「不可解」だった、アメリカの対北朝鮮政策
「核兵器開発問題」と聞くと、私たちは「2つの国」を思い出します。イランと北朝鮮。ともに2000年代に入ってから、「核兵器開発問題」で大騒ぎされるようになってきました。「同列」に語られることが多かった、イランと北朝鮮の「核兵器開発問題」。実をいうと、脅威のレベルは全然異なっています。
北朝鮮は、05年時点で「核兵器保有」を宣言した。そして、06年10月、初めての「地下核実験」を実施しています。以後09年5月、13年2月、16年1月と核実験を繰り返してきた。今では、「北朝鮮が核兵器を保有していること」に疑問を抱く人はいません。
一方のイラン。この国は、「核兵器を開発する」という意向を示したことすら、一度もありません。そして、実をいうと「アメリカ自身」も「イランは核兵器を開発していない」ことを認めていました。「トンデモ~、トンデモ~」という大合唱が聞こえてきます。では、証拠をお見せしましょう。
<イラン核>米が機密報告の一部公表 「脅威」を下方修正
[ワシントン笠原敏彦]マコネル米国家情報長官は3日、イラン核開発に関する最新の機密報告書「国家情報評価」(NIE)の一部を公表し、イランが03年秋に核兵器開発計画を停止させたとの分析結果を明らかにした。
(毎日新聞2007年12月4日)
どうですか、これ? NIEは、「イランは2003年秋に核兵器開発計画を停止させた」と分析していた。
アメリカだけではありません。世界の原子力、核エネルギーを管理、監視、監督する国際機関といえば、IAEA(国際原子力機関)。そこのトップ、日本人・天野之弥(あまのゆきや)氏は、2009年12月就任直前になんと言っていたか?
イランが核開発目指している証拠ない=IAEA次期事務局長
[ウィーン 3日 ロイター] 国際原子力機関(IAEA)の天野之弥次期事務局長は3日、イランが核兵器開発能力の取得を目指していることを示す確固たる証拠はみられないとの見解を示した。ロイターに対して述べた。
天野氏は、イランが核兵器開発能力を持とうとしていると確信しているかとの問いに対し「IAEAの公的文書にはいかなる証拠もみられない」と答えた。
(ロイター2009年7月4日)
どうですか、これ? 09年半ば時点で、IAEAの次期トップが「イランは核兵器開発を目指していない」と断言しているのです。こう見ると、
- 核兵器を実際に保有している北朝鮮
- 核兵器を持たず、開発する意志すら示したことがないイラン
という事実が理解できます。しかし、アメリカは、常に北朝鮮よりイランを敵視してきました。アメリカのトップが、繰り返し繰り返し「イラン攻撃の可能性」に言及してきたこと、皆さんもご存知でしょう。
一方で、「核兵器開発」でいえば「明白な脅威」であるはずの北朝鮮。好戦的なブッシュは、06年時点で、「北朝鮮を攻撃することはない!」と宣言しています。06年10月12日の毎日新聞。
<北朝鮮核実験>ブッシュ大統領「米国は攻撃意思ない」(中略)
北朝鮮が核開発の理由に米国からの攻撃を阻止する抑止力を挙げていることに対し、「北朝鮮を攻撃する意思はない」と明確な姿勢を示している、と説明した。
核兵器を開発してないイランには、「攻撃する!」と脅し、核兵器保有を宣言している北朝鮮には、「攻撃しない!」と宣言する。この「不可解さ」は何なのでしょうか?