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【日米激怒】鳩山クリミア訪問、モスクワ在住の識者はどう見てる?

鳩山クリミア訪問に同行したジャーナリストによる、現地の実情記事が大きな反響を呼びました。ではロシアに住む邦人有識者は今回の騒動をどう見てるのか? モスクワ在住の国際関係アナリスト・北野幸伯氏いわく、“それほど大騒ぎする問題ではない”とのこと。その真意とは?

クリミア住民投票は本当に「民主的」だったのか?

『ロシア政治経済ジャーナル』より一部抜粋

「日米中『正三角形』論」を唱え、日米関係を破壊した鳩山さん。皆さんもご存知のように、今度はクリミアで問題発言をされています。

まず鳩山さんは何をいったのか?

クリミア住民投票「民主的」と鳩山元首相、対露制裁は「欧米追従」

【モスクワ=黒川信雄】ウクライナ南部クリミアからの報道によると、鳩山由紀夫元首相は11日、中心都市シンフェロポリで記者会見し、昨年3月16日に実施された編入の是非を問う住民投票について「ウクライナ憲法の規定に従い、平和的かつ民主的プロセスにのっとって行われ、クリミア住民の意思を反映していた」と述べた。
(産経新聞 3月12日(木)7時55分配信)

2014年3月に、ロシアがクリミアを併合した件。今ではほとんど忘れ去られていますが、実をいうと併合の前に「住民投票」が行われたのですね。

クリミア住民投票>ロシア編入96.77%が賛成

【シンフェロポリ(ウクライナ南部)田中洋之】ロイター通信は17日、ウクライナ南部クリミア自治共和国で16日投開票されたロシア連邦への編入を問う住民投票ついて、開票率100%で、96.77%が編入に賛成だと報じた。

地元選管幹部の発言をロシア国営テレビが放映した。

この結果を受け、議会は独立を宣言したうえで、ロシアへの編入を要請することが確実な情勢だ。
(毎日新聞 3月17日(月)15時49分配信)

この問題に関しては、三つの「主体」があります。
1、クリミアを併合したロシア
2、ロシアへの編入を決めたクリミア住民
3、一方的にクリミアを奪われたウクライナ

ロシアがこの併合プロセスを主導したことは間違いない。しかし、「国連憲章で認められている『民族自決権』にしたがって、クリミア住民の自発的意志で」という形式にした。

約97%が「ロシアへの編入に賛成」というのはどうなんでしょうか? あやしい気がしますね。

しかし、事実としてクリミア住民の【6割】はロシア系。

さらに、ウクライナでは2014年2月、クーデターによって親ロシア派ヤヌコビッチ大統領が追い出され、親米反ロ政権ができあがっていた。そして新政権は、「ロシア語を禁止する!」と宣言している。そして「右派セクター」のような、ロシアを敵視する過激な民族主義者がクーデターで主要な役割をはたした。

これらの事実を考慮すると、ロシア系住民の多いクリミアが、ロシアへの編入を願ったことは、理解できるのです。

「領土保全の原則」と「民族自決の原則」

問題は自国の領土を一方的に奪われたウクライナです。

彼らが激怒するのはもっともですし、ロシアから取り戻そうと戦争したくなる気持ちもわかります。しかし、今は「法的」な話をしています。

実をいうと、「領土保全の原則」と「民族自決の原則」は、どっちが上なのか、定まっていないのです。

で、どっちが上なのかは、「その時々の大国の国益によってきまる」というのが事実。

例をあげましょう。たとえば、ウクライナ。

ウクライナは、「ソ連崩壊によって独立を達成した」とみんな思っています。

実をいうとウクライナ最高会議がソ連からの独立を宣言したのは1991年8月24日です。ソ連が崩壊したのは1991年12月25日ですので、4か月前に「中央政府の意志に反して一方的に」独立を宣言している。

そして、12月1日には「住民投票」が実施され、独立が承認された。これも、ソ連中央政府の意志に反して行われた。

しかし、「ソ連崩壊」を望むアメリカ、西欧、日本が、この件で、「ウクライナの独立宣言は国際法違反だ!」と非難することはありませんでした。ウクライナだって当時は、「民族自決の原則」をよりどころにしていたわけです。

