悪魔も思わず最敬礼。戦時の雰囲気を今に残す「軍国酒場」で何を想う?

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春の訪れとともに日本一周の旅を再スタートさせた『ママチャリで日本一周中の悪魔』こと、大魔王ポルポルさん。熊本県菊池市にある道の駅「道の駅 七城メロンドーム」でメロンづくしを堪能した後に、一路向かったのは鹿児島! 大魔王が以前から気になっていたという、ちょっと風変わりな酒場に満を持して突入したとのことですが、果たして……。

気分は戦時中!「軍国酒場」を悪魔が徹底レポート

熊本県でメロンドームを征服したあと、南下し鹿児島県にやってきた我輩。その途中には、赤松太郎峠・佐敷太郎峠・津奈木太郎峠という3つの峠からなる難所「三太郎峠」も征服した。

大阪を出発してから、約1年が経とうとしている。これまで各地の難所と呼ばれるような山坂道を、ママチャリで乗り越えてきた。これぐらいの峠越えは朝飯前なのだ。

「ガッハッハッハッハッハ!! これしきの峠、大したことない!! 我輩の体力に敵う者などいない!」

そう有頂天になりながら、ママチャリでひたすら進軍を続ける我輩。あっという間に、九州で最も南に位置する県庁所在地・鹿児島市にたどり着いたのであった。

「ガッハッハッハッハッハ!! ココが鹿児島市か! なんだか都会だな。ガッハッハッハッハッハ!!」

そこはニンゲンの群れでごった返す大きな街だった。ママチャリの行く手を阻む人ごみに、我輩は思わず苛立ってしまう。

「ちっ! なかなか進めぬ。邪魔だ!! これでは征服できぬではないか!!」

心の中でそう叫びながら、我輩は「ちょっと通りまーす。すみませーん」と、鹿児島の街をママチャリを押しながら進んでいく。

 

鹿児島に来たら、どうしても行きたい場所があった。

それは「軍国酒場」という戦争の悲惨さを訴え続ける変わった店で、毎夜毎夜いろいろなニンゲンたちが訪れ、酒を酌み交わしているらしい。そこが本日の征服目標なのだ。

我輩は人ごみの中で邪魔なママチャリを近くの駐輪場に止め、歩いてその店を探そうとした。しかし、そのお店はあっけないほど簡単に見つかった。

天文館通りを歩いていると、大音量で軍歌が流れている奇妙なビルがあったのだ。そのビルは何やら薄暗い雰囲気で、誰も近寄ろうとはしない。

「このビル、怖っっ!!」

ビルの階段を覗くと、明かりが付いておらず薄暗い。階の上からは先ほどからの軍歌が、さらにけたたましく聞こえてくる。赤・白・青の3色に塗られている壁には、「一歩前進」などと書かれた謎の張り紙の数々。我輩は思わず武者震いをした。

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「こ、ここだ……」

ビルから漂う妖気に、思わず怯んでしまう我輩。しかしすぐに気を取り直すと、大音量の軍歌の音に誘われるように、4階にある店に向かう。

「我輩の恐ろしさで店の者を震え上がらせてやる!! ガッハッハッハッハッハ!!」

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そう強がりながらも、実のところはオレンジジュースとから揚げでも食べてさっさと立ち去ろうと、入店前から帰る気満々の我輩。意を決して店のドアを開けると、そこには軍服姿の店員が凛々しく立っていた。

「あのー、すみません。ぼく、記事を書いたりしながら日本一周してるんですけど……」

店員はひと言も声を発しない。……それもそのはず、立っていたのは店員ではなく、軍服を着たマネキンだった。

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怖っ!! なんやねんコレ!!!」

恐怖から少し解放された我輩は、思わずマネキンにツッコミを入れながら、少し落ち着いて店内を見回してみる。

壁には、軍人たちのブロマイドや軍艦の写真などが所狭しと掲げられ、旧日本軍の軍服や軍旗なども陳列されている。

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今日の酒は、この軍服姿のマネキンと一緒に飲まなくてはいけないのか。思えばこの旅中、与那国島ではゲロをするほど船酔いした後に地酒でさらに泥酔したりと、酒の思い出は良いものがないな……。

そんなことをふと考えていると、店の奥で我輩のほうを見ながら、80歳くらいのおじいちゃんが敬礼しているのに気づいた。

入隊ですね!

おじいちゃん店員はそう言うと、いそいそと焼酎を用意し始めた。

オレンジジュースは出てこないな……そう確信した我輩は覚悟を決めた。

「あ、あ、当たり前である。我輩は、だ……大魔王だ。入隊なのだ。ガッハッハッハッハ!!」

しかし、必死で振り絞ったこの声は、店内に響き分る軍歌にかき消された。

「おや。ハッハッハ!! よくできた顔ですねぇ。」

焼酎をテーブルに置きながら、おじいちゃん店員は再び敬礼した。

「や、やめてください。今、ホントに怖いんで。ガッハッハッハッハッハ!!」

そのまま我輩は席に座って、焼酎のグラスに口を付ける。

 

