逆転判決。認知症の老人が徘徊で起こしたJR事故、家族に賠償責任なし

 

今回の最高裁の判断は認知症の老人を介護している人にとって大きな朗報だろう。JR東海が勝訴したら、同居の家族は認知症の老人が徘徊しないように四六時中見張っていなければならなくなる。外出する時には座敷牢に閉じ込めて首輪でもしておくほかはない。これは立派な人権侵害だ。認知症の人にも徘徊する権利がある。外で遊んでいるときに事故を起こして、賠償を請求されたらかなわないと言って、子どもを家に閉じ込めておく親はいない

JR東海も世知辛いよね。東海道新幹線でさんざん儲けているだろうに、裁判までやって、720万円ばかりの金を認知症の家族からむしりとろうとは、まともな大企業のやることじゃないな。鉄道会社には線路内に簡単に入れないようにする義務があると思う。フェンスに鍵がかかっていなかったというのであれば、JRにも責任がある

JRも他の私鉄と同様に私企業である。私企業が自分の営業のために、国道や県道を通行する車両や人を、踏み切りで足止めさせておく権利はどこから来るかと考えると、ちょっと不思議な気がする。良く考えれば、私企業よりも公道のほうが公共性は高いに決まっている。列車は簡単に止まれないという事情があって、慣例として踏切では道路を通る人や車が止まることになっているのだろう。

しかし、鉄道が事故を起こして、踏切が延々と開かなくて、踏み切りで待っている人が極めて大きな損害を被っても鉄道会社は損害賠償に応じてくれないだろう。良くは知らないが、乗客が鉄道会社を利用するに当たっては、約款みたいなものがあって、遅延しても損害賠償には応じないといった条項があるのかもしれないが、踏み切りで待っている人は鉄道会社の利用規約に拘束されない第三者である。損害賠償を請求する権利があると私は思う。

鉄道会社が第三者に起因する損害を被った時は、損害賠償を請求できるのに、鉄道会社に起因する損害を第三者が被った時には、頬かむりというのはずいぶんひどい話だと思う。認知症で責任無能力者になった老人に起因する損害は、賠償請求しないというくらいの鷹揚さがあってもいいんじゃないですか。それが無理というのであれば、こういった場合に特化した保険を作って、鉄道会社に加入を義務付けたらいいと思う。

保険料は、安全に配慮している鉄道会社には安く、運行本数の割には踏み切りが多かったり、線路に簡単に立ち入れたりできる鉄道会社には高く設定すればよい。そもそも、鉄道会社は、線路を高架にして踏み切りを減らしたり、フェンスを張って、簡単に線路に入れないようにしたりする義務がある

image by: Ferbies / Shutterstock.com

 

池田清彦のやせ我慢日記』より一部抜粋

著者/池田清彦(早稲田大学教授・生物学者)
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