アニメ業界のリアル。「SHIROBAKO」全話を観た現役クリエイターの総括

 

16話「ちゃぶだい返し」では、キャラクターデザイン担当(井口祐未)が、いくら描いても描いても、原作者からNGが出てリテイク(書き直し)になってしまう。悩んでいる姿を見て、先輩で作画監督(小笠原綸子)が相談にのる回。

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小笠原は、落ち着いたキャラで普段着がゴスロリのお嬢様風。彼女の発案で、制作進行(宮森あおい:主人公)と宮森の同級生のアニメーター(安原絵麻)と女性4人で、キャラクターデザインにNGを食らって、その先の進行が全部ストップして責任を感じ悩める井口を気晴らしに連れて行く。

宮森:「前からそのファッションだったんですか?」

小笠原:「昔はいつもTシャツにGパンでした」

宮森:「じゃぁいつからその姿に…?」

で、小笠原が初めてキャラクターデザインを担当した時の回想シーン。

何度描いても、イメージが違うと言われ、「悪くはないんだけどね~。もうちょっと別のパターンも見せて」と言われ、指示通りに描いても、「やっぱり違うなぁ。最初のが一番よかったよね~」となって悩む。

小笠原:「追い込まれても、勝負をひっくり返されても、へこたれない方だと思ってましたが……。その時理解したのです。すべてにハイハイとうなずいていてはいけないのだと。

クリエイターは誰しも、繊細で傷つきやすい心を持っている。しかし、絶えず批評、ダメ出し、注文をつけられる。だから自分を守るため、私は鎧をまとったのです」

宮森:「それは武装だったんですね」

井口:「確かにTシャツよりは攻撃力高そう……」

安原:「えっと……でも、なぜ?」

小笠原:「その時描いていたヒロインが着ていたからです。それから私は強くなりました」

井口:「安心しました。小笠原さんもつらい時期があったんですね」

小笠原:「誰にだってあります。つらい時期のない職業なんてありません。ですから後は、屈辱をバネにどれだけ自分が頑張れるかです」

このシーンも、デザインや執筆などクリエイティブな仕事をしていると日常茶飯事で、経験することだと思う。

22話「ノアは下着です」

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かなりのカット数になる予定の最終話の作画の割り振りで、井口が、安原絵麻に作画と作画監督もやってもらえないかと提案。安原はまだ自分の絵に自信が持てず、描くのも遅い上に作画監督は周囲に迷惑をかけないか心配で、その担当を受けるかどうするか迷う。

一方、一番後輩でまだ大学生、脚本家志望の今井みどり(りーちゃん)は、どうやったらアニメ業界で脚本家になれるのか、きっかけを見いだせずにいたが、設定資料をまとめる仕事で先輩の宮森を手伝うためアルバイトで会社に入ると、次第に色々な仕事を手伝うようになる。アフレコ台本発注用の絵コンテを作っているところに安原がやってきた時の会話。

今井:「これ任せてもらえて、またシナリオの読み方がまた変わったですよー」

安原:「読み方?」

今井:「やっぱ、絵コンテって100人100通りなんすよね。(昔の作品)読ませてもらったら、今とは全然テンポ感が違って、でも深いなぁと思うとこもあって、今、自分の中に栄養がムクムク入ってきてる気分。おもしろいっす! 自分の一文に合わせて、声優さんが演技するかと思うと、超~ビビるっす!」

安原:「うん……。ビビるよね。」

今井:「ビビるっす。でも楽しいっていうか、なんか、ほんとにヒャーって感じで」

安原:「ヒャー? ブルブルじゃなくて?」

今井:「ヒャーっすよ! だって、去年の今ごろなんて自分がアニメの制作の仕事に係われるなんて夢にも思ってなかったんすから」

安原:「りーちゃんは怖くないんだ……ね……」

今井:「何言ってんすか、絵麻先輩。怖いのは脚本家になれないことです!」

この後輩の前向きな仕事ぶりと、大先輩の長老アニメーター、杉江茂に諭され、安原は怖がらずに頼まれた作画監督の仕事をしっかりとやろうと決心する。

とにかく各回、いろんな出来事で登場人物が衝突したり、落ち込んだり、励まし合ったり、問題を解決したりする中から、「自分も仕事、頑張ろ!」ってすごくポジティブになれるアニメだ。

ストーリーを追うだけでなく、さまざまな場面に伏線があったり、アニメ好きならピンとくる登場人物(実在の人物がモデルになっている)が随所にでてくるので、何度観ても楽しめる。

23話「続・ちゃぶだい返し」では、最終回のひとつ前で、大どんでん返しがある。そして、最後の場面で宮森の涙のシーンがあり、観ている方もつられて結構泣ける。

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実は、そのシーンも、20話で、木下監督が注文を出したセリフ「できれば台詞のやりとりじゃなく表情芝居で希望」が伏線になっていて、宮森のこのシーンがまさにそうだった。

ということで、アニメ好きも、普段アニメを観ない人も、SHIROBAKOは絶対に観て損をしない、とってもいい作品だ。かなりオススメなので、観てない人はなんとかして観て欲しいし、一度観た人も、各所にちりばめられたネタを探して何度も観て欲しい。

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