日報系の環球時報英語版(電子版)は、今後の軍事演習では、敵国の空母による南シナ海や台湾海峡の航行阻止を想定し、海軍の潜水艦、空軍の偵察機や戦闘機、ロケット軍の対艦弾道ミサイルが動員されることになりそうだと報じた。

また、人工知能(AI)などの新技術を使い米軍に勝る兵器を開発するため、軍と民間企業が連携する「軍民融合」がさらに強化される見通しだ。

出典:同上

覇権国の移行には、軍事力は重要な要素となる。

現時点では米国の軍事力を下回っているもようだが、これを強化することができれば、実質的な覇権国家に成り上がることができる。経済や通貨などの課題はあるが、これは時間が解決するだろう。あとは軍事力である。これさえ強化できれば、後はどうにでもなる。

その意味では、中国はいよいよ本格的に覇権国家を狙い始めたといってもよいだろう。

トランプは最後まで対中制裁強化へ

このような事情を知ってか知らずか、トランプ政権は中国軍関連企業への輸出が国家安全保障の脅威をもたらすとして、中国航空機メーカーなど89社との取引を制限する制裁措置を検討しているという。

米中経済のデカップリングも辞さない構えで、ハイテク技術や製品の軍事転用を阻止する狙いである。

この姿勢には、バイデン次期政権発足をにらみ、中国に対して厳しい対応が続くよう先手を打つ思惑もあるとみられる。

中国では自国の安保が脅かされると判断した外国企業との取引を制限する輸出管理法が12月1日から施行される。米国として中国の規制乱用をけん制したいところであろう。

Next: アメリカはバイデン政権で弱体化?中国の勢いを止められない



軍事力強化に邁進する中国

その中国だが、直近の動きはかなりきな臭くなっている。これまでの軍事体制をより強化し始めていることだけは確かである。

中国の習近平国家主席(中央軍事委員会主席)は25日、中央軍事委軍事訓練会議で演説し、「戦争準備への集中」を訴え、訓練の強化を指示した。「世界一流の軍隊」の実現を目標に掲げる習氏は、先端技術を導入するなどして実戦能力の向上を急ぐよう改めて求めた。

出典:習氏、「戦争準備」訓練指示 実戦能力向上訴え:時事ドットコム(2020年11月25日配信)

アメリカの対中制裁は続く

一方、米商務省は今年に入り、中国やロシア向けの輸出管理を強化してきた。米国企業が軍事用途で特定品目や技術を輸出する際は、同省の許可が必要である。中国企業89社には、米欧の航空機メーカーと競合する中国商用飛機(COMAC)や中国航空工業集団(AVIC)が含まれる。また、ロシア企業28社も候補に挙がっている。

トランプ政権は昨年、次世代通信規格「5G」競争をにらみ、安保上の懸念を理由に輸出を事実上禁止する外資を並べた「エンティティー・リスト」に中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)を加えた。また、中国軍関連企業に対する米国からの投資を来年1月11日から禁じる措置を発表している。

バイデン政権で米国の力は徐々に低下していく

さらに米国務省のエイブラムス・イラン担当特別代表は25日、イランのミサイル開発プログラムに加担しているとして、中国とロシアの4団体を対イラン制裁の対象に加えると発表した。

エイブラムス氏は、「米国はイランに対し圧力を掛け続けるとし、来年1月に発足する次期政権が対イラン政策を転換させると予想するべきではない」として、新政権への圧力も忘れていない。

米国はトランプ政権の下で、イランと欧米など6カ国が締結した核合意から離脱し、対イラン制裁を再開させ、両国間の緊張が高まった。

しかし、大統領選で当選を確実にしたバイデン前副大統領は、イランが合意事項を順守すれば、核合意に復帰する可能性もあるとしている。

これを弱腰と取るかはそれぞれの判断だろうが、少なくともこれまでの米国の力は徐々に低下していく象徴の1つになることだけは確かであろう。

さらに米国防総省傘下のミサイル防衛局は、日本と米国が共同開発したイージス艦搭載迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」による大陸間弾道ミサイル(ICBM)迎撃に成功したと発表している。同ミサイルでICBM迎撃実験を行ったのは初めてである。

このように、トランプ政権は末期を迎える中で、積極的な中国包囲網を敷き始めている。

しかし、バイデン政権がこの政策を引き継ぐかは不透明である。より緩和的な姿勢で中国に立ち向かう可能性が高い。そうなれば、米国の弱体化はますます進み、中国の覇権国家としての位置づけを決定づける役割を果たすことになるだろう。

想像もできない世界かもしれないが、すでに世界はその方向で動いている。

Next: 経済力は軍事力に勝る?中国が次の覇権国家となる理由



経済的理由で覇権は中国に移る?

