日本人のゴールデン離れか? 米国から見た「SMAP騒動」の本質

 

時間帯の問題もあります。70年代には「お父さんが平日の7時半にビールを飲みながらTVでプロ野球観戦」という光景があったのですが、長時間労働の拡大に伴って「購買力のある現役世代の帰宅時間」はどんどん遅くなっているわけです。

ちなみに、NHKさんの『クロ現の時間帯移行も同じ理由だと思われます。7時半という時間帯であれば高齢者が中心となりますから「アメリカの格差社会が来たら大変」といった感情論などを含めた堤未果さんのエンタメ与太話などのニーズがあるわけですが、そんな番組ばかりやっていると、現役世代からは局のイメージが保守的に見えてしまうわけです。ですから広告効果ということは直接関係のないNHKさんとしても、報道番組ということでは、本当のプライムである10時台移行で勝負したくなるのは自然でしょう。

いずれにしても、ナショナルスポンサーによる巨額の料金に支えられた「民放地上波平日プライム」というビジネスモデルは、完全に過渡期に差し掛かっているのです。今回の独立騒動は、この問題が本質です。

2つ目は、これに対する芸能プロダクションさんの側の対策です。そもそも、それでは現在はどこに「購買力のある視聴層」がいるのかというと、それは深夜であり、週末であり、そしてBSです。こうした時間帯あるいは波の特性を考えると、番組制作のコンセプトも変わってきます。きめ細かい企画、時代への即応、新しさの追求といった点に加えて、ネットなどとのメディア・ミックスも重要です。

例えば、芸人さんに芥川賞を取らせて、しかもそれが「お高く止まっている」という印象を与えないようにマネージしながら、その芸人さん(と相方も)のキャラの深化になっていくというようなビジネスのマネジメント、そのような高度な仕事をしていかないと、この「現在購買力を持っている層」に食い込むことはできないのです。

仮に今回の独立騒動というのが本当であったとしたら、その目的は「ギャラの分配率を高くしたい」というクラシックな動機ではなく、このような「もっと近代的なマネジメント」を獲得して、自分たちが持っている視聴層の中で購買力のある層フォーカスした、メディアや波、あるいは時間帯のシフト、そしてそれに見合う自分たちの芸能の質の深化を模索したということなのだと思います。

image by: Shutterstock.com

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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