もう少し最近の話。たとえば、コソボ。

セルビアの自治州だったコソボは、アルバニア系住民が多い(約92%)。コソボ自治州議会は08年2月、セルビアからの独立を宣言しました(もちろん、セルビアは反対)。

そして、アメリカ、イギリス、フランスなどは、即座にコソボを「独立国家」として認めてしまいます。米英仏は、セルビアの「領土保全の原則」より、コソボ・アルバニア系住民の「民族自決の原則」を重視したのです。

ロシアは、コソボが独立宣言した約半年後、08年の8月にグルジアと戦争をしました。そして、グルジアからの独立を目指す、南オセチアとアプハジアの独立を認め、「国家承認」してしまった。

ちなみにロシアとセルビアは、同じ「正教圏」に属し非常に仲がいい。それで、プーチンは、欧米がコソボ独立を認めたことに、とても憤っていたのです。

「やられたら、やり返す!倍返しだ!」ですね。欧米がコソボを独立させるなら、俺たちは南オセチアとアプハジアを独立させる!

「領土保全の原則」と「民族自決の原則」。国際法ではどっちが上か定まっていない。だから、鳩山さんが、「クリミア住民投票の結果」を肯定したとしても、「絶対悪」とはいえないのです。

欧米だって、ウクライナや、他の旧ソ連諸国、あるいはコソボの「一方的選択」を支持した前例があるのですから。

それでも鳩山発言は問題?

では、「鳩山発言は問題ない」のでしょうか? そうでもありません。

菅さんはこんなことをいっています。

鳩山氏クリミア訪問 政府がほっておけない事情とは…

菅義偉官房長官は12日の記者会見で、ウクライナ南部クリミア半島を訪問した鳩山由紀夫元首相がロシア編入の可否を問う住民投票を「民主的」と評価したことに対し、「どういう根拠か分からないが、コメントする気にもならない」と強い不快感を示した。

ロシアによるクリミア併合を認めない立場の日本政府にとって、併合を是認するかのような首相経験者の言動は国際社会から誤解を招きかねず、対応に苦慮している。
(産経新聞 3月12日(木)20時53分配信)

クリミア併合後、アメリカは、ロシアへの制裁を決めました。ロシアとの経済的結びつきが強く、またロシアへのガス依存度が高い欧州も、しぶしぶこれに従った。北方領土を返して欲しい日本も、しぶしぶ従った。

ウクライナは、アメリカとロシアの「代理戦争」の場と化した。そして、中国はロシアについたので、構図は、「欧米 対 中ロ」になった。

日本は一応アメリカ側についていますが、安倍総理は「俺の任期中に4島返還を成し遂げる」という意欲が強いため、ロシアとの関係も大事にしている。

そして、安倍さんは、「アメリカ製憲法をかえよう」としたり、「東京裁判は勝者の断罪だ!」などといい、アメリカから警戒されている。(もちろん、中国の反日プロパガンダが成功しているのですが。)

こんな中、元総理の鳩山さんが、「クリミア併合はいいことだよね~」といってロシアを擁護する。これは、アメリカの不信感を増大させることになるのではないか? ・・・と、日本政府は心配しているわけです。

そこで菅さんは、鳩山さんをバッサリ切り捨てることで、「彼は日本政府と全然関係ない!」という強固な意志を示しました。

これに対し、アメリカは?

米政府「深く失望している」 鳩山元首相のクリミア訪問

米国務省当局者は12日、鳩山由紀夫元首相がウクライナ南部のクリミア半島を訪問し、昨年3月のロシア併合に向けた住民投票に理解を示すような発言をしたことについて、「日本政府と同様に、鳩山氏の訪問と発言に深く失望している」との立場を示した。朝日新聞の取材に答えた。
(朝日新聞デジタル 3月13日(金)10時44分配信)

というわけで、「鳩山と日本政府は関係ない」ことがよく理解されているようです。

そもそも安倍総理と鳩山さんは政党が別。しかも、鳩山さんは、すでに政界を引退され、政治家ですらない。また、アメリカからは、「戦後最悪の首相」と認識されている。

ですから、それほど大騒ぎする問題ではないのです。

ちなみに、ロシアのニュースではこの鳩山発言、ほとんど登場していません。

それよりも鳩山さんといえば、尖閣、沖縄県は、「中国側から日本が盗んだと思われても仕方がない」(2013年6月25日)発言の方が大問題ですね。

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『ロシア政治経済ジャーナル』
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