このような発想を世に知らしめたのは私が最初とは言わないまでも、かなり早い段階で示してきたことだけは確かなのだが、最近はこの論調が増えてきているように感じる。

しかし、その内容や観点はまったく違う。多くの専門家は政治学者が多く、経済からの視点が欠けている。

覇権国の移行は、軍事的・政治的なものだけではなく、「経済」が大きく関係している。経済の観点が欠如した覇権国家の移行に関する論調は、明らかに不完全なものである。この点を明確にしておく必要がある。

軍事力、経済規模、産業革命、基軸通貨などが、覇権国家の移行における重要な要素である。特に経済と通貨に関しては、実は軍事力よりも重要な面がある。

経済と通貨を牛耳ることができれば、世界を仕切ることができる。

ロシアとブラジルは窮地。トランプ派は今後苦しい展開に

さて、ロシア、中国、インド、ブラジル、南アフリカの新興5カ国(BRICS)の首脳会議が11月17日にオンライン形式で開かれた。BRICSは懐かしい響きである。

その中でも、苦しんでいるのはロシアとブラジルである。トランプ派は今後苦しい状況に陥れられるだろう。

今年の議長国ロシアのプーチン大統領はロシアが開発した新型コロナウイルスのワクチンについて、「効果的で安全だ」とし、BRICS各国と生産などで連携する姿勢を強調した。プーチン氏はロシアが世界で初めて承認した新型コロナワクチン「スプートニク」の臨床試験(治験)や現地生産に向けて、インドやブラジル、中国と交わした合意を説明した。

ロシアで2番目の国産ワクチンが承認され、3番目の開発も進められているとし、「BRICSのパートナーと協力する用意がある」と表明した。

しかし、ロシアのようなマフィア国家のワクチンを使用する国があるのだろうか。よほど困っている国だけだろう。

一方、習氏は「内政干渉や単独制裁に反対しなければならない」と訴え、中ロに制裁を加える米国をけん制したという。トランプ政権の「米国第一主義」を念頭に「BRICS国家は多国間主義の旗を高く掲げる必要がある」と呼び掛けた。
※参考:ロシア、コロナワクチンで連携強調 中国は対米けん制、BRICS首脳会議:時事ドットコム(2020年11月17日配信)

中国とインドは国境地帯で軍同士がにらみ合いを続けているが、習氏は「協議を通じて隔たりを解消しなければならない」と主張し、インドのモディ首相に歩み寄りを求めたという。

Next: バイデンに正式な祝電を送った習近平。米中関係は今後どうなる?



早くも習近平の「二枚舌外交」が炸裂

その習氏は25日、バイデン次期米大統領に「中米関係の健全で安定的な発展を推進するよう望む」などと関係改善を訴える祝賀メッセージを送った。

今回の大統領選後、同省報道官は祝意を示したが、習主席の正式な祝電は初めてである。習氏は「双方が衝突せず、対抗せず、相互に尊重し、協力とウィンウィンの精神」を堅持し、「互いの不一致を管理する」よう求めている。

16年11月のトランプ大統領当選時に送った文面をほぼ踏襲したが、両国関係の悪化を反映して文字数が減っている。この点は、中国のメッセージとして米国も十分に理解しているだろう。

また習氏は「中米関係の健全で安定した発展は両国国民の根本的利益にかなうだけでなく、国際社会の共通した期待だ」と主張し、「各国や国際社会と手を携え、世界の平和と発展という崇高な事業を推し進めるよう望む」としている。また王岐山国家副主席も25日、ハリス次期米副大統領に祝賀メッセージを送っている。

これらは習氏が得意とする「二枚舌外交」である。本音と建て前が見え隠れするが、実際には自国に有利な政策しかやらないことから、露骨な表面外交といえる。これに米国やインドが食いついてくれば、儲けものである。

ロシアの弱体化も鮮明に

結局、米国もBRICSも中国に取り込まれるだろう。その結果、米国からも中国からも放置されるロシアの弱体化はますます進むことになる。

プーチン大統領はこれまで何度も難局を乗り越えてきた。しかし、中国への覇権国家の移行が進むにつれて、ロシアの弱体化がより鮮明になっていくだろう。その結果、プーチン氏そのものの存在意義・価値も著しく低下する可能性がある。

プーチン帝国の終焉が近づいていると考えておくべきであろう。

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image by:plavevski | Sasa Dzambic Photography | Alex Gakos / Shutterstock.com

江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』(2020年11月27日号)より一部抜粋
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