BGMは軍歌、隣には軍服姿のマネキン、後ろには西郷隆盛の肖像画。

そして前を向くと、東郷平八郎のブロマイドだ。今にも我輩に説教してきそうな東郷元帥と、目が合わせながら酒が飲めるという特典付き。まさにサービス満点のお店だ。

お腹が空いていたので、おにぎりでも食べようかと思ったが、おじいちゃん店員は何も頼んでいないのに、テーブルに「乾パン」「こんぺいとう」「ピーナッツ」という、戦時中のオードブルともいえる品々を置きだした。

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厨房のほうを見ると、かなり狭いようで、火を使うような手の込んだ料理は供されないようだ。

「ガッハッハッハッハ!! す、すばらしい雰囲気ではないか。き……気に入ったぞ」

我輩はこんぺいとうに噛り付く。思った通りに甘すぎるし、お腹は満たされない。しかし、これこそが戦時中のリアルなのだ。

こちらの心中を知ってか知らずか、1億25歳の我輩を見て「若い人が来てくれて嬉しいです」と、ひたすら敬礼をしてくるおじいちゃん店員。すっかり気を良くしたのか、カラオケに何か曲を入れている。それはどうやら、戦時中の大ヒットナンバーの1つ「月月火水木金金」のようだった。

かなり慣れた感じで歌っているが、我輩にはこれが上手いのかどうか分からない。そもそも曲名こそ知っているが、原曲を知らないのだ。サビはどこ? Aメロはどこ? きゃりーぱみゅぱみゅが聞きたい……というのが、正直な感想だった。

それにしても、店の至る所に飾られている軍服の数々。我輩は恐る恐る、これらの飾られてある軍服や備品について聞いた。

「あのー。これらの備品ってどうしたんですか?」

すると、おじいちゃん店員は、

「この軍服は実際に使われていたものだよ。いろいろなところから取り寄せたんだけど、若い人が本当に撃たれた服だから、血が付いてたりする。だから着てはいけないんだよ。着ると霊が乗り移るって言われてるんだ。」

「え! ガチもんですか!!」

我輩は思わず叫んだ。

「そうだよ。触っても大丈夫だけど、着るのはダメだからね。だから、飾ってあるのさ……」

呆然として前を向くと、東郷平八郎がこっちを見ていた。東郷元帥は、我輩を見て「おまえなんでそんな顔してんねん! ふざけんな」と言ってそうだった。我輩は東郷さんに心の中で謝った。

おじいちゃん店員は続けて語り出す。

「このお店はもともと、戦争から帰ってきた人たちが集まる場所でもあったのさ。みんなで争いなど起こさずに笑いあって飲もう。という願いを込めてやりだしたんだよ。」

「へぇ……そうなんですか」

「しかしね。年月が過ぎてくるたびに皆、亡くなっちゃってね。戦争から帰ってきた人は全く来なくなったね」

「え! じゃあ、久しぶりのお客さん?」

「若い人はあまり来ないし、物好きな人でないと来なくなってきたね。だから君みたいに若い人が来てくれてワシは嬉しいんじゃ。戦争なんてあってはならんのじゃよ……

少し泣きそうな顔になったおじいちゃん店員は、悟られないようにか、再びカラオケを歌い始めた。「同期の桜」「抜刀隊」……どれもさっぱりわからない。

ただ、おじいちゃん店員の話には、大いに心が動かされるものがあった。

東郷平八郎や西郷隆盛に見守られ、戦時中のヒットナンバーに耳を傾けながら、乾パンをつまみに熱燗を飲む。そして、おじいちゃん店員からは、戦中の貴重な話が聞くことができる。こんなすばらしいひとときを提供してくれる店は、そうなかなかない。

思えば我輩はここに来るまで、呑気に「ガッハッハッハッハッハ!!」と叫んでいた。そしてさっきは、不気味なこのビルを見て怖くなり、早く帰りたいと思っていた。そんな自分が恥ずかしい

戦争は絶対にあってはならない。誰も得をしない行為である。そう我輩は思う。

「戦争の悲惨さは、後世に残さないといけないのであるな。ガッハッハッハッハ!!」

ひとしきり歌い終えたおじいちゃん店員が、我輩に対して「歌うかい?」と聞いてきた。

「きゃ、きゃりーぱみゅぱみゅを歌いたい!」

……というのは、さすがに空気が読めない悪魔になりそうなのでやめておき、店を後にすることにした。

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再び薄暗いビルの階段を下っていく我輩。先ほど上ってくるときに、あれほど感じていた不気味な怖さは、もうすっかりなくなっていた。

(つづく)

 

DATA:
軍国酒場
住所:鹿児島県鹿児島市千日町6-17
TEL:099-226-1033
定休日:日曜日

 

『大魔王ポルポルの日本征服の旅』
著者/大魔王ポルポル
日本一周の旅をしている大魔王ポルポルである。旅の裏側、隠れた小話など話したいことは盛り沢山!! だがしかし! タダで公開はできない。メールマガジンで日本のいろいろなことを掲載するのだ。メルマガに記載のアドレスに悩みや質問を送ってくれればメルマガで公開回答するぞ! ガッハッハッハ!!
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