北朝鮮に自衛隊の特殊部隊を送り込むことは可能か?専門家が分析

 

それだけではありません。米軍自身が北朝鮮での特殊部隊の活動は容易ではないということを明らかにしているのです。

おなじみ西恭之氏(静岡県立大学特任助教)は2014年1月22日号のミリタリー・アイに、米陸軍特殊部隊グリーンベレーが2013年、韓国軍とともに北朝鮮に潜入し、反政府ゲリラを組織する想定で合同演習を行った際、演習に参加した2人の大尉の以下のような指摘を紹介しています。

  1. 北朝鮮では対空火力の脅威が大きいので、Aチームがヘリコプターで移動できるのは、北朝鮮へ潜入する際の1回に限られる
  2. 朝鮮人民軍には通信を傍受する能力があるので、Aチームは上級部隊の指揮を受けることができず、独立して行動しなければならない。
  3. 隠れ場所のない禿山が多いので、移動は夜間の徒歩に限られる。そのうえ道路が少ないので、政府側は1カ所の検問所で広い地域を統制できる。
  4. 敵と接触した場合、砲兵と航空機の火力支援も、地上の即応救援部隊も、直ちには期待できない。
  5. 負傷者をヘリで移送できないので、できるだけAチームが治療し、秘密裏に移送しなければならない。

これを見るだけでも、北朝鮮の弾道ミサイルを発射前に攻撃するためや拉致被害者を救出するためといっても、特殊部隊を北朝鮮で行動させることがいかに困難かわかるでしょう。

日本国内の特殊部隊投入論にとどめを刺すようなコメントもあります。

高英起氏(デイリーNKジャパン編集長)による10月31日の論考「自衛隊は絶対に『拉致被害者』を救出できない」です。関係部分だけ紹介しておきます。

(前略)仮に北朝鮮の軍を空から攻撃しなければならない情勢になれば、まず間違いなく、韓国空軍や米軍(空軍・海軍・海兵隊)が動くだろうから、航空自衛隊に出番があるとは思えない。

 

陸上自衛隊が北朝鮮に進出する可能性はゼロに近い。理由は簡単だ。朝鮮語(韓国語)が分からないからである。

 

ちろん、自衛隊でも一部の人員に語学の訓練を施してはいるが、北朝鮮で現地の人々と十分なコミュニケーションを取れる人材はほとんどいないだろう。捕虜を尋問できる人間など、文字通りゼロではないだろうか。(後略)

同じ問題は、北朝鮮に関する日本政府を挙げての情報収集にも潜んでいます。

米軍のように韓国軍が協力するなら朝鮮語の問題は少しは改善されると思いますが、いまの両国関係では韓国軍が「日本軍」に協力することは考えられません

このような現実に目をつぶってきた結果が、いまだに拉致被害者の安否情報をつかむことすらできていない現状だということは、忘れてはならないでしょう。

image by: Keith Tarrier / Shutterstock.com

 

NEWSを疑え!』第440号